光の柱
時間を少し遡る。
リナ達とは別で行動していたファラとシルヴァはファラの知り合いの奴隷商人の元で何名かの護衛候補を何名か紹介されていた。
「どうだったかしら?ここの奴隷は戦力になるし問題を起こすような人もいないから安心して旅が出来ると思うんだけど」
「そうですね。明日エリザを連れて紹介していただいた人の中から選ぼうと思います」
「そう、じゃあ店主に伝えてくるから少し待ってて」
しばらく待っているとファラが一枚の紙を持ってシルヴァの元へ戻ってくる。ファラはその紙をシルヴァに差し出して言う。
「はい、これを渡しておくわね」
「これは?」
「契約書。護衛2人分の料金を払っておいたから明日気に入った護衛を選んでちょうだい」
「あ、ありがとうございます」
「いいのよ約束なんだし気にしないでちょうだい」
そう言って笑うファラにシルヴァは約束通り予見の水晶を手渡した。
「あら?明日でもよかったのに」
「いえ、しっかりと約束を守ってもらいましたので」
「そう?なら受け取っておくわね……ありがと」
ファラは嬉しそうに予見の水晶を眺めた後、大事にアイテム袋に収納したのだった。
その後、奴隷商を出た二人は太陽を見ていつの間にか結構な時間が経っていたことに気づいたのだった。
「あら、もう日が傾き始めているのね。昼食を取り損ねちゃったわね」
「すみません時間を取らせてしまって」
「それは全然いいのよ。そんなことより早く宿に戻って皆と夕食に行きましょう。この街には私のお勧めの店があるのよ」
「そうなんですか?楽しみです」
二人が帰路についていると、宿の方向からティアとハイネがファラ達の方へと走ってくる。
ティア達は前方を歩いていたファラ達を見つけて二人の元へ駆け寄ってくる。
「ファ、ファラさん、はぁはぁ、リナ、ちゃん見て、ませんか?」
よほど急いでいたのか、ティアは息を切らせていた。
「いえ?私達は見てないけど……何かあったの?」
必死にリナを探していたであろうティアの態度にファラは眉間にしわを寄せた。
ファラの問いにティアの代わりにハイネが答える。
「お姉ちゃんとエリザがいなくなった」
ティア達は昼を過ぎてもリナ達が帰ってこなかった事。ヴィレに匂いで探させても路地で途切れてしまった事を伝えた。
「それでミュウちゃんはなんて言ってるの?」
「ちょっと気になる事があるから先に探しておけって……」
と言ったところでモノクルをかけた背の高い初老の男が一人4人に近づいてきた。
「シルヴィオだな……女達は預かっている」
「なっ……」
男がそう言うと、4人はすぐに戦闘態勢に入る。
しかし男は不敵に笑いながら両手を上げて言う。
「おっとこっちは話をしに来ただけだ」
「こっちには話なんてない!!リナちゃん達を返せ!!」
ティアがそう怒鳴るが男は意に介さずシルヴァを見て言った。
「宝玉を西の塔に持ってこい。持ってこなければわかっているな」
男はそれだけ言うと突然体が崩れ落ち、その場には土塊が残るだけだった。
突然の事にティア達は驚いていたが、ハイネ一人は土塊を調べながらいった。
「これは反魂術…」
「ハイネちゃん知ってるの?」
「死霊術の一つ。魂を無理矢理付与して操る術」
ハイネの説明を聞いたファラは髪をかきあげながら言う。
「なるほど、どうやらリナちゃん達はいえ……私達は厄介ごとに巻き込まれたみたいね」
そう言ってシルヴァを見るとシルヴァは頭を下げて言う。
「すみません。事情があってこの旅の間は偽名を名乗っていたのですが……」
「まあ、その話は後まずはリナちゃんとエリザちゃんを助けないと」
「そうだよ!まずはリナちゃん達を見つけないと」
「その様子じゃまだ見つかってないようだな……」
そう言って屋根の上からミュウが飛び降りてくる。
「ミュウちゃん」
「待たせたな。ちょっと調べてみたんだが、どうやらこの街に良くない連中がいるらしい」
「じゃあその連中にリナちゃん達が?」
「おそらくな……で、そっちは何かあったのか?」
ティア達は今起きた出来事をミュウに伝えると、ミュウは少し考え込むように腕を組むと4人に作戦を伝えた。
「敵は思っていた以上に厄介そうだな。ここは手分けして探そう。西の塔にはシルヴァとファラが向かってくれ、ファラが居ればまず危険はないだろう。ワタシ達はこのまま2人を探すぞ」
ミュウがそう提案すると、ハイネが前に出て言う。
「こっちも手分けした方がいい」
「しかしだな、敵がどういった奴かわからない以上危険は避けたい」
ミュウはそう言うが、ハイネは首を振って拒否する。
「私とヴィレで行く。ヴィレなら私に隠れられるし私も妖術を使えば逃げるだけなら簡単」
「ミュウちゃん、ハイネちゃんとヴィレなら大丈夫だよ」
「……わかった。ならハイネ達はリナ達のにおいを探して動いてくれ。私とティアは怪しい情報がある場所を探すぞ」
そこから5人と1匹は手分けをしてリナ達を探し始めた。
◇◇◇
ティア達は怪しい連中の目撃情報がある所をしらみつぶしに探していたが全くリナ達の情報を掴めないでいた。
「ここにもいないね」
「ギルドで調べた情報は不穏な連中がこの街にいる事と、怪しい連中の情報くらいだからな。そっちはどうだ?何か視えないのか?」
「ううん駄目。リナちゃんの魔力もエリザちゃんの魔力も見つからない」
「そうか。……しかしリナはトラブルに会う天才だな」
「ははっ。それは否定できないかも……」
不安を紛らわす為にそんな会話をしていると、少し離れた場所から爆発音が聞こえてきた。
「なんだ?何かあったのか?」
爆発音を聞いてミュウが隣にいたティアに質問する。
「向こうで爆発が……」
ティアの視線の先には、光の柱が天に昇るかのように高く上がっていた。
普段のミュウならたとえ鼓膜が破れそうなほどの爆音であったとしても何が起きたのか気配を察知する事が出来るのだが、今回は爆発音が聞こえるだけでミュウの感覚としては何も起きていないと感じてしまってい、今何が起きているのか全く分からないでいた。
しかし質問されたティアも何が起きているのかわからないでいた。
「爆発?本当に爆発か?」
「私にもわからないんだけど、おっきい光が空に昇ってるの」
「光?魔法か?」
「ううん、違うと思う。私の眼でも魔力には見えないから間違いないよ」
「そうか…とにかくその光が見えてるところに向かうぞ」
「うん、こっち、ついて来て」
走り出したティアを追いかけるようにミュウも走りだす。
「……まさかリナが暴走してるんじゃ」
「それもたぶん違うと思う……前に暴走した時はありえないほどの魔力の渦があふれ出してたから、でも今はそんな魔力は全く見えていないんだよ」
ティア達が光に向かって走っていると路地からハイネとヴィレが出てきて合流した。
「ハイネちゃんも光をみて?」
「ん、それもだけど、あっちからお姉ちゃんのにおいがするみたいで…ヴィレが走りだしたから」
「となると、そこにリナがいるのは間違いないみたいだな」
「ん、ヴィレの鼻は間違いない」
ティア達が爆発の現場に到着すると、そこは上の建物が吹き飛び地下室がまるまる外に露出している状態だった。
その地下室の瓦礫の中に裸の状態で倒れているリナとエリザの姿があった。
「リナちゃん!エリザちゃん!そんな……」
二人から魔力を全く視ることが出来なかったティアは慌てて駆け寄って2人の状態を調べる。
それを追ってミュウ達も駆け寄っていった。
「よかった。生きてる。大きな怪我も無さそう。……でもなんで魔力が視えないんだろう?」
ティアが首を傾げていると、同じようにリナ達の体を調べていたミュウが二人の首に手を置いて言った。
「首のこれは魔力封じの枷だな……確かにこれだったら魔法は使えないはずだ」
ミュウが慣れた手先で二人から枷を外していくと、ティアの眼にいつもの2人の魔力が見て取れた。
本当に無事だった事に安堵していると、ハイネがリナ達の服を持ってくる。
「それ2人の服?」
「うん。ヴィレが見つけた」
そう言って地面に置いた荷物の中にはリナのアイテム袋もあった為、無くなったものは物は無さそうだとティアは安堵しリナとエリザに服を着せていった。
「しかし何があったんだ?ここに来てから変な感覚がずっとしていて、近くじゃないといまいち周りの気配を掴みにくい」
ミュウがそう言うと同時にヴィレが瓦礫の奥に向かって吠える。
「何かいるの?」
ハイネが訊くとヴィレは敵意をむき出しにして唸っていた。
「敵?」
ハイネのその一言でリナ達を見ていたティアとミュウが瓦礫の奥を凝視してミュウが奥に魔法を放つと奥から仮面の男が姿を現した。
「見つかってしまったか……」
「仮面の男……」
「なんだと!?」
「間違いない。前に見た仮面と同じ物」
「まさかこんなところで仮面の連中に会えるとはな。お前には聞きたい事がたくさんあるんでな、おとなしく捕まってもらうぞ」
ミュウがそう言うとゴーシュは懐から転移結晶を取り出して言う。
「まだ捕まるわけにはいかないんでね。ここは立ち去らせてもらう」
「なっ!?こ、この反応は、ま、待て!!」
ミュウの制止は叶わずゴーシュは転移結晶を起動させてその場から姿を消したのだった。
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