第78話 呼ぶ者
鬱蒼とした森の中に、白い石畳の遊歩道が続いている。遊歩道の周りは緑の森林ばかりだが、決して退屈な風景では無い。
一つとして同じものは無い木々の形。耳をくすぐる鳥の鳴き声。微かな風で木の葉の擦れる音。それらは心を穏やかにさせてくれ、何故だか安らぎを感じるのだ。
そんな遊歩道を、傷だらけの白い装甲を纏った巨人がゆっくりと歩いていた。
白い巨人。舞踏号は非武装だ。腰の後ろ部分には小さめのコンテナを懸架しているものの、その中身は弁当と飲み物である。
そして舞踏号の右肩の上には、戦闘服を着たミルファ立っている。彼女の背からは黒い機械の追加腕が2本伸びており、まるで4本腕の魔人のようだ。
非武装の舞踏号と違い、ミルファは武装している。腰には私物の拳銃と超硬度マチェットが下げられ、右手にはライフルが握られていた。武装した場合の動きの予行演習という訳である。
そして舞踏号の両腕。腹部のあたりで地面と平行にされた両手の上には、シルベーヌとシャルロッテさんがいる。
シルベーヌはリラックスした様子で座って、ファイルにまとめられたエラーの詳細ログを睨んでおり。シャルロッテさんは依然メイド服のまま、四つん這いで恐る恐る周りを眺めて落ち着かない様子だ。
身長約5mの巨人の手の上だ。パイロットである俺はかなり気を使い、表面張力ギリギリまで水を入れたコップを持つが如く振動を緩和しているものの、身の危険を感じるなという方が無理であろう。
そんな左手の上で、2人が会話する。
「た、高い……!」
「シャルロッテさんは、高いとこ苦手なの?」
「そうでございます。地面が遠いと、落ちたら痛いのが想像できて……」
「大丈夫よ! ブランはそんな事しないし、仮に落ちそうになっても拾ってくれるわよ!」
「ほ、本当でしょうか?」
「ええ。私のパイロットですもの」
鼻高々と言った様子でシルベーヌが胸を張り、一瞬だけ舞踏号の頭部を見上げてから立ち上がった。彼女は舞踏号の手の上で、辺りの景色を眺めて深呼吸をする。
周りに繁るのは常緑の木々。その呼吸によってほんのりと水気を含む空気が冷たくも爽やかで、息を吸う度に内側から洗われるようだ。
『良い所だな』
「はい。遺跡と違って、埃っぽくありません」
俺が言うと、肩の上のミルファがにこやかに返してくれた。
彼女はライフルを右手で握ったまま。背中の追加腕と自分の四肢を器用に使い、舞踏号の右肩から鎖骨の上を通り、うなじを登って頭の上に回る。頭頂部に到達した後はそこに座り込み、追加腕で頭の装甲を優しく掴んで、振り落ちないように身体を固定した。
「腕が2本余計にあると、舞踏号の身体の上を移動するのも安定しますね」
『何だかくすぐったい』
体のセンサが伝える情報を俺が笑って伝えると、頭の上でミルファもくすくすと笑う。言うなれば、追加腕2本とミルファの四肢。合わせて6つの作用点で、大きな蜘蛛に身体の上を這われているような感覚がするのだ。
身悶えしてしまいそうだが、そこは長い間舞踏号に乗っているので慣れている。ちょっとした動作を抑えるのは苦では無い。
次いで俺とミルファの会話を聞き、左手の上に居るシルベーヌが微笑んだ。
「その辺りの感覚も今後の課題ね。実際近くで見ると、やっぱり色々分かるわねー」
『そういうもんか?』
「ええ。私もなんだかんだで感覚派だし、実際に稼働してる物を見るのは大事。手の上で分かった事も多いわよ? 振動がガンガン来るから、座りっぱなしはお尻痛くなっちゃうとか」
そう言って笑うと、シルベーヌは自分の尻をさすったのだった。
それからまた左右に森林を望む遊歩道を歩いて行くと。森が開けてちょっとした草原の丘が現れた。遊歩道の折り返し地点らしい。
丘の頂上に至るまで遊歩道が続いており、遊歩道から距離を置いて、丘一帯に白い花の咲く花畑が広がっている。
まるで絵本の中のような淡く美しい光景に、思わず足を止めて眺めざるを得なかった。
「ねえブラン。丘の上までお願い」
『おう!』
手の平の上に居るシルベーヌが急かすように言ったので、俺は少し大股で丘の上に歩きだす。
丘の頂上は白い石畳で円が描かれており、俺でも花を気にせず座りこめる。一度腰を下ろして、腰についていた小さなコンテナと、シルベーヌとシャルロッテさんの2人を下ろした。
ミルファは追加腕だけで肩から背中を伝い、自分で地面に降り立つ。
皆が俺から離れた後、深呼吸を一度。全身のダクトからゆっくりと呼気が漏れ、長時間の歩行で温くなっていた人工筋肉が冷やされていく。ついでに一度立つと、天を仰いで両腕を広げ、全身で太陽の光を受け止めた。最近珍しい暖かい風が、身体を覆う装甲を撫でて心地よい。
「眩しいわね」
「はい。白が基調のカラーリングは、やはり目立ちます」
足元に立って俺を見上げるシルベーヌとミルファが言って微笑んだ。
シャルロッテさんは手の平の上で酔ってしまったようで、コンテナに寄りかかってグロッキーな様子である。
付いて来たのは彼女の希望と、俺達の世話をするという仕事の熱意によるものだ。そして最初こそ舞踏号の手の平という事でワクワクしていた様子だったが、道中の通りワクワクが高所の恐怖に負け、振動で酔い、なんとも可哀想に見える惨状になってしまった。
『大丈夫ですかシャルロッテさん?』
「大丈夫でございます……少し休めば、はい……」
俺が両膝を付いて座って聞くと、彼女はにっこりと笑って返した。心配かけまいと言う心遣いが良く分かる表情だ。
シルベーヌも心配しつつ、シャルロッテさんを元気づける。
「しばらく休んでて大丈夫ですよ。折角ですし、ここでゆっくりしましょ?」
俺も舞踏号のハッチを開け。巨人の背中から飛び降りて、生身の身体で地面に立つ。
格好はミルファと同じく戦闘服だが、拳銃などは付けていないし、プロテクタも付けていない。
ミルファが小さなコンテナから、コーヒーの入った保温ポットを取り出す。彼女は腕が4本ある状態なので、器用にも並行して、4人分の紙コップを広げていた。
俺は追加腕の先で掴まれた紙コップを受け取り、グッとコーヒーを飲む。そして3人和やかに話し始める少女達に疎外感を感じ、花畑に近づく事にした。
遠くから白く見えた花は、近くで見れば放射状に花びらが伸び、真ん中が黄色という可愛らしいものだ。茎もそう長くは無いけれど、しっかりと地面に根を張っていて、寒さなどには負けない生命力を感じる。
そんな美しい花畑の近くに立つと、まるで絵本の中にいるようでセンチメンタルな気分になってしまう。花畑を踏まないように少し丘を下り、先ほど舞踏号でしたように、生身の両腕を広げて太陽の光を全身で受けた。
何だか浄化されるような気がして心地よい――が。誰かの視線を感じ、俺は後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは、小さな子供だった。
透き通るような白い肌に、色素の無い白い髪。髪は首の辺りで整えられており、その艶は息を呑むほどに美しい。男女どちらか分からないが、その顔立ちは完璧に均整の取れた美術品のようであり、中性という言葉を美しく表現していた。格好も同様で、仕立ての良いシャツと膝丈のズボンが、雰囲気と身体にピタリと合っている。
天使というものが居たら、この子のような姿だと誰しもが思うだろう。それ程に美しい子供だ。
「……こんにちは」
「こんにちは」
今までの動きを見られていたのか。俺が少しだけ耳が熱くなるのを感じつつ挨拶をすると、子供はまさしく天使のような微笑を浮かべて挨拶を返してくれた。
その耳をくすぐる心地よい声には、思わず耳を傾けてしまう魅力がある。
「あなたはだれ?」
子供が微笑んで聞き、俺に一歩近づいて聞いた。
「えっと。俺はブラン。探索者だよ」
「あなたはだれ?」
子供が再び聞き、俺に一歩近づく。
こちらを無視するような言葉に、俺は悟る。同じ言葉を2度繰り返したのは、聞こえなかったからでは無い。意図した答えを得られなかったからだと。
そしてこの子供は、普通の子供では無いと。
「……君は、一体……?」
「あなたはだれ?」
警戒した俺に、子供が微笑を湛えて俺に聞いた。
そもそもなぜここに子供が? 屋敷の住人だとしたら、歩きで3時間も掛かる道程をこんな子供が1人で? 靴には土一つ付いていないし、先にここに居たとしても気付かない訳が無い。
おかしい。おかしくない訳が無い。
そんな疑問達を溶かすように、子供の声が白い花畑に優しく響く。
「災いがあるのは誰? 憂いがあるのは誰?」
耳を揺らす心地良い声。まるで脳が蕩けそうな程に甘い感触を持った音色に、心と身体がぐらりと揺れた。疑問が薄れていき、思考が鈍くなる。
「争いをするのは誰? 煩いがあるのは誰?」
冷たい風が吹き、白い花が震える。思考がどんどん吸い取られていくような、自分の意思がかき乱されるような感覚が、身体を甘く取り囲む。
駄目だ。まともに声を聞いてはいけない――!
「傷を受ける人は誰? 赤い目をしている人は誰?」
耳を塞いでも、甘い声だけがはっきりと聞こえる。頭が蕩け、神経が鈍麻になる。思わず膝を着いたが、意志に反して身体が動き、俺の顔を上げさせる。
「旅人さん。あなたは誰なの?」
子供の暖かい手がそっと俺の頬を撫で、悪魔のように微笑んだ。
俺は誰だ? 俺は何だ? 俺はどこだ? 俺はいつだ? 俺は何故だ?
「かわいそうに。あなたはかたちもなく、むなしく、やみばかりがあるのね」
甘い言葉が耳に吹き込まれる。駄目だと思って心を閉ざしても、それは暖かい空気のように心に滑り込む。耐えがたい誘引が心を開き、甘い声が胸の奥を撫で、呼吸や心臓の動きすらも緩くなっていく。
「だいじょうぶよ。やみばかりだけれど、それはひかりがないだけ」
優しい声で、心身の警戒がどろりと溶け落ちた。俺はもう何も、何も考えなくていいのだ。
「ちりでできたからだに、いのちをふきこんであげましょう。さあ、いきをはいて」
言われるままに身体が動き、ゆっくりと息を吐き出した。
まるで魂が抜けていくように、意識や自我が解けていく。
誰かの声が響いた。甘い声では無く、怒りと焦燥の篭った、チリチリする苦い声だ。
でもそれは甘い声よりも、何故だか安心する。
そうだ。この声は、聞いた事が――
「――ン! ブラン! 何してんの!」
ブラン? 名前? 俺の、そうだ、俺の名前。これは名前を付けてくれた子の声だ。
「ブラン! 惚けている場合ですか!」
再び呼ばれる自分の名前。さっきの声とは違う声。これは俺を叱咤してくれた子の声だ。
無機質な銃声が響く。弾丸が空気を裂き、目の前の子供に襲い掛かる。
しかし、銃弾が子供を穿つことは無かった。子供がまるで蛇のように鋭く身をうねらせ、俺から距離を取ったのだ。
銃声と眼前の異様な動きで俺の意識が覚醒し、内臓の全てと神経が動き出す。
心肺すらも滞っていたようで、不整脈と肺の痙攣に頭がついていかない。頭と身体の中身をぐちゃぐちゃに掻き回されたような感覚に、思わず胃の中身を吐き出した。
三半規管がおかしいのか、上下左右も掴めない。ただ地面らしいものに膝を着いて咳込んでいるのだけが、痛みという強い感覚で理解できる。
だが全身の痛みを合図に、鈍麻になっていた思考が急速に回復し、消えていた疑問が頭を駆け巡った。
何なんだコイツは!? 今のは何だ!? 怪しすぎる相手に、俺は何故動けなかった!?
「あら残念。もう少しだったのに」
「ブラン! 例のノイズです!」
ミルファの大声が子供の笑い声を掻き消した。
俺は更に逆流してきた胃液を吐き、口を拭って子供を見る。
「ノイズ……!?」
「その子供が口を動かす度にです! 間違いなく、それは『子供』ではありません!」
再び銃声が響く。子供は蛇のように身体をうねらせてライフル弾を避けると、再び俺の前に立った。
俺は歯を食いしばり、震える身体に力を込めて子供を見上げる。
そこに居るのは、先ほどまでと変わらない天使のような子供だ。血のように赤い色の目をした、天使のような子供。
「せっかく呼んだのに。でもまた会いましょう。旅人さん」
もう子供は、甘い声を発していなかった。ハッキリとした大人の女性のような声で喋ると、まるで地面を滑るように森の奥へと駆けて行く。
当然ミルファがその背と足に向けてライフルを撃つが、弾はかすりもしない。森の木々で白い髪が見えなくなるのと入れ替わりに、森の奥の景色が僅かに歪んだ。
駆けつけたミルファが追加腕を広げて俺を庇うように立ち、続いて追いついたシルベーヌが肩を貸しつつ俺を立ち上がらせて聞く。
「ブラン! 大丈夫!?」
「ごめん……!」
「ミルファがノイズに気付いて、ブランを探したらあの子に跪いてて。私達が叫んでも返事が無かったの!」
シルベーヌの言葉で俺の頭は再び疑問にまみれるが、俺の身体は直近の危険を察知する。先ほど森の奥に見えた歪みはまず間違いなく、一度見た事のある”敵”だ。
「サイクロプスだ! 今、子供が見えなくなった辺り!」
直後。再び胃からこみ上げて来た物を地面に吐いた。
子供を追って森の奥へと駆けだそうとしたミルファの身体が止まり、森を確認した後、俺の方へ顔を向けた。
「舞踏号へ急いで下さい! シルベーヌはシャルロッテさんを!」
口に広がる胃液の酸っぱさや、全身の異常に構っている暇は無い。
俺は痛みを堪えたまま飛ぶように丘の上まで走り切ると、両膝をついて座り込む舞踏号の背に回って、脊髄に抱き付くような形のコクピットに滑り込んだ。
ハッチが閉まり、意識が途絶える。
あれはちがう
意識が戻る瞬間に聞こえる幻聴が、ハッキリと何かを否定した。
そして体の感覚が戻って来る。この機械の巨人そのものとなって。
『よし!』
若干頭がぐらつくが、膝を着いた姿勢から飛び上がるように立ち上がり、俺は丘を下った。一歩足を踏み出す度に、白い花びらが舞い散っていく。
視線の先では、森の奥へ向けてミルファがライフルを撃っていた。本来の腕でライフルを構え、背から伸びる追加腕の片方には、腰から抜いたマチェットが握られている。
刹那。森の奥から、濃淡の有る緑色の巨人が飛び出した。赤いギョロギョロとした一つ目が4本腕のミルファを睨み、身体を折り曲げ、ねじくれた指が彼女の側を掠めて地面を抉る。
ミルファが地面を転がって避け、続けざまに追加腕で身体を支えて宙返りし、距離を取った。
入れ替わりに。俺は丘を駆け下りたままの勢いで、サイクロプスの胸に前蹴りを叩きつける。サイクロプスの身体は体重の乗った前蹴りで後ろにひっくり返り、仰向けに倒れ込んだ。
俺はすぐさま拳を握りしめると、身を屈めた追撃をサイクロプスの顔面に打ち付ける。赤い目玉と共に頭蓋が風船のように弾け、どす黒い血と肉片が森に飛び散った。
絶命した手応え。センサが周辺を索敵して、まだ『敵』が居る事を叫ぶ。正確な位置は分からないが、敵意を持った何かが居る気配がするのだ。
『まだいる!』
「はい!」
俺が叫ぶと、ミルファが脛を伝って俺の身体を駆けあがり。追加腕で一足飛びに右肩の上まで飛び上がった。
「シルベーヌとシャルロッテさんが丘の上に」
ミルファに言われたままに丘の上へ駆け戻り、2人を守る様に膝を着く。シルベーヌは手慣れた様子だが、シャルロッテさんは俺が機敏に近づいたので、驚いて一歩引いてしまう。
そしてシャルロッテさんは、今しがたサイクロプスを殴り殺した舞踏号の拳から、どす黒い血と何かの肉片が散ったのを見て悲鳴を上げた。反射的にその血生臭いものから逃げ出そうと走り出す。
が。即座にシルベーヌがその襟首を掴んで引き留めて大喝する。
「落ち着いて! 慌てても怯えても、何にも変わんないわよ!」
「で、ですがこんなの! 皆さんの活躍はもっと綺麗なはずで! でも今は、血の匂いが、血が!」
「探索者の現実なんてこんなもんよ! 地面に丸まって! 下手に動くとブランの邪魔になるから!」
シルベーヌはそう叫ぶと、シャルロッテさんを引きずり倒すように地面に座らせた。
足元の2人と並行して、俺は顔を上げて周りを見る。森に変化は無く、視覚は異常を捉えていない。音系センサも問題なし。しかし、未だにしっかりとした敵意を感じる。
「ブラン。見えますか?」
『駄目だ、見えない。けど、近い感覚がある』
先の妙な子供のせいなのか、若干頭がぼんやりとしているのだ。それでも目を閉じ、深呼吸をして気配を探る。
全身のセンサが感度を上げ、周辺一帯の敵を探し始めた。視覚という光学的なもの切った結果。熱や音、匂い。その他全てを統合した人間的な感覚である”気配”の探知精度が上がっていく。
「ヴヴヴ――」
呻き声が小さく響いた。
それは背後からで、ほぼ同時に右肩のミルファが身を捩じり、背面に向けてライフルの引き金を引く。
俺も素早く振り向けば、そこには赤い大きな一つ目にライフル弾が食い込み、少しだけ目を閉じたサイクロプスが立っていた。
視界を奪われている一瞬に、サイクロプスの喉元へ向けて拳を叩き込む。柔らかい感覚の奥で堅いものが砕ける感じがした後、即座に身を捩じり、肘を畳んで顔に打ち付けた。速度の乗った肘の装甲が、刃物のようにサイクロプスの顔を削る。
確かな手応え。だが、致命傷にはなっていない。
サイクロプスが血にまみれた顔を俺に向け、太い腕を鞭のように振るった。身を屈めてかわすのと同時に、何かに気付いたミルファが舞踏号から離れて地面に飛び降りる。
「ブラン! ゴブリンもいます! そちらは私が!」
ミルファが叫び、腰に付けていた拳銃を抜いてシルベーヌに投げ渡す。
サイクロプスと真反対側から、数十匹のゴブリンの群れが押し寄せてきていたのだ。こちらがほんの一瞬だけサイクロプスに気を取られ、格闘をした瞬間の事だ。
これらがどこに潜んでいたのか、どうやって現れたのかは、姿を現した今問題では無い。2種類の生体兵器が、あの一瞬の間隙で統制の取れた動きをしているのが問題だ。
地面に降りたミルファがライフルを撃ち、追加腕に握られたマチェットを振って、ゴブリンの群れへと突進した。拳銃を受け取ったシルベーヌも、すぐさま構えて引き金を引いている。
(間違いない。こいつらは――)
探索者2人が戦い始めたのを感じ、俺は眼前で唸る怪我で狂乱したサイクロプスに集中する。
(こいつらは、さっきの子供に操られてる!)




