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運命の日 前編

 VRMMOゲーム『ASTRALアストラル FANTASYファンタジー』通称AFは中世を基盤とした世界。

 剣と魔法のファンタジーゲームといった割とありふれたゲームの一つであるのだが、AFは他のVRMMOゲームとは大きく違った点が一つあった。

 それはゲームとは思えないほどの自由度の高さだった。

 ゲーム内で作られた自分のアバターの設定はもちろんの事、自分のなりたい職になったり自分の家や店を持つこともでき、さらにはプレイヤー個人で国を造ることすら可能であったりとAFのなかでは出来ない事はないと言われる程自由度の高いゲームであった。



 そんなAFの世界で立華圭(たちばなけい)はリナというアバターで長い期間ソロプレイヤーとして遊んでいたのだが、初めてゲーム内で出来た6人の友人と共に長い時間をかけてようやく国を造りあげたところだった。

 国の名前は『エクラド』この国は建国した6人のプレイヤーが義兄弟という設定とし個人個人が得意分野を担当して国を治めていた。

 公には国王が6人のリーダーで筋骨隆々の聖騎士『クレフ』

 その側近として現実でもクレフの弟であるのだが、兄とは違い落ち着いた性格で、すらっとした美青年の二刀使い『ジン』

 財政管理を担当していて、口は悪いが何かと仲間思いで、眼鏡をかけてローブを着た調教師の『ネスタ』

 みんなの装備の調整をしている、下っ端気質なドワーフの鍛冶師の『ロア』

 外交を担当していて、スタイルがよく何故か踊り子の恰好をしている妖艶な神官の『ユーコ』

 そして眼鏡をかけてミニスカートを穿いてい幼く見えるが魔道具の調整をしている魔法使いの『リナ』だった。

 元々は全員ソロでのトッププレイヤーとして有名だったのだが、お互いの腕を認めて一つの国を造ろうと言って集まったメンバーであった。

 今日は建国して一ヵ月目の記念日として6人で集まる日であった。



 リナがログインして城の会議室へと向かうとすでにクレフ、ジン、ネスタの3人が集まっていた。

 


「すみません、遅くなりましたか?」

「おっ、リナじゃねぇか」

「こんにちは、リナさん。まだ大丈夫ですよ、ユーコさんとロアさんがまだですから、さあこちらにどうぞ」

「ありがとうございまいます」



 ジンに誘導され席に着いたリナはずっと目を合わしてくれないネスタに声をかけた。



「こんにちはネスタさん」

「・・・おう」



 ネスタは視線を少し上げて返事をするとすぐに視線を下に戻した。



「おいおいネスタ、そろそろそれやめろよ」



 クレフが苦言を述べるとネスタは勢いよく顔をあげて怒鳴り散らした。



「お前等がこの前めちゃくちゃな事しちまって俺達で集めた国の金がやばいことになってんだろうが!これからどうやって乗り切っていくか必死になって考えてんだから少しは黙ってろ!」

「お、おう。すまねえ」



 ネスタの剣幕にクレフもたじたじといった様子だった。

 リナが小声でジンに尋ねると少し困った様子でジンが答えた。



「クレフさんまた何かしでかしたんですか?」

「実は兄さんとユーコさんとロアさんでこの国の宝剣を作るって言いだしたらしく、ネスタさんに黙って国のお金のほとんどを使っちゃったらしいんですよ。それがネスタさんにバレて怒らしちゃったんですよ」

「そ、そうだったんですか」



 しばらくするとユーコとロアが会議室に入ってきた。

 部屋に入ってきた二人は何かと戦っていたのか装備が痛んでいて少し疲れた様子だった。



「あら?もうみんな揃っているのねぇ」

「お待たせっス」

「ど、どうしたんですか二人とも?」



 二人を見たジンは驚いた様子で回復ポーションを渡した。



「ありがとっ」

「で、どうしたんですか?」

「いや、罪滅ぼしといいますか命令といいますか・・・」



 ロアは目線をネスタに送りながらそう答えた。



「私たちはネスタのご命令で少しご奉仕に行ってただけよぉ」

「なんでそんなエロい言い方するんスか!?ちょっとドラゴンを狩りに行ってただけじゃないっスか!」

「そ、そうですか」



 ロアはちょっと狩りに行っていただけと言ってはいるが、ドラゴンはAFの世界では最強種の一種でその討伐には相当の準備と大人数を集めないとまず討伐不可能といわれる程の敵であった。

 ジンは少し引いただけですんでいたのだが、それはこの6人ですでに何度もドラゴンを討伐ていたからだった。そうでなければ、引くだけでは済まないレベルの大事だった。



「それにいきなり姐さんがソロでドラゴンに挑みだして大変だったんスよ」

「そろそろ私にも出来るかなぁと思ったんだけど、やっぱりクレフやリナちゃんと違ってドラゴンをソロで狩るのは無理だったわぁ」

「いや、それはあの二人が特殊なだけですから」

「おーい、聞こえてるぞー」



 クレフの声に三人は吹き出し声をあげて笑いあった。




 ようやく6人が集まり記念日のささやかなパーティが始まった。



「皆この一ヶ月本当にありがとう。ようやくこの国も軌道に乗り出してNPCや他のプレイヤーが住みだしはじめて俺達の理想に一歩近づけたと思う」

「お前が、宝剣を作るとか言い出さなければ本当に問題なかったんだけどな」

「・・・と、とりあえず皆今後もいろいろと助けてくれると助かる」

「まずは自分の行動を見直せよな」

「ネ、ネスタさん?本当に悪かったって、機嫌直してくれよ。このとーり」

「・・・はぁ。ったく、今回だけだからな?」

「へ、へい了解しました。・・・で、では我らがエクラド国の繁栄を願って乾杯!!」

「「「「「か、乾杯」」」」」



 王様なのに全然威厳のないクレフであった。




「でもリナちゃんが仲間になってくれて本当によかったわぁ」



 何気ない談笑が続く中ふとリナの話題となった。



「たしかにリナが仲間になってからいろいろ楽になったよな」

「そ、そうですか?」

「僕たちのパーティは回復職のユーコさんがいましたけど純粋な魔法使いはいなかったですからね。リナさんが仲間になってくれたおかげで火力がずいぶんと上がりましたから」

「たしかに火力が上がって戦闘が楽になったっスけど、たしか最初の目的はそこじゃなかったスよね?」

「そうだったそうだった。たしかネスタが魔道具が高くて全然金がたまらねぇとかボヤいてたからユーコに頼んで錬金術師をさがしてたんだったよな」

「そうよぉ、何日もかけて情報を掴んで、ようやく見つけたはずの錬金術師さんのところに行ったら小さな女の子がキマイラをソロで狩っていたから吃驚したわぁ。しかもキマイラを危なげなく瞬殺してたものだから二重に吃驚したわね。それで声をかけたら顔を真っ赤にして貴重な転移結晶を使ってまで逃げ出すんだもの何度も驚かされたわぁ」

「す、すみません」

「たしかに最初見たときは驚いたもんだぜ、まさかリナがあの大魔導士だとは思わなかったからな」



 AFの世界には有名なトッププレイヤーが何人か存在しているのだが、その中でも七不思議のように言われているプレイヤーが何人かいた。

 その一人が大魔導士と呼ばれていたリナであった。

 本来純粋な魔法使いはソロプレイはあまり向いていない職として認知されていた。その理由はそもそも魔法を使う際の詠唱中は完全に無防備になるためモンスターと戦う時には必ず敵のヘイトを集める者の存在が必要不可欠であった。もちろん無詠唱も存在するのだが、それを習得する事にはどんな魔法使いであろうとパーティを組んでいるのが当たり前の状態だった。

 しかしリナというプレイヤーは魔法使いにも関わらずずっとソロでプレイし続けプレイヤーとしてのランキングが常に上位であった。それにプラスしてリナの姿を見たプレイヤーがいなかった。

 そんなことから、どんな姿をしているのか?実は運営側のアバターじゃないのか?などの噂が流れついにはソロでドラゴンを狩ったことがランキング掲示板に載ってから謎の大魔導士としてプレイヤーの中で有名になっていた。

 大魔導士の噂は瞬く間に広まっていたのだが、当のリナ本人は自身の性格上、他のプレイヤーとの関わりもなく誰とも交流を持たないままプレイしていたから自分がトッププレイヤーということにも気づかずにAFを楽しんでいたのだった。



 そんな噂が広がっていた中クレフ達が探していたのが、たまに市場に大量に流れる魔道具の作成人だった。

 作成するのにかなりのレベルと貴重な素材が必要な魔道具が稀にに安価で市場に流れてくる。基本的に市場に流れるという事は他のギルドなどには所属していないはずだということで探しあてたのがリナであった。

 実はこれもリナとしては余った素材で作った道具を売ってお金の足しにしていただけなのであまり大事になるなんて事は考えずにやっていた事なのだが、実はこれも七不思議のひとつとして噂になっていることだった。



「しっかしリナを仲間にするのには骨が折れたぜ」

「たしかに何せ話かけようと近づく度に逃げ出すもんだから大変だったよ」

「そういえば、今まで聞いてなかったけどどうして私たちの仲間になってくれたのかしらぁ?」

「そ、それはですね」


 リナが口を開いた瞬間大きな揺れとともに目の前が真っ黒になった。


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