第68話 四角い友達
さて。勲章を貰いに騎士団主催の舞踏会へ向かう事が決まったのなら、またしばらく家を空ける事になる。その前に、こちらでやっておく事は数多い。
車庫に3人で集まると、シルベーヌが指折り考える。
「宿の手配とかはしてくれるって言ってたからいいとして。舞踏号を色んな人の目に晒すなら、きちんと見栄えよくしないとねー。それと私達の服もよね。何着ていけばいいんだろう?」
「そっか。流石にいつもの服じゃダメか」
俺は思わず言って自分の姿を見た。
上下の繋がったツナギは、きちんと洗濯してあるものの機械油や小さなほつれにまみれ。その上からこれまた少し汚れた、ポケットの多い上着を着ているという格好だ。ツナギの下は暖かい下着。上着も裏地がしっかりしており、風を通さない作りになっている。
どちらも実用一辺倒で暖かく。実利的な美しさはあるかもしれないが、決して洒落ているとは言えない。もちろん俺だけでなく、シルベーヌやミルファも似た格好だ。服の色味と、ダラッとしているかきっちりしているかの違いくらいしかない。
どうも3人とも、格好に無頓着なのである。
「この格好では、施設の点検に来た業者として見られてしまいますね。こういった行事では服装規定があったはずですが」
ミルファがそう言って微笑みつつ招待状を再確認しはじめると、シルベーヌが露骨に嫌な顔をして俺に言う。
「ヒラヒラしたスカートとか嫌よ私は……」
「俺に言うなよ! まあ俺も、真面目な服はあんまりなぁ」
「そういえば。最近すっかり忘れてたけど、『幸運の旅人』さんのブランは、こういう事した記憶無いの?」
「無い無い。ちゃんとした服で無いと駄目だよなっていう常識があるくらい」
「そっかあ」
「2人とも。ご丁寧にも、こういった服を着て来なさいという例の写真付きでした。ドレスやスーツはもちろんですが、制服などでも良いそうです」
シルベーヌと話していると、ミルファが招待状の隅に引っかかっていた1枚の紙を見せつつ教えてくれた。それを見たシルベーヌがハッとする。
「制服! どうだっけミルファ? 何か探索者協会にも無かったっけ?」
「はい。記憶が正しければありましたね。協会の規約にも、正式な場に赴く際は着用を推奨するとあったはずですが。そもそも探索者協会の職員ですら着ている人を見た事がありませんね」
「うーん……わざわざドレスとか買うよりはそっちの方が安いのかしら……?」
探索者にも制服があるというのは驚きだ。自分の所属する組織ではあるが、まさかそんな物があるとは思いもしないような組織だったのが大きい。
しかしよく考えれば、色々な人が居る探索者協会で、否応なしに一体感を与える手としては有効なのかもしれない。同じ格好をしているというだけでも、曖昧な仲間意識が生まれるものだ。
2人のドレス姿に興味は非常にあるけれど、制服があるならそっちを着た方が良いのかもしれないし、今回は我慢であろう。
俺は頷いてから2人に言う。
「んじゃ制服見に行くのと、舞踏号の”お色直し”用の塗料とかを買い出しか。協会に行ってからジャンク市寄ってって感じで」
「そうしよっか。軽トラ回すね」
「分かりました。戸締りを見て来ます。ブランは車庫のシャッターを」
「了解っ」
目的が決まればすぐに行動だ。3人それぞれ動きだすのは早かった。あっという間に準備も終わり、軽トラをかっ飛ばして行く。
軽トラの荷台に乗って移動するのも手慣れたもので、もはや普通の座席に座るよりも居心地は良いかもしれない。しかし最近は冷える。風がビュンビュン当たるので、上着の襟元をぎゅっと抑えてしまう。
これはこれで風情があるかもしれないが、何事にも限度がある。ついでにマフラーか襟巻でも探そうかと俺は思ったのだった。
とにもかくにも探索者協会に辿り着き、制服とは如何なるものかと職員に聞いてみる。珍しい物を欲しがっていると思われたようだが、制服自体は確かに存在するとの事だ。小部屋に案内されて少し待つと、薄っすら埃を被っている段ボールを抱え、職員が戻って来た。
段ボールから出て来たのは、これまた決して洒落ているとは言い難い服である。ブルゾンとジャケットの合いの子とでも言うのだろうか。濃いオリーブドラブ色の少しゆったりした上着で、襟や肩がきっちりしているのもあってか、どこか軍服らしさがある。上着の下にはシャツとネクタイをするように告げられた。
一応式典や正式な行事の際に着用する礼服でもあると解説され、着けようと思えば飾緒や階級章のような物も付けれるようになっていた。物としては申し分ないだろう。
しかし奇妙なのが、探索者協会既定の制服は上着だけだという事だ。
能書きを斜め読みして言うには。民間の組織を母体とし、かつ設立当初から色々な人が集っていたメイズの探索者協会では、上にとりあえず同じ服を着ていれば良いという大らかな空気と歴史があり、制服が上しかないのはその名残だという。制服自体も、元は当時沢山手に入った作業着が基礎だとか。
更に職員によると、下は男女共にズボンでもスカートでも。華美過ぎなければ何でも良いらしい。
「うーん……まあ、制服ってこんなもん? ちょっと着てみてよブラン」
シルベーヌは探索者の制服に少しなりとも期待していたのか、いささか腑に落ちないという声色で俺に言った。
断る理由も無いので、とりあえずネクタイを結んでから上着にだけ袖を通してみる。意外と着心地は良いし、ゆったりしているからか、ツナギの上から着てみても窮屈では無い。上着のボタンを留めて襟を正すと、それなりにきっちりした感じもある。
「あ、意外と良いのかも? 男の人には似合うわね。思ったより安いしこれにしましょ」
「ブランのふにゃっとした顔が締まって見えます」
俺の姿を見たシルベーヌが意外そうに、続いてミルファが感心した様子で言った。
部屋の隅にある鏡に自分の姿を映すと、流石にそろそろ切らないといけないくらいに伸びた黒髪をした、ぽややんとした顔の男がそこに居た。軍服とも平服とも言い難い上着をした男は、微妙な顔をしてこちらを見ている。
2人からはまずまずの評価を貰っているが、俺としてはどうも変な感じがしてしまっていけない。
「なんかこう……もっさりしてない? 制服っていうか、何かちょっと変な作業着っていうか……」
「気にしない気にしない! いちいち服装考えるより、とりあえず着とけば良いっていうのが制服のイイとこなんだろうし! んじゃこれ3人分お願いします! サイズはですね――」
思ったままを言った俺の意見はシルベーヌに圧殺され、服のサイズ合わせが始まったのだった。
まあ、シルベーヌの言も分かる。ダサかろうが洒落ていようが、これが制服だからの一言で全ての面倒な要素を排除できるのは大きい。しかも今回俺達は、別に舞踏会を楽しみに行く訳でもないのである。
むしろ制服がいつも着ている作業着などにも似た、動きやすい服というのは歓迎すべきだろう。下に戦闘服を着ていても、一応は上着を羽織れそうな余裕もある事だし。
そうやって制服を購入した後は、ジャンク市に向かって軽トラで走って行く。
舞踏号用の物品はもちろんだが、俺とミルファには別の目的もある。購入する機会を逃しっぱなしだった、汎用作業機械群を見に行く事だ。
ミルファがそれとなくシルベーヌを連れて離れ、後で合流する事にして、俺が1人で件のジャンク屋に向かうという作戦を実行している。
シルベーヌにテトラをプレゼントする予定でミルファと買いに行った時は、劇団員達と遭遇して買う機会を逃したし。もう売られていなくてもおかしくは無いけれど、一縷の望みに賭けて足を進めていく。
なんとなく早足で人ごみを抜け、テトラが置かれていた店舗に向かうと――
「あっれ、増えてる」
プラスチックにも似た質感の、1辺が50cm程の大きさの真っ黒で真四角な立方体。それは1個では無く、3個に増えているのだ。正方形の物と、少し縦長の長方形の物。そして僅かに横長の長方形の物の3個である。
「おっ。お兄さんいらっしゃい。待ってたよ」
愛想の良い店員さんが俺に気付き、弾んだ声言った。
「買いたそうだったからずっと置いてあったんだよ。誰か他に買い手も付かなかったし、むしろ軒先にテトラ置いてると、他の業者が捨て値で置いて行く有様でさ」
「そうだったんですか……なんか、すいません」
「良いって良いって。ジャンクとかガラクタって言っても、やっぱり必要な人に渡る方が気分良いしね」
そう言うと店員さんはにっこりと笑う。手には電卓。そして鉛筆とメモ。愛想の良い笑顔が、一気に商売人の笑顔に変わった。電卓を叩き、羅列された数字を俺に見せつける。
「で、お代なんだけど。テトラを3体セットでこの位」
「……ばら売りは無しですか?」
「無し。一括払いだけ」
店員さんはにこにこした顔で俺に言い、断固とした様子で電卓を突き付けた。3個セットだからそれなりに割り引いてあるのが察せる。
ギリギリ買えない訳では無い。ミルファから預けられた金額に足して、以前と同様に俺の財布を逆さまにすれば買える値段だ。俺の無駄遣いは出来なくなるが――。
「分かりました。買います」
「お兄さん男前だね。そういう人好きだよ」
店員さんは愛想のいい笑顔でそう言うと、そそくさと支払いを済ませて、ちょっとした売買契約書を俺に手渡した。ついでにこの四角いテトラ達は結構重量があるので、軽トラまでの台車を貸してくれる。
軽トラの荷台に3個の『四角い友達』を積み終わり。台車を返して戻ると丁度シルベーヌとミルファも戻って来たところだった。彼女たちは両手に塗料の缶やら、細々した物品の袋を抱えている。
俺は小さく手を振ってから話しかける。
「2人ともおかえり。良い物あった?」
「塗料がセットで安くってさー。それと他にも色々!」
シルベーヌが笑顔で言い、荷台に荷物を乗せようとして目を大きく見開く。
「ど、どーしたのこれ!? テトラが3個も!? え、なんで!?」
「私とブランからのプレゼントです。ちゃんと私達のお小遣いからの出費なので、安心してください」
ミルファが優しく微笑んでシルベーヌに言った。
シルベーヌのぼさぼさの金髪が一瞬ふわりと持ち上がったようにも見え、次いで感極まった様子でミルファに飛びつく。
「ありがと! ありがとミルファ!」
「喜んで頂けて、私も嬉しいです」
2人は飛びつき、飛びつかれた勢いそのままにくるくると回る。そしてシルベーヌはパッと身を離すと、今度は俺に向かって飛びついた。
「おおうっ!?」
「ありがと! ありがとねブラン!」
飛びつかれた勢いそのままに、俺もぐるっと一回転する。胸に顔をうずめるように、ぐりぐりと頭を押し付けられてむず痒い。同時に割とある胸も押し付けられるので、否応なしに体が反応しそうになるがグッと堪えておく。
彼女の身体を抱きとめた状態のままいると、シルベーヌが顔を上げて満面の笑みで言う。
「なんか。こういうプレゼントとか貰ったの初めてかも」
「そうなの?」
「うん。今までそんな機会無かったし。本当にありがとう2人共! 大好き!」
屈託のない好意の表現に、思わず頬が緩む。ここまで喜んでもらえたなら、多少の個人的な出費位は訳も無い。
シルベーヌは再び俺の胸に頭をぐりぐりと擦り付けた後、パッと身を離して荷台にある3個のテトラの方へとすっ飛んでいく。そしてテトラ達をベタベタと触りつつ、子供のような笑顔で検め始めた。
「良かったですね」
静かに俺の隣にたったミルファが、嬉しそうに言った。
俺は緩んだ顔をそのままに返す。
「おう。あそこまで喜んでもらえるとは思わなかったけど。テトラにリボンでも付けた方が良かったかな」
「ラッピングのサービスは、ジャンク屋ではあまり見られないでしょうね。ですが3個もテトラが居るなんて、お金は大丈夫でしたか?」
「なんとかなったよ。大丈夫大丈夫」
笑って言ったけれど、ミルファが俺の顔をじっと見つめてきた。彼女の銀色の髪が肌寒い風に揺れて頬に掛かり、どこか艶めかしくも見える。
小さく咳ばらいをして頬を引き締めると、俺はミルファに聞く。
「ど、どしたの?」
「いいえ。ブランがそう言うなら、そういう事にしておきます」
そう言うとミルファはどこかいじわるに微笑み、そっと俺から離れてシルベーヌの方へと行った。
興奮冷めやらぬ様子のままのシルベーヌを落ち着かせた後、また3人で軽トラに乗って家に帰る。
それなりに重量のあるテトラ達であったが、俺が台車で移動せざるを得なかったところを、ミルファは1人でひょいと担ぎ上げて家に持って入った。流石はアンドロイドの馬力と言うべきだろう。
そしてシルベーヌの部屋に置かれたテトラ達は、すぐさま彼女の手によって修理が始まった。ソフトウェアは触った事が無いと言っていたシルベーヌだったが、その辺りもきちんと対策済みだ。ダースさんの作ったマニュアルがあるのだ。
少し前にダースさんから『シルベーヌちゃんになら分かるだろうから』と渡された分厚い紙束であるが、内容は俺にとってもミルファにとってもチンプンカンプン。ポイントはここだ。気を付けるべきはここだ。というような注意書きも多数あるが、そこの何が大事なのかはさっぱり過ぎる。
しかしシルベーヌにそれを渡すと、ダースさんの言う通り、流し読みして大体を把握したようであった。
「これ、分かりやすい。流石307の人達は違うわね。正規の教育受けてるとやっぱり違うのかなぁ」
感心した様子で言い、あっという間に集中して資料を読みふける。夕食の際も呼びに行かなければ食卓に来ない程で。その際ちらりと見た外装の一部を外したテトラ達からは、何やらケーブルが伸びてパソコンに繋がっていた。
シルベーヌは夕食の後も部屋に籠りきりで、ずっとテトラの整備をしている様子である。新しいおもちゃを買ってもらった子供のようで微笑ましくもあるけれど、その集中力の続きように驚くばかりだ。
「あんまり根詰めるなよ?」
「大丈夫ー、もうちょっとで直りそうだから、もうちょっとだけー」
俺は自分の部屋に戻る前に告げたが、シルベーヌは生返事をしてこちらを見ようともしなかった。まあ欲しかった物が手に入ったのだし、今日くらいは仕方ないだろう。
という訳で。自分の部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。部屋といってもこの部屋は元々物置だから、非常に冷えこむ。なので寝間着を着込み、着れる毛布を羽織り、更に布団の上に毛布という重装備が寝る時の俺の常だ。もちろん暖房器具として、電気ヒーターもあるので申し分ない。
そして睡魔が襲ってくるまでは、枕元に灯した小さな明かりの下、読書をするのが毎晩になっていた。ちょっと小難しい整備の専門書であれば微睡めるし、料理本なら今度作ろうとメモを取っておいたりもするのだが、最近は旅行記が面白い。
世界中の色々な街の話。景色の話。そして宇宙の話。別の星の話。このメイズ島という世界の片隅に居ても、もっと遠い場所の事を知れたり感じれる旅行記は、とても心躍るものがある。
(2人と一緒に、色んなところに行ってみたいな)
なんてぼんやり思いつつ眠ると、次の日の朝も頑張ろうと思えるのだ。
しかし。当然俺も人間で男である。周りの目が無いプライベートな空間だからこそ、真面目な事を考える反面、不真面目な事を考えたりもする。
言い訳がましく言うと生理現象というか、不埒な欲求というか。健康健全な肉体だからこそ、美人2人と共に暮らしているのは中々に毒だ。
今日なんて特にそうである。シルベーヌにテトラをプレゼントしてあんなに喜んでもらい、割とある胸を押し付けられ、柔らかい肉体を押し付けられた。色々と思い出してしまうだけでも、当然肉体は反応する。格好つけて平静を装って堪えた分、こういうふとした時に大きな反動が来るのだ。
普段はグッと我慢して、朝の筋トレやらランニングで発散するのだけれど、今日はどうもそうはいかない。
(居候みたいな自分の状況と2人を思うと。罪悪感凄いんだよなあ……)
なんて事を思って寝返りを打っても、むらりとした欲求が湧き上がるばかり。
色々な決意をして『戦争が起こりそうなら止めたい』なんて立派な事を言っても、こんな単純で声を大にして言えない欲求にすら勝てないのだ。自分の心の弱さを憎む以外無い。
と、まあ。大仰な言い訳をした後。もそもそとベッドの中で動き、そっとベッドの下に隠してある本に手を伸ばす。
隠してある本はもちろん、ダースさんがくれたセクシーな写真集である。正直助かるというか、くれたんだから仕方ないと言い訳が付くという部分が、俺の弱い心にとって非常にありがたい。
枕元に『球体関節特集』と書かれた本を引っ張り上げて、いざページを捲ろうとした――瞬間だった。部屋の扉をおずおずとした様子で数度ノックされ、体が跳ねる。
「……ブラン? 起きてますか?」
「み、ミルファ? どしたの?」
扉1枚隔てて聞こえるくぐもった声。
急いで本をベッドの下に戻し、身体を起こして体裁を整える。ズボンを脱いだりしてはいないし、格好は大丈夫……のはずだ!
「部屋に入っても良いですか?」
「ど、どぞう」
ゆっくりと扉が開き、寝間着のミルファが現れる。
厚手のパジャマに丈の長い半纏のような防寒グッズを着て髪を解いたその姿は、どこかモコモコしていて可愛らしい。枕元にしか明かりを点けておらず、他にはヒーターの仄かな光しか無いのもあって、彼女の微笑みを湛えた顔がぼんやりと照らされてドキリとした。
「シルベーヌが隣の部屋でテトラを整備する音が聞こえてしまうので、ブランが良ければ、眠気が来るまでお話をしたくて」
「あ、ああ。それなら全然! どうぞどうぞ! 本読んでただけだから!」
椅子など無い狭い部屋だ。俺は姿勢を正し、ミルファにベッドへ座るよう促す。
するとミルファは一礼した後。そっとベッドの隅に腰を下ろしかけて、ふと足元に目を留めた。
「ブラン。床に本を置いてはいけませんよ?」
子供を叱るように笑うと、ミルファはベッドの下から少しだけ顔を出している本を手に取り――
「これは……っ!」
「うん? あっ!」
ミルファのハッとした声と、俺の驚いた声が被った。背中を冷や汗が伝い、心臓が胸の奥で動き回る。
彼女は本のセクシーな表紙をじっと見つめ、色々な事を納得した様子で俺の顔をちらりと見た。
「……殿方がこういった本を読むのは知っていましたが、いざ実際に拝見すると緊張しますね」
「ま、待って! 違う! いや違わないけど!」
「私は別に怒ったりしませんよ? 男性ですし、ブランにそういった欲求があるのは当然です。むしろ健康なようで安心もしました。ただ、内容について少々聞きたい事があります」
ミルファが俺の方へ向けて表紙を向け、若干むっとした様子で言う。
「ブランが球体関節を好きかどうか。これについては非常に関心があります。詳しくお話を聞かせて下さいますか?」
「いやその……」
「ゆっくりで大丈夫ですよ。夜は長いですから」
そう言い終わると、彼女はたおやかに微笑む。
俺は背中に冷や汗を感じつつ、今晩は眠れないのを察したのだった。




