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第66話 変化の把握

 早朝。ほんの少し雲のある晴れ空の下。

 妙に底冷えする気温を感じつつ、俺は日課のランニングをしていた。今までよりも少し距離を長くした、心身の維持では無く鍛錬の為のトレーニングだ。


 色々な事を決意もしたし、大事な目的もある。けれど俺が決意したからと言って、いきなり周りの全てが動き出す訳では無い。世界は俺のような小さな人間とは関係無く、もっと大きな流れで動いているのだ。

 派手な変化はそうそう起こり得ず、まずは日々の生活という名の、漫然とした試練に遭っていると言っていいだろう。まずはその試練に打ち勝たねばなるまい。

 それに。誰が言ったか、健全な魂は健全な肉体に宿るものらしい。その理論が正しいかはともかく。汗を流して身体を動かしていると、全身に血が巡る感じと共に頭がすっきりしてくる。身体を動かす事で心も動き出すような感覚が心地良く、やはり自分の心身は単純なのだと実感していた。


 それに最近の朝は、”単純に”良い事もある。基礎トレーニングを終え、出の悪いシャワーで汗を流してキッチンに行くと、ミルファが起きていて朝御飯を作ってくれているのだ。

 実用一辺倒な寝間着に質素なエプロンを着け、銀色の髪をまとめた深窓の令嬢が、たおやかに微笑んで俺に聞く。


「おはようございます。今朝はコーヒーですか? 紅茶ですか?」


 その声はどこか甘い響きを持っていて、シャワーで綺麗にしたはずの身体がむず痒くなってしまう。

 なんでもミルファは、俺が朝は基礎トレーニングを多めにしだしたのを目撃し、それならばと自分も早起きをし始めたのだとか。

 照れ隠しに俺が色々と手伝おうとしても、彼女はテキパキとこなしてしまっているので、俺の出る幕はほぼ無い。大人しく座って待つ他なく。何故だか嬉しそうな後ろ姿と、その背に揺れる銀色の髪を見つつ。お湯の湧く音色や、包丁が奏でる音律に癒される。

 そして朝の1杯を2人で飲みながら、他愛ない話をするのだ。電気羊の夢を見たであるとか、寝る前に読んだ本が面白かったとか、全く重要では無い話を。

 ゆったりした雰囲気の雑談に気力が充填されていくし、ミルファが嬉しそうに話してくれるだけでも、心に満ちる何かがある。それに俺の性根は単純極まりない作りなので、こうして寝間着の美人と話せるだけで、明日も早起きしてトレーニングをしようと思ってしまうのだ。


 マグカップが空になる頃には、シルベーヌも寝ぐせでぼさぼさになった髪を揺らしつつ起き出してくる。

 食卓に3人集まった後は、暖かい朝食で1日が始まっていく。


 こんな日々を守る為にも、俺は頑張らねばなるまい。情けなくて弱々しい奴では無く、しっかりしていて頼り甲斐のある男を目指さねば!

 そう固く決意をして真面目な顔をしてみるが、俺にキリっとした表情が似合わないだの、ぽややんとしていた方が似合うだのと、2人の少女にいじわるに言われてしょんぼりしてしまうのだった。




 さて。エリーゼさんの救出からまだそう日も経っていないけれど、色々と変わった事がある。と言うよりも、今回は色々な人が関わったりしていて、その動向の把握が大変だった。


 まずは自分の半身、人型機械ネフィリム舞踏号。

 右眼を潰され頭の中を掻き回され、脇腹に深い傷を負ったこの巨人は、ほぼ修理が済まされていた。内装は完璧だが外装はまだと言った具合で。傷の付いた装甲や右眼はともかく、脇腹の黒い皮膚カバーの裂け目から、人工筋肉がちらりと見えるのが痛々しい。

 もちろん俺達3人の手だけで直したのではなく、307(サンマルナナ)小隊整備班の面々の協力もあってこそだ。整備員達はあの赤錆色の人型機械ネフィリムを調査してもいたが、『協力してくれた民間人への報奨』として、今回は正式な仕事として舞踏号の整備も手伝ってくれたのである。

 修理費その他は騎士団持ち。ザクビー中尉が経費で落としたとも噂で聞いたが、真実の程は定かでは無い。ついでに聞くと、赤錆色の人型機械ネフィリムは押収され、証拠品として騎士団で管理されるという。

 整備班員達には世話になりっぱなしだ。特にダースさんには、他にも色々と手伝ってもらっている事がある。


 だが、次にザクビー中尉の事だ。

 あの人は色々な事に忙しくなりつつも、俺達が動けるように情報提供などをすると約束してくれた。中尉の言動は、その大きな体躯も相まって、頼り甲斐のある人だと俺は感じてしまう。

 それに当初。俺達探索者シーカーは舞踏号の修理が済み次第、喋る生体兵器モンスターと関係しているであろう森に向かおうとしていた。けれど、それに待ったを掛けたのもザクビー中尉だ。


「今回の騒動の余波が、メイズ島のどこに影響を及ぼしたか。あるいはどこに響いたか。それらを調べてからでも遅くはない」


 中尉の語る冷静な言葉には確かな実感が篭っていて、若輩者の探索者シーカー3人は、つい首を縦に振ってしまう。

 それに加えて、ザクビー中尉が俺達に教えてくれた事もある。


「人の行う物事を理解するには、特に、原因と理由をしっかりと見極める事が大切だ。よく言われる事だが、いつ。どこで。誰が。何を。何故。どのようにしようとしているのか。それらの正確な情報を集めつつ、対策を練るのがいい。そして今回の場合は、未だに『戦争が起こるかもしれない』という憶測の段階なのを念頭に置いておけ。何も起きなければ、それはそれで構わん」


 次いで。逸る気持ちは分からなくも無いが、騎士団内部の物資の動きを見ても、一朝一夕で何かが起こるとは考えられない。とも付け加えられた。

 それには納得したが、当然俺達もただ待っている訳ではない。俺達なりに出来る事。探索者シーカー協会内部を調べなくてもいけないのだ。



 論より証拠と言う事で。まずは探索者シーカー協会副会長であるウメノさんに会おうとしたが、協会の職員に面会を申し込んでも何の返事も無い。

 無論問い合わせてみるが、副会長は現在多忙で、予定がどうなるかは全く分からないとの事だ。何より、副会長から指示や仕事を預けられた職員は居るけれど、当の本人は忙しくて協会自体に顔を出していないらしい。

 それとなくその指示は何かを聞いてみると、どうも腕の立つ探索者シーカーに目星を付けているようだという事を聞かされた。それも4桁前半の人数という、中々の大人数を集めようとしているらしい。

 周りから聞こえる『近々大規模な遺跡の調査でもあるんじゃないか』と言う噂も相まって、協会に来ている探索者シーカー達は、どこかそわそわしたようにも見えた。

 話を聞いて訝し気にする俺達を見て、対応してくれた職員は、どうも重要な用事で副会長と会いたがっているのを察したらしい。緊急の用件ならば伝言を預かると言われたが、まさか『戦争始める気か聞いて下さい』などとは言えない。俺達は丁寧に礼を述べた後、引き下がった。


 協会から出て駐車場で軽トラに乗り込む前、シルベーヌがぼさぼさの金髪を掻いて言う。


「4桁前半。少なくとも1000人。結構な規模よね」

「はい。何かをするには十分です。規模だけなら、十分な”作戦”が行えるものでしょう」


 ミルファが真剣な顔で答え、ふと周りを見回した。

 今俺達が立っている探索者シーカー協会の駐車場は、有象無象の車両や人物が集まる雑多な場所だ。使い込まれた装甲車に、傷の多い戦車。ライフルを握った人達に、発掘品を検める人達。遠くには輸送用や戦闘用のヘリも見えているし、珍しくトレーラーに横たえられた人型機械ネフィリムも見えた。

 俺は腰に手を当てて、率直な感想を述べる。


「改めて見ると、結構物騒だよなあ」


 俺達は武器を持ち、武器の有る光景にすっかり慣れてしまっている。けれど、視界に写る景色を切り取って『戦中の軍駐屯地』というタイトルでも付ければ、十分に通用するだろう。

 探索者シーカーという存在自体が戦後の歪みを象徴していると、いつぞやミルファが言った気がする。まさしくその通りだろう。俺達は武器を持っているが、軍隊や警察という制御された実力機関では無い。有象無象の信条や信念、目的を持つ、雑多で大雑把な集団なのだ。


「まあオッサンの言う通り、何にも無いなら無いでいいんだけどね。それが一番安心だし。ほら車乗って! 次はアルさんとエリーゼさんとこ!」


 シルベーヌがどこか楽観的に、俺やミルファが俯き加減にならないように気を使って言い、軽トラに乗り込んだ。



 先ほどの通り、次はアルさんとエリーゼさんだ。

 2人は病院で病室に居るかと思いきや、大体は患者の集う談話室で、他の患者さん達と交流を深めていた。

 アルさんはお見舞いに貰ったリンゴを、兎の形に切ったり花の形に切ったりして見る人を喜ばせていたし。エリーゼさんはその淑やかな雰囲気と大人の余裕も相まって、老若男女問わず色々な人と楽しそうに会話をしていた。

 美男美女2人の人当たりの良さはもちろんだが。その間から感じられる熱い恋人の熱波に、周りの人の傷病すらも退散していくように見えたのは、きっと勘違いではあるまい。


 ともあれ。アルさんの怪我は、なんと短期間で大分良くなっている。医療技術が進んでいるのもあるが、弾丸が太ももを貫通したお陰というのもあるらしい。医療の事はちょっと分からないけれど、アルさん自身に回復が早い理由があった。


「どうぞ皆さん、自分のカルテです。ご覧になって下さい」


 もうすっかり顔色の良いアルさんが、病室のベッドの横に備え付けられていた紙束を俺達に手渡した。小難しい専門用語はすっ飛ばし、概要を掴みつつも、俺は少しだけ驚く。


「……過去に怪我をした事があって、片足は義肢。だったんですか?」

「そうです。小さい頃ちょっと交通事故にあって。撃たれた足は、いわゆる生体パーツの義肢です。両親がお屋敷で働いていた関係から旦那様に援助をして頂けて、見た目も中身も、生身と全然変わりませんよ」


 そう言って布団を捲り、巻かれた包帯もすっかり少なくなった足を見せる。そこには確かに肌色の生身の足があり、義肢だと言われてもにわかには信じられない程だ。


「事故に遭う前は両親の仕事の手伝いをしていたんですが、事故の後は義肢の違和感もあって、あまり動けなくて。料理を始めたのも、塞ぎ込んでいた自分に声を掛けてくれたお屋敷の料理長が、芋の皮むきを手伝えと、半ば無理矢理皮むき器を持たされてから興味を持って。と言う感じですね」


 カルテを読んでいる俺達に並行して、アルさんは気恥ずかしそうに自分の事を語った。今話された事情もあるが、床が血だまりになるほど血を流して助かったのは、生体パーツの義肢というのが大きかったようだ。

 サイボーグやアンドロイドが普通に居るこの世界では驚く事でも無いかもしれないけれど、ある意味での異邦人である俺は、その光景とエピソードになんだか感心してしまう。

 その義肢を見て、ミルファがまるで子供のように羨ましがる。


「アルさんもしかして、オーダーメイドの特注品ではありませんか? 生身とほぼ一体化する、オリジン社の高級パーツでしょう?」

「ミルファさんは分かりますか。自分には不相応だとも思ったんですが、旦那様のご厚意で。事故当時はまだ小さかったですから、成長して義肢のサイズが変わる事も考えればこちらの方が安いと押し切られましたよ」


 アルさんは思い出を語った後、ほんの少しだけ暗い表情になる。

 聞けばそれは、自分はお嬢様を危険な目に遭わせたのだから、旦那様に殴られに行かなければ道理が通らない。という、いわばけじめを付けようとしているからだと話してくれた。

 そんなアルさんの言葉を聞いて、エリーゼさんはアルさんに微笑みかける。


「アル。気にしなくて良いのよ。探索者シーカーさん達や騎士団の方々のお蔭で、私はこうして無事。それに、悪いのは人じゃないわ。こういう世の中が悪いのよ」

「ありがとうございます、エリーゼ。けれど自分は、やはり一度旦那様に会いに行かなければなりません。きちんと話さなければ、自分は胸を張ってエリーゼと生きていけません」

「アル……」


 美男美女2人の周りの空気が、艶っぽい熱を帯びていくのが分かる。どうもこの2人は俺達に親しみを感じてくれているからか、別の人達と居る時よりも、こういう雰囲気になりやすい。

 俺がその熱に当てられて、頬を染めつつも小さく咳ばらいをすると、若干慌ててエリーゼさんが俺達に言う。


「そういえば、皆さんにはお話しましたか? 私達は、盗賊達の量刑を軽くするように騎士団のザクビー中尉にお願いしたと」

「そりゃまた……」


 話題が急降下して半捻りし。俺は思わず口が動かなくなって曖昧に答えた。ミルファとシルベーヌも同様だ。

 エリーゼさんは少しだけ不安げに、それでも真っすぐに俺達に語る。


「驚かれるのも無理ありませんよね。私も恐ろしい目に遭いましたし、アルも大怪我をさせられました。でも私は、どこかあの方達を憎みきれもしませんでした。皆痩せて、目ばかりがギラギラして必死な姿を見ていると、私はどうしても」


 ベッドで身体を起こしたままのアルさんの隣で、小さな丸椅子に座ったエリーゼさんが、膝に乗せた手に少しだけ力を込めた。目が覚める程に赤い髪が、はらりと顔にかかる。


「私は恵まれています。その自覚があります。ウーアシュプルング商会の会長の一人娘としてだけで無く、色々な善い人達に巡り合って、豊かで不自由の無い生活を送って来ました。だからこそでしょうね。怖かったけれど、私はあの方達に憐みにも似た想いを抱きました。アルを撃った人にさえです。おかしいですよね。私は偉そうにそう思って、だけどもこんな思いを抱くのは、撃たれたアルに悪いんじゃないかとも思いました」


 けれど。と言葉を繋ぐと、エリーゼさんが柔らかく微笑んだ。


「皆さんが私を助け出してくれた後、病室で2人になった時です。アルは言ったんです。『自分は、自分を撃った人を許します。彼ら皆を許します』と。私は驚きました。けれど、私もその言葉で救われた気がしたんです。アルが許すなら、私もあの方達を許して良い気がして」


 アルさんが、その言葉に応えるように言う。


「自分は両親に、人では無く罪を憎むように教えられてきました。綺麗事かもしれませんが、だからこそです。でも、決して無罪放免にして欲しいと言ったわけでは無くて、必要以上に罪を重くしないで欲しいと話をしただけですよ。法律と照らし合わせて、公明正大で人道的な判決を望むとお願いしました。もし与えられるのであれば、彼らに再起の機会をとも」


 アルさんはそう語り終えると、ちらりとエリーゼさんを見る。その眼差しには躊躇いなど無く、自分の行いは間違っていないと、自分の中で納得しているのが感じられた。

 この人にもベイクと同じく、依って立つ確かなものがあるのだろう。自信があると言うか、ブレない芯が存在するのだ。そこで重要なのは、周りから見てそれが正しいか間違っているかでは無く、自分自身で納得して飲みこめるかどうかに違いない。

 アルさんの言葉からは、そう言った意思が見え隠れしているように思えた。


「甘いですよね。こういう考えは。けど自分は。自分とエリーゼの2人だけでも、せめて当事者の自分達だけでも、彼らの事を想う人が居ても良いんじゃないかと、そう思うんです」


 そう言ってはにかみ、アルさんは不安げに俺達を見る。

 俺はアルさんとエリーゼさんを見て、ベイクとは違う意見だけれど、これもありなのだと感じつつ微笑んだ。


「お二人がそう言うんでしたら、それもありなんだと俺は想います」

「ブランと同じ! アルさんとエリーゼさんらしくて、私は良いと思いますよ!」

「私も2人と同様です。現実的にどうなるにしろ、そういった想いは大切です」


 俺の後にシルベーヌとミルファが続き、2人も明るく微笑んだ。

 そんな笑顔を見てか、アルさんとエリーゼさんはホッとした様子になる。


「皆さんに受け入れて頂けるか少し不安でしたが、そう言って貰えると安心します。……ああそれと。もう一つ大事な話もあります」


 アルさんがふと思い出して言った時、病室のドアが数度ノックされた。エリーゼさんが返事をすると、静かに扉が開かれて、3人の屈強な男達が病室に入って来る。

 頭は爪の先程に刈り込まれ、ほぼ坊主と言っていい。半袖のシャツからは太い腕が見え、ズボンの中で筋肉の詰まった足が主張している。その格好に加え、隅に可愛らしい犬の刺繍がされたエプロンを着けた3人組――


「メアさん達! 何ですその格好!?」

探索者シーカーさん達! お礼も言えずに会えなくて心配だったんですよ!」


 ほぼ同時に、俺と病室に入って来たメアさんは素っ頓狂な声を上げた。

 その光景にアルさんとエリーゼさんが笑い、アルさんがゆっくりと語る。


「もう一つの大事な事です。劇団員の方達には、ウチで働いてもらう事にしたんです。人手は不足していますし、強そうな皆さんが居れば、また変な人達に絡まれたりもしないでしょう?」


 メアさんがそれに答えるように頭を掻く。


「俺達3人。迷惑を掛けていたのに、店長のご厚意に甘えさせて貰っている状態ですね……。頭が上がりません。それに奥さんからは、俺達が劇団で変な目で見られているとしても、真面目に働いて見返してやりなさいと叱られましたよ。その上で今の劇団に居辛いなら、新しい場所を探すのもありだと」


 メアさんが気恥ずかし気に言う店長はアルさん。そして奥さんはエリーゼさんだろう。奥さんと言われたエリーゼさんは恥ずかしそうだし、アルさんも照れて顔がにやけている。

 そしてメアさん達は、姿勢を正して言う。


「あの。探索者シーカーさん達! 本当にありがとうございます! 皆さんに相談したお陰で、俺達3人は良い方向に転がれた気がします! あの時出会えて、本当に運が良かった!」


 言い終わるや否や、3人で声を合わせて再び礼を述べ、ほぼ直角に頭を下げられた。

 当然すぐに頭を上げるように言うと、メアさんが少しだけ顔を上げて俺を見てにこりと笑う。


「今すぐは無理ですけれど、何か手伝える事があったら声を掛けて下さい。俺達で良ければ何でもやります」

「そういう機会があれば。ですね。メアさん達の演技は本物ですし!」


 俺が明るく答えると、劇団員たちもどこか朗らかな顔で頷いてくれたのだった。

 その後はメアさん達が、アルさんとお店について真面目な話をし始めたので、俺達はひとまず退散する事になる。



 関わった人々にも、こうして色々と変化があった。未来がどうなるかは分からないけれど、とりあえずは全員が前を向いている気がする。良い方向に動こうとする善意とでもいうのだろうか。これはきっと尊いものだ。


「俺もしっかり前向かないとな」


 良い方向へ向かおうと頑張る人達に影響されて、不意に俺の口から漏れ出た言葉。こうして周りの人にすぐ影響されるくらい単純なのは、案外俺の心の利点かもしれない。

 そう思うと何だか気が楽にもなり。俺はぽややんとしつつも、シルベーヌとミルファの背を追って、確かな足取りで病院を後にしたのだった。

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