もう一つの戦場 後編
「この侵入者め!!」
若い戦士のエルフが魔闘士の男に斬りかかる。
「よっと」
魔闘士の男は軽く斬撃をいなすと掌底を戦士エルフに叩き込む。
「ぐっ」
「おいおいこの程度かよ?」
「くっ、くそ」
苦しみながらもまだ攻撃をやめない戦士エルフに呆れたように軽く攻撃を躱しちょうど鳩尾に拳を入れる。
「かはっ」
戦士エルフが胸を押さえその場に跪く。
「じゃあこれで終わりだな」
魔闘士の男が止めをさそうと拳を振り下したその時に、死角を狙って飛んできた矢に反応した魔闘士の男は攻撃の手を止め矢を弾き落とす。
弓を射続け魔闘士の男の気をそらしている内に弓を射っているエルフが声をかける。
「今のうちに、早くこっちに」
「す、すまない」
その隙に戦士エルフはなんとか魔闘士の男から離れることに成功した。
「ちっ!面倒くせぇな」
弓兵の攻撃を難もなく防ぎ切った魔闘士の男だったが、立て続けに弓を射続けられた上にソフィアたちが合流して士気が上がり動きの良くなってきたエルフたちをなかなか仕留めきることが出来なくなってきた事で流石に苛立ちを見せ始め攻撃にも粗が出始めていた。
そんな魔闘士の男様子を見て周りのエルフたちは声を上げ幾度となく攻撃を繰り出していった。
「族長たちが来るまで我々でここを抑えるぞ!」
「「「おお」」」
この男を足止めさえしていれば族長たちは他の者をすぐにかたずけ来てくれるとエルフたちは信じ戦っていた。
そんな掛け声をあげ果敢に向かってくるエルフたちを見ていた魔闘士の男は大きくため息をついた。
「はぁ~。あ~あ、もういいわ。飽きた。弱すぎる。さっさとお前等潰して、あの族長さんのところにでも行って楽しませてもらうわ」
魔闘士の男は首を鳴らすと今までと同じ人物とは比べられない程の威圧を放った。
「な、な!?」
「う、動け・・ない!?」
魔闘士の男の威圧で完全に体が委縮してしまったエルフたちは身動きが取れなくなってしまっていた。
「んじゃまずはお前からな」
身動きの取れなくなった戦士エルフとの距離を詰め寄り貫き手をつくって心臓を貫きかけたその時だった。
「おっと、危ないのぉ」
魔闘士の男と戦士エルフの間に瞬時に割り込み魔闘士の男の貫き手を盾で受け止めたソフィアの姿がそこにあった。
すぐにソフィアは戦士エルフを抱えるとその場から身を引き魔闘士の男と距離をとった。
「ぞ、族長!?」
あっという間の出来事だったので戦士エルフは距離をとって初めて自身が助けられたことに気が付いた。
「お主は下がっておれ、こやつはわしが相手をする」
「し、しかし体が・・あれ?動く?」
「いいから下がっとれ」
「は、はい」
体が動くようになった戦士エルフはその場を離れようとしたのだがソフィアから声をかけられた。
「ちとまて、お主に伝言を頼みたい。」
「はい」
「槍の者はわしが倒した。残りの二名は生かして捕らえるから殺さぬようにとエドアルドに伝えてくれ」
「はい、了解しました」
戦士エルフはその伝言を聞くとすぐにエドアルドの元へと走っていった。
それを見送ったソフィアは再び魔闘士の男と向き合った。
「なかなか、なめたこと言ってくれるじゃねぇか?そんなに俺は弱く見えるってのか?」
魔闘士の男はそう言いつつも怒ったようなそぶりは見せなかった。
「いやいや、そんなことはないぞ?じゃがしかし、お主もなかなか紳士的ではないか。攻撃してくる隙ならいくらでもあったろうに?」
ソフィアは挑発するかのように魔闘士の男に声をかける。
そんな様子のソフィアを見た魔闘士の男は頭を抱え大声で笑った。
「ははははは、隙なんて全く無かったじゃねぇか。しかしそうか、あいつはやられたのか。こいつは楽しめそうだ!」
魔闘士の男はそう漏らすと先程発した威圧よりもさらに強い威圧を発した。
だがソフィアはその威圧を浴びても、ものともせずに細剣を構える。
「そうか、やっぱり動けるか。そうじゃなくっちゃなぁ!!」
魔闘士の男は楽しそうな声を上げると、ソフィア以上の速さで距離を詰めると回し蹴りを放つ。
ソフィアもそれに反応し盾で攻撃を逸らそうとしたのだが、盾は先程の攻撃で耐久力を失っていたのか蹴りを受けきれず砕け散り、回し蹴りはソフィアに直撃した。
「なんと!?」
ソフィアは回し蹴りをまともに食らい吹き飛びながらも空中で体制を持ち直しうまく地上に着地した。
「さっきの男を簡単に持ち上げたことと言い、俺の回し蹴りを受けてもその様子・・お前も魔闘士か?」
魔闘士の男は攻撃の手を止めソフィアに聞く。
「いや?わしは魔闘士ではないぞ?ただちと似たようなことが出来るだけじゃ」
「そうかよっ!!」
ソフィアの答えを聞いた魔闘士の男は攻撃を再開した。
ソフィアの驚異的なスピードでの攻撃や男のエルフを簡単に持ち上げる膂力、魔闘士の攻撃をまともに受けても耐えられる耐久力は全て木々の精霊の魔法によるものだった。
エルトレームの里の族長になる者は、もっとも木々の精霊に愛される者がなることになってあり、木々の精霊に愛される者は自身の魔力とは別に精霊たちの魔力も借り受けることが出来その魔力を身に纏い自身の身体能力を上昇させることができるのであった。
「お主、あの大男よりも強いのぉ」
「あいつなんかと一緒にすんじゃねぇよ!!」
(こやつ実力を隠しておったな。確実にあの大男よりも強いわい。こりゃ生け捕りは難しいかもしれんのぉ)
ソフィアがそう考えているその時だった。
「『氷精よ、我に力を与え三つの刃よ、敵を切り裂け。アイスソード!!』」
魔闘士の男の死角から氷の魔法が飛んできたのだった。




