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第96話 〃

 さて。俺とミルファは今日は休めと言われたけれど、それは身体に関してである。頭はまだまだ動くので、そっちで貢献をしなければいけない。

 集まった情報の一部をまとめたファイルを受け取った後。部屋で読むよりも、もう少し資料などがある場所の方が良いだろうという事で、俺とミルファは図書室に向かい、窓辺の机に着いてファイルを開いた。

 その時。ミルファがおずおずと不安げに問う。


「あの、ブラン」

「おう?」

「顎は大丈夫ですか? 私が急に動いたせいで……」

「平気平気! 歯とかにも影響ないしな! それにただの事故だって!」


 俺は笑いながら自分の顎をさすると、ホッとしたのか、ミルファも恥ずかし気に自分の額をさすった。

 甘い空気が完全に吹き飛んだのは残念だが。ミルファの好意だって、俺の妙な雰囲気に当てられているだけなのかもしれないのだ。あまり望むのは身の丈に余るし、何だか申し訳無い気分になってしまう。



 深呼吸を一度。

 図書室のインクと紙の香りを吸い込むと頭が切り替わり。2人でファイルを読み始めた。

 とりあえず現時点で分かっている事で、大きいのは三つだ。


 一つ。メイズ島内での武器弾薬の増産は一年ほど前から。増産を行っているのは、騎士団の息が掛かった企業が管理運営する工場が主であり。大部分は騎士団の備蓄に回されているが、一部は運送中に盗賊に奪われたりしているらしい。

 通報を受けて駆け付けた時。ほぼ全ての現場に残されていたのは、抵抗した護衛の騎士団員や、運送業者などの死体。トラックなどは影も形も無い状態で、強奪してそのまま逃げ去られた事が多いのだとか。


「騎士団御用達の工場から出発した、武器弾薬などを運ぶ業者が。警戒網を掻い潜った盗賊達に襲われていたという事ですか? 警備が杜撰すぎる気がしなくも無いですが……」

「違和感はあるよな。しかもこれ。ガナッシュさんの調べによると、確かに抵抗はしているけど、襲って下さいと言わんばかりの輸送ルートらしいんだ。本棚から引っ張り出した地図も見ると、わざわざ迂回しなくて良い所とか通ってるみたいだし」

「襲撃に見せかけた譲渡だったとでも?」

「可能性はあるんじゃないか?」



 二つ。喋る生体兵器モンスターと関わりのありそうな、メイズ島西部の森について。

 こちらは御屋敷周りの森と違い、昔からある深い森林らしい。遺跡などがいくつか見つかっているので、それなりに調査の手は入っているが、森が鬱蒼としているのと広大なため、未だに全容は明らかになっていない森林である。

 そしてこの森は『長い耳をした射手が森を守っている』。なんて噂がまことしやかに囁かれているのだとか。

 事実。特殊合金製の矢が見つかっていたり。森で行方不明になっていた探索者シーカーの一団や騎士団の一隊が、車両ごと撃ち抜かれたような痕を残して死んでいたりと、穏やかでは無い。


「おっかないな……これあれかな。森の守護者。みたいなのが居るのか?」

「私達の知らない文化と社会を形成する一団が居る可能性も否定は出来ません。遺跡が点在するのであれば、そこの防衛機構や生体兵器モンスターという事もあるでしょう」

「これは探索者シーカー協会で噂話とかも探った方が良いか……」

「お宝探しの探索者シーカーも多いでしょうしね。帰還者の実体験が聞けるかもしれません」



 三つ。俺達について。

 

「うわっ」


 ファイルに挟まれていた紙を開き、俺は鈍い声を上げた。

『グリフォン強襲! 颯爽と現れたのは白銀の巨人!』『豪華絢爛舞踏会! 巨人も傅くメイズ騎士団の威容!』なんて見出しの記事が目に飛び込んできたのだ。

 以前も俺達を記事にしたマイナー新聞誌。メイズデイリーの新聞記事の切り抜きである。文責にはチェルシー・スカッチという何度か見た名前が書いてあり、『現在も追跡取材中』なんて文もあった。

 ガナッシュさんの調べによると。なんでも俺達の事は一部で噂になっている感じらしく。人型機械ネフィリムは写真が派手に決まるため、メイズデイリーがひっそりと俺達の動向を気にしているのだとか。

 新聞社の方はともかく。噂については舞踏会翌日に、初対面のテショーヤさんにすら俺達の事は知られていたので、あり得ない話では無い。

 そして記事についてだが。グリフォン戦の写真は無いけれど、舞踏会の方は向い合って座る2人の巨人の写真が大きく1枚。そして隅の方に、顔が分からないくらい小さく、騎士団長と握手する探索者シーカーという題の写真が載っていた。黒い髪色からして俺で間違いない。


 ミルファも若干眉をひそめつつ、隣でゆっくりと記事に目を通す。


「……記事の内容については、私達の行動が多少誇張されている以外は目に留まりませんね。グリフォンの記事の方は又聞きを無理矢理形にしたような物ですし、舞踏会については私達以外の勲章授与者が主です」

「つってもなあ……」


 俺もグリフォン戦についての記事から目を通すが、まるで舞踏号が空を飛んでミサイルを乱射したかのような書かれた方で苦笑いしてしまう。記事の日付から察するに、俺達がグリフォンと戦ってから3日後には紙面に乗せたようだ。

 そして記事の中でも、端に小さく書かれた一文が目を惹いた。


『――そして記者の取材に対し、「大きい人と綺麗なお姉ちゃんが、お父さんを助けてくれたの。すごかったんだよ!」と。グリフォンに襲撃された村の子供は、嬉々として語ってくれた。もしかすると我々は、神話の巨人の目覚め。その瞬間に立ち会っているのかもしれない』


 指でなぞりつつ黙読し、俺はつい笑ってしまう。


「何て言うか。こんな書き方だと、シャルロッテさんが俺達の事を勘違いしたのが分かる気がするな」

「ともかく凄いという誇張があった上に、彼女は実際に動き、歩く巨人を仰ぎ見たのです。多少なりとも期待を抱いてしまうのが人情でしょうね」


 ミルファはそう言うと、声を抑えてくすくすと笑った。



 その後は図書室で。ホワイトポート周りの地形の話や、海辺に存在する施設についての話が乗っている本など、今回の作戦に関係がありそうな物を集め。内容を検めてから出典を明記し、それらしい部分をメモに取るという作業を2人で始めた。


 作業の最中少し驚いたのが。御屋敷の人々が図書室で調べ物をする俺達を見つけると、自分達も手伝わせてくれと言ってくれた事だ。

 もちろん。図書室にある大量の書籍を検める作業に人手は必要だ。協力を快諾すると、皆さんは喜んで俺達の作業を手伝ってくれる。

 更に人が人を呼び。普段のお仕事を終わらせた人々が次々に来るし、森の中に天幕を設営し終え、手が空いた余所者アウトランダー達も図書室にやって来て……と。老若男女混合の大所帯になっていく。

 調べ方も、最初はタイトルからそれらしい物に目星を付けていたのだが。人手が増えた事で、本棚を片っ端から検めていく大掛かりな代物になっていった。


 あっという間に図書室が、静かながらも賑やかな”情報調査室”に変わっていく様に、俺は何だか驚いて手が止まってしまう。

 ”生体兵器モンスターとの戦争が近々始まる”という事実と、それに何とか抗うという大目標を知っている人は少ないけれど。車庫で決まった中目標、”街の地下に蔓延る生体兵器モンスターを倒す”という認識は皆が持っている。

 そしてそれを知った人々が。自分に出来る事もあるかもしれないと、真剣に今回の作戦を支えようとしてくれているのだ。


 これは俺の人徳などによるものでは無く。ガナッシュさんという頭領と、シェイプス先生やタムとティムという旗印の力で間違いない。頭が上がらないどころか足を向けて寝られない思いと共に、やはり俺も頑張らなければと心が引き締まる。


「今、良いですか?」


 俺は不意に声を掛けられ、背筋を伸ばした。

 声を掛けて来たのは、ロングコートを脱いで長袖を捲った余所者アウトランダーの男性と、メイド服を着た使用人の女性だ。目的を同じとする2人は、出自や環境こそ違えど、使命感などに似た力強い空気で繋がれているのが見える。

 そして使用人の女性が『再研究版・海岸工学概論・1章』というタイトルの分厚い本を俺に見せて言う。


「この本なんですけど、御屋敷の本棚にはこの1冊しか無いんです。確か街の本屋さんに続きがあったはずなので、買ってこようと思うんです」

「他にも書籍があるでしょうから、荷物持ちと一応の護衛に私が行きます。良いでしょうか」


 余所者アウトランダーの男性が続き、胸に手を当てて軽く会釈をした。

 願っても無い事だし、断る理由なんてない。それに御屋敷の人とケレンの民の人が、自分達から一緒に行動しようとしてくれているのだ。


「是非お願いします! っと、代金は俺が持ちますね! 財布持って来ます!」


 俺は快活に返し、すぐさま財布を取りに走った。色々な人が動いてくれているのを直に感じられ、こんなに嬉しい事は無い。

 財布をひっつかんで図書室に戻ると、ミルファが他の人の意見も聞いてまとめ。必要になりそうな書籍をメモしたりといった、実務的な事をフォローしてくれていた。

 その姿と皆さんに何だか目頭が熱くなり。俺は買い出しに向かう2人に財布を丸ごと手渡そうとして驚かれ、皆に笑われてしまったのだった。




 そしてあっという間に夕方である。

 街中に出ていた人々も御屋敷に戻って来ており、初日という事もあって目立った成果はまだ無い。代わりに、図書室での調べ物や、ガナッシュさんがふんだくって来た各種のデータなど、資料は盛沢山だ。


 更にそれらを整理し終えた頃には夕食の時間である。

 根を詰めすぎると良くないし、皆で談笑しながらの夕食になるのだが。ウーアシュプルング家に連なる皆さんと、ケレンの民の皆さん。そして俺達探索者シーカーという人の多さで、食堂はいつも以上に和気藹々としていた。

 中でもタムとティムの双子は、運ばれてくる料理全てに目を輝かせ、街の生活の話に熱心に耳を傾ける。そして良く話し、よく聞き、良く笑う。年齢にしては多少大人びて聡いのもあってか。話の飲み込みも早いので、中々に話甲斐のある相手なのだ。

 双子はあっという間にお屋敷の皆さんの心を掴み、時折見せる貴い雰囲気も相まって。屋敷の人々からも「神子様」と、親し気に優しく呼ばれるようになっていた。それに釣られるように、他の皆さんも親しくなっていく。

 本当の意味で余所者アウトランダー達と御屋敷の皆さんを繋いだのは、俺達では無く兎耳の双子で間違い無い。


「ワタシ、こんなに楽しいの初めてかもしんねえ! このデッカイ家の人、皆を愛してるぞ!」


 いつの間にかエリーゼさんの膝の上に収まり。デザートのプリンを満面の笑みで食べるタムが、何の屈託も無く言い放った。

 そんな姿と溢れんばかりの好意の吐露を聴き、周りに居る人々も自然と笑顔になってしまう。

 タムに続き、俺の膝の上に座ってプリンを食べたティムも言う。


「ボクも楽しい。皆さん良い人だし、ご飯は美味しいし、色んな事を教えてくれるし。大好きだよ」


 再び放たれる真っすぐな好意と満面の笑みに、もう一度周りに居る人々が笑顔になる。

 ただ俺は、膝の上にいるティムの嬉し気に揺れる兎耳がバシバシと顔にあたっていた。




 その後は、また電池が切れたかのように寝てしまった双子を部屋に寝かせ。皆が色々と雑事をこなし始める。


 俺はウーアシュプルング家の車庫の中。すっかり舞踏号と様々な武装の集積地と化した一角で、塗料の缶を手に、自身の半身たる舞踏号を見上げていた。

 舞踏号の塗装は、俺やテトラ達によって塗り直され始めている。白を基調としつつも、目元の鮮やかな赤い戦化粧をそのままに。肩には赤いラインが引かれ、随所を山吹色で彩られる。生気溢れてスポーティーなカラーリングになる予定だ。

 そして右肩には、小さく「テショーヤ銃砲店」のステッカーが貼られ。左肩には「ウーアシュプルング商会」の商会章がささやかに描かれる事になる。

 ウーアシュプルング商会の商会章は、テショーヤさんのステッカーを見たガナッシュさんが、面白そうだから混ぜろと笑ってゴリ押して来たのだ。何か意図がある感じはしたが、ウーアシュプルング商会は俺達のスポンサーみたいなものである。断れるはずもない。


 ともかく。広告を背負うのと明るい色味が相まって、舞踏号はまるでレーシングカーのようになるだろう。


「広告塔になるんだし、そもそも人型機械ネフィリムはどうしたって目立つから、多少の迷彩とか気にしない事にしたわよ。雨の中で余所者アウトランダーの皆さんも見えにくかったって言ってたし、ここはもうバシっと明るく決めましょう。ヒーローみたいにね」


 シルベーヌがそう笑って、図案を俺に見せたのが思い出される。


「いっそ名乗りの口上も考えようか。やあやあ我こそは……とか」


 俺は俯いたままの舞踏号に声をかけ、少しだけ笑った。

 それを聞いたのか、足元にテトラの1機、正方形のペテロが俺の足元に忍び寄り。突如急加速して右脛に突進してくる。

 だが俺が軽く右足を動かして突進を回避すると、ペテロが通り過ぎてから俺の方を見上げ、不満げなビープ音を鳴らした。


「何度も当たると思ったら大間違いだぜ!」


 今まで脛への突進に当たってばかりだったので、ちょっとだけ得意気に俺が言った。すると、ペテロは再び不満げに俺の方へ突進してくる。

 足蹴にするのも悪い気がしたので、軽くワルツのステップを踏み、くるりと突進をかわす。するとペテロは三度不満げなビープ音を鳴らし、俺はちょっとだけ笑ってしまう。


「こっち居たのねブラン」

「あ、シルベーヌ」


 車庫に現れたシルベーヌに目を留めた瞬間。ペテロは隙を逃さず俺の脛にぶち当たった。鋭い痛みで俺がしゃがんだのを見ると、ペテロは満足げに舞踏号の塗装に戻って行く。


「ある意味懐いてるのよ。ミルファが言うには、ブランの姿が見えないとアイツは何処だ? ってよく言ってるみたいだし」

「だったらいいけど……ぬおぁ……」


 シルベーヌが笑って俺をフォローしてくれたが、舞踏号の周りに居たテトラ達は、否定の意志を込めたビープ音を鳴らした。

 それを聞いたシルベーヌは再び笑い、俺は悶えつつも立ち上がる。


「それより。ちょっと忙しくて報告忘れてたから伝えとくわよ。ボロボロだった右手が治ってるの。私やテトラ達は手を入れて無いのにね。自然治癒したって言って良いわよ」

「……マジか?」

「本当の話。強度とかは問題無さそうなんだけど、ちょっと怖かったから、見た目は3本指に見えるままにしてあるけど……」

「ちょっと確認してみるか」

「うん。お願い」 


 全身各所に塗料を塗りたてだが、なるべく踏まないように俺は舞踏号の背に上がり、コクピットに滑り込んだ。すぐにハッチが閉じ、一度意識がぶつんと途切れる。



 足は大丈夫? みんな、悪気がある訳じゃないんだ



 いつもの幻聴の後。スッと意識が戻る。

 (舞踏号)は人差し指と中指、薬指と小指でまとめられた、保護部材だらけの右手を目の前に上げると、軽く握ったり開いたりしてみた。痛み(エラー)などは無い。至って正常な情報が頭を駆け巡る。


『本当だ。全然問題ない』

「なら良かった! 保護を解いとくから、ちょっと右手貸して!」


 (舞踏号)が驚いた言葉に、シルベーヌはどこか安心した様子で微笑んで返した。

 そして言われた通りに両膝を付いて座ったまま、身体を少しだけ傾けて、右手の甲を地面に着ける。すぐにシルベーヌとテトラ達3機が右手に集まり、ガチガチにしていた保護や固定を解き始めた。

 右手のセンサに、1人と3機の手触りを感じてくすぐったい。


『しかし自然治癒か。そう言う事ってあり得るのか?』

「うーん……」


 シルベーヌが手を止めないまま、少しだけ唸って言う。


「少なくとも、騎士団の人型機械ネフィリムじゃあり得ないって言い切れるわよ。舞踏号の自己回復力が妙に高いのは最初の頃に気付いてたけど、あくまで個体の誤差とか、部品の精度の問題みたいなものだと思ってた。でも、ここまでになると明確な疑問になるわ。普通とは違うって意味での”異常”よ。……よし、作業おしまい! はい動作チェック!」

『やっぱそうなるか……俺の事もだけど、舞踏号の事も。正直分かんない事だらけだよな』


 (舞踏号)は右手からシルベーヌやテトラ達が離れたのを確認してから姿勢を戻し。右手を開いたり閉じたり、ピースサインを作ったりと、指の動きを確認し始める。


『赤錆色の人型機械ネフィリムと戦った時、舞踏号が変だったのは話したよな』

「うん。戦った後、病院で聞いたわね」

『あの時舞踏号は、相手を”敵軍機”だって叫んだ。絶対に殺すっていう意思も持って、相手に飛びかかろうともした。何なんだろうな』


 右手の感覚は良好だ。動作に問題は無い。

 (舞踏号)が手を下ろして深呼吸すると、全身のダクトから息が漏れ。シルベーヌのぼさぼさの金髪を揺らした。


「大昔の戦争の名残なんでしょうね。色んな記録とか知識も吹っ飛んじゃって、人間の記憶からも消えちゃってる事も、人型機械ネフィリム達は覚えてるのかもしれないわ。前コクピットの記録を覗いた時は何にも分かんなかったけど、今なら分かるかも」

『地下道の事も大事だけど、暇を見つけたらそれを覗いてみるか』

「良いかもしれないわね。見える部分は少ないけど妙に容量があったから、何かあるのは確かだし」


 そこまで言うと、シルベーヌはちょっとだけ難しい顔をした。何だか申し訳無さそうというか、乗り気では無いのが感じられる。


『どうした? 結構大変なのか、その作業って』

「それもあるけど、手間を惜しむ気は無いし良いのよ。ただ、蓄積された記録を覗くのってさ。頭の中身を無理矢理覗いてるみたいな気がして、ちょっと好きじゃないのよね」


 凄く申し訳なさそうにシルベーヌは言い、(舞踏号)を見上げた。

 機械に親しい彼女だからこその感覚だろうか。でも、今言ったように。0と1で構成された機械の記録メモリを舞踏号の記憶と考えるなら、その感覚は正しい気もする。


「まあ、言っちゃえば気にしすぎなんでしょうけどね。気分の問題よ」

『気持ちは分からんでも無いけどなあ』

「そう? 共感してくれる人が少ないから、ちょっと嬉しいかも」

『今はほら、俺が舞踏号だろ? 頭と体の記憶、っていうか。こうやってパイロットやってる時の記憶とか気持ちが、舞踏号の記録メモリに残ってるとしたらさ。あの時こんな事考えてたのか。なんて、赤裸々になりそうだし』


 (舞踏号)が装甲を盛られたいかり肩をすくめ、全身のダクトから不安げに息を吐くと、シルベーヌが明るく笑った。


「確かに、それはすっごく切実ね! まあそれらは今度! さあ、寝るまで図書室で調べ物の続きするわよ! ミルファも声を掛けて回ってて、エリーゼさんとか御屋敷の人にも手伝ってもらうの!」

『了解っ!』


 明るく返し、ハッチを開く操作をした。再び一瞬だけ意識が途切れる。



 頑張ってね



 再び意識が戻ったが。俺は何だか違和感がして、ハッチの開いたコクピットに少しだけ留まった。

 別に体がおかしいとかでは無い。ただ、何かが心に引っかかっただけだ。


「どうしたの? なんかあった?」

「ああいや。今行くよ」


 シルベーヌの声に急かされ、俺はコクピットから飛び降りた。

 そしてシルベーヌと2人で図書室に向かう最中、ふと違和感の正体に気付く。


(そうか。舞踏号から降りる時に幻聴が聞こえたのは初めてなのか?)

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