第92話 森の奥底
翌日の朝。
雨が上がり、爽やかな朝日が差す素敵な空模様である。
俺は自分に貸されている部屋の中、1人で目を醒まし。寝ぐせもそのままにシルベーヌの部屋に向かう。ノックを数度。中から明るい声が返って来たので、俺は静かに扉を開いて部屋に入った。
「おはよう」
「おっはよう!」
「おはようございます」
いつもの3人の挨拶が響き、次に3人の視線がベッドの上に注がれる。そこには大の字になって寝るタムと、横向きに丸まって眠るティムの姿があった。
手足も長い兎耳も、びたんと伸ばして仰向けになり、小さくいびきをかくタム。兎耳も倒して丸まって、自分の手を枕にし、小さく寝息を立てるティム。双子の幸せそうな寝顔に、思わず笑みがこぼれる。
「いっぱい話したいって言ってたのに。ベッドに入ったら電池が切れたみたいに眠っちゃうんだから」
「まあ仕方ないよな。雨の中ここまで来てくれたんだ」
「はい。起こすのは後にしてあげましょう。朝食の時間になれば、匂いで飛び起きるかもしれませんし」
微笑むシルベーヌに続いて俺も言い、最後にミルファが言ってくすくすと笑う。
その後。部屋に5人分の朝食が運ばれて来た途端に双子は飛び起き。ミルファの予想通りで笑ってしまったのだった。
そしてきちんと身支度を整えた後。俺達は真面目な顔で屋敷の中を歩き、書斎へと赴いた。
「おはよう諸君。よく眠れたかね」
ガナッシュさんの書斎に呼ばれたのは、俺達探索者3人とシェイプス先生。それと神子様の2人。心地良い香りの紅茶がシャルロッテさんの手で全員に配膳された後。一通りの挨拶をしてから、さっそく本題に入る。
「生体兵器の作ったトンネルですか」
シェイプス先生が、全員に渡された資料を確認して顔を上げた。
「探索者の少年少女達が、何の情報も無い地下を地上から調べるには、貴殿らの力を借りた方が良いと言ってな。不思議な口笛で貴殿らを呼び、邂逅したのが昨晩と言う訳だ」
「なるほど。御三方が我らを頼って下さったのは、嬉しく思います。精いっぱい事に当たらせて頂きましょう」
シェイプス先生は微笑み。俺達に向かって軽く会釈をする。
「でだ。何か分かるか。シェイプス殿」
「まず此方の資料から察せるのは、このトンネルがゴブリンの手によるものでは無いという事です。穴を掘ったのはワームあたりでしょう」
「ほう?」
ガナッシュさんが意外そうにして、口ひげを触った。
同時に。タムとティムがシェイプス先生の腕をつつき。その大きな膝に乗って資料を眺めて、タムが納得した様子で頷く。
「ゴブリンが作るトンネルは、もうちょっと乱暴なんだ。ぎゅうぎゅうに後ろから押されながら掘り進むから、トンネルの中にゴブリンの死体が転がってるもんなんだよ。この紙には、そういう事が書いてない」
「それと。この大きいお家に来るまでに森の中を見ましたけど、森は深いし木の根がたくさんで、トンネルを掘るのが大変そうに思えました。移動するだけなら、楽な方に行くのがゴブリンなんです」
屈託のないタムに続いて、ティムが丁寧にガナッシュさんに言った。そしてティムは、もう少しだけ話を続ける。
「あとですね。このお家に来るまではたくさん見張りの人が居ましたけど、騎士団の人達は全然やる気が無さそうでした。でも、途中から騎士団の人達じゃない人達が見張ってる所まで来ると、ぎゅっと見張りがきつくなって凄かったです」
「あれは凄かったな! ワタシ達の耳と夜中の雨が無いと、見つからずにここまでは来れなかったよな。先生!」
「神子様達、自慢気になさいますな。どうかご自重くださいませ。すみませんガナッシュ様。何卒ご容赦をば……」
兎耳の双子を膝から降ろし。シェイプス先生はため息を吐く。
だがガナッシュさんは2人の兎耳を興味深そうに眺め。色々な事に納得した様子で頷いた。
「構わんよシェイプス殿。確かにこれは逸材だ。屋敷周りの警備はホワイトポート周辺で最も硬いという自負があるが、それを易々と抜けられたのだからな。警備の者達も、まさか屋敷に近づかれているとは察する事も出来んかったらしい」
そう言ってガナッシュさんは微笑み、紅茶で喉を潤してから椅子に深く座り直す。
「シェイプス殿。わしは正式に、貴殿らケレンの民へトンネルの調査の協力を依頼したい。報酬などはきちんと用意する。どうだ。話に乗ってくれるか」
「何を仰います。我らは元より、探索者の御三方に呼ばれた身。ただケレンの信義と約定に従い、ご助力に参っただけです。報酬などを頂くような事ではありません。共通敵を相手に人と人とが手を取り合うのは、当然の事で御座いましょう」
「やはり貴殿は堅苦しいな。だが、そちらの意向は良く分かった。それでも何か必要な物や、わしに出来る事があれば遠慮なく言ってくれ。なんせ少年少女達のご友人達だ。それなりの応対をせねば、ウーアシュプルング商会の名に傷が付く」
大人2人は微笑み合い。互いに一度席を立って、力強い握手を交わす。
190㎝近い背丈という逞しい体格の2人なので、それだけでもかなりの迫力があった。
「善は急げとも言うし、貴殿らと少年少女達で、トンネルの調査を進めてくれ。わしは上がって来た情報を整理しておきたいからな」
そう言う訳で。存外早く話し合いは終わった。他にも話すべき事は沢山あったけれど、とりあえず最低限の確認をしただけである。
書斎から出た俺達とシェイプス先生。タムとティムは、そのままトレーラーの方に向かい。探索の準備を始めた。
適度に装甲を着けた戦闘服を着込み。腰にはいつもの拳銃やナイフ等、探索道具のセット。
いつもと違うのは、12ゲージのショットガンを握り、腰にトマホークを下げて、背に長剣を斜めに背負った事だ。鞘を改造してあるので、背の長剣は簡単に抜くことが出来る。
最後に。額の包帯の上から赤い鉢巻きを巻いた。
「ブラン兄さん。気合入って見えるね」
ティムが鉢巻きを見て、そう言ってくれた。
ミルファは右腕に赤い鉢巻きを巻き。戦闘服に追加腕を付け、マチェットや拳銃、色々な探索道具を腰に付けている。
そして2本の追加腕にはライフルがそれぞれ握られ、ミルファ本来の腕にもライフルが1丁握られていた。
「ミル姉ちゃんすげえな」
タムが感心した様子で言い。それに応えるように、ミルファはたおやかに微笑んで追加腕を動かした。
実際。4本腕の魔人がライフルを3丁持つ姿は、かなりの頼り甲斐を感じさせる。
そして一応。舞踏号もトレーラーに乗せて移動させる事になり、30mm機関砲と手斧をトレーラーに乗せた。トレーラーには人が使うシャベルやスコップなども乗せ、準備は万端。
随分久しぶりな気がする、探索者らしい出で立ちだ。不思議と高揚感があり、未知への冒険心が刺激される。
「それじゃあ行きましょうか! まずはトンネルの実地調査よ! 車に乗って現地の近くまで行って、森の中は徒歩になるわ。タムとティムには働いてもらうわよ!」
作業着の下に薄手の戦闘服を着て、ミルファと同じく右の二の腕に赤い鉢巻きを巻いたシルベーヌが明るく言うと。双子は嬉しそうに頷いた。
ケレンの民の神子様達を地下調査に駆り出すのは、今更ながら後ろめたさがあったけれど。タムとティムは自分達が活躍できる場を得て嬉しいと言ってくれ。シェイプス先生も「経験は神子様達の自立の為にもなります」と、力強く頷いてくれたものだ。
そしてウーアシュプルング家の軽トラを何台か借り。探索者3人と巨人が乗るトレーラーと、余所者達が何人か乗る軽トラが、森の中へと向かう遊歩道を走って行く。
程なくして。遊歩道の折り返し地点。白い花の生える丘の裾野に着いたのだが――
「うおっ」
トレーラーが停まると同時に。ミルファと荷台に居た俺は、思わず声を上げた。
自分が倒したサイクロプス達や、ミルファの倒したゴブリン達の死体が一か所に積まれ、焼かれた跡が残っていたのだ。
黒く炭化し、前日の風雨などで半ば崩れてはいるものの。僅かに形を残す黒焦げの生体兵器の死体の山。異形でこそあるものの、生物の死体を見てあまりいい気分はしない。
「野外の場合は、せめて土被せとくのが流儀といえば流儀なんだけどね」
トレーラーの運転席から降りていたシルベーヌが、焦げた死体の山を見て複雑な顔をした。
ミルファも難しい顔をし、僅かに逡巡があってから口を開く。
「本来は、これらを撃退した私達がしたはずの後始末ですから。文句を言う筋合いはありませんが……」
「まあね。もうちょっと何とかして欲しいなんていうのは、言える立場じゃないけど……」
シルベーヌも苦々し気に言い、ため息を吐いた。
俺は深呼吸を一度。微かに残る灰の香りが、なんとも言えない気持ちにさせる。
「舞踏号を動かすよ。一応埋め直しておこう」
そう言って、俺は手斧で穴を掘り。焦げた死体の山を埋め直した。白い丘の裾野に、僅かに膨らんだ土色の山が出来。まさしく墓のようになる。
(自分達が倒したモンスターを弔うってのも、何だか変な気はするけれど)
俺はそう思いながらも、一度両膝を付き。手を合わせておいた。祈るだけならば、誰の邪魔にもなりはしないはずだ。
ふと気付けば、俺の横や後ろでも、シルベーヌやミルファ、余所者達が各々のやり方で手を合わせていた。
別に魂が云々だの、天国や地獄が云々。宗教観が云々という訳では無い。ただ何となく、皆が心に哀愁を感じているだけなのだろう。
『よし! それじゃあトンネルの方に行きましょうか!』
俺が立ち上がり、腰に手を当てて皆に明るく言うと。足元からは沢山の明るく元気な返事が返された。
白い花の咲く丘をぐるりと回り。丘と森の切れ目に皆が移動する。そこで一旦顔を突き合わせて作戦会議だ。地面に車座になり。シルベーヌが中央に地図などの資料を広げて言う。
「トンネルがあるのは、ここから歩きで15分くらいの場所ね。森の中だし、木が一杯でどこがその場所なのかが分かりにくそうだけど……」
「ご安心ください。風雨があったとはいえ、森の中へ続く足跡は多く、濃く残っております。我らならば、それを辿るのは容易い事」
シェイプス先生が言い、タムとティムも力強く頷いた。
俺は周りを見回すが、足跡なんて全く見えない。そもそも自分が今立っている場所が、丘の中でもサイクロプスと殴り合ったり、白い子供――エミージャと会話した場所かどうかも怪しいのだ。
「ちょっとしたコツがあるんだよ。草とか木は人間とおんなじで、色んなことを教えてくれるんだ」
ティムが微笑み。俺の隣に四つん這いで動いて来る。その柔らかな顔からは、眩しいほどの純朴な好意が感じられて少し恥ずかしいくらいだ。
「ぐって踏まれた草には、自然じゃない痕が長い時間残るし。根深い木に手を添えると、ちょっとだけ表面に指の痕が残るんだ。落ち葉や苔は特に良く分かるよ。ブーツの痕とか、とっても濃いんだ」
嬉しそうに俺に解説し、ティムは地面の草地に自分の膝が作った痕を指さした。
確かに草の向きや流れが周りと違う。だが、それは体重が掛かった直後だからで、ものの10数分もすれば素人目には分からなくなるだろう。
ケレンの民の皆さんというのは、優秀な野外探査力を持っているのだ。
「それじゃあ皆さん、トンネルの場所までお願いします。探索者側は一番前にミルファ。次にブランと私」
「シルベーヌも来るのか?」
「もちろん! 調査機材とか持って、トンネルの入り口までだけどね。ミルファもブランも、頼りにしてるわよ?」
シルベーヌはそう言うと、にっこりと笑った。
そして俺達は、数人を車両の警備に残し。残りの皆でシャベルを背負い。森の奥へと歩を進める。
昨晩の風雨で、森の中はとても潤っていた。瑞々しい水気を含んだ空気は凄く冷たいけれど、不思議と自然の暖かみを感じる。
樹海と言うには少し浅い、けれども数百メートル先が見えなくなる程には深い森。足元を見れば太い木の根や苔が多く。枯れ葉や枯れ枝が積もって足元をふわふわさせ、時折足の裏でそれらが折れる音が軽やかに聞こえる。
上を見上げれば、太い木々が枝葉を広げて緑の天井を形作っており。まるで木の巨人が腕を広げ、天井を支えているようだ。
視線を正面に戻すと、いたる所で木漏れ日が差し込んでおり。森はほんのり明るい。そして木漏れ日の当たる所では、光に向かって競い合うように蔦やツルが伸びている。
背の高い草は生えていないので、歩きやすいと言えば歩きやすく。けれど足元は木の根でデコボコで、気を付けないと足首を捻りそうだ。
思えば、こうやって自然豊かな森林の中に入ったのは初めてかもしれない。
「分け入っても分け入っても……何だったかな」
「なにそれ」
森の中を歩きながら。俺の呟きを聞き、隣を歩くティムが兎耳をぴくりと動かして笑った。
ティムは笑っているものの、目と耳は周りをしっかりと見回しており、決して油断している訳では無い。
俺の前。先頭を行くミルファの隣では、タムがミルファと楽しそうにしつつも、足跡を辿るのに手を抜いてはいない。
そして俺の後ろでは、機材を背負ったシルベーヌが、シェイプス先生や余所者の皆さんと話していた。
真面目な仕事なのだけれど、何となく穏やかで楽しい。遠足にも似た雰囲気だ。
そんな中。隣を歩くティムが、ちらりと俺を見上げて聞いて来る。
「ブラン兄さんは、こういう所好き?」
「まあな。自然の中とか、特に苔には侘び寂びを感じるし」
「ワビサビ? またマユツバみたいな変な事言ってる」
「笑うなよ。良い意味の感覚なんだぞコレ」
ティムがくすくすと笑い、ぴょんと木の根を飛び越えた。
そこでふと。俺の鼻先に、木から滴がぽつりと落ちて来た。冷たい滴には木々の呼吸と生気が籠っていて、何だか爽やかな香りがする。良い場所なのだ。本当に。
「あ、待って」
ティムが言うと同時に足を止め。前に居たタムの兎耳がぴくりと動き、同様に足を止めた。
ミルファの追加腕がライフルを構えたまま周りに向けられ、後方に居た余所者達もライフルを構えて周りを警戒する。もちろん俺も、ショットガンを構えて周りを見た。
双子は目を閉じて兎耳をピンと立て、ゆっくりと首を動かす。
「……音がするよ。近くに穴がある」
「先生! この辺だ!」
ティムが言った後、先頭に居たタムが大きな声で言った。
すぐさまシェイプス先生が指示を出し、余所者達が素早く周りに展開して色々な痕跡を探し始める。するとあっという間に足跡などが見つかり、それを辿った先に、乱暴な盛り土が発見された。
「これですか」
ミルファが追加腕の先に握ったライフルの銃口を、盛り土に向けつつ言った。
盛り土は本当に土を掛けただけといった様子で、少し前に俺達が作った生体兵器の墓とは全然違う乱暴さである。
雨のせいで土は湿って締まっていたが、人手があるのでトンネルを掘りだすのはそう苦では無かった。
トンネルは、地面を深い角度で斜めに掘られた、大人1人がギリギリ通れるくらいの大きさだ。当然明かりなどは無く。森の中でぽっかりと口を開けたトンネルは、まるで地の底に向かっているようだ。
腰のポーチから懐中電灯を取り出してトンネルを照らすが、その光すら吸い込まれるような暗さで、思わず得体の知れない恐れを抱く。
「タム。ティム。どうですか?」
「ごめんミル姉ちゃん。まだちょっと分かんねえ。ちょっと何かで音鳴らしてくれよ。高めの音が良い」
ミルファの質問にタムが答えたので、俺は背の長剣と腰のトマホークを抜き。剣の腹とトマホークを打ち合わせた。金属同士の当たるキンとした音が響き、暗い穴の奥へと染み込んでいく。
もう数度。剣斧が凛とした音を鳴らすと、兎耳の双子がぴくりと跳ねた。タムが目を開き、確信を持って俺に言う。
「……トンネルはしばらく奥まで続いてて、そこで途切れてる。真っすぐ一本。地面の中で途切れてるんだ」
「そりゃまた……どういう事だ?」
トンネル。あるいは地下道というのは、出口と入口があるものだ。それはトンネルが移動経路だからで、途切れているという事はまずあり得ない。行き止まりがあるならただの穴倉だ
俺とミルファが中に入って調べようとしたのを、ティムが止めた。
「大丈夫だよ。これならもう、地面の上からでも分かるんだ。付いて来て」
ティムはそう言うと、トンネルを迂回して森の中を歩き出す。
シェイプス先生が余所者達何人かをその場に残し、俺達と共に兎耳の双子を追った。そしてしばらく歩いた所で、ピタリと足を止める。
「この真下。ちょっと深いかも!」
ティムとタムは同時に言った。2人には確かな実績があるので、もはや疑う理由も無い。
皆が銃からシャベルに持ち替え、一心不乱に穴を掘り始める。時折出て来る木の根は、長剣やトマホーク、マチェットで切り払い、ひたすら地面を掘り返す。
「武器買ったはずなのにっ、やっぱどうしてもっ、工具みたいな使い方にっ、なるよなっ!」
シャベルでゴリゴリと土を掘り、トマホークで木の根を断ちながら俺は言った。森の空気は冷たいけれど、穴掘りは全身を使う重労働なので、額に汗が沁みて来る。
それを聞き、こちらをちらりと見たミルファが、穴を掘る手を止めずに微笑む。
「どうしても。華麗な剣戟の打ち合いなどにはなりにくいですね。でも私は、これはこれで探索者らしくて好きですよ」
俺達探索者は穴掘りに不慣れで、力任せにザクザクと掘り進めるような感じだが。余所者の皆さんは非常に慣れた手つきである。
土を掘る人、運ぶ人など。手早く効率的な役割分担がなされていて舌を巻く程だ。聞いてみると、塹壕を掘ったりする事が多いので、基礎的な教養なのだとか。
そして3m程地面を掘り進め。俺がシャベルを穴の底に突き刺した――瞬間だった。
シャベルの先を中心に、穴の底がばらばらと崩れ落ち、俺含めて何人かいた余所者達がガクンと落下した。
驚愕で悲鳴を上げる暇もなく、全員が尻もちを着いた。俺も左の尻に激痛が走り悶絶する
「切った木の根がケツにダイレクトに……!」
「だ、大丈夫!?」
土を運んでいたシルベーヌが、穴の上から叫ぶ。
ともかく。全員が無事なのを確認した後。俺は懐中電灯を点けて周りを確認する。
間違いなく、あのトンネルの終端だ。そして尻の下には、土を被った巨大な金属の床が顔をのぞかせていた。
直径が5m以上はあるだろうが、かなりの大きさな上に周りは土なので全容は明らかでは無い。ただ、隅に小さめの丸い扉のような物があり。まるで巨大なマンホールのようだ。
土を払い。地面にある丸扉を確かめる。
腐食と経年劣化で注意書きなどは全く読めないが、人間サイズの取っ手があり、更にそれは最近開かれた痕跡が色濃く残っている。
「これ。ずっと昔の地下通路の入口だよ」
ティムが穴の上から、驚いた様子で言った。




