第76話 舞台の裏では
ガナッシュさんとの対面の後。俺達は和やかに雑談を交わしつつ、紅茶と焼き菓子に舌鼓を打っていた。
たかが雑談だが、されど雑談でもある。言葉を交わす事で俺達の事を知ってもらい、また向こうの事を教えてもらうというのは、人間関係では非常に重要だ。
ガナッシュさんという存在が近くに居る事で、エリーゼさんとアルさんのあまり見られない一面が垣間見れたりもするし、こちらもアルさんとエリーゼさんが間に立ってくれていると、色々な話をしやすかった。
そして太陽が夕焼けになりかかる頃。アルさんは夕食の支度に。エリーゼさんもそれを手伝うとの事で、2人とは一旦分かれる事になる。
そして再び、俺達に向き直ったガナッシュさんが真面目な顔で言う。
「では、食事の前に面倒事を済ませてしまおうか。少年少女達よ、話が長くなるが少し辛抱してくれ」
最初に俺達に”動機”を聞いた時にも感じていたが、この人は娘のエリーゼさんとその恋人のアルさんに、あまり俺達との真剣な話を聞かせたくないらしい。
それは決して俺達を嫌っている訳では無く、俺達が話す内容が陰謀や血生臭い事を感じさせるからで、恋人と幸せそうな娘の耳にそんな話を入れたくないからだ。
俺達もそれが分からない程に鈍感では無い。雑談の際は頬が緩みっぱなしだったが、全員が顔を引き締め直して背筋を伸ばすと、ガナッシュさんが満足げに口を開く。
「少年少女達の聞きたい事は察しが付く。アルフォートの小さな店に嫌がらせをさせていた連中の事だろう? それと、嫌がらせの事を騎士団がわざわざもみ消そうとしたのは何故か? とりあえずはこの2つだ。違うかね?」
「概ねはそうです。流石と言うべきか、よくご存じですね?」
ミルファが頷いて聞き返すが、ガナッシュさんは柔らかく微笑むだけだ。その笑顔の沈黙からは、少し不気味にも思える何かがあった。
「アルフォートが嫌がらせを受ける理由は、まあ少なくは無いだろう。奴は真面目で好青年だし、ワシの娘のエリーゼは飛び切りの美人だ。そんな美人の心を射止めた男が、やっかみを受けないはずが無い。しかもワシはそれなりの資産家でもある。何でもない料理人が、金持ちの令嬢と幸せそうにしている。高尚な理由であれ低俗な理由であれ、妬まれん訳が無い」
ガナッシュさんはそう言って笑い、ソファに座ったまま足を組んだ。
もちろん。俺は聞きかえす。
「じゃあ、単純にそういう。子供みたいな嫌がらせの一つだったと言う事ですか?」
「答えを急いでは駄目だぞ少年。だが、動機はそれ位に単純なはずだ。人間を突き詰めれば、最後にあるのは個人の好きか嫌いかだとワシは考える。そして、それを取り巻く環境が事を複雑にしているのは間違いない。自分の本音を包み込む、建前というやつだな」
そう言うとガナッシュさんは、俺達を優しい目で見た。
「さて。わざわざアルフォートに嫌がらせをするような奴だが、ひとつだけ心当たりがある。以前ウーアシュプルング商会に資金援助を頼みたいと言って来た、環境保護の団体だ」
裏に居る何かの正体に、俺達3人は心なしか身を乗り出して耳を澄ませる。
「戦争で歪になってしまった自然環境を元に戻す事によって、世界全体から戦禍を無くし、人々の心に安寧を取り戻す……だかなんだかと言っていたな」
「何というか、平和的な感じですね? それだけ聞くと、特段変わった印象もしませんが……」
ミルファが身を乗り出しかけた姿勢からソファに座り直し、心なしか拍子抜けした様子で聞き返した。
「そうだろう? 最初はワシもそう思っていた。だがな、どうも話を聞くとおかしい。宇宙には人間が住むべきでは無いとか、ホワイトポートの街は画一的で自然では無いとか。今の時代と少々ズレた自然観をしていてな。……決定的だったのが。アンドロイドの少女には気分の悪い話だろうが、”そういう”人間は自然では無いから居てはいけないとも言っていた」
ガナッシュさんは心底申し訳無さそうに言い、その思想を口にするのも嫌そうだった。
俺もシルベーヌも少しだけ嫌な気分になってしまうが、ミルファ自身は特段気にしてもいない。彼女はガナッシュさんに向け、たおやかに微笑む。
「大丈夫ですよ。そう言った思想を持つ方々もいらっしゃるのは理解しています。しかし、少々過激な。というよりも、旧時代的な団体なのですね」
「すまない少女よ。誤解の無いように言っておくが、ワシには生身の友人もアンドロイドの友人も、熊の友人だって居る。屋敷でも色々な人間が働いているし、ワシは多様な皆が大好きだ。彼らの存在を否定するような事は許せん」
心なしか安心した様子でガナッシュさんが言い、真摯な顔で自分の思いを続けた。
この屋敷に案内してくれたメイドさんだって、球体関節をしたアンドロイドだった。ガナッシュさんの言葉に偽りは無いように感じる。
「話を戻そう。ワシには昔から関わりのある騎士団の人間が居てな。出世もしている優秀な奴だ。そしてその子供が、先の環境保護団体の代表だった訳だ。親から話だけでも聞いてくれと言われもしたが、子供はきちんとした手順を踏んで面会を求めてきたし、とりあえず会う事にした」
そこでガナッシュさんは大きなため息を吐いた。辛い事を思い出すような嫌な気分が、彼の歪んだ眉から滲み出る。
「半日。半日話し合いをした後、その団体への資金援助は断った」
「詳細を聞いても?」
「いいとも。さっきの時代に合っていない思想もそうだが。代表の口から出て来る言葉は整然とした美辞麗句ばかりで、具体案が見えてこなかったからだ」
ミルファが聞き返すと、ガナッシュさんはソファに背を預け、応接室の窓の外を見た。外には青々とした芝が見え、その奥には鬱蒼とした森が佇んでいる。
「メイズからこちらに来る途中見ただろうが、現代の広大な農地で栽培されている植物の大半は、人の手で様々な品種改良をされた物だ。更に言えば、急激な気候の変化や、少なからず土壌の汚染もある。そもそも自然そのままの、本当に人の手が全く入っていない植物など、今の時代では手塩に掛けねば芽吹く事すら難しいのが現実だ」
俺は言われた通り、ホワイトポートの至るまでの間に見た広大な風景を思い出す。
どこか牧歌的で自然の偉大さを感じる、大らかな土地だった。しかしその”自然”には、確かな人の手が入っていたのだ。整地や畑という目に見える形と、品種改良や様々な農法という見えない形で。
「屋敷の周りにある森もそうだ。古く見えるかもしれんが、森は40年程前に木材用の木々を植えた人工林に過ぎん。品種改良の結果、少々繁殖力があり過ぎて、森に”なってしまった”だけだ。道に生える雑草すらもそうだ。天然自然そのままの草木など、島には数える程しかない。戦争の爪痕だな」
ガナッシュさんの薄墨色の瞳が、窓から暖炉の火に向けられた。
過去あったという、もはや資料も残っていない程の大戦争。技術が途絶え、文化が途絶え、世界地図に名前の書いてある街の全てがクレーターになる位の戦争。
その爪痕は、旧市街や生体兵器という形になって表れているだけでは無いのだ。自分達の立つ地面という、まさしく生の基盤になる所にも、見えない爪痕が残っている。
そんな歴史に思いを馳せ、少しだけ応接室が静まり返ると、ガナッシュさんはにっこりと微笑んで空気を変える。
「まあ専門的な話は学者に任せるとして、だ。その代表に環境保護についての具体的な方策を聞いても、種子を買ってきて人の手で撒くとか、なんとも言えん事しか返って来んかったのだ。他にも挙げられたが、素人のワシですら納得させれん方策ばかり。理想が先行して、現実的にどうするかが成っていない典型だな。優秀な事務屋が居れば違うのだろうが、そこまでワシが面倒は見れんし、具体策も無いのならと、資金の援助は断った」
再び。ガナッシュさんが大きくため息を吐いて足を組み直した。
「返答を聞いた代表は怒った。『何故自分だけ資金援助を受けられないのか』とな。よくもまあ調べたもので、商会の支援している貧乏な個人事業主や儲かっていない企業などをあげつらって、『自分の何処が劣っているのか』と騒ぎ始めた。そう言う話でも無いと窘めたが、代表は自分の考える自然いっぱいの世界が世の為人の為になると力説してやまなかった。視野が”こう”なっているのが良く分かるだろう?」
ガナッシュさんは自分の顔の両脇に両手を衝立のように立て、そのまま前へとスライドさせつつ言った後、自嘲するように笑う。
「以後、代表の親からは少々嫌われてしまったよ。まあ誰しも子供は可愛いものだから分からんでもない。その後も親子共々、何度か顔を合わせる事はあった。その度にワシは恨みがましく色々な事を言われ、子供の方に至っては話し合いの内容を広め、ワシが悪辣な守銭奴であると誇張して言いふらす始末」
「うっへえ……嫌な感じ。ガナッシュさんは、それを止めさせたり?」
シルベーヌが空いた口が塞がらないという様子で聞き返すと、ガナッシュさんは首を横に振った。
「いいや。止めはせんさ。考えてみなさい。正式な面会の内容を詳細に、しかも偏向させて言いふらす者が、他者から信用を得れる訳が無いだろう? 代表は自分で自分の首を絞めている訳さ。親には悪いが、本人がそれに気付かなければ、ワシが何かせずとも自滅する。触らぬ神に祟りなしだ」
ガナッシュさんはそう言ってニヤリと笑い、足を組み直した。
「とまあ。ここまでが事実。ここからはワシの集めた情報からの憶測を含む話だ。良いかね?」
「はい。どうぞ続きを」
ミルファが促すと、ガナッシュさんは少しだけ頭を下げてから、ぼちぼち空き始めていた全員のカップに紅茶を注いでくれた。そして自分も喉を潤し、再び話始める。
「親の方はワシを嫌っても、節度のある嫌い方だった。互いに大人なのだからな。それ位は出来る。だが、子供の方はまだ若かった」
古来から。聖職者が憎ければ、教会や衣装ですら憎たらしく思ってしまうのが人の性。
環境保護団体の代表は、ガナッシュさんの一人娘のエリーゼさんが、幸せにしているのを快く思わなかったらしい。そしてガナッシュさん個人への攻撃より、大切な娘への攻撃の方が効果がある。そう踏んだのだ。
「恋愛は素晴らしい。生きる活力になる。が、エリーゼもアルフォートの奴も、少々恋にうつつを抜かし過ぎだ。少年少女達も、2人を見ていると分かるだろう?」
「あー……」
俺達は3人同時に納得した声を上げた。
よく分かる。2人の愛の炎は、熱くて病魔すらも跳ね返しそうな位。見ている者が思わず恥ずかしくなる程なので、親としては多少なりとも気になるだろう。
「ちょっと落ち着けと言う事で、アルフォートにはエリーゼと少し距離を置くよう言ったものの、それが失敗だった。考えれば当然で、ワシは2人の間に燃料を提供してしまっていた訳だ。より盛り上がっているのを察知したワシも阿呆のように慌ててな。ともかく距離を置かせようとアルフォートを一時だけでも解雇してしまったのが失敗だった」
部屋の温度が3度程下がる位にガックリしたガナッシュさんの姿からは、凄まじい悔恨の想いが染み出していた。一生の不覚だと思っているのが、人生経験の少ない俺達3人にも痛い程分かる。
「アルフォートは真剣に思い詰め。なんとメイズの街に行って小さな店を持った。いやはや驚いたが、同時にそこまでの思い切りがあって感心もした。……いや、ワシの焦りと意思の伝え方が悪かった結果そうなってしまったので、諸手を上げて喜ぶ資格は無いが……。エリーゼにも本当に怒られてしまってな……。アルフォートを追って行ってしまった」
ともかく。アルさんは自分の店を始め、最初は順風満帆だった。しかし店が嫌がらせを受け始め、ガナッシュさんがそれとなく調べさせてみると、あまり表沙汰に出来ない事を生業としている人々が動いているのが分かったという。
これが嫌がらせをしていた存在の正体という訳だ。
「それって、盗賊達のような?」
「恐らくはな。ただ、全体像が掴めなかった。個人事業主なのか、組織的なものなのかも分からんかったのだ。相当に巧妙な奴らしい」
俺が聞くと、ガナッシュさんは口ひげを触りつつ答えてくれた。
「だが、どうしてか依頼主はすぐ判明した。件の環境保護団体の代表だ」
「なるほど。そこで今までの事が繋がる訳ですね」
「その通り。そして少年少女達がアルフォートに出会い、手先にさせられていた劇団員が捕まった。代表の親は騎士団の重役だ。子供の不祥事、しかもそれが私怨によって、表沙汰に出来ないような人々を使っての事ともすぐ分かったろう」
統治機構の重役の子息が、表沙汰に出来ない組織と関係している。規模がどうあれ、明るみに出れば騎士団内での地位は危うい。保身に走った代表の親は、この事はもみ消してしまおうと、権力を使って闇に葬ろうとした。
「後は君達も知っての通り、流れ流れた盗賊達が偶然エリーゼに目を付け、騎士団の別の部署が盗賊の掃討に動いた。捜査の手は伸びつつあるはずだ。確かザクビーと言ったか。あの中尉は優秀なようだからな。以上がエリーゼに関わる全容だ。ワシも賢くは無いので、少々ややこしい説明になってしまってすまんな」
そこまで言うと、ガナッシュさんはソファに身体を預けて脱力した。
これがアルさんの依頼から始まった、エリーゼさんの拉致。そして最初の仕事から関係していた盗賊達との関わりの全てらしい。長いけれど壮大でも無く、そう複雑でも無い。ガナッシュさんの言った通り、大元はただの私怨なのだ。
この一連の事件については、全てが真実であるかどうかはともかく、何となく腑に落ちた。だが、まだ気になる部分はある。
「その環境保護団体の代表さん。その人が嫌がらせを依頼したというなら、何故嫌がらせに留めたんでしょう? それに、その依頼を受けた組織か人か。それが何なのか気になります」
「ふむ」
ガナッシュさんが少しだけ天井を見つめ、呟くように言う。
「……依頼を受けたのがプロだったとして。あくまで嫌がらせに留まったのは、依頼がそれ以上を望まなかったからだ。それは代表の良心の呵責だろう。やめさせたかったら金を出せ。と、オブラートに包んで言う事も出来るが、死者や怪我人が出ればそうもいかん。用法用量を守った、適度な苦痛が大切だ」
薄墨色の視線が俺達に戻される。
「だがまあ、これは完全に想像だ。件の舞踏会にはその親子も来るから、直接問い詰めれてみればいい。裏は取ってあるし、君達は事件に関わった当事者だから、その位の権利はあろう」
そして大きく息を吸うと、ガナッシュさんはソファから立ち上がった。
「少し話過ぎたな。長旅で疲れているだろうし、まだ気になる事があれば明日にでも聞こう。さて! 誰かいるか!」
大きな声が響くと、すぐさま応接室の扉が開かれた。静かに中に入って来たのは、最初に出会ったたぬき顔のメイドさんだ。
「おお、シャルロッテか。客人に最初に会ったのも君だったな」
「はい。旦那様。わたくしが皆さまの道案内を」
メイドさんはシャルロッテさんというらしい。雇い主との会話だからか、今までの小動物のような雰囲気はなりを潜め、粛々とした態度からは良家の使用人というのがしっかりと分かる。
彼女は両手を揃えて少しだけお辞儀をし、顔を上げた時に一瞬だけ俺と目があった。向こうはすぐに目を逸らしたが、目の動きからこちらを気にしているのが察せた。
「丁度いい。客人達が屋敷に滞在する間、身の回りの世話を君に一任しよう」
「はい。旦那様。受け賜わりました」
「頼むぞ。年も近いだろうし、色々な話も聞きなさい。では、ワシはもう少し仕事をしてくる。内容を確認して、サインをする書類が多くてな。少年少女達も書類の内容はきちんと確認しないと、外泊証明のはずが紛争地帯に放り込まれてしまうかもしれんぞ!」
最後のは冗談なのか忠告なのか良く分からなかったが、ガナッシュさんは大きな声で笑いながらシャルロッテさんの横を抜け、応接室から出て行った。
俺も深呼吸を一度。ついでに背伸びも。真面目な話が続いて凝り固まっていた頭と体をほぐし、俺はシルベーヌとミルファを見る。
シルベーヌも俺に続き、グッと背伸びをして笑う。
「なんとなーく。黒幕と次の目標が見えて来た。って感じかしら。ちょっと言葉が多くて頭が追い付いてないけど」
「かなぁ。もっとこう……ズバーッと敵をぶっ飛ばして終わりなのが、個人的にはさっぱりするな」
「はい。ですが、舞踏会でやる事が増えましたね。次にするべき事でハッキリしているのは、ウメノさんに事情を聞く事。件の環境保護団体の代表と、その親の騎士団員に話を聞く事。この2つ? 3つです? ……他にもあるかもしれませんが」
3人ともぼんやりした事を言い合い、小難しい話の連続で心身が疲れているのが察せた。
俺はぐるぐる肩を回しつつ、応接室の扉の所に佇む、たぬき顔のメイドさんに聞く。
「えっと。シャルロッテさん、ですよね?」
「はい! そうでございます! とりあえず皆さまお疲れのようですし、お部屋にご案内いたします!」
シャルロッテさんは、最初の出会った時の雰囲気に戻っていた。彼女に尻尾があったら振り回しているような、そういう様子だ。こちらが彼女の素であり、ガナッシュさんへの態度は仕事モードという感じなのだろう。
「すみません。しばらくお世話になります」
「いえ! これがお仕事ですし、エリーゼ様をお助けになった皆さまのお世話が出来るのは光栄。で、ございます!」
そう言うとシャルロッテさんはメイド服のポケットをごそごそと探った。そして何やら折りたたまれた紙を取り出し、嬉しそうに開いて見せる。
「あっ」
紙を見て俺達3人は驚いた声を出したが、シャルロッテさんは自慢気だった。
開かれたのは新聞の切り抜きである。しかもそれは2枚。舞踏号がバックドロップをしている写真と記事。それと続報らしい物だ。続報の方はいつ撮影したのか、3機のテトラ達によって白く塗られつつある舞踏号が、遠くから撮られている写真付きだ。文責の部分にはチェルシー・スカッチという、一度会った事のある記者の名前が書かれていた。
シャルロッテさんが興奮気味に俺に新聞の切り抜きを見せつつ、一歩ずつ近寄りながら目を輝かせて言う。
「エリザベト様を助け出したのは人型機械! それを操るのは自由を愛する探索者達! パイロットさんは不明と書かれていますけど、多分貴方! で、ございますよね! ね!」
「え、ええ。まあ……」
「やっぱり! で、ございますか! エリザベト様のお話もあって、使用人の間で話題なのですよ! 天才パイロットで人たらしな黒髪の美丈夫! 素手で戦車を破壊する銀髪の美女! 啖呵を切って騎士団を一個師団動かしてしまう金髪の美女! 探索者達は地を駆け空を飛んで海を割り、絢爛豪華な活躍で、悪人どもを蹴散らして――」
「待て待て待て!? ああいや、待ってください! 何なんすかそのイメージは!?」
「エリザベト様のお話と、新聞の記事からの印象。で、ございます!」
俺が慌てて止めたが、どうもシャルロッテさんは本当に俺達をビックリ人間か何かと本当に思っている様子だった。最初に会った時やたらとフレンドリーだったのは、アクション映画の俳優でも見るような気分があったからなのだろう。
ハッと視線を感じて応接室の開け放たれた扉を見れば、そそくさと人影がいくつも引っ込んだ。シャルロッテさん以外にも何人かの使用人が、ちらちらこちらを見ていたの察知した。
「私は、そこまで乱暴ではありませんよ……?」
「私、どういうイメージで見られてるの……?」
ミルファに続いてシルベーヌもしょんぼりと呟き、肩を落とす。
夕食までの間に誤解を解き、俺達はそういう奴では無いという緊急任務が生まれた瞬間でもあった。
シャルロッテさんがいそいそと新聞記事を仕舞いつつ、俺に興奮した様子で聞く。
「じ、実はあの大きなお車と四角い皆さんも、変形合体したり……?」
「しません! それと、シルベーヌとミルファは淑やかで元気な可愛い人達です!」




