ドラゴン 再び
「着いたー!!」
北の大陸に上陸したとたんティアは両手を上げてそう叫ぶ。
シーサペント・ドラゴンの一件があった為、北の大陸に到着したのは日が傾き始めた頃だった。
「ティアさんまずは二人を宿に連れて行かないと」
無事に上陸した一行だったが、ハイネとミュウは船酔いで未だダウンしていた。
リナ達はハイネとミュウを背負いながらファラの案内で用意してもらった宿に向かって行った。
「北の大陸に来たけどあっちの村とそんなに変わらないね」
北の大陸の家は耐寒対策している家とばかり思っていたティアはキョロキョロと村の中を視ながらそう呟く。
ティアの考えとは違い北の大陸の村『シオン村』は西大陸の最北の村とほとんど変わりのない構造になっていた。
「確かに北の大陸に来ましたけど気温もそんなに変わらないですね」
「まだこの辺りはそんなに気温は変わらないけど北側の地域に行ったら気温ががくっと下がるわよ」
宿に到着した5人はファラが取ってくれていた5人部屋に入る。
リナ達の部屋は王都の高級宿にも引けを取らないほど豪華なもので寝室とは別にリビングルームや十人ほど入れそうな大きな浴場もあった。
その豪華さに驚いていたリナ達だったが、辛そうにしているハイネとミュウをベットに寝かせて3人は先に夕食を食べに行くことにした。
「それで、リナちゃん達はこれからどうするの?」
夕食を食べているとファラがそう二人に聞く。
「まずはこの大陸の情報を集めてから行動するつもりです」
「うんうん。まずは情報収集、それが出来てないと生き残れないからね。わかってるみたいで良かったわ」
リナの回答にファラは満足げに頷くとリナの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「さて、船の中では途中でトラブルがあったから言えなかったけど、良かったらしばらく一緒に行動しない?」
「えっと、ファラさんとですか?」
「そうよ、私だけ」
リナはファラだけと聞いて安心した。船旅でほとんど一緒にいたファラには慣れたリナだったが、ファラの部下達とは接触してこなかったので一緒に旅をするのには抵抗があった。
ファラも船で見ていたおかげで3人の性格を理解していたのでそう提案したのだった。
「賛成、賛成!!」
ティアがそう言って手を上げていると、その後ろからハイネとミュウが姿を現した。
「私も構わない」
「いいんじゃないか?性格はアレだが戦力としては問題ないし」
「二人とも体調は大丈夫なんですか?」
「もう大丈夫だ。いやー陸はいいな。揺れないし」
「ん、陸最高」
ハイネとミュウは同じテーブルに着くとさっきまで船酔いで倒れていたとは思えない食欲を発揮してバクバクと夕食を食べていた。
「で、リナちゃんはどうかな?」
「もちろんボクも賛成です。よろしくお願いします」
「よろしくね」
夕食を済ませた一行は部屋に戻るとファラの提案で皆でお風呂に入る事になった。初めは抵抗していたミュウだったがティアの行動に慣れていたリナとハイネがすぐに折れた為しぶしぶ一緒に入ることになってしまったのだった。
浴場に入るとミュウはすぐにファラに捕まって体を洗われてしまっていた。
「やめろー!!自分で洗えるから、はーなーせー!!」
「ぐふふ、駄目よー。逃がさないからおとなしくしなさい。……あ、そっちの三人も私が洗うから待っててね?」
ファラは目を光らせながら三人に不気味な微笑みを見せた。
「こ、このままでは風邪を引いてしまいますので自分で洗いますね……」
「んーまあいいけど、もう一回洗ってあげるから……逃げても無駄よ?」
リナとハイネはその言葉に背筋を凍らせたがティアは通常運転だった。
「じゃ、じゃあまずは私がリナちゃんとハイネちゃんを洗ってあげるねー」
ティアは「グフフフ」と笑いながら鼻血を垂らしてリナとハイネにじりじりと迫っていた。
「こ、こっちにもティアさんがいることを忘れていました!!」
「シェスティア…変態……」
「グフフフフ」
そうしてリナ、ハイネ、ミュウの三人は変態二人に隅々まで洗体されてしまったのだった。
◇◇◇
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」
翌日、西地域の王都に向かって村を出た5人は、森の中で真っ白なドラゴンに追われていた。
「なんでこっちに来てからドラゴンばっかり出てくるのー!!」
ティアは全力で走りながらも文句を言っていた。
リナ達は森の中に入ってからしばらくした時、突然空から現れたドラゴンに襲われたのだった。
「私の弓は弾かれちゃうし……ねぇ誰かなんとか出来ないの!?」
ドラゴンに対して初めは魔法や弓などの遠距離攻撃で対応していたのだが、ドラゴンは魔法を無力化、弓を弾く等リナ達の攻撃を全て防ぎきってしまったのだった。
「ボクの魔法は詠唱の時間がいりますし、この状態じゃ難しいです」
「私の妖術も難しい」
「ワタシも飛んでる敵は対処が難しいぞ」
「ファランクスもブレスに対しては守るだけになっちゃうから止まった時点でアウトよー」
ドラゴンに対して初めは魔法や弓などの遠距離攻撃で対応していたのだが、ドラゴンは魔法を無力化、弓を弾く等リナ達の攻撃を全て防ぎきってしまったのだった。
そう言ってはいるが、リナは制限解放を使えば対処できそうな状態だったが一緒にいる皆の事を考えると不安定な今それを使うわけにはいかなかった。
ミュウとファラも戦えなくはないが周りの事を考えてそれを控えていた。
と言うのは3人の建前だったのだが、
「だったらこの状況どうするのー!?」
ティアは必死にそう叫んでいた。
しかししばらくすると真っ白なドラゴンはブレスを止めて、実は一緒に隣を飛んでいた白銀のドラゴンと共にどこかに飛んでいてしまったのだった。
「助かったの?」
「そうだが、たぶんあいつ等ワタシ達を殺す気はなかったと思うぞ?殺気が全然なかったし」
「どういう事?」
「たぶん遊んでたんだろ?」
「私も遊んでただけだと思うわよ?」
「ブレスの威力が相当抑えられていたのでボクも殺す気はなかったんだと思います」
「へ?皆それをわかってたの?……ハイネちゃんも?」
「お姉ちゃんがいるから大丈夫」
「はは、ははは」
常識が若干ずれている3人のおかげでティアは苦笑いをする事しか出来なかったのだった。
そんなティアを置いてミュウは少し首を傾げていた。
「しかし、あれはドラゴンだったんだよな?」
「はい。珍しい色のドラゴンでしたが、ドラゴンで間違いなかったと思いますよ」
「そうか、そんな気配じゃなかったんだが気のせいか?……」
気配で相手を察知するミュウには今のドラゴン二頭から通常のドラゴンの気配を感じる事が出来なかったのだった。
「とにかく、あんなに騒がしくしちゃたから早くここを離れましょ」
騒ぎにつられて現れる魔物の対応は面倒なので、ファラに同意して一行は素早くその場から移動した。
森の中では北の大陸と同様にほとんどの魔物をミュウが処理して比較的安全に進むことが出来て二日ほどで森から脱出することが出来たのだった。
「ようやく森から出れたけど……王都はまだ先なんだよね?」
「あの丘を少し行ったところに街があるからそこで馬車を手に入れるのよ」
「馬車かーそう言えば前の大陸の馬車も置いて来ちゃったねー」
「馬車でしたらアレントを出る前に回収しましたよ?」
リナはアイテム袋に手を入れると、馬車の車輪を中から取り出した。
「さすがにそのまま入れるのは無理でしたけど、分解してもらってから詰めておきました」
「あら?分解したって組み立てられるの?」
「いえ、こっちの大陸の職人さんに頼もうと思ってたので」
「ならどっちにしても街にいかないとな」
リナ達は王都までの移動手段を手に入れる為、冒険者の街『サンダル』に向かって歩いていった。
ブックマークありがとうございます。




