開戦
侵入者達からの奇襲も特になく、リナたちはそう時間のかからない内にエドアルドの元へとたどり着いた。
しかしエドアルドの元にたどり着いた時にはすでに戦場は悲惨なものになっていた。
エルフたちの死体が何体か転がっていて怪我をしている者も少なくない。火災はリナの使った魔法のおかげで消えてはいたのだが防衛のための木でできた壁はすでに破壊された後だった。
ただ侵入者の人族側の者たちの中にも二名ほど倒れて動かなくなっている者がいた。
「族長!」
リナたちの到着に気が付いたエドアルドがソフィアの元に駆け寄ってくる。その手には細剣と丸い形をした盾を持っていた。
「すまぬ、少し遅れたか」
「いえ、・・・なんとか被害は最小限で抑えられているところです」
「最小限か・・」
「ですが、突然吹雪が起こったおかげで火の方はなんとかなりました」
「それはリナの魔法のおかげじゃな」
「リナさんの・・・リナさんありがとうございます」
「今はいいですから、それよりもまずはこの状況をなんとかしないといけません。全部無事に終わった後で大丈夫ですから」
「はい」
「エドアルドこっちは何人死んだ?」
「・・・少なくとも5名は確認しておりますが致命傷をおった怪我人も少なからずいます・・」
「そうか・・」
ソフィアが悔しそうに声を震わせる。
「族長これを・・・」
そんなソフィアにエドアルドが手に持っていた細剣と丸い形をした盾を手渡した。
(あれ?弓を使うんじゃないんでしょうか?)
リナがふと最初に出会ったときには弓を背負っていたことを思い出していたところにティアが声をかけた。
「おばあ様はこっちの方が得意なんだよ」
「そうなんですか」
「見たらリナちゃんも絶対に吃驚するよ」
ティアは無理をしているのか少し声を震わせながらも明るく見せようとリナに笑いかけていた。
そんな二人の会話はよそにソフィアはすぐにそれを受け取ると素早く装備しエルフたちに向けて大きな声を上げた。
「皆の者、遅くなった。すぐにわしも加勢する。捕まった者たちもすぐに助け出そうぞ!!」
ソフィアの声が戦場に響き渡るとそれまで苦戦していて士気が落ちていたエルフたちも声を荒げ活気たつ。ソフィアのたった一言で士気があがったエルフたちの様子に改めてソフィアのカリスマ性をリナは感じていた。。
「エドアルド詳しい戦況はどうなっとる?」
戦場に向かいながらソフィアがエドアルドに質問する、それをリナとティアも黙って聞いていた。
「正直なところよくありません、侵入者を二名ほど倒しましたが、いまだ7人ここに残って戦っております。残りの4人は女3人、子供2人を捕らえられ森の奥へと逃げていきました」
「逃げた者の追跡は?」
「申し訳ありません。ここで手いっぱいで未だに追跡できておりません」
「・・・ここに残っている敵の戦力は?」
「魔法使いが二名と弓使いが一名、あとは前衛で戦う者たちです、その中でも魔法使いは一方は火の魔法を使いもう一方は風の魔法を使ってきます。あと大きな槍を持っている者なのですがこの者がなかなかの手練れでこちらが思うように攻め込められない状況です」
「そうか、わかった。シェスティア!」
「はい」
エドアルドの説明を聞くとソフィアがティアに命令を出す。
「お前は弓兵を遠距離から討て、エドアルドはわしと共に相手の前衛を崩すぞ」
「わかりました」「はっ!」
「してリナは・・」
「ボクは魔法使いを倒します」
「じゃが相手は二人いるのじゃぞ?」
「魔法使い同士の戦いでしたら任せてください」
すぐにリナの言葉を否定しようとしたソフィアだったがリナの表情を見てうなずいた。
「・・・わかった。魔法使い共はリナに任せる。じゃがシェスティアには弓兵を片付けたらすぐにリナの援護に回ってもらうぞ」
「わかりました」
「了解です。すぐに片付けてリナちゃんを援護します!!」
「ティアさん、ボクに気を使わないで気を付けてくださいね」
そう言ってリナが振り向くと、いつの間にかにティアは弓を装備していた。
「では、皆の者ゆくぞ!!」
ソフィアが号令をあげて前進していく。
それに合わせてティアが魔法を使う。
「『木々の精霊たちよ、力を貸して』」
ティアが魔法の詠唱を行うとスッとティアの存在感が消えていき、ついにはどこに居るのかわからなくなっていった。
「では、おばあ様先に行って参ります」
「頼むぞ」
「はい」
どこからか聞こえてくるティアの声も聞こえなくなった。
(すごいですね、まったくどこに居るのかわからなくなっていました)
リナがティアのすごさを称賛していると、とうとう敵の前までやってきた。
侵入者の男たちはどう見ても山賊のようにしか見えない恰好をしていたのだが、後ろから魔法を放っている者たちはそれなりの装備をしていた。
ソフィアとリナがエルフたちの間をすり抜け前線まで前に出ると男たちの表情が変わった。
「金髪のエルフ?こいつか?旦那の言っていた女ってのは?」
ソフィアを見た刀を持った男が槍を振り回している男に聞く。
「たぶんそうだろ、こんなにいい女なんだ間違いねぇだろ。いいかできるだけ傷つけずに捕まえるぞ」
「こんな細腕の女なんだ余裕だよ余裕」
侵入者の男たちは下品な笑いを上げながらソフィアを見ていると、ひとりの男があることに気が付いた。
「おい、あのピンク色の髪のちっこい女、人族じゃないか?」
「ああ?そんなわけ・・たしかに人族だな」
「おいおいあいつもすげー上玉だぜ?」
「たしかに、それに人族のくせにエルフの里にいるような女なんだ、どうせ何か訳ありなんだろう。旦那も何もいってなかったし俺たちで頂いちまうか」
「いいねぇ、楽しみができるとやる気もでるってもんだ」
前衛の男たちは、その小柄で華奢な体格でとても戦えるとは思えないようなリナを見たとたん性欲の対象としか見ていなかった。
「うっ」
その下品な視線や笑い声を聞いたリナはゾクゾクっと背筋に寒気を覚えた。
そんなリナの頭にポンっと手を置いて優しくソフィアが声をかける。
「気にするなリナ、おぬしに手出しなどわしがさせぬ。それに・・あいつらは全員ここで死ぬ!!」
ソフィアがそう言い残すと一瞬で十メートルの距離を詰め寄り刀を持った男に切りかかった。
「なにをしている!そいつらはなかなか出来るぞ!!」
戦闘中にも関わらずゲラゲラと笑う男たちに魔法使いの一人が声をかけたその時だった。
完全に油断していた男の首が一瞬にして宙を舞った。
「へ?」
首の飛んだ男から出た言葉はそれが最後だった。
その瞬間侵入者の男たちの表情が変わり声を荒げた。
「糞がぁ!!」
仲間の一人がやられたことで完全に油断を解いた男たちはいっせいにソフィアへと切りかかる。
「させるか!!」
エルフたちもソフィアを傷つけさせまいと男たちと応戦する。
リナはそんな光景を見ながら敵の魔法使いの動きに注意していた。
(あの魔法使いたちは少し厄介ですね、探知の魔法が使えるかはわかりませんが戦況をよく見て魔法を使っています。それにボクの実力にもある程度は気が付いているみたいですね)
リナの考えているように魔法使いの二人はリナから視線を話すことはなかった。
(考えていても仕方ないですね。ここは先手で行きましょう)
「『氷精よ、我に力を与え三つの鏃を、アイスアロー!!』」
リナが先手を打って魔法を放つと相手もすぐに魔法で応戦してきた。
「『火精よ、我に力を与え守りの力を、ファイアシールド!!』」
「『風精よ、我に力を与え風の刃を、ウィンドカッター!!』」
リナと魔法使い二人の戦いが始まった。




