捕縛されたリナとエリザ
気絶させられていたリナ達が連れ去られた場所は、薄暗い部屋の中だった。
「…さん!リナさん!!」
「ん?んん……」
先に意識を取り戻したエリザは、隣にいるリナに何度も声をかけていると、リナはなんとか目を覚ました。
「エリザ…さん?」……こ、ここは!?それにこの格好……」
ボーっとしていた意識がはっきりして、エリザを認識したリナは今の自分達が置かれている状況に狼狽し始めた。
現在、リナとエリザは両腕を鎖で壁に吊るされて強制的に立たされていた。さらには装備等を全て剥ぎ取られしまい布一枚の状態になっていたのだった。
「こ、ここはどこですか!?それにこの格好!?」
「落ち着いてください。私達はまだ何もされていないようですの。ただこのままでは、いずれあのように……」
エリザが言葉を切って薄暗い部屋の奥に視線を向ける。エリザの視線を追うようにリナも視線を向けて目を凝らしていると、そこには乱暴を受けたであろう女性達がそのまま鎖に繋がれ横たわっていた。
「え?……ひっ………」
あまりの光景にリナは小さな悲鳴を上げて目を逸らすと、隣で繋がれているエリザが落ち込みながら謝罪の言葉を述べる。
「リナさん、申し訳ございませんわ。まさかこんな事になるなんて」
「エリザさん……」
一緒に捕まってしまった現実がある今、反省していつエリザにかける言葉をリナは見つけることが出来なかった。
しかし、とにかく今はここからの脱出だとリナは考えて魔法を発動させようとするが、首に付けられている魔力封じの魔道具がそれを許さなかった。
「そうでした、この魔道具のせいで魔法が使えないんでした……」
今のリナ達は、魔法を完全に封じられ装備も失っている。唯一逃げ出せそうな方法は、鎖を腕力で引きちぎるしかないのだが、リナにはもちろんエリザにもそんな腕力があるはずもなく解決策がなかった。
(魔法も使えない、ここにいる事なんて他の皆も知らないですし……もう少しで元の世界の情報を掴めそうなのに、ここで死んでしまうのしょうか……)
完全に逃げる事が出来ない。ここまで順調に進んでいた旅に、突然暗雲がかかってしまい。絶望的な状態になってしまったリナは、いろんな感情があふれ出し涙を流し始めてた。
「うっ、うう……」
「リナさん……」
エリザはリナと一緒に行動していた時間は短かったが、リナは魔法使いとして優れた実力を持っている割りには、メンタルが弱いという事をわかっていた。
隣で心が折れて泣いてしまったリナに代わってせめて自分がこの状況の打開をする。せめてリナだけでも逃がさないといけないと考え始めた時、部屋の外から足音が聞こえてきた。
(足音、それも複数……これは階段を下りてくる音ですわね。薄々察していましたが、窓のないこの部屋はここは地下ですのね。となると逃げ出すのはますます難しくなりますわね)
脱出が難しくなった事に唇をかんでいると、路地で見た男達と共に仮面をつけた者が部屋に入ってくる。
「ゴーシュ様、こいつです」
商人だった男は仮面の男ゴーシュにそう言うと、顔を伏せて泣いているリナの頭を掴んだ。
「やめなさい!!」
「黙っていろ!お前はもう用済みなんだ!!」
ゴーシュがそう叫んでエリザの頬を叩く、エリザは口の中が切れてしまって血を流しながらもリナを掴み続ける商人の男を睨みつけていると、ゴーシュが初めて言葉を発した。
「目障りだ。さがっていろ」
その声色は低く不気味な物だった。
「は、はい……」
商人の男はすぐに頭を下げると、リナを話して後ろへと下がっていった。
ゴーシュが代わってリナ達の前に来ると、リナの顎を掴んで無理矢理頭を上げさせたが、リナは虚ろな表情のまま視線を逸らしていた。
「確かに桃色の髪に眼鏡の女だな……なるほど、使えるな」
「私達をどうするおつもりですか?」
リナを見て不敵に笑うゴーシュにエリザがそう問いかけると、ゴーシュはリナから手を放してエリザに振り向く。
「それを知ってどうする?お前達はここから出られない事には変わりないだろう?……特にお前はもう用済みなんだしな」
「どういう事です!?」
「俺達はシルヴィオには用があったんでな。お前を利用させてもらったよ」
「なっ!?あなた私達の事を!?」
エリザはシルヴィオと言う名前を聞いて眼を見開いてそう訊くが、ゴーシュは上機嫌で言う。
「我々はお前達を…シルヴィオを追っていたんでね。途中で消息を絶たれた時には少し焦ったが、わざわざ自ら捕まりに来てくれるとは手間が省けたよ。それにいい物も持ってきてくれた」
そう言ってゴーシュがリナに視線を戻す。
エリザの慌てようで思わず顔を上げていたリナは、ゴーシュと視線が合ってしまい、その不気味な視線に思わず目を逸らそうとするが、怪しく光る眼から何故か視線を逸らすことが出来なくなってしまっていた。
ゴーシュは、視線を逸らすことが出来ないリナの前に手を出すと、そこには魔法文字が刻まれたタリスマンが握られていた。
「それはタリスマン!!一体なにをするつもりですの!?」
エリザがそう言うと同時に、タリスマンから発せられた光がリナを包み込んだ。
タリスマンとは、強力な魔法発動体であり、タリスマンに刻まれた魔法を少量の魔力で発動させられる魔道具である。しかし、タリスマンになりえる鉱物は希少な物なので滅多に目にすることのない代物だった。
ゴーシュは声を上げて笑うと、リナを見つめて自信満々に言った。
「命令だ。お前の事を全て隠さずに俺に教えろ」
しかしリナはゴーシュの命令は聞かずに口を閉ざしていた。
絶対に命令に従うと思っていたのか、ゴーシュは手に持ったタリスマンを見て言う。
「どういう事だ?おい、奥の女を一人連れてこい誰でもいい」
すぐに部下の一人が女性を連れてくる。女性はひどく怯えて震えていたが、そんな事は全く気にもせずにゴーシュは女性に向かって言う。
「命令だ。お前に家族はいるか教えろ。答えたらお前を逃がしてやる。その代わりに家族は全員しまつさせてもらうがな」
ゴーシュがそう命令すると、家族を巻き込みたくない女性は涙を流して首を横に振る。
それを見たゴーシュは、先程と同じように女性に向かってタリスマンを構えて光を発した。
光を浴びた女性は怯えた様子は亡くなり、虚ろな状態で頬を赤くしてゴーシュを見めていた。
「命令だ。質問に答えろ。お前に家族はいるか?」
「私には一人妹がいます」
女性はさっきまでとは違いなんのためらいも無くそう答えた。
「命令だ。お前の主人は誰だ?」
「貴方様です」
女性は即答する。
「命令だ。死ね」
ゴーシュがそう言ってナイフを差し出す。女性はそれを受け取ると、なんの躊躇いも無く自身の喉にナイフを突き立てた。
目の前で起きた出来事にリナとエリザが驚きで言葉を失っていた。
ゴーシュは人が一人死んだことなど全く気にもせずにタリスマンを見ていた。
「ふむ、壊れてはいないか」
そう言ってもう一度リナの前にタリスマンを構える。
さっきの光景を目の当たりにしたリナは反射的に顔を伏せるが、タリスマンから出る光にリナは包まれてしまう。
「命令だ。お前の事を全て隠さず俺に教えろ」
再度、完全に浴びさせた事を確認したゴーシュは、また先程と同じようにリナに命令する。
「………」
しかし、リナには変化は無くまたもその命令を聞くことは無かった。
そんなリナの様子にゴーシュははあからさまに苛立ちをみせて部下に怒鳴りちらした。
「くそっ!!普通の人間には抵抗できないはずだろう!何でこいつには効かないんだ!」
「わ、わかりません。ただ魅了のタリスマンは壊れてはいないはずです。その証拠にさっきの女は命令に従っていましたので」
部下がそう言うと、ゴーシュは仮面の上から額を抑えると、大きく息を吸って気分を落ちつけると、首を鳴らして言う。
「ふー、確かにその通りだ。どうも沸点が低いのは悪い癖だな……」
ゴーシュはタリスマンを懐にしまうと、おもむろにリナの胸元へ手を伸ばし布を握ると一気に引きちぎった。
「きゃああああ」
反射的に悲鳴を上げたリナの胸にゴーシュが手をそえると、耳元で囁く。
「騒ぐな…どの道こうなる事に変わりはないんだ。ただ正気なのか、そうでないかの違いでしかない」
「ひっ…」
怯えた様子のリナを見てゴーシュが不敵に笑うと、部下へと振り返って言う。
「こいつは俺が相手をする。なにすぐに俺の言う事を素直に聞くようになる。お前たちはそっちを好きにするがいい、どうせそいつにはタリスマンは効かないんだ」
ゴーシュがそう言うと、部下の男達はエリザへとじりじりと近寄っていく。
「な、なんですの!?来ないで!触れないでください!!」
男達に囲まれていくエリザがそう叫ぶ中、リナにも危機が迫っていく。
ゴーシュがリナに残された最後の一枚に手をかけたのだった。
「や、やめてください!!はなして!!!」
リナはなんとか暴れて抵抗するが、抵抗は空しくゴーシュが最後の一枚を引きちぎった。
「いやあああああああああああああああ」
その時だった、魔法を完全に封じられていたはずのリナから突然まばゆい光があふれ出していく。
「な、なんだこれは!?」
ゴーシュの叫びと同時に部下の男達諸共リナ達から弾き飛ばされていく。
襲われていたエリザも吹き飛びそうになるが、鎖で縛られていたことが幸いし何とか吹き飛ばされずにすんだ。
リナからあふれ出す光がさらに輝きを増していく。
「リ、リナさんこれは一体!?」
エリザの言葉を最後に光が最大限に広がり地下室で大爆発が起きたのだった。
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