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第94話 森の奥底 灰色の手

「お前は誰だ!? 何で! 何でお前はみんなと違う!?」


 崩れかかったゼリーのような灰色のスライムが人の形を取り、悲痛な声で叫んだ。

 その濁った男の声は憂慮と嫉妬に溢れており。床に這いつくばった歪な双眸が、俺を真っすぐ睨みつけて返答を待つ。

 だがスライムを超えた先には、大量のゴブリンが川から這い上がって来ていた。10や20では無く、100や200は居るだろう。まともにやり合うのは、どう頑張っても弾薬が足りない。

 そして反対側。出口に向かう道の先も同様で、続々とゴブリンが川から這い上がって来ていた。


「出口まで強行突破します! 遅れないで下さい!」

「了解っ!」

「逃げるのか!! お前は……お前だけみんなから逃げるのか――!!」


 背を向け走り出した俺とミルファに、崩れかかった”人”が叫ぶ。

 だがその声は、走り出す直前にゴブリンへ向けて撃たれたショットガンの音でかき消された。



 目指すべき出口は、このコンクリの地下川の岸辺を遡り、老朽化していそうな桁橋を渡ってまた少し進んだ場所。鉄扉を超えた場所の先にあるはずの出口だ。

 本当に出口があるのか? なんていう疑問は一切無い。タムとティムが耳を澄ませてくれたのだ。あの双子が言うなら、絶対にあると信じれる。


「もしも言葉が分かるなら! 今すぐ道を開けなさい!」


 ミルファが走りつつ叫ぶが、それで道を空けるようなゴブリンはいない。

 それを察したミルファは、追加腕サブアームによって4本腕の魔人と化し。彼女の持つ3丁のライフルが同時に火を吹いた。

 3つの銃口から撃ち出される5.56mmの銃弾が、まさしく幕のようにゴブリンの群れに叩きつけられ。道を塞ごうとしたゴブリンの群れをなぎ倒していく。


 俺もミルファの背を追って走りつつ、川から上がって来るゴブリンをショットガンで撃ち飛ばす。

 銃口から発射された散弾が、広い範囲でゴブリンの皮膚を引き裂いて肉に食い込み。鉛玉の暴風に晒されたゴブリン達は、まるで殴り飛ばされたかのようだ。


 そうやって川辺を走り。銃を撃ってゴブリンの死体を踏み越えて行くと、間もなく対岸へ渡る桁橋に辿り着く。


「ブラン! 先に橋へ!」

「分かった!」


 ミルファが急停止して振り向く。彼女本来の腕が握ったライフルが、周りのゴブリンを的確に撃ち抜いていく中。背の追加腕サブアームが握ったライフルは、器用に補助機能を使ってリロードされる。

 俺はそんなミルファの横を駆け抜け、桁橋を駆け出した。

 錆の浮いた鉄の桁橋は、橋というよりは、簡素な手すりの付いたキャットウォークという作りで。横幅が3m程。対岸までは100m無いくらい。

 足の裏に若干のたわみを感じながらも、橋の真ん中まで来た――瞬間だった。


 川の中から、大柄な大人程の影が飛び上がり。俺の前に着地する。

 まるで皿のような、顔の真横にあるギョロギョロとした赤い目。ぬめりのある鱗を全身に揃え、背や腕には鋭利なヒレを生やし。指先には鋭い爪と水かきを持つ、魚人型の魔物。


「サハギン!? やはりこの川は海まで!」


 背後から聞こえる銃声に、ミルファの叫びが混じった。

 正面に立ったサハギンの体躯は、2m強はあるだろう。ギョロリとした目が俺を睨み、ぬめる身体に浮いた強靭な筋肉は、見る者を竦ませる威圧感があった。更に、鼻につく生臭さが眉を歪ませる。

 だが、今更ガタイの良さや匂いでビビる俺じゃない!


「当たると痛ぇぞ!!」


 猛然と突進したまま。咆哮と共にショットガンの引き金を引いた。

 鉛玉の暴風がサハギンのぬめった身体を食い千切り、ほぼ全ての散弾が直撃した魚人の巨体がよろめくけれど、絶命には至っていない。

 怯んだ隙を逃さず。俺は突進の勢いそのままに、サハギンを足の裏で蹴り飛ばす。魚人は真後ろに倒れ込んだ。

 前蹴りの勢いを殺して急停止。左手で素早く腰のトマホークを抜き放ち、倒れたサハギンの頭にその刃を叩きつける。

 がちゅっ。という鈍く粘り気のある音が響いて魚人の頭が叩き割られ、返り血が頬に飛んだ。


 次いで殺気と気配。左右から同時。


 身体が感じる感覚のまま、右に向けてショットガンを1発。飛び上がりかけたサハギンの頭が弾け飛ぶ。

 そのまま発砲の反動も利用してぐるりと振り向き、左手のトマホークを鋭く振り抜いた。斧の刃が橋の上に着地したばかりのサハギンの胸を引き裂き、魚人の喉が泡立った悲鳴を鳴らす。

 続けてショットガンを構えて引き金を引き――弾切れだ! 俺は馬鹿だ! 装弾数と発砲数が頭から抜け落ちていた!


 考えるよりも早く、右手はショットガンを手放して背の長剣に伸びていた。左手のトマホークは切り返しつつ、身体を竜巻のように捩じり、肩から長剣を抜き放つと同時に袈裟切りを叩き込む。

 戦闘服バトルドレスの筋力サポートが本来の筋力を増幅させ。特殊炭素鋼の刃が、魚人を斜めにぶつりと叩き割った。

 2つに捌かれて揺れる魚人を橋から蹴り落とし、トマホークと長剣を納めながら俺は叫ぶ。


「ミルファ! こっちに!」

「はい!」


 凛とした返事が響き、ミルファも橋を駆け出した。

 大きな歩幅でこちらに来ながらも、彼女の背の追加腕サブアームは真後ろに向けられ、追い立ててくるゴブリン達を撃ち抜き続けている。

 今度は俺が正面を突破する番だ。橋を駆けながらもショットガンをリロードし、すぐに渡り切った。


「後ろはお任せください!」


 背中越しにミルファの声が響き、甲高くも鈍い金属音が響いた。ミルファがマチェットと蹴りによって、老朽化していた桁橋を落としたのだ。

 ちらりと振り向くと、橋の基部にマチェットで損傷を与えてから、橋を踏み抜くように蹴り飛ばしたようだった。片方の支点を失った桁橋は、金切り声にも似た悲鳴を上げてぐにゃりと曲がり。橋を渡ろうとしていたゴブリン達が川に落ちて流される。


 丁度ショットガンのリロードも完了だ。目指すべき鉄扉までは500m程。だが道幅いっぱいに押し合いへし合い、ゴブリンの群れが俺達を通さないように構えている。

 ミルファと顔を見合わせ、鋭く深呼吸を一度。


「どけええええええ!!」

 

 裂帛の気合を込めた咆哮を上げ、俺とミルファはゴブリンの群れに突撃した。

 それに呼応するように1丁の散弾銃が唸り、3丁の突撃銃が叫び続け。撃ち出される銃弾は、押し通る意思そのものと化して魔物の群れを引き裂いていく。

 血風と共に魔物の波を駆け抜けると、やっと鉄扉の前まで到着した。今度は俺が鉄扉を蹴り破ったが、その先は四角いコンクリ製の縦穴だ。錆のある階段が設けられており、ぐるりと縦穴の壁に沿いながら上に向かっていた。


「ブラン! グレネード! 3カウント! 3!」


 背後のミルファが叫んだのに応じて、ポーチからグレネードを取り出してピンに手を掛ける。


「2!」


 ゴブリンの群れを強行突破して、まさしく血路と化した道を振り返った。新たに湧くゴブリンは絶え間なく、更にゴブリンの群れを押しのけて、サハギンも何体か這い上がって来ている。

 俺とミルファは互いを一瞬だけ見ると、大きく頷いてグレネードのピンを抜いた。


「1!!」


 2人同時に叫び、思い切りグレネードを投擲する。

 次いですぐさま蹴り破った扉をくぐって階段を登り始めると、背後で爆発音と共に熱い風が吹いた。生き物の焼ける香りが、一瞬だけ薫る。

 振り返りもせず、階段を三段飛ばしで駆け上がり続けるが、2分経ってもまだ上がある。階段はギシギシ言うし、ひたすら腿を上げる動作ばかりで疲労が凄まじい。まるで生死のかかった腿上げ走だ。


「ぬあああぁぁ! 腿の筋肉千切れそう!」

「千切れても拾って差し上げますよ!」


 2人で階段を上がり続け、もうあと少しで上に出れる所までやってきた。階段が終わった先に見えるのは、これもまた重厚そうな両開きの鉄扉だ。扉は壁がへこんで少し奥まった通路の先にあるので、一息つけそうだ。

 だが、そう安堵した刹那。階段がギシリと悲鳴を上げた。金切り声を上げて階段が傾き、パキパキと音を立てて壁から剥がれそうになる。


「待て待て待て待て!?」

「ブラン! 下からゴブリン達が!」


 傾き続ける階段と、ミルファの声に釣られて下を見る。下からは大量のゴブリン達が階段を駆け登って来ており、まるで緑の波が下から迫ってきているような光景があった。

 それを見て、ゴブリン達の重量に錆びた階段が耐えられず、こうして階段が壁から剥がれそうなのだと妙に冷静に納得した。もし足を止めるか落下でもしたら、確実にあの緑の波に嬲り殺されるだろう。


 そして未だ階段は傾き続け、階段の段差に加えて、斜面を駆け登っているようだ。それでも身体を斜めにし、必死に階段を駆け上がり続け、鉄扉のある奥まった通路まではあと5m程。

 ほんの少しだけホッとした――瞬間。階段の基部がペキンと折れて、ゆっくりと階段が通路から離れていく。

 壁から自由になった階段は揺れ、足元がふら付いてこけそうになるが、揺れ傾く階段を駆け上がるというよりも這い上がった。


「飛びますよ!」

「おう!」


 ミルファの声に合わせて2人で飛んだ瞬間。階段は高い音を立てて自壊した。

 一瞬だけ重力から自由になり、歪な放物線を描いて身体が飛行する中。視界がゆっくりになる。

 スローになった視界と加速する思考が、自分達の高度では綺麗に通路に着地するには足りないと自覚させ、俺とミルファは必死に手と上半身を伸ばした。


「ぐおっ!?」

「ううっ!?」


 ミルファと並んで、階段が外れて崖のようになった通路の端に、何とかギリギリで腕と上半身を引っ掛けた。胸にある装甲や腰のポーチががちりと鳴り、今にも落ちそうだが、2人共爪を立てて足をばたつかせ、必死に2人で通路に這い上がる。


「せ、せーふ! ナイスジャンプ……!」

「流石に、今のは肝が冷えますね……!」


 這い上がりはしたものの、未だに縦穴の底に向けて足が引っ張られているような感覚がする中。2人で荒い息をしながら床に座り込んで笑いあった。

 俺は膝を着いて、縦穴の底を覗き込む。

 登り切った縦穴はかなりの高さがあり、仮に飛び降りれば絶対に助からないだろうし、垂直なので上がっても来れない。だが、未だ底にはゴブリン達の群れが蠢いており、無数の赤い目が悔しそうにこちらを見上げていて寒気がした。


「ひとまずは安全。でしょうか」

「かもしれない。でもリロード済ませたら、早くこの鉄扉を抜けよう」


 ミルファと簡単に確認し合うと、2人とも銃器に弾を込め直し。息を整えて立ち上がる。

 両開きの鉄扉もまた鍵がかかっていたが、今まで同様ミルファが扉を蹴り破らず、俺がショットガンで鍵を撃ち抜いて開いた。



 鉄扉の先は真っ暗で、随分古びて汚い通路だ。

 鉄筋コンクリートなのは今までと変わらないのだろうが、隅には埃や土が溜まり、空気もかび臭くて篭っているし湿っぽい。足元を足の多い虫が駆け抜けていき、何処からか染み出した汚水が、小さな水たまりを何か所にも作っている。


「打って変わって……というか、地下らしい地下だな」

「はい。随分古いですね。双子の書いてくれた地図によると、この辺りに出口があるようですが……」


 2人で真っ暗な地下道を歩いて行く。

 どこかから水の滴る音が聞こえたり、ネズミの鳴き声のような物が聞こえる中。警戒しつつも通路を進み。角を曲がり。低めの階段を登ったり、金網の扉を抜けて行く。

 そこでふと。俺の耳は微かな異音を捉えた。首が自然と音のした方を向き、音は頭上から聞こえるのだ。


「これは……車の音か?」


 もう少しだけ歩みを進めると。その音はどんどんハッキリしてくるし、雑多な音がたくさん聞こえだす。間違いなく、人々の生活の音だ。

 そして現れたのは、大きく錆びた水密扉だ。重厚で荘厳な、きっちりと通路を途切れさせる重々しい扉である。錆で中々動かなかったのでミルファが力を籠め、苦心して扉を開く。が、水密扉を超えた先にあったのは、通路を完全に塞ぐ小汚い壁だ。


「こちらは行き止まりでしたか」


 ミルファが若干しょんぼりするが、俺は壁に近寄って手を触れた。

 多分、素材はコンクリート。随分古い代物のようで、あちこちにヒビや染みがある。更に耳を近づけてみると、向こうから何か低い音も聞こえる。


「なあミルファ。この壁。壊せそうじゃないか?」

「壁をですか?」

「わざわざ水密扉の向こうに、こんな壁を作る意味が分からない。それに水密扉の錆具合とか、今まで通って来た道からして、随分長い間人の手が入ってないはず。多分。このコンクリの壁で封鎖されたんだ」

「分からなくも無いですね。しかし、その壁が分厚い可能性もあります」

「いいや、多分薄いと思う。何て言うか、水密扉を隠すための壁で、鉄筋も入ってない感じがするんだ。隅の固め方が、何か乱暴なんだよ」


 俺が言うと、ミルファが意外そうな顔をして小汚い壁に近づいた。

 彼女は自分でも壁を調べつつ、手で軽く叩いてみたりした後。俺に下がるよう言うと、思い切り足を上げて足の裏で壁を蹴った。小汚い壁は埃を散らし、鈍い音と共に周りに衝撃が伝わっていく。


「いけるかもしれません。ブラン。グレネードを使いましょう」

「よし来た」


 2人でポーチからグレネードを取り出し。水密扉の影に隠れながらピンを抜いて、壁の方へと転がした。

 起爆の時間きっかりで爆発が起き。埃と土煙で若干咳込むが、2人で成果を確認すると、コンクリの壁はいくらかヒビなどが増えている。

 再びミルファが壁を何度か蹴ると、微かな抵抗があったものの、壁は脆くも崩れ去った。

 崩れた壁の先にあったのは、小さく明かりの灯る共同溝だ。大小様々な配管と共に、空間全体が比較的新しいコンクリートで形成されている。


「これは……今現在稼働している区画ですよ」

「ってことは」

「はい。ここは街の真下。ホワイトポートの地下です」


 一応水密扉を閉め直し。2人で壊した壁を超えて少し歩くと、汚れた案内板がすぐに見つかり、地上に繋がる梯子も見つかった。梯子の先にはマンホール。今現在も使われているためか、どことなく人の香りがして安心してしまう。

 ミルファの勧めで先に俺が梯子を上り、マンホールの蓋を開く。

 太陽の光が目に沁みると共に、潮風と新鮮な空気が身体に染み込んだ。


「ぬおおっ……」


 地上に出ると、ホワイトポートの中でも、港と都市の間の区画。その裏のようだった。白い石畳で舗装された裏路地の真ん中だが、幸い車も来ていない。

 安全なのを確認したので、下に居たミルファを地上に誘い。彼女も外に出てからマンホールの蓋を閉めると、ようやく一息――だが。


「キャアアアア!?」


 悲鳴が聞こえて、俺とミルファは思わず銃を構えた。

 そこに居たのは買い物帰りらしいお姉さん。ごくごく普通のお姉さんで、買い物袋を取り落とし、怯えた眼で俺とミルファを見ている。


「ああそっか! この格好絶対ヤバイ奴だよ!?」


 俺は自分の姿を確認して慌てた。

 なんせ土埃と生体兵器モンスターの血にまみれ、血染めのトマホークを腰に下げて、背に長剣を背負いショットガンを握った男と。同じく返り血と土を幾らか浴びている、ライフルを3丁も握った4本腕の魔人が、マンホールから這い出して来たのだ。

 しかもホワイトポートは、銃器の購入などは目立たないように行われ、購入した銃器の運搬もケースを使うようにと指示が出されている街。銃器と刃物を剥き出しの俺達は、どう考えても一般市民からすれば危険人物に違いない。

 お姉さんは俺とミルファを見ると、一目散に逃げだしつつ叫ぶ。


「き、騎士団! 騎士さん! 誰か来て!」

「ちょ!? ま、待ってください! 俺達は怪しい者じゃなくて!」

「誰か! 誰か! 騎士団呼んで!」


 買い物袋を取り落とし、お姉さんは叫びながら人通りの多い方へと走って行く。

 ミルファもこれはマズいという顔をして、追加腕サブアームに握られているライフルの銃口を真下に向けて不安げに言う。


「ブラン。逃げますよ。牢屋のご飯は美味しく無いと聞きます」

「心配するのそこ!? まあ逃げるしかないけどさ!」


 俺もショットガンを肩に掛け、とりあえずお姉さんの逃げた先とは真反対へ駆けだした。

 狭い路地裏を駆ける中。ミルファが耳元に手を当てて言う。


「シルベーヌ! 聞こえますか!」

「聞こえてるわよ! 位置も把握してるから、2人ともそのまま真っすぐ進んで! 迎えに行くから!」


 通信機に聞こえる明るい声。発信機などを身に着けているので、シルベーヌはこちらの位置を把握している。声を信じて走り続けると、俺とミルファは広めの道路に飛び出した。

 人通りが全然無い、ちょっと寂れた道路である。唯一居るのは、作業着姿で工具箱を握ったおじさんだ。人の良さそうな方だが、俺とミルファを見てギョッとしたのが手に取るように分かる。


「こ、こんにちはー……」


 俺がなるべくにこやかに笑って手を振ると、おじさんも気が動転しているのか手を振り返してくれた。

 そしておじさんは、おずおずとした様子で俺とミルファに言う。


「き、君達一体……?」

「あの、決して危険な奴ばらでは無いですから! ちょっと地下で生体兵器モンスターとやりあっただけで――」


 俺が必死になって弁明している最中。大き目のワゴン車が甲高いブレーキ音を立てながら現れ、俺達の前に急停止すると同時に、車のバックドアが開け放たれた。

 ドアの中から現れたのは見慣れたぼさぼさの金髪と、兎耳を揺らす笑顔達だ。


「兄ちゃん! 姉ちゃん!」

「2人共おかえり! さあ乗って! さっき騎士団員が走って来るの見たから逃げるわよ! 悪い事はしてないけど、捕まったら絶対めんどくさい事になるから!」


 シルベーヌが明るく笑い、大きく手招きをした。ミルファがワゴン車に飛び込み、俺もすぐさま続く。

 バックドアが閉まるよりも早くワゴン車が急発進し、車内に居る全員がよろめいた。車の中を見渡すと、タムとティムの2人に続いて、シェイプス先生と余所者アウトランダーが1人乗り込んでおり。運転席にいたのは、なんとメイド服を着たシャルロッテさんである。

 車内の皆の顔にホッとするが、俺の耳は甲高い音が近づいて来るのを捉えた。


「これサイレン鳴ってない!?」

「ご安心ください! ホワイトポート生まれの私には、街中は庭でございます! 裏道抜け道なんでもござれ! 鬼ごっこでは負けません!」


 シャルロッテさんはそう言うと勢いよくハンドルを切り、ワゴン車がドリフトをした。慣性の法則が狂喜して車内の全員が振り回され、呻き声と歓声が上がる。


「ぬおおお加速度が! というかシャルロッテさんそんなキャラでしたっけ!?」

「道路規則だらけのホワイトポートを走るのは、地元の者が一番でございます! 表通りは信号だらけですが、この辺りは自由自在! さあ騎士団のお車をまいてからお屋敷に帰りますよ! 多少揺れますのでお覚悟を!」


 高揚した声で言うや否や再びハンドルが切られ、車内の全員がつんのめる。

 シェイプス先生が若干狼狽しているが、シルベーヌは大笑いし、ミルファもくすくすと笑う。身体の小さいタムとティムに至っては、狭い車内で転げ回っているような有様だ。けれど満面の笑みで双子は叫ぶ。


「良いぞメイドの姉ちゃん! いけいけ飛ばせ!」

「僕、こんな事したの初めて! いけいけ!」


 生体兵器モンスターの追撃を振り切って地下を抜け出し、その最後に騎士団に追われる。

 滅茶苦茶も良い所だが、不思議な程の高揚感に、俺も何だか笑ってしまったのだった。

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