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第67話 ヘッドライン

 再びの朝。とても冷え込むけれど、雪が降るほどでは無い寒さの中。

 朝食を済ませた俺達は、それぞれ車庫で装備の点検をしていた。俺は自分の戦闘服バトルドレスや拳銃、ナイフ等に加え、舞踏号の外装を磨いている。

 舞踏号の脇腹は丁寧に皮膚カバーを縫い合わされ、補強もされた後に、上からビニールにも似た保護用のアップリケが張られていた。このアップリケは、いわゆる人型機械ネフィリムサイズの絆創膏だ。

 傷を保護して補強する意味合いもあるが、黒い皮膚カバーと違って灰色なので妙に目立つ。今度塗料でも買ってきて、黒く塗る方が良いだろう。

 ミルファは先の救出作戦で使った追加腕サブアームを手入れしているし、シルベーヌも自分の使う情報端末であるとかを手入れしている。皆同じ場所に居るけれど、特に会話する事も無く各々好きな事をしている状態だ。


 そんな中。ふと耳が車のエンジン音を拾った。何度か聞いた事のある、力強い内燃機関の音色。それに気づいた俺が舞踏号の側から立ち上がって家の表に向かうと、シルベーヌとミルファも顔を上げた。

 家の前に停まったのは、騎士団のゴツイ車だ。中から出て来たのはザクビー中尉では無い。くすんだ金色の短い髪と、一重の優しそうな青い目。痩せているというよりは不健康そうな雰囲気を受ける男性。旧市街に向かう前に一度だけ会った事のあるザクビー中尉の部下。アランさんだ。


「おはようございます。ザクビー中尉の代理で参りました」


 緩い敬礼と共に、アランさんはほんの少しだけ笑った。一度会っただけだが、どうも前よりも痩せたような気がする。やつれている。という表現が正しいだろう。手に握られた分厚いファイルから多忙なのが察せ、きちんと食事を摂っていないような気もした。

 ともあれ、俺は挨拶を返す。


「おはようございますアランさん」

「あっ、名前を覚えててくれたんですね。伍長と呼ばれるよりは、そっちの方が私も気楽です」


 この人の階級は伍長だったのか。と、今思い出したのは黙っておいた方がいいだろう。シルベーヌとミルファもこちらに来たところで、車庫の隅に置いた机と椅子のセットへとアラン伍長を誘う。

 ここ最近は家に307(サンマルナナ)の整備班が来たりする事が多かったので、机や椅子をいくらか用意したのだ。

 側に置かれたストーブの暖かさと、反対に冷たい外気を感じつつ、皆が椅子に座った。机越しにアランさんと向かい合うような形である。


「今日来たのは、もちろん皆さんに色々な連絡があるからですよ」


 アランさんはそう言うと分厚いファイルを開き、真新しい封筒を取り出す。そして封筒を丁寧に俺へ手渡した。

 良い紙を使ってある封筒で、大判のノート大だ。表には『メイズ騎士団統合作戦本部』という印刷がなされており、裏を見ると封筒の口に蝋で封印がしてあった。封蝋には大仰な紋章があり、高級感や特別感を煽る。

 流石に指や普段使いの大型ナイフで開ける訳にもいかない気がしたので、ミルファがそそくさとペーパーナイフを持ってきてくれた。

 緊張しつつ封を切ると、中から出て来たのはこれまた格式高そうな厚紙だ。二つ折りにされた厚紙は3枚。それぞれの表に『ブラン様へ』など、俺達3人の名前が入っている。


「わぁお」


 シルベーヌが少しだけ嬉しそうに、けれど若干怪しんだ歓声を上げた。

 それぞれに紙を渡して自分の分を開き、俺はそれを黙読した後、思わずアランさんに怪訝な声を上げて聞く。


「……騎士団主催の舞踏会? その招待状とか、俺達には分不相応な感じしかしないんですが……」

「えっとですね。ザクビー中尉の伝言があるんですが、ちょっと待ってくださいね」


 アランさんはそう言うと、ごそごそとファイルを捲りだした。 


 その間に顔を上げてシルベーヌとミルファの方を見ると、彼女たちも俺と同様に、怪訝かつ眉間に皺を寄せた顔をしている。

 招待状の堅苦しい文面を要約すれば、『1度ならず2度もメイズ騎士団に協力して武勲を上げた諸君の功績を讃え、騎士団主催の舞踏会で勲章を与える』。という事らしい。場所はメイズ島の東側にある港町ホワイトポート。そこの何だか豪奢な場所でやると書かれていた。

 しかも追記があり。こちらも要約すれば、『他の出席者にも見せたいので、人型機械ネフィリムも持ってきて欲しい』と書かれているのだ。

 もちろん出席するよな。無理強いはしないけれど。もちろん人型機械ネフィリムも持って来るよな。という意思をひしひしと感じる文面に、妙な感じがしない訳が無い。


「怪しさ抜群よねこれ。賑やかしに舞踏号を使いたいって書いてくれるなら、まだ信用できるわよ」


 シルベーヌが招待状をひらひらさせて言った。それには俺もミルファも同意見である。

 目当ての資料を見つけたアランさんが、ほんの少し安心した様子で俺達に言う。


「えっとですね。ザクビー中尉もそれに関しては怪しんでいるんです。舞踏会なんて言っても、要は騎士団と民間の懇親会だとも。皆さんが呼ばれたのは、さっきおっしゃられた賑やかしというのもあるようですが、騎士団内でも注目を集めているようだとも言っていました。それに、舞踏会に出席するのは政財界のお歴々です。メイズの騎士団長もですが、有力な商人や事業主なんかも。それと探索者シーカーさん達に近しい、探索者シーカー協会の副会長も出席なさるそうですよ」

「ウメノさんがですか? こちらで会えなかったのは、ホワイトポートの方に居たからでしょうか?」


 ミルファが少しだけ驚いて聞き返すと、アランさんはザクビー中尉の手で書かれた文字が連なる資料を俺達に見せてくれた。

 3人でその資料を覗き込むと、シルベーヌが呟く。


「じーさんに会って、直接話を聞くには良い機会かもしれないわね。それに偉い人がいっぱい集まるなら、怪しい人とかも分かるかもしれないし」


 彼女はそう言うと、更に腕を組んでため息をついた。


「ここ最近街に居てばっかりで、探索者シーカーらしくないわよねー。埃と遺跡が恋しいわ」

「何言ってんだよ。ちょっと前は街に居たいって言ってたのに」


 俺が笑って聞き返すと、シルベーヌはぼさぼさの金髪を掻いて笑う。


「私は欲張りだからね! それに旅行とか、冒険みたいな事は大歓迎!」

「まあ分からなくもないけどさ。遺跡の生体兵器モンスター相手は俺もやりやすいし」


 その言葉に反応したのはアランさんだ。ハッとして指をパチンと鳴らし、俺の方を見て言う。


「そうです! 生体兵器モンスターの事について、ザクビー中尉から言われていました。すみません、最近どうも忘れっぽくて」

「大丈夫ですよ。それで、一体なんです?」

「ホワイトポートの周辺で、ちょくちょく生体兵器モンスターを見かける事が多くなっているんです。時期としては1ヵ月ほど前からで、その動きが妙なんですよ」


 一度言葉を切り、アランさんが続ける。


生体兵器モンスターの種類は様々なんですけれど、皆一様にぼうっとしてるというか、虚ろな感じで歩いてきているという報告が多いんです。ホワイトポートの守備隊は、こっちの街の部隊より練度は劣りますが、きちんとした実戦部隊です。その違和感は確かなものだと思われます。ホワイトポートでもちょっとした噂になりつつあるとか」


 虚ろな印象を受ける生体兵器モンスター。それには心当たりがある。旧市街で見かけた中型の生体兵器モンスター達だ。異様で虚ろな、どこか様子の変な状態だったのが思い出される。

 俺は何となく顎を触りながら言う。


「確かに、妙ですね」

「それと、ザクビー中尉からそのまま伝えるように言われた事が1つ。『自分達の目で世の中を動かしている連中を見て来い』……だそうです」

「……こりゃあ、行かざるをえませんね」


 俺がそう返すと、シルベーヌとミルファも頷く。

 生体兵器モンスターが街に寄って来ているというのなら、また何かが分かるかもしれない。自分達の目で見て、自分達の肌で感じて、何が起こっているのかを理解するには良い機会のはずでもある。

 そうやって俺達3人は頷き合ったが、対してアランさんはイマイチ事情が呑み込めていないようだった。ちょっとした疎外感を感じているのか、残念そうに言う。


「ザクビーさんもでしたが、皆さん何かしようとしてるんですか? 何だか妙に意気込んでいるというか、ザクビーさんなんか、特に仕事熱心さに拍車が掛かってて、部下としては大変で……」

「特に変わった事はありませんよ。私達は探索者シーカーの仕事をしているだけで、ザクビー中尉は世間知らずな私達に、良い機会だから辞退するなと釘を刺したかったのでしょうね」


 ミルファがさらりと適当な事を言いのけ、たおやかに微笑んだ。その笑顔には有無を言わさぬ説得力というか、向けられた者を納得させる力があった。

 しかし。ザクビー中尉の部下であるアランさんが『戦争が起こるかもしれない』と言う事を知らないのが意外でもあった。俺達が動いているのはザクビー中尉が知っているし、アランさんを自分の代理で俺達の所に来させる程なのだ。信用していても良いとは思うのだが。

 加えて、アランさんは招待状の返事も持って戻るように言われているのを聞き。もちろん向かう事に決めた。また後日宿泊する場所などが決まったら、連絡をくれるという事になる。


「私の仕事は以上ですね。とりあえず、ザクビーさんに怒られずに済みます」


 アランさんがホッとした様子で言うと、彼の腹が小さく音を立てた。本人は少し恥ずかしそうにして謝るが、シルベーヌが笑って言う。


「アランさん。せっかくですし、コーヒーでも飲んで行きますか? 代用コーヒーですけど。後、何か簡単な物でも作りますよ!」

「ああいえ。ありがたいし折角ですけど、遠慮します。私はどうも、いわゆる天然物でないと体が受け付けないみたいで……お菓子とかなら平気なんですけどね。すみません」


 そう言うとアランさんは申し訳なさそうに自分の腹を撫で、そしてそそくさと片づけを始めていく。

 痩せているのはそういう事情があったのだと納得できもしたが、少しやつれた様子なのを見ると本当に不便そうだ。そういう意味では、何でも食べれるし、何かを体が受け付けない俺は恵まれているのだろう。

 シルベーヌもそう感じたのか、少しだけ悩んでから口を開く。


「確かポテトチップスとかチョコバーがあったかな。折角ですし持って来ます! 待っててください!」

「いえそんな――」

「良いから良いから! 朝は何か食べないと駄目なんですよ!」


 アランさんが断るのも聞かず、シルベーヌは家の中へとすっ飛んで行く。

 朝から騒々しいけれど、彼女なりに気を使っているのだ。それはアランさんも理解しているようで、申し訳なさそうにしつつも、どこか嬉しそうでもある。



 そこでふと。俺の耳が聞きなれない足音を拾った。忍び足でこちらを探るような足音で、明らかに姿を隠そうとしている気配もある。多分1人。足音も軽い。

 俺がその気配に警戒するまでもなく。そしてその足音の主は、すぐに俺達の前に姿を現した。


「おはようございますー! 探索者シーカーさん達ですよね! お時間宜しいですかー!」


 朝の澄んだ空気に響く大きな声。その声の主こそ、足音の主でもある。肩まである黒い髪と、金色の二重の瞳。利発そうでハッキリした顔立ちの女性だ。間違いなく美人である。

 年の程は俺達とそう変わらないようにも見え、綺麗めで動きやすい格好をしていた。肩に掛けた使い込まれた鞄から、なにか仕事をしに来ているのを雄弁に物語っている。

 そしてこの人、非常にスタイルが良い。身長こそ俺と同じくらいで、メリハリのあるグラマーな体型をしている。化粧もバッチリで、薄く引かれた口紅や頬紅が、彼女をより魅力的に見せている。

 その女性は俺とミルファに向かって大きく頭を下げた後、騎士団の制服を着ているアランさんを見て大袈裟に驚いた顔をした。


「おおー! 騎士団と仲が良いというのは本当なんですねー! おっと。申し遅れました! あたしはこういう者でして……」


 どこか魅惑的な笑みを浮かべ、女性はグラマーな胸のポケットから名刺を取り出して俺に渡す。受け取ろうとした俺の手を、そっと両手で包むようにされて一瞬困惑する。

 それはそれとして。名刺に書かれていたのは、『メイズデイリー新聞社取材員 チェルシー・スカッチ』という名前と、新聞社への電話番号などだ。


「新聞屋さんですか……でも、メイズデイリーってあんまり聞きませんね」

「去年創刊したマイナー誌ですからねー! ご存じ無いのも仕方ないかと!」


 俺が呟くと、チェルシーさんがすぐさまハッキリした声で答えた。

 ここ最近情報収集に明け暮れていた俺達だけれど、メイズデイリーという新聞を聞いた事が無いのは事実だ。名前こそ有名どころな感じがするけれど、売ってる所を全く見た事が無い。世に溢れているのはもっと別の新聞なので、マイナー誌だというのは本当だろう。

 ミルファと共に訝し気にしていると、チェルシーさんは肩に掛けた鞄から、今朝の新聞を取り出してミルファに手渡した。新聞を開くまでも無く、その1面に俺とミルファが驚く。

 大きな見出しで『深夜のデスマッチ! 市街のはずれで銃撃戦の上、ロボットがバックドロップ!』と書かれており、更に赤錆色の人型機械ネフィリムに舞踏号がバックドロップをした瞬間の写真が載っているのだ。その勢いある写真からは人型機械ネフィリム同士の格闘の迫力が伝わって来ており、俺達のみならず、誰しもがふと目を留めるだろう。


「先日の”掃討作戦”で、探索者シーカーさん達が騎士団と一緒に戦ったと調べさせて頂きまして! しかも一般の方を助け出したヒーローって聞きましたよー! なのでぜひぜひ! 色々とお話を伺えたらなーと!」


 チェルシーさんが言って笑顔を見せ、グラマーな胸元から手帳とペンを取り出した。ぐいぐい来る様子には、こちらに有無を言わさない何かがある。

 そしてちょくちょく言われていた『俺達は派手にしすぎ』という言葉の意味を実感した。ついにというか、とうとう新聞に載るような事になったのだ。舞踏号が目立つのは仕方ないは思うが。これから色々と動こうというのに変に目立つのは、ほんの少しやり辛さを感じざるを得ない。


 隣に立つミルファもそれは同様のようで、姿勢を正しつつも当惑しているのが察せた。チェルシーさんのぐいぐい来る雰囲気に押されていると言っても良いだろう。アランさんに至っては蚊帳の外であるが、彼がチェルシーさんの姿を見る目には、どこか熱っぽいものがあった。

 つまりはシルベーヌが戻ってくるまで、俺が場を持たせないといけない。とりあえずは取材を断るべきだろうと思い、咳払いの後に言うが――。


「あのですね。折角ですけど俺達、あんまりそういうのを受けたくは無くて……」

「えーダメなんですかー! 少しだけでいいんですよー?」


 チェルシーさんはスッと距離を詰め、俺の手を取って両手で包んだ。暖かく柔らかい手をしているし、指にはペンダコがあるのが感じられる。距離も近いし、化粧か香水かの仄かな香りもする。

 けれどそれだけだ。俺の身体は、シルベーヌやミルファの時のようにどきどきしていない。妙な違和感と言うか、この人からは打算的な何かというか。2人とは明確に違う何かを感じるのだ。


 俺が全く無反応なのを察したのか、チェルシーさんはごく僅かに意外そうな表情を見せた。けれどすぐに笑顔に戻って言う。


「優しい顔をなされてますねー! 整備士さんですかー?」

「いえ。俺は……」

「あ、そっちの機械がバックドロップしたやつですよねー! 乗ってる人はどちらにいらっしゃるんですか! それに探索者シーカーさん達は普段なにしてるんですかー?」


 チェルシーさんは全くこちらの話を聞く様子が無い。これは俺の手に負えない。そう確信した。

 そこにぼさぼさの金髪を揺らし、シルベーヌが戻って来る。手にはお菓子の類がいくつかと、ペットボトルに入ったコーラが握られている。

 当然。彼女は俺に近づいたままのチェルシーさんを見て怪訝な顔をした。


「お待たせ……って、声は聞こえてたけど。そちらの方はどなた?」

「おかえりシルベーヌ。この人は新聞社の人なんだってさ。これ名刺」


 アランさんに半ば押し付けるような形でお菓子とコーラを渡し、シルベーヌが名刺を見る。次いでミルファが手渡した新聞を見て、バックドロップする舞踏号の写真に眉をひそめた。


「チェルシーさん? ですよね」

「はいそうですよー! 貴方も探索者シーカーさんですよねー、色々とお話聞きたいんですけどー!」

「これ。いつ撮ったんです? この時は夜中。フラッシュ焚かないとここまで綺麗に映らないでしょ。でもあの時フラッシュ何て見なかった。角度もおかしい。この位置なら私に写真撮った人が見えてたはず。ほんの数m先にね」


 今までずっとチェルシーさんのペースだった会話が、一気に留められた。

 ほんの少し前よりも、いささか押され気味でチェルシーさんが返す。


「それはですねー! ウチにもカメラマンがいましてー!」

「ふーん? あの時の作戦は秘密みたいなもんだったのに、それに付いて来るカメラマンね。で、誰から買ったのこの写真」

「えっとですねー……」


 チェルシーさん笑顔がひきつった。それを見逃さないシルベーヌでは無い。


「言い淀むって事は何かあるのね? 当然だけど、そんな人には何にも言えないわよ」

「……せめて、そこの機械に乗ってた人に会わせてもらえたらなーと思うんですがー……」

「ダメダメ。怪しい人なんてウチのパイロットに会わせられないわよ!」


 そのパイロットは目の前に立って居るのに、まるでどこかにもう1人いるかのようにシルベーヌが言った。

 どうもチェルシーさんには俺がパイロットであるとも思われていないようだし、攪乱には丁度良いのかもしれない。ほんの少しだけ残念ではあるが。


「ほら帰って! 私達は忙しいんだから! あ、アランさんありがとうございます! 色々と調整とかお仕事大変でしょうけど、頑張ってくださいね!」


 シルベーヌはそう言うと、自分の身体から発する見えない圧力でチェルシーさんを追い返し、アランさんには心からの激励を送って見送ったのだった。

 アランさんは両手にお菓子を抱え、少しだけ嬉しそうに。チェルシーさんは得るもの無く、少しだけ悔しそうであった。


 いつもの3人だけになると。シルベーヌが大きくため息を吐いて言う。


「嫌ねーああいう手合いは。ちょっとそれっぽい事でハッタリ言っただけなのに言い淀むとか、後ろ暗い事があるって自分で言ってるようなものじゃないの」

「ハッタリだったのかよ!?」

「あったり前じゃないの! あの時私が、そこまで気が回る訳無いでしょ!」


 俺の驚きに、シルベーヌはやけに自信満々な顔で返してくれた。そして彼女は意地悪な顔になって俺に言う。。


「それよりもさブラン。手握られてたけど、あの人はやめといた方が良いわよ。絶対ロクな事にならない感じするから」

「はい。私もシルベーヌに同意します。あの方はやめておいた方が良いと、女の勘が告げています。それに、手くらい私が握ってあげます」


 ミルファも続いて言い、どこかむっとした表情で俺を見た。

 2人の表情からは色々な想いが読み取れたけれど、それよりもマスコミが動いているというのが気がかりな俺は、車庫に座り込む舞踏号に視線を移す。


 戦化粧をした巨人は、むっつりと押し黙ったままだ。けれど。良くない事が起こるかもしれないと、俺に囁いているような気がしてならなかった。

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