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第83話 〃

「ほほお。では、中庭のロボットは皆さんがご自分で修理を」

「はい! 継ぎ接ぎだらけで、少々不格好ですが……」

「いやいや。騎士団の美しいロボットも良いですが。こういった状態にも趣があるものです……っと、知り合いを見つけました。挨拶をせねばへそを曲げられる。興味深いお話、ありがとうございます」

「いえ! こちらこそ!」

「では探索者シーカーさん。また機会があれば」


 燕尾服を着た紳士は、柔らかく微笑んで俺から離れていった。俺は緊張から解放され、大きく息を吐く。


 メイズ騎士団主催の舞踏会は、参加者が続々と城に到着するにしたがって、自然と賑やかさを増していた。

 正式な開会の挨拶などはまだされていないが、軽食や飲み物が配膳され、色々なところで歓談や挨拶が交わされており。こういった事情に疎い俺からすれば、実はもう始まっているのかと思ってしまうほどだ。


 老若男女問わず。人々の格好は皆華やかな服ばかり。服装はいわゆる”洋装”が基本となっている。

 男性は先ほどの紳士のような燕尾服はもちろん。三つ揃えのスーツにタキシード、モーニングコートなどなど。少数ながら、民族衣装的なものを着た方々も居る。それも東西南北ありとあらゆる衣装があるので、全てを把握するのは困難だ。

 ただ共通するのは。男性皆がピシッとして男前に見え、俺も男ながら惚れ惚れするほどに似合っている事である。男性で惚れ惚れするのだから、女性ともなれば思わず見惚れてしまう。

 女性のドレスは美しく色鮮やかで、その形も千差万別。ワンピースやイブニングレス、アフタヌーンドレスなどなど種類が多いらしいが、ファッションに疎い俺ではよく分からない。もちろん女性も民族衣装的な物を着た人はおり、こちらも皆バッチリと似合っているのが素晴らしかった。


 これらの服装もまた、戦前戦後で微妙に違う。例えば先ほどの男性のモーニングコートや女性のアフタヌーンドレスなどは、本来は昼間の会で着用するもの。つまり夜の今、着ているのはおかしいのである。

 他にも俺達の着ている探索者シーカー協会の制服。ベイクの着ていた騎士団の礼服。そして周りに居る皆さんのスーツやドレス。それらは全て、技術や文化が連なった歴史を育んできた人から見れば、何だか滑稽だと思われる部分もあるだろう。だがそれこそ、色々なものが一度途絶えた戦後の世界なりの服の文化なのだ。

 伝統も歴史も無く、その見た目だけによって着られる服たち。それらを憐れに思い、更に着る人々を滑稽だと思う人も居るだろう。けれど、良い事もある。


 なにせ色々な事柄に囚われる事なく、好きな格好が出来るのだ。元が昼用だろうがなんだろうが関係ないし、誰も気にはしない。

 そして自分に一番似合う服を、あるいは自分の着たい服を着る事こそ、周りから”素敵だ”と想われる空気が、この場には確かに存在する。

 無論。今宵は舞踏会なので、床を引きずる程長い服が好まれはしないが。心的な垣根の低い、大雑把で大らかな空気があるのは確かだった。


(まあ。とりあえず服装を見て、それを切っ掛けに話が出来るってのは大きいよな)


 俺は背筋を伸ばし。両手を腰に当てて周りを見渡す。

 意識せずとも聞こえてくるのは、色々な挨拶や雑談の類。知り合い同士なら以前の服も良かったし、今夜の服も似合っている。なんて会話が聞こえてくるし。全く知らない者同士でも、中々洒落ていますねとか、素敵なドレスですね。という会話が発生している。

 実際。俺も先ほどの紳士に、『格好を見るに、ひょっとして軍人さんですか?』と、声を掛けられた。きちんとした礼の後、おずおずと話をしてみると、紳士は鉄鋼関係の事業を営む方なのだとか。

 ウチの開発部でロボット用の鋼板でも研究しましょうか。なんて冗談めかして微笑まれ。緊張しっぱなしの俺は、商品になったら買いまする。などとぎこちない会話を交わしたものだ。

 緊張し過ぎでどうもいけない。


 そんな華やかな人だかりの中から、蜂蜜色の髪と白金の髪がちらりと見えた。深緑の制服を着た、シルベーヌとミルファの2人である。

 2人は俺を見つけると、どこか安心した様子で艶やかな唇で微笑み。足早にこちらに近づいたシルベーヌが、大きなため息を吐いて俺に言う。


「人多くって大変。これでまだ始まっても無いんでしょ?」

「らしいな。やれやれ。この中からウメノさんを見つけるのは大変だぞ」

「ホント。ウメノじーさんちっちゃいしね」


 シルベーヌが明るく生気溢れる笑顔で微笑んだ後。ミルファも麗しい目で周りを見渡してから息を吐く。


「先ほど、ガナッシュさんとエリーゼさんも到着しました。特にガナッシュさんは『ブランはちゃんと顔を引き締めているか』と、心配していました」

「うぐっ」

「その様子だと、心配通りのようですね?」


 思わず自分の両頬を触った俺を見て、ミルファがくすくすと笑った。

 でも。そうだ。顔。


「なんか2人とも、いつもと違う?」


 俺が問いかけると、シルベーヌとミルファの2人は、一瞬だけ綺麗な目を丸くした。

 ミルファがおずおずと問い返す。


「違う。とは?」

「ああいや。何か、さっきより綺麗というか……」

「服と髪型とかのせいじゃない?」


 シルベーヌが僅かに上ずった声で言ったが、俺は2人の顔をじっくり見る。なんだか血色が良いというか、艶やかで麗しい……気がする。


「いや。2人が俺と離れてからだよ。何だろう……何か普段よりも可愛いというか、綺麗で。目元とか、いつもより魅力があるっていうか……そうか、目元!」


 俺は指をパチンと鳴らした。目元から、自分の半身の事を連想して気付いたのだ。


「ひょっとして、薄っすらだけど化粧した?」

「……良く分かりましたね?」

「到着したばっかりのエリーゼさんが、車の中に私達呼んで、ホントにちょっとだけしてくれたの。こういう時くらい、私達もした方が良いって」


 2人は軽い驚きを交えつつも、どこか恥ずかしそうに。けれど嬉しそうに笑った。

 俺としても疑問が解決してスッキリだ。


「おう! 凄い似合ってるし素敵! 自慢して回りたいくらい! 可愛いし綺麗だよ」

「ブラン。もうお酒飲んだの?」

「ええ。飲酒はまだ駄目ですよ」

「褒めてるのに酷いな!?」


 折角の誉め言葉は2人に茶化されたけれど。実際、本当に薄っすらとしたささやかな化粧だけで、いつもよりも綺麗で可愛らしく見えるのだ。それに2人は元が良いので一層魅力的で、褒めなければ男が廃る。


 そんな和やかな俺達3人の足元に、大きな影が忍び寄った。


「相変わらずじゃなあ、お主達は」


 親し気な、けれどどこか警戒した老人の声が、大きな影から響く。3人全員がその声に驚いて足元を見ると、そこには深緑のベレー帽を頭に乗せた灰色の大きな猫が、背筋を曲げて座っていた。

 この大猫こそ探索者シーカー協会の副会長。メイズ島の探索者シーカー達の頭領と言ってもいい老猫。ウメノ・カーツ・マッキィその()である。


「ウメノじーさん!」

「直接会うのは久しぶりじゃな。お主らは元気に暴れ回っておるようでなにより」


 シルベーヌが思わず声を上げるが、ウメノさんの方は尻尾を振り、余裕綽々といった様子だ。

 老猫は近くの壁際にあった椅子の上に飛び乗ると、背筋を伸ばして俺達の顔を見る。ベレー帽を被った大猫を囲むように俺達が建つと、すぐさまミルファが口を開く。


「ウメノさん。私達は貴方に聞きたい事があります」

「ほう? 探索者シーカー協会で人を集める算段をしている事か? 喋る生体兵器モンスターの事か? それとも――」

「単刀直入に聞くわよ。じーさんは戦争でも始める気なの?」


 シルベーヌがウメノさんの言葉を遮り、ハッキリとしつつも声を潜めて言った。


「ほほう。戦争か……戦争? わしが戦争をな!」


 ウメノさんが大口を開け、尻尾を振って大笑いした。その笑い声も仕草も、周りのガヤガヤした声に紛れていく。


「なんじゃお主ら。わしがそんな事をすると思っておったか? そうじゃな……筋書きは探索者シーカーを集めて騎士団に反旗を翻し、わしが島の新しい統治者になる。と言ったところか?」


 笑いつつもさらりと言った後。ウメノさんの顔が険しくなった。そして低く、重みのある声で静かに俺達を痛罵する。


「たわけめ。わしはそこまで耄碌してはおらん。そんな事をして何の得がわしにある? 戦後の時代にここまで安定した地域で、わざわざ内乱を起こす理由がどこにある! 言葉を慎め!」


 見た目こそ大猫かもしれないが、ウメノさんは戦後の時代を生き抜いてきた古株だ。その声には確かな力があり、怒声ともなれば若い俺達の心臓を縮み上がらせるのに十分すぎる重みがあった。

 そんな怒声も舞踏会のざわめきにかき消され、俺達以外の誰の耳にも届いていない。

 一瞬の沈黙の後。大猫はハッとして頭を振り。頭のベレー帽を椅子の上に落として前足で踏んで言う。


「すまぬ。少々感情的になった」

「いえ、それは……。でも、本当ですか?」


 俺が問い直すと、ウメノさんは大きく息を吐いてから、やれやれとでも言いたげに返す。


「当たり前じゃ馬鹿もんが。そもそも何故、その考えに至った」

「ウメノさんと話をした後からです。喋る生体兵器モンスターの事を調べて、また別の仕事をしている間に妙な組織の事に気付いて。そこにウメノさんが探索者シーカーを集めている事なんかも相まったからで……」

「わしが諸々を扇動しておるかもしれん。と考えた訳か。旧市街から戻った時の発想は良かったが、少々調べが足りんな」


 たどたどしくも経緯を語る俺を、ウメノさんは鼻を鳴らして真っすぐに見た。そして俺とシルベーヌ、ミルファの目に未だ疑惑がある事を悟るや、尻尾を立てて俺に問う。


「ええいまどろっこしい。ブラン。不安なら今すぐわしの首を折れ。多少はデカいかもしれんが、猫の首を折るくらい何て事は無かろう」

「じーさん何を――」

「お主らが、もし戦争が始まりそうなら止めようとしている事は知っておる。わしが黒幕だと思うなら、今すぐわしを殺せば全てが済む」

「ウメノさん、それはあまりに――」

「単純明快な話じゃ。ここで悪役は死に、野望は潰えて万事解決。それで問題なかろう」


 シルベーヌとミルファの制止も聞かずにまくしたて、ウメノさんは俺に叫ぶ。


「さあやるかやらぬか! ハッキリしろ!」


 ここまで言うという事は、それなりの思惑があるのか? だがあまりに暴論すぎる。舞踏会の最中に殺すなんて無理だろう? それが分からない程の人では無いはずなのに何故? でも、俺達の態度が不躾すぎて怒っている訳じゃない感じがする?

 そんな疑問が俺の頭を駆け巡る中。ウメノさんはにっこりと笑った。今までずっと続いていた、警戒のある笑顔では無い。最初に出会った時に見た、親し気な老猫の笑顔だ。


「なんてな。今までのわしの行いを鑑みても、少なからぬ疑念を抱くのは当然じゃ。お主らが自由に動いてくれるだけで動きやすいんじゃが、騎士団の横槍でこんな所に……ああいや、すまぬ。少々時間が無い。3人とも耳を貸せ」


 唐突な態度の変化に面食らい。そして言われるままに、俺達は椅子に座る大猫に顔を寄せる。


「良いか。わしは騎士団の一部と、とある組織に見張られておる。組織の方に察しは付くな?」

「ええ。はい。ウメノさん」


 ミルファが一瞬驚いた様子の後、大きく頷いた。

 組織。まず間違いなく、盗賊の裏やエリーゼさんの事件の裏にいた組織だ。


「そしてお主らも、騎士団と組織にそれとなく見張られておる。理由は単純。連中のやる事の邪魔になるかどうかを見極められずにいるからじゃ」

「私達が邪魔に? っていうか、やる事って何よ」


 シルベーヌが怪訝な顔をして聞き返すが、ウメノさんは構わず続ける。


「今回の舞踏会もそうじゃぞ。お主らが何者かを、色々な者が見極めようとしておる。良いか、今日だけは。今日だけは大人しくしておけ。お主らよりも向いた人材が手を回しているからな」

「俺達、そんなに派手ですか?」

「当たり前じゃ馬鹿もんが」


 ウメノさんは前足を上げ、俺の額を軽く小突いた。ささやかな猫パンチが、肉球と毛に衝撃を吸収されて柔らかなタッチになっている。

 だが、今の小突きで分かった。この人は俺達と同じく、戦争がはじまりそうなら止めようとしている人なのだ。

 人間不思議なもので、言葉よりも一挙手一投足に心理が現れる事がある。今の小突きがまさしくそうで、その前足の体温と、肉球の柔らかさ。そして表情。ウメノさんは俺達の事を、少なからず慮ってくれているのを身体が理解した。

 だが同時に、小さな疑念も湧いた。どうもこの人は、意味深に言って俺達を誘導しようとしている気が――


「今お主らと話せているのも、わしの指示で動いてくれる探索者シーカーが時間を作っているお陰じゃ。そしてもし探索者シーカーの力が必要なら、協会の会長を探せ。いかん。時間が無いな。最後に一つ」


 ウメノさんは髭を揺らし、前足と頭を器用に使ってベレー帽をかぶり直す。


「お主らはそのまま、思うまま動けば良い。自由に大らかにな。じゃが世の中は均一では無く、善悪諸々が渦巻いておる。心と裏腹に、訳の分からん理論に言いくるめられそうになる事もあろう。そう言う心苦しい時。自分で自分の心を後押しする方法を教えておく」

「その方法って?」


 シルベーヌが聞き返すと、ウメノさんはニヤリと笑う。


「相手に向かってでも。家の中でも。空に向かってでもいい。大きく胸を張り。腰に手を当て、胸いっぱいに息を吸って叫ぶんじゃ。『それがどうした!』とな。これは伝統と歴史ある、天地と海で最強のセリフじゃぞ?」


 そう言うとウメノさんは、「一度若い奴に言ってみたかった」と笑いつつ椅子から飛び降り。舞踏会の雑踏に紛れて行く。大猫があっという間にドレスやスーツの裾に隠れて見えなくなると、その場には壁際にしゃがむ俺達だけがぽつんと取り残された。

 少しの沈黙の後。3人全員がゆっくりと立ち上がると、ミルファが唖然とした様子で言う。


「……何だったんでしょう……? 失礼ですが、若干感情の起伏が激しすぎたような……」

「じーさんらしいというか、なんというか……言いたい事だけ言って、こっちの話無視よね?」


 シルベーヌも同様に唖然として答えるが、次いで顔が緩んだ。 


「でも。何となく。なんとなーくだけど。じーさんは味方な気がする。ガナッシュさんみたいにきちんとした返事とかも貰えてないけど、なんとなーく。ね」

「俺もそう思う。何となくの勘だけどな」


 俺はそう答えて笑い、腰に手を当てて胸を張る。

 そんな姿を見たミルファが大きく息を吐き、たおやかに微笑んで言う。


「2人の勘がそう言うなら、間違いありませんね。もっとも。肝心の部分は不明瞭なままで、不満ではあります。味方というよりは、面倒な依頼人とでもいった方が良い気もしますね」

「ほんとよね。変に意味深な事言ってはぐらかすんだもん。ちゃんと情報共有したいけど、そうもいかないみたいなのが面倒ね」

「見張られてるだとか言ってたしな。まあでも。探索者シーカー協会の副会長が見張られてるって事は、探索者シーカー協会自体が、それなりの脅威って思われてる……事になるのか?」


 シルベーヌに続いて俺が首を捻ると、ミルファも首を傾げてから言う。


「やはりいまいち『組織』という物の目的が不透明ですね。探索者シーカー協会自体は、有象無象の私兵組織でしかありません。そもそも法によって、騎士団の命令があれば、自由な行動など行えない組織です。武力こそあれ、コントロールするのは簡単なはずです」

「ってなるとポイントは、何だ? 探索者シーカー達を操りたい? 違うな。集まれば戦う力がある組織ってのが、探索者シーカー協会だよな」

「そうです。集まればそれなりには――」


 ミルファがハッとして、俺に顔を向けた。


「大義名分です。口実がいるんです」

「口実?」

「そうですブラン。武力こそあれ、統一された組織ではない、有象無象の私兵集団。彼ら皆が同じ方向を向くには、立派な大義名分が必要になります。権力や権益では無く、もっと根源的な部分で人々が団結する大義が。それで団結するのが厄介なのではないでしょうか」

「根源的に団結が出来る事……宗教とか、思想じゃないな。メイズ島はそういうものの影響は薄いし。ってなると。プラスな物事の考えとかじゃない。もっとマイナスで、人間皆が怖い事」

「死ぬ事ね。自分だけじゃない。親兄弟とか子供とか。自分に関わりのある人が死ぬのも嫌がるわ。それが無差別なものならなおさら。その死の可能性の一つとして、戦争がある」


 最後にシルベーヌが言い切り、俺とミルファを見た。

 脳が回るままに、俺は2人に問いかける。


「戦争を起こしたい誰かが居て。抵抗されると困るから、探索者シーカー協会の副会長を見張っている?」

「恐らくは。そして私達は、その中でどういう役割を果たすのか見定められているんでしょう」

「私達が邪魔になるか、ならないか。それとも使えるか、使えないかを見られてるって事? 戦争に関する結論ありきな気はしなくもないけど……」

「それはある。でも。とりあえず今、一番警戒するべきは騎士団の人って事に――」


 俺がそう言いかけた時。雑踏の中から俺達を真っすぐに目指す気配がした。

 ゆったりとした。それでいてどこか軽い足取り。その気配は俺達に近づくと、軽妙な声で言う。


「あれェ? ブラン君達じゃないの。お久しぶり」


 禿げ散らかった頭と、口周りで生え放題の無精髭。そして太鼓腹の騎士団員。何度か世話になった事もある、中年のおじさん。山岳駐屯部隊司令官、カール少佐だ。

 青白の礼服を着込み。きっちりした服装だが、やはり太鼓腹のせいでいまいち締まりが無く。片手に握られたシャンパンの入ったグラスも相まって、どこか気の抜ける雰囲気になっている。


「女の子2人は、前見た時よりも美人さんだねェ。素敵だよ、その制服」

「……ありがとうございます。カール少佐」


 心なしか警戒した声でミルファが答えると、カール少佐はニヤリと笑い。自分の襟元にある階級章を指さした。全員がそこに視線を注ぐが、違いに気付いたのはシルベーヌとミルファだ。


「あ、おめでとうございます。偉くなったんですね?」

「昇進なされていたのですね。失礼しました。カール中佐」


 女子2人が慌てて礼をしたので、俺も続いて頭を下げた。

 けれどカール中佐は、軽妙に笑って俺達に頭を上げるように言う。


「前々から決まってたんだけど、君達の活躍もあって功績が増えてね。まあ昇進のお陰で、山岳部隊の司令官から異動なんだけどねェ」

「そうでしたか。失礼しました……。次はどちらに?」

「ちょっと変な所。かな」


 俺が聞くとカール中佐がニヤリと笑い。太鼓腹を掻いた。

 するとそこに、背筋を伸ばした若い騎士団員が1人近づいて来る。若い騎士団員もまた礼服を着ており。カール中佐と俺達に敬礼をすると。探索者シーカー3人に淀みなく、ハッキリした声で話しかける。


「お探ししておりました。ご存じとは思いますが。舞踏会の開会に伴って、勲章の授与式も行われます。準備が整いつつありますので、参加者の皆さんを城内の関係者控室へご案内しております」


 そう言うと若い騎士団員は、丁寧ながらも強制力のある所作で俺たちを誘う。


探索者シーカーの皆さま。どうぞこちらへ。小官が先導します」

「ブラン君達、勲章貰えるのかい? それはおめでとう。景気づけにシャンパン飲む?」


 カール中佐が意外そうな顔をして俺達に笑いかけ、片手のグラスを小さく掲げた。

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