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エリザの魔道具

 リナ達が訪れた都市メロラスは気候も穏やかで過ごしやすく危険な魔物も少ない場所にあるという事もあり西地域の貴族達からも人気のある保養地だった。

 しかし現在は南北が戦争中という事もありメロラスには貴族達の姿は無く代わりに豪商等のお金を持った者達が普段貴族達が利用して使えない高級な温泉や宿を利用していた。

 日が昇ってすぐにメロラスに到着したリナ達も高級宿の中でもメロラスに屋敷を持たない上位貴族が利用するようなさらに高級な宿に部屋を取っていた。



「おつかれー」



 そう言ってリナを迎え入れたのはのんびりと部屋でくつろいでいたミュウだった。



「ミュウさん!逃げるなんて酷いですよ!!」



 半泣きになりながらミュウに訴えかけたリナは、宿に到着してすぐにファラに連行される形で連れていかれた宿の温泉で、ファラに長時間思う存分可愛がられて完全にのぼせてしまっていた。



「わ、わるかったって、ワタシもこの街で用事があったんだ仕方ないだろ」

「うぅ、ううぅ」



 リナは用事があるからと言ってそそくさと逃げてしまったミュウに向かって涙目のまま掴みかかっていた。

 あまり見ることがないリナのそんな様子に温泉でファラにされた仕打ちは酷いものだったと物語っていた。

 流石になんとかせねばとミュウは強引に話を変える。



「と、ところでファラはどうしたんだ?」

「ファラさんならお風呂から上がってすぐにシルヴァさんを捕まえて護衛決めに行くと言って出ていきましたよ?」



 そう訊かれたリナは鼻をすすりながらも答えていると、ようやくのぼせてふらふらしていた頭もすっきりしてきていた。

 一息置いて冷静になったリナは部屋を見渡してティアとハイネの姿がないことに気が付いた。



「ティアさんとハイネも見当たらないみたいですけど何処かに行ったんですか?」

「あの二人なら観光しながら食べ歩きするって出ていったな」

「そうですか……で、エリザさんは何をしているのでしょう?」



 リナの目に映っていたのは、何度も無視しようとしていたのだが、あまりにもアレな状態だったので無視しきれなかったのは、なんとかヴィレを撫でようと悪戦苦闘しているエリザの姿だった。

 エリザは宿に着いてから何度もヴィレの頭を撫でようとしていたのだが、ヴィレはエリザの手を尻尾で弾いたり、そっと移動したりと一向に撫でさせようとはしなかった。それでもエリザは「なんでですの!?」「少しだけですから!!」とあきらめず時には頭を下げてお願いしたりとずっとその調子だった。

 リナはミュウが戻ってからずっとその調子だったと言う事を聞いていつからやっていたのかと流石に不憫に思ってしまい助け舟を出すことにした。



「ヴィレ、少しでいいのでエリザさんに撫でさせてくれませんか?」



 リナがそう言うと、エリザが「リナさん!!」と歓喜の表情を見せたのだが、ヴィレの方ははリナの言う事なので一瞬戸惑うような素振りを見せたのだが、命令ではなく提案だったので、ぷいっと顔を逸らして部屋の奥に移動してしまった。



「な、なんでですの!?」



 絶望感たっぷりに膝から崩れ落ちてしまったエリザ。



「エ、エリザさん。そ、その…ボク達も外に出かけませんか?」



 あまりにも不憫すぎるエリザにリナは気分転換になればとそう提案するとエリザは涙目になりながらもリナの手を取って頷いた。



「そう言う事ですので、少し出かけてきます」

「おー、暗くなる前に戻るんだぞー」




 ◇◇◇



 リナとエリザはメロラスの街を歩いていたのだが、エリザはヴィレの事が忘れられないのか時折ヴィレの名前を呼んでいた。



「エ、エリザさんまずはどこに行きましょうか?」



 普段人見知りの激しいリナなのだが、流石にここまで不憫なエリザを前に何とかせねばと懸命に話かけていた。

 幸いここは観光地としても賑わっているので、気分を紛らわすには十分な観光ポイントがあった。

 リナの言葉があまり聞こえていなかったエリザだったのだが、ある店の一角に人が集まっている事に気が付いた。



「あれはなんでしょう?」

「え?ホントですね人だかりが出来ていますね」



 エリザに言われてリナも視線の奥に人だかりが出来ているのを見つけると、それと同時にエリザに手を引かれる形で人だかりに向かって進んでいった。



 人だかりが出来ていたのは行商の武器屋だった。



「見てくれ、これがクローバーガゼルの角とミスリルでできた剣だ」



 店主が剣を取り出すと同時に店を見に来ていた客から「おおお」と声が上がっていた。

 その剣は光輝く美しい細剣だった。



「クローバーガゼルって魔物ですか?」



 リナは訊いたことがない名前が出てきたので思わず隣のエリザに訊いてみると、



「クローバーガゼルは普通の獣です。があれは……」

「エリザさん?」



 リナがエリザの顔を覗き込むとその表情が険しいものだった。



「この剣は彼の有名な名工ラーダが作った剣だ!!見るものがみればその価値はわかるだろう。二度と手に入らない品だが俺にはこの剣を使う腕はねえ、惜しいが大金貨二枚で売ることにした!!」



「だ、大金貨二枚ってそんなに高いのですか!?」



 その金額にリナは驚くが、店の周りにいた物達は懐疑的だった。



「そんな剣が大金貨二枚なんて安すぎる偽物なんじゃないか?」



 一人の男がそう言うと周りにいた者達も同じように声を上げた。すると店主はそれが分かっていたかのように話し始める。



「そう言われるのはもっともだ、流石に俺もこの金額だと安すぎるとは思う。だが、別の街で適正価格で売りに出しても誰も買いやしねぇ、仕入れでこっちも干上がっちまってるのに、このままじゃ売れなきゃ使えねぇ剣とお陀仏だ。だったら損でもさっさと売っちまってその金で別にもっと安くて売りやすい品を仕入れたいってところなのさ」

「なるほどな…」



 店主の言葉に周りの者達はなっとくしてその剣を手に入れるか悩み初めていた。

 リナも店主のいう事に一理あると納得していたのだが、そこで声を上げたのはエリザだった。



「お待ちください!!その男は嘘をついていますわ!!」



 エリザはビシッと店主に向かって指をさしていた。

 突然のエリザの発言に周りの者達もざわざわと騒ぎ始める。



「突然なんだ!俺が嘘をついただと?いいかげんな事を言うんじゃねぇよ」



 店主は声を荒げて言うがエリザは一歩も引かなかった。



「いいかげんじゃありませんわ。さっきから聞いていれば、その剣の素材の話から売る理由の話まで全部嘘ではありませんか、その証拠にクローバーガゼルの角を使った武器に統一して見られる剣の輝きが見られませんわ」

「なにを言ってんだ?この剣はこの通り光ってるだろうが」



 店主の言う通り剣は光輝いておりその光が本物という事を証明していたのだが、エリザは腕を組んで言い返す。



「あら?クローバーガゼルの角を使った剣は血液などの液体を浴びなければ輝かないはずですが、その剣は何も浴びずに輝いていまずわね?」



 エリザがそう言うと周りの者達は「そういえば」とその事実を思い出して商人を疑いの眼で見始める。

 すると、客の一人が皆の前に出て言う。



「ちょっとまて、何でこんな小娘にそんなことがわかるんだ?俺にはわかるぞ。この剣は本物だ。間違いない」



 男は商人を庇うようにいうが、エリザはそれ許さなかった。



「アナタはその商人の仲間ですわね?」

「なにをいってるんだ?この街に初めて来たこの商人の事なんか知らねえよ!!」



 その言葉にエリザはニヤリと笑うと、



「それも嘘ですわ。その商人はこの街に初めて来たのではないですわね!!」



 エリザの追求に周りがざわつき始めると、誰かが呼んだのか街の衛兵がやって来ていた。



「この騒ぎはなんだ!!」



 衛兵の声に皆が反応して振り返り、商人の事を説明しているといつの間にか商人と仲間だと思われる男の姿が消えていたのだった。

 どういう事だと周りの人間に聞く衛兵に気づかれないようにリナ達はその場を離れることにした。




 衛兵に見つからないように路地に入ったリナ達は息をひそめていた。



「エ、エリザさんさっきはどうしてあんな事を?」

「あの商人が嘘をついて詐欺をはたらこうとしていましたから無視はできませんわ」

「嘘って言っても…」



 リナにはエリザが相手が嘘をついていると確信しているように発言していた事に疑問を覚えていた。

 剣の事があったとはいえそれだけにしては自信満々に言いすぎだった。

 そんなリナの疑問はすぐに解消される事になった。



「あら?言っていませんでしたか?私のイヤリングには嘘を聞き分ける魔法がかかっていますの」

「ええ?そ、そんな魔道具があるんですか?」

「リナさんなら見ればわかるのではないですか?」



 エリザに言われるがままイヤリングをリナが見てみると上手く偽装されてはいるが確かに魔道具だった。



「もしかして、初めて会った時も?」

「ええ、このイヤリングを使っていましたわ」

「という事は…ボクの正体も?」

「ええ王女殿下なのでしょう?」



 エリザはあっけらかんとそう言うが、リナには衝撃的な発言だった。



(ど、どどどどど、どうしましょう。ミュウさんがバレないって言うから話したのに完全にバレちゃってるじゃないですか!!)



「エ、エエエエ、エリザさん。ボ、ボクの事はひ、秘密でお願いします」



 動揺しながらリナがそう言うとエリザは、



「はい。わかっていますわよ?前にもそう言っていたではありませんか」



 なんども同じことをいわれて首を傾げながらもそう答えた。



「見つけたぞ」



 突然声をかけられてビクッと二人が反応するとさっきの衛兵が二人の後ろに立っていた。



「お前達だなさっきの騒ぎの原因は、少し話を聞きたいから屯所まで来てもらうぞ」



 そう言われてしまっては流石にこれ以上逃げるわけにはいかないとリナがおとなしくついて行こうとすると、エリザがリナの腕を引っ張りその足を止める。



「エリザさん?」

「その方、衛兵ではありません」

「え?」



 エリザの発言に驚いていると、しびれを切らした衛兵がリナの腕を掴む。その瞬間、



「『雷精よ、我に力を与え衝撃を、サンダーショック!!』」



 エリザが魔法を発動させて衛兵に打ち込むとその衝撃でリナの腕から衛兵の手が外れた。エリザはすぐさまリナの腕を引っ張ると路地の外に向かって走り出す。



「気をつけろ魔法を使うぞ!!」



 衛兵がそう叫ぶとリナ達の行き先に同じように衛兵の姿をした者が立ちふさがる。



「こっちはまずいですわね」



 エリザはすぐに曲がり角を曲がって道を変えるが、行く手には大男に塞がれてしまっていた。

 大男は走っていたエリザとリナの二人の腕を掴むと逃げられないようにそのまま持ち上げた。



「痛ッ…仕方ありませんね『雷精よ、我』きゃっ!?」

「エ、エリザさん!!」



 魔法を発動させようとしていたエリザにさっきの衛兵が首輪の様なものを取り付けると、大男はエリザを投げ飛ばした。



「うっ…」



 壁に強く打ち受けられたエリザはその場で気を失ってしまった。

 リナはとっさに魔法を発動させようとしたが、リナの首にも同じように首輪が取り付けられると同時に魔法が使えなくなってしまった。



「無駄だ。その首輪は魔法を封じる魔道具だ」



 衛兵は魔法が発動しないことに驚くリナにそう言う。


 


「こいつらか?」



 大男がそう言うとその後ろからさっきの商人が姿を現した。



「ああ、間違いねぇこの女達だ」



 大男が確認をそう取ると、他の仲間達が気絶したエリザを麻袋の中に入れ始めていた。



「エリザさん!?貴方達一体何…うっ……」



 リナがエリザを助けようと暴れだすと大男はリナの腹に一発入れるとリナはそこで気を失ってしまった。



「急げ、ここじゃ場所が悪い」



 衛兵がそう言うと仲間達はリナもエリザと同じように麻袋に詰めて荷物の様に何処かへ連れ去ってしまったのだった。




 ◇◇◇



「はい。なんでも商売の邪魔をした女を二人ここへ連れてくるそうです」



 とある廃墟の地下。衛兵達のリーダーへの報告が行われていた。



「騒動にはなっていないんだな」

「はい。衛兵に変装した者がその場は治めています」

「わかった。さがれ」

「はっ」



 リーダーがそう言うと報告に来ていた男はすぐに部屋から出ていく。



「しかし、初めに妨害してきたのが女とは…おもしろい」



 そう言って笑う者は奇妙な仮面をつけて黒いローブを着た男だった。

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