サンダルの問題
『サンダル』は冒険者の集まる街なのだが、この辺りまで出てくる森の魔物は危険な魔物が現れることは少なく、付近に点在しているダンジョンも他の場所に比べると出現する魔物が弱い為にそれを目当てに西地域の低ランク冒険者が集まる街だった。
街には荒くれものも多くアレントに比べると治安も良くない街だったが、冒険者が集まるだけあって職人も多数働く街だった。
リナ達はサンダルに着くとすぐに別行動を取ることになった。
「ワタシは冒険者ギルドに顔を出しに行ってくるから」
「じゃあ私も奴隷商に行ってこようかしら……リナちゃん達はどうする?ついて来てもいいんだけど」
「いえ、ボク達は馬車を直してくれる職人さんを探してきます」
「わかった。じゃあ皆用事が済んだら冒険者ギルドに集合してくれ宿の手配をしておく」
「わかりました」
リナ達三人はまずは馬車小屋を探して町の中を歩いていた。
「それでオキタさんから貰ったカードはどんな感じ?」
リナはアイテム袋からカードを取り出して魔力を通してみるが矢印は未だに北を指していた。
「まだ北を指してますね……もっと北側にオキタさん達の町があるんだと思います」
「もっと北側かー」
「いえ、北側だったのは良かったですよ」
ティアが残念そうに言っていたが、リナは矢印がまだ北側を指していた事に安心していた。
「どうして?」
「もし南側に矢印が向いていたら危険かもしれない地域に行かないといけませんでしたから」
「それもそうだね」
「でも北は戦争してるって言ってた」
「そうですね。でもファラさんはすぐに終わるって言ってましたし、そのことも含めて王都で情報収集をするので」
「もしかしたら王都に言ってる間に戦争も終わってるかもね」
現在の西大陸の状態が分からない今は安易な行動を取るべきではない事は間違いなかった。
まずは情報収集、その為にも早く馬車小屋を探さなければならなかった。
「それにしても話に聞いていたよりも人の数が少ないね」
リナ達が歩いている通りは人の数が少なく、いくつかの店は閉まっていて事前にファラに聞いていた街の様子とは変わっていた。
「おい、また南の方向にドラゴンが見えたってよ」
そんな中でも馬車小屋を探していと、リナ達の歩く先から声が聞こえてきた。。
「またかよ、森の方でも見えたって言うし早くこの街から出た方がいいかもな」
冒険者らしき者達がそんな事を言いながらリナ達の横を通り過ぎていった。
「リナちゃんさっきの話って」
「はい。もしかしたらボク達を襲ってきたドラゴンの事かもしれませんね」
(こっちの大陸はそんなにドラゴンが出現する場所なのでしょうか?……AFとは違って危険な場所ですね)
◇◇◇
なんとか馬車を組み立ててくれる職人も見つけたリナ達は冒険者ギルドでミュウと合流していた。
ミュウはすでにサンダルのギルドマスターとの話を終えて宿の手配をしている所だった。
「おお、戻ったかちょうど今部屋を取ってたんだが部屋割りはどうする?結構部屋は空いてるみたいなんだが」
「ボク達は……」
この街では冒険者でも宿代が必要になるので三人部屋にしようとすると、三人の後ろからスッと手が伸びてきた。
「5人部屋でいいわ」
突然の事で受付嬢が戸惑っていると、異論を言わせぬ笑顔でそのまま5人部屋を手配させていた。
「ファラ……」
「いいじゃない、シオンでも同じ部屋だったんだし。私が宿代払うからね?ね?」
「はぁ……もうそれでいいよ……」
ミュウはため息をついて諦めの表情を浮かべていた。リナ達も異論を唱える勇気も無くなし崩し的に同部屋になったのだった。
「それで馬車の方はどうなった?」
「馬車は明日にでも組み立てられるみたいです。ただ馬が少ないみたいで明日また馬車小屋を訪ねる予定です」
宿に入った5人はこれからの事を話しあっていた。
「ねえミュウちゃん奴隷商で気になる事を聞いたんだけど」
「なんだ?」
「最近この辺りでドラゴンをよく見るらしいんだけど何か聞いてない?」
「あっそれ冒険者の人も言ってたよ」
ドラゴンの噂はこの街の住人に広まっていて、すでにこの街から避難している者達も増えていっていた。宿の部屋が空いているのも馬の数が減っているのもそれが原因だった。
ミュウは難しい顔をしながら答える。
「ここのギルマスもその事は確認しているんだが、この街にはドラゴンに対応できるような冒険者もいないらしくてな。現状どうする事も出来ないらしい」
「え?じゃあこの街はどうなるの?」
「最悪放棄するらしい。幸いここのギルドにはアレがないからギルドを放棄するのは問題ないんだが、シオンから一番近い街が無くなるとなったら今まで以上に大陸間の移動が難しくなる」
サンダルの次にある街は馬車を使っても二日はかかる場所にある為、この街が無くなる事はギルマスの立場から考えると避けたい状態だった。
「ドラゴンってここのギルマスでも倒せないの?」
「ここのギルマスは戦闘はあんまり得意じゃないんだ。確かに強いがたぶんワタシ達よりは弱いな」
「じゃあどうするの?」
ティアがそう訊く。
街の事を考えるとドラゴンをなんとかした方はいいのは当然なのだが、今ここに留まる理由はリナ達には無かった。ファラとしてもこの街で関係があるのは奴隷商くらいで、すでに逃げる手筈を取っていたのを見ていたのでリナ達と同様だった。
関係があるのはギルドマスターと言う立場のあるミュウだけだった。
リナ達はミュウと共に旅をしてきた仲なのでミュウに助けを求められたら助けるつもりだったのでミュウの判断を仰いだ。
「明日馬を確保したら王都に向かう」
「へ?それでいいの?」
ミュウの答えにティアは気の抜けた声を発した。
「いいわけではないが、さっきここのギルマスと話しててな例の組織の事もあるしワタシは先に王都に向かってここへの応援を募る事になった」
「なんだもう決まってたんだ」
「ま、そういうことだ」
とりあえず明日この街を出ることになったのだが、一つ問題が出来た。
「ねえ話が終わった所で悪いんだけど例の組織ってなんなの?」
ファラはさっきの会話から謎のワードが出てきた事に引っかかっていた。
ミュウはしまったっといった顔をしていたのだが、ファラの追求でしぶしぶ仮面の集団の事を話した。
「なるほどね……私も奴隷からそんな連中の話を聞いたことがあるわ」
「本当か?なんて言ってたんだ?」
「ごめんなさい。そんな連中を見たって話だけで詳しい事は聞いてなかったのよ。ただその奴隷はこっちの大陸で奴隷落ちしてたはずよ」
「そうか。やはりこの大陸にも表れてるみたいだな。いや、確か壊滅した街はこの大陸の南側の街だったか……」
ミュウはそう呟くと一人思考に入っていった。
「あらら、こうなったらしばらくは駄目ね」
リナ達はミュウはそっとしておいて明日に備えて早めに就寝したのだった。
◇◇◇
翌日の朝、リナ達5人が馬車小屋に向かうとすでに完成した馬車と馬が用意されていた。以前の馬車は荷台のみだったが、荷台の部分は屋根付きの帆馬車になっていて幕を閉じたら寝泊まり出来るようにしてくれていた。
なんでも馬車小屋の主人も明日にでもこの街を離れる事になったみたいで、馬が売れるならとサービスで用意していたのだった。流石にそこまでしてくれてた店主にはお礼で多めに料金を払う事になったのだがそれでも割安での改良になったので問題はなかった。
馬車の操作はファラが出来たので早速リナ達は王都に向かって出発する事にした。
「……でもよかったのかな?」
「何がですか?」
「サンダルの事だよ」
サンダルを出発してから妙に静かだったティアがそんな事を言うと横になっていたミュウが起き上がった。
今は馬車の荷台にはリナとティアとミュウの3人が居てハイネは御者台でファラに馬車の操作を教わっていていなかったのでミュウは少し厳しい声色になって言った。
「ティアは確か里を出るのは初めてなんだよな?」
「うん」
ミュウは珍しく瞳を開いてティアに向き合った。
その表情は真剣なもので見えていないはずのその瞳に見つめられた感覚になったティアとその場にいたリナは息を呑んだ。
「じゃあ先に外の世界に出た先輩として言っておくが、全ての問題を自分が解決しようとするな。目の前以外の事にも手を伸ばしていたら本当に大切な事を失って後悔する事になるぞ」
ミュウはそう言ってティアを窘める。その言葉にはミュウの想いが重くのしかかっているようにリナとティアには聞こえていたのだった。
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