一つ目の頼み事
「ではさっそくじゃが頼みたいことがあるのじゃが・・」
「ちょっと待ってください」
ソフィアが早速といわんばかりに椅子から腰を上げたところでリナから声が上がった。
「なんじゃ?」
「す、すみません。お手伝いすることは了承しましたけど、まずはボクが今どこに居るのか詳しく教えていただきたいと思いまして・・」
「ここはエルトレームの里じゃが?」
ソフィアはキョトンとした表情でそう返した。
「いえ、そうではなくてこのエルトレームの里がどのあたりにあってエクラドからどれくらい離れた場所にあるのかが知りたいのですが」
「おお、そう言うことか」
リナの答えになるほどと頷くソフィアだったがその顔を少し曇らせた。
「すまぬがおぬしの問いには答えられぬのじゃ」
「ど、どうしてですか?」
「わしらエルフは外界の事については詳しくないのじゃ、エクラドという国の名前も聞いたことがない」
「そ、そうですか・・・この森の外には何があるとかはわかりますか?」
「そうじゃのぉ、何度か人族を視た事はあるがそれも短い月日の過去ばかりでな。森から離れた場所に街があるらしい事しかわからん。すまんのう」
「そ、そうですか。いえ大丈夫です」
(エクラドの名前を知らないってことはとりあえずはかなりの距離を転移できたと考えていいですね。この森から出たらまずはその街に向かうことにしましょうか)
「しかしおぬしも面白いのぉ。転移してきた場所は適当だったのか?」
「えっと、あの時は焦っていたというか・・・」
リナはまさか図星をつかれたとは恥ずかしくて知られたくはなかった。
「まあよい。で、おぬしに頼みたいことなのじゃがここでは伝え難いのでの、わしについて来てもらえるかの?」
「は、はい。わかりました」
ソフィアが立ち上がりソフィア側の後ろの扉に向かって歩いていく、リナもそれに従って付いていこうとするとふと正座をしているティアと目が合ってしまった。
「・・・・」
「・・・・」
リナとティアは無言で見つめあったのだが、ティアからは助けてほしいと言わんばかりの涙目で、リナはそんなティアをどうしたらいいのか困った目で見つめあう。
「なにをしとるのじゃ?早うついてこい」
そこで先を歩くソフィアの声が聞こえてきた。
「は、はい」
リナはソフィアに返事をしてその場を去ろうとしたのだがいつの間にか近づいてきていたティアがリナの足をつかんで放さなかった。
「だ、だじゅげでぇ・・・」
ティアはすでに涙を流し懇願するようにリナにしがみつく。
「・・・えっと」
どうしたものかと考えたのだが、泣いているティアを見ていると流石にかわいそうになってきたので助け舟を出すことにした。
「ソフィアさん、ちょっといいですか?」
「なんじゃ?」
すでに先へと進んでいたソフィアが足を止め振り返る。
「どうしてこうなっているのかはわかりませんが、そろそろティアさんを許してあげたほうがいいのではないでしょうか?」
「ティア?・・・おぉ!すっかり忘れておったわ。リナも特に気にしてないようじゃし、そろそろよいじゃろ」
ソフィアの言葉を聞いたティアは勢いよく立ち上がるとソフィアへと詰め寄った。
「忘れてたってどういうことですか!!」
「すまぬすまぬ、ついの」
「つい、じゃないですよ。本当に辛かったんですから」
「そりゃあ辛くないと反省にはならんじゃろ」
「そう、ですけど・・それでも忘れてったってのはひどいじゃないですか!!」
「だからすまぬって」
ティアの涙ながらの言葉にソフィアも少し圧倒されていたのだが。
「ホントおばあ様は最近物忘れがひどいんですから」
「なんじゃと?」
「い、いえなんでも・・・」
ティアの一言で目つきがギラリと変わりティアを怯ませた。
そんな様子を見ていたリナはあることに疑問を感じた。
「ティアさん、さっきソフィアさんの事を族長じゃなくっておばあ様って呼びましたか?」
リナのそんな質問にティアはソフィアから逃げるように振り返って答えた。
「そうだよ。気づかなかったのかな?私は『シェスティア・エルトレーム』、おばあ様は『ソフィア・エルトレーム』同じ名前でしょ?」
「そういえば・・・」
リナはそんな簡単なことにも気が付かなかったことが少し恥ずかしくなっていた。
「エドアルドさんはどういった名前なんですか?」
リナはごまかすように質問を続ける。
「ん?エドアルドはエドアルドだよ?エルトレームの名前が付くのは族長の直系だけだよ?」
「じゃあティアさんはいずれ族長になるんですか?」
「そうなるね」
ティアはえへんと胸を張るがその頭をソフィアに叩かれた。
「お前が族長になれるわけないじゃろ!少しはしっかり仕事をしてからそういうことを言うんじゃな」
「す、すみません」
「まあいい。ついでじゃティアお前もついてこい」
「え?でもこの先には・・」
「いいからついてこい!」
「わかりました!!」
ティアは相当ソフィアが怖いんだなぁと思いながらも二人の後にリナはついていった。
暗く長い廊下が続く明かりはさっき見た木々の精霊が少し漂っているだけだった。
長い廊下を歩いていくとその先には、とても大きく頑丈そうな扉があった。
「ここじゃ」
「おっきな扉だね」
ティアがそんなことを言う。
「ティアさんはここに来たことないんですか?」
「うん、ここには来たらダメだって言われていたからね、来るのは初めて」
「そうだったんですか・・」
リナはそう言いつつも扉に描かれていた奇麗な装飾に目を奪われていた。
「そんなことより早く行こうよ。ってあれ?」
我慢できずに扉を開けようとティアが扉に手をかけたのだが押しても引いても動かないらしい。
「おばあ様、ここ開かないよ」
扉には鍵穴らしきものは付いていないし他に仕掛けがあるようには見えない。
リナも不思議に思っていると不意にソフィアが前に出た。
「こうするのじゃ」
ソフィアはそう言って扉に掌を当てると扉は自動的に開いていった。
「ここは族長のみが入れる場所なのじゃ今はわしにしか開けられぬから入ることもできぬのじゃが、まあ今は緊急なのでの二人ともついてこい」
ソフィアはそう言って中に入っていく、リナとティアもソフィアの後ろについていった。
扉の先はすぐに下へと続く階段になってありそこを進んでいく。
「これじゃ」
「これ何?」
ソフィアが指さす先には木々の精霊たちに照らされた直径3メートル程の大きな黒い球体があった。
「どうじゃリナにはこれがわかるかの?」
ソフィアは試すかのようにリナにそう問いかける。
「・・・特殊結界宝玉」
リナはそう呟くと言葉を詰まらせた。
「おお、やはりわかるか」
ソフィアはリナが球体がなにか言い当てたことがうれしかったのか上機嫌になっていた。
「ねぇおばあ様?そのとくしゅけっかいほうぎょくって・・・何?」
「シェスティア、お主昔わしが教えたというのに忘れたのかの?」
「えっと、・・・ごめんなさい」
「仕方ないのぉ。簡単に説明するとこの特殊結界宝玉を使って結界を張るとその宝玉に込められた結界が宝玉の大きさに比例して広がるものなのじゃ、この大きさだと軽くこの森を覆う広さは確保できるんじゃがのぉ」
ソフィアは困った顔をしてリナを見る。
「してリナに頼みたいのはこの宝玉を修理してほしい」
「え?」
ソフィアの言葉にリナは驚く。
「おぬし、魔道具を作れるのじゃろ?結界石も作っておったし」
「た、たしかにボクは結界石を作ることはできますけど特殊結界宝玉なんて、それにこんなに大きなものを見るのは初めてですよ」
「この里を救う為なのじゃ」
「で、でも」
「それにこれがもう一つの頼み事と繋がっていなくもないのじゃ」




