第65話 単純だけれど
次の日の朝。外の空気は澄みきっており、雲一つない空が広がっている。
簡単な身支度の後、俺達は警備だと言う騎士団員に、アルさんとエリーゼさんの部屋に呼ばれた。
そこに向かうと、昨日とは打って変わって落ち着いた様子のエリーゼさんとアルさんが仲睦まじげにしていたが、エリーゼさんは俺達と一緒に昨夜の現場に戻る事になる。
淑やかに軽く手を振りつつ、エリーゼさんが微笑む。
「じゃあ。行って来るわねアル」
「行ってらっしゃいエリー……お嬢様」
他人の目があるからか、アルさんはエリーゼさんの名前を呼ぶことに躊躇いがあるようだった。朝から恋人同士の熱い雰囲気に当てられ、他の全員が肩をすくめざるを得ないけれど、アルさんもエリーゼさんも元気そうで何よりだ。
騎士団のゴツイ車に乗り込んで昨晩の現場に戻ると、沢山の人が集まって来ていた。仕事をする騎士団員達だけで無く、何事かと集まって来ている野次馬も非常に多い。それと同時に、闇夜であまり分からなかった被害状況もよく分かる。
廃工場は半壊。分厚い壁の外側には無数の弾痕が残り、薬莢やら瓦礫、何かの破片が四方八方に飛び散っていた。人型機械達が殴り合った場所は、踏み込んだ足跡がハッキリ分かる程にアスファルトがめくれあがっている。
赤錆色の人型機械は、流石にバックドロップで地面に突き刺さった状態から解放されていたけれど、野ざらしのまま死体のように地面に横たえられていた。遠くからでもダースさん達307小隊の整備員達が、その周りをうろうろしているのが見える。
騎士団で人型機械を運用しているのは、307小隊だけと聞いていたし、当然その専門知識を持つ、彼ら整備班員が駆り出されたのだろう。
そんな様子を横目に見つつ。折り畳みの机とドアの開かれたワゴン車で囲まれた、簡易の指揮所に案内された。その手前で待つように言われたが、すぐにザクビー中尉がゆらりと出て来て俺達を見る。
「来たか」
「呼ばれたからね」
シルベーヌが肩をすくめて返すと、ザクビー中尉は大きくため息をつく。
ザクビー中尉はいつもの鎧を着ておらず、袖を捲った長袖のYシャツを着ていた。シャツの作りからして、騎士団の制服の1つなのだろうと察せる。襟元や捲られた袖からは、プラスチックのような質感の黒い地肌が見えており、彼がフルサイボーグだという事をハッキリと感じさせた。
そんなザクビー中尉が、エリーゼさんに言う。
「捜査に協力願いたい。事情聴取はもちろんですが、こちらの把握していない範囲で、何が起こっていたのかの確認を行いたいのです」
「もちろんです。謹んで協力させて頂きます」
「ありがとうございます。では、担当の者が仕事をするので向こうへ」
促されるまま、エリーゼさんは女性の騎士団員に連れられ、昨晩自分が捕まっていたという部屋へと自ら進んで行く。彼女の足取りからは、昨夜の恐怖など微塵も感じさせない強さが感じられた。
俺達も、改めて各々の配置で自分が何をしたのかという事情聴取などを受ける中。見た事のある茶色い髪が視界の端に揺れた。
精悍な顔つきで、俺とそう年も変わらないであろう青年の騎士団員――。
「ベイク! どうしたんだまた! 今日は一人か?」
「人型機械を使った犯罪があったと聞けば、俺達307小隊が出て来るのは当然だろう。ラミータ隊長は事務の最中だ。それに、人型機械でバックドロップをした奴がいると聞いて、どんな奴か見たくてな」
ベイクはそう言うと、俺を爪先から頭の天辺まで見てから鼻で笑う。
「話は少し聞いたぞ。何でも他人を傷つけて落ち込んでいたらしいな?」
「昨日までの話だよ。今はもう大丈夫」
「どうだかな。俺からすれば、相手は他人を殺したりする事に抵抗の無い連中だぞ。躊躇う方がどうかしているし、連中は死んで当然だ。今死ぬか、後々処刑されるかの違いしかないだろう」
「……そんな言い方、俺はあんまり……」
「甘い考えだなブラン。ともかくお前は人と戦うのが苦手なのが分かった。もし戦争でも起こったら、真っ先に死ぬタイプだ」
戦争という言葉に一瞬だけドキリとするが、ベイクはそこを気にする様子はない。むしろ腕を組んで言い切った姿に、どこか俺を気遣う感じがした。
その感じが気になって、俺は不躾な質問を思いつき。年の近い男同士という気安さのままに聞いてみる。
「なあベイク。変な事聞いていいか」
「なんだ急に? まあ良いが」
「ベイクはさ。人を撃ったり、殺した事ってあるのか?」
「ある。任務で何度もな」
俺の唐突な質問に、ベイクは迷わずにハッキリと答えた。そして俺に向けて、躊躇いの無い言葉を続ける。
「法と秩序を守る為だ。そこに迷いは無いし、悩む必要もない。何事にも実力は必要だ。今回の連中の場合は、ハッキリと罪を犯しているという理由もあるしな」
「そういう、もんか」
「だが勘違いするなよ。俺は決して、人を撃つ事に快楽や喜びを見出していない。全ては任務だからで、それが俺の仕事で、生業だからだ。これを蒙昧だというのなら、俺はそいつの手足を縛って、武器を持った殺人鬼の目の前に丸腰で放り出してやる」
その言葉は少々キツイかもしれないが、ベイクは自分の行動に迷いが無いのだ。
最初に人型機械で殴り合った時もだが、彼は自分が依って立つ確かなものがある。行動原理というか、芯のしっかりした人物なのだろう。俺と年頃も変わらないのにだ。
そして妙な質問をぶつけた俺から何かを察したのか、ベイクは怪訝な顔で俺に言う。
「迷いがあるなら、荒事の多い探索者など辞めたらどうだ? 誰かに止められる訳でも無いだろう」
それは別に煽っている訳でもなく『悩むくらいなら』という親切心からなのが察せた。ベイクなりに俺を慮ってくれているのだ。
深呼吸を一度。俺はぶっきらぼうに自分を心配してくれた騎士へ、ハッキリと返す。
「いいや。俺は探索者をやるよ。心配してくれてありがとなベイク」
「そうか」
ベイクは簡素に返した後、俺に向けて背筋を伸ばすと敬礼をする。そして足早に簡易の指揮所に向かって行った。
依って立つなにか。信条でも信教でも信じる組織でも。そういう確たるものがあれば、俺も情けなく悩んだりしないだろうか? 自己診断としても。強く言われて動揺するのは、内心に迷いがあってブレているからなのは間違いないと感じられるのだ。
その後はザクビー中尉が手で付いて来いと示し、シルベーヌやミルファとも合流して、廃工場の周りを歩きながら話す事になる。しばらく歩いて人ごみから離れた後、ザクビー中尉はちらりと俺を見て、意外そうな顔をした。
「まだ立ち直っていないと思っていたが、存外早かったな」
「まあ、その。元気出させてくれる人も居ましたから」
「立ち直っているなら話すべきだろうな。盗賊の件はこれで終わりだ。彼らは法によって裁かれ、自分達がした事の責任を取る事になる。多くは極刑だろう」
極刑という単語。それが何を意味するのかは容易に想像できる。ベイクの言ったように、彼らのした事を考えれば当然という思いもあるが、俺は決して晴れやかな気分にはなれない。
多分これは、ただ俺が平和ボケしているからこその気持ちなのだろう。戦争に次ぐ戦争をしてきた世界。その戦後の世界では異端な、軟弱者の心のはずだ。
そんな俺の思いにかまける事も無く、ザクビー中尉は話を続ける。
「だが、黒幕がまだだ。何度か起きている殺人事件。山岳周辺でのテレビクルーの殺人。それらを依頼していた存在がな」
「オッサンはその黒幕について何か掴んでるの?」
「劇団員達から話を聞いて確信を得た。盗賊に殺人を依頼していた存在と、アルフォートの店に嫌がらせを依頼した存在は同じだ。メイズの政財界にも影響のある組織で、稚拙な言い方をすれば秘密結社だろう。何を目的に集まっているのかは分からんがな。しかしどうも連中の動きが読めん」
「読めないって、なんでよ?」
「犯罪について考える時。犯罪で誰が利益を得るのか考えるのが思考方法の一つになる。一連の殺人だけなら分かりやすかったかもしれんが、引っかかるのはアルフォートの店への嫌がらせだ。ウーアシュプルング商会に取り入ろうというなら、嫌がらせをする理由は無い。逆に商会を害するとしても、殺人を依頼するような連中が、盗賊達のように商会の弱点になるエリザベトに手を出していない」
シルベーヌが何度か問いかける質問に返しつつも、ザクビー中尉は歩みを止めない。
今度はミルファが小首を傾げて聞く。
「確かに。アルさんのお店への嫌がらせなど、失礼かもしれませんが、殺人とは犯罪の規模が違い過ぎます」
「今まで殺された人々は、皆何か後ろめたい事がある訳でもない普通の人々だ。統計的には恋人や家族が居る者が多いが、決して異様な数字では無い。そもそも年齢も性別も幅広過ぎる。10代から60代まで、偏りがある訳でもない」
「ただ殺す事が目的という可能性は?」
「あり得なくはない。だがそれなら、わざわざ嫌がらせだけをさせる理由が分からない。ウーアシュプルング商会の会長に直接聞いてみるのが早いかもしれんが、どうも向こうは騎士団自体をも疑っている。俺以外でも、騎士団員には話さんだろう」
「メアさん達劇団員が一度捕まった際。騎士団の上層部が不問にするよう言っていましたしね。ウーアシュプルング商会の会長は、それについても何か知っていると、ザクビー中尉はお考えですか?」
「そう考えている。憶測だがな」
ため息と共に肯定すると、ザクビー中尉は一度足を止めた。
殺人などを依頼していた組織。それが存在するのは確かなのだろう。けれど目的が見えないのは、どことなく薄気味悪い。
そしてミルファが聞いたように、ただ人を殺すだけならもっと良い手もあるはずだ。無差別に、誰でも、何にも関係なく。そんな状況を作れれば良いのだから、そうだ――。
「あの。ザクビー中尉」
「どうした」
怪訝な顔をされるが、俺は思い切って言う。
「その組織の目的が、戦争を起こす事。っていう可能性は無いでしょうか。ミルファの言った、人を殺すだけならって仮定が前提ですけど」
「戦争? メイズ島は外部との関係も安定しているし、政情に不安は無い。外敵からの攻撃の心配は無いと言い切って良い。だが、あるとすれば島での内紛か。お前は誰が、誰と戦うと考える?」
当然ながら、ザクビー中尉が聞き返してくる。
誰が、誰と戦うのか。その質問には真っ先に生体兵器の事が思いつくが、これは異端の意見だろう。まずは普通の事を考えるべきだ。
「えっと。騎士団が関係してるようですし、騎士団の事を快く思ってない人達。それか、政権を握りたい人達。くらいなんですかね?」
「ありきたりな回答だな。そのどちらも存在しているが、俺の掴んでいる範囲では実行に移す程強いリーダーを有していたり、実力や気概の有る組織は無い。精々秘密集会の真似事をして鬱憤を晴らしているくらいだ。他に紛争を起こせるような、騎士団に比肩する程に戦力を保有している組織は――」
ザクビー中尉が言いかけて、一瞬言い淀んだ。腕を組み、俺達を見据えてから言う。
「探索者協会か?」
「ちょっと。滅多な事言わないでよオッサン」
シルベーヌが思わず嫌な顔をして言い返すが、彼女自身も腕を組んで考え込む。
「探索者協会は、その構成員の意思が統一された組織では無いはずだ。だが一応聞く。協会内部で何か不審な動きは無いか?」
「……無い事も無い。のよねこれが」
シルベーヌが言い、俺とミルファを見た。
探索者協会副会長のウメノさん、その急な態度の変化。改竄されている報告書。たまに見かけたナビチさんの怒った形相。不審な点なら山ほどある。
俺が頷くと、ミルファも深刻な顔をして頷いた。ザクビー中尉になら、全てを話しても大丈夫だろう。俺達2人の顔を見たシルベーヌが、再び歩きながらザクビー中尉に色々な事を話し始め、廃工場の周りを一周したくらいの頃に全てを話し終えた。
ザクビー中尉が、腕を組んだまま歩きつつ言う。
「喋る生体兵器に、改竄された報告書か。騎士団は都市周辺の事情には詳しいが、より離れた場所となると疎くなる。喋る生体兵器の事など、騎士団内部の連絡では聞いていないから、探索者協会だけが知る情報と言っていいだろう。確証を得たわけでは無いが、どうにも怪しいな」
「ウメノじーさんも、何かしようとしてるのよね」
「副会長の事は俺も知っている。腹に一物ある人物だとは思うが、悪辣では無いと感じていた。が、こうなると不審に思えてならない」
「じーさんとは、私がミルファと探索者しだした頃からの付き合いだし。まだまだ新米な頃から色々と良くしてくれてた。信じてるけど、けど……。あの人が戦争始めようとしてるのかな」
不安げにシルベーヌが呟き、それを聞いたミルファがそっとその肩を支えた。2人は顔を合わせて少しだけ微笑むと、小さく頷き合う。そして2人は真っすぐな目でザクビー中尉を見た。
「ザクビー中尉。協会内部を調べるのは、私達に任せて下さいませんか?」
「私達で聞きたいの。じーさんの本心ってやつを」
「何故そうなる? そもそもお前達は捜査権も持たない一市民だぞ。そういった事は、俺達のような騎士団員の仕事だ。それに。仮に戦争が起こり得るとして、お前達はどうする気だ? 引っ掻き回すだけならやめろ。ただの迷惑にしかならないし、危険なだけだ」
ザクビー中尉が、俺達探索者達へ問いかけた。
そうなのだ。今まで戦争が起こるかもしれないという気持ちは皆にあったが、だからどうしたいかという事を話し合っていなかった。ぼんやりした、何か使命感のようなモノを感じていただけだ。曖昧な。心の奥底にある忌避感だけで、目的が定まっていない。
いいや違う。したい事は決まっているのだ。ただそれが、何か壮大な動機じゃないというだけだ。
俺はザクビー中尉に向け、真っすぐに言う。
「戦争が起こるなら、俺は止めたいです」
「その理由は?」
「理由は――」
厳かな言葉を口の中で練り上げようとして、俺は口ごもった。改めて声に出す事で、自分の心が、別に荘厳な世界平和などを求めている訳じゃないの確かに感じたからだ。
ただ嫌なだけ。ただしてはいけないと思うだけ。そういう心の奥底にある倫理観の基礎のようなモノが、慎ましく俺に囁いている。厳格な言葉に包む事すら憚られる、幼い心情と言っていい。
なんとか取り繕おうとも思ったが、言葉の外見だけを高尚に見せても仕方がない。覚悟を決めて、感じた事をそのまま口に出す。
「――ただ、しちゃいけないと思うからです。俺は戦争の痕だっていう旧市街を見ました。山岳の近くにあった、戦争から逃れて疎開した先の廃墟とか。それこそ地下坑道で風化した死体も見ました。昨晩だって、俺は人を傷つけた気がして、気が気じゃなかった。やってはいけない事をしたと思っていたから」
「単純で幼稚な理由だな。杜撰で近視眼的でもある。社会正義の為や大衆の平和の為など、もっと大局的な理由は無いのか?」
「そこまで頭が回る程、俺は世界の事をよく知りません。だって俺は、遺跡でミルファに舞踏号と一緒に見つけられるまで、意識だって無い奴だったんです。それに人殺しだって言われて頭が真っ白になる位には臆病で、覚悟とかも足りない。弱くて情けない奴です」
口が乾く。目が乾く。だらりとした腕の先で指がせわしなく動き、心臓が胸の奥で跳ねまわる。
「でも。だからこそ、戦争なんて事は嫌だと思うんです。戦争とは違うのかもしれないけど、あんな風に誰かに殺した殺されたって叫ばれるのは、良くないと言うか……ダメだと言うか……」
言葉が詰まりそうになるけれど、必死に自分を叱咤して口を動かした。ここで言い淀んでは、自分の心も曖昧になるような気がするから。
「とにかく。色んな人が俺みたいに、ああいう理不尽で困ったり悲しむのは、絶対良くない事のはずなんです。生体兵器と人間の戦争なら、まだ人間で団結できる気がします。けど、人と人の戦争が起きれば、人が人を傷つけあう理不尽が襲い掛かって来る。特に、俺達みたいに物騒な探索者とか、ザクビーさんみたいな騎士団員だけじゃなくて。エリーゼさんやアルさんみたいに、普通の生活をしてる人が理不尽の犠牲になる。それは絶対駄目なはずです」
喉はたどたどしく、浮足立ったように動いた。けれどこれは自分の感じた、自分の経験と心に根差した言葉だ。
シルベーヌが大きく深呼吸をした後。腰に手を当てて胸を張る。
「私もブランと同じ。別に凄い目標がある訳じゃない。ただ戦争が起こるのは嫌。私は、私や友達とか知り合いが、訳わかんない事に巻き込まれて犠牲になるのが嫌なだけよ。それに、今の私達はひょっとしたら戦争を止めれるかもって立ち位置に居る気がする。止めるように動かないと、絶対後悔するわ」
次いでミルファが姿勢を正し、たおやかながらも芯の有る声で言う。
「私も同様です。戦う事は悪ではありませんが、それに望まずに巻き込まれる人々が居てはなりません。ましてや、生体兵器という人間の絶対悪相手なら理解できますが。人と人の戦争は、もう十分すぎる程行っています。例えこのメイズ島内だけの小さな紛争であろうと、止められるのであれば止めるべきです」
2人はそう言うと、俺の方を見て微笑んでくれた。その笑顔に背中を押されるような。背を支えられたような気がして、俺も自然と背筋を伸ばして胸を張った。
今までの事を振り返ると分かる。自分をきちんと持たないといけないし、何事もタイミングと勢いが重要なのだ。俯いていても仕方がない。正解じゃなくて間違っているのかもしれないけれど、動かなければ後悔するだけだ。
ザクビー中尉は探索者3人を見つめ、一際大きなため息をついて腕を組んだ。
「単純な思考だが、まあ良いだろう。信頼できる人手は常に不足している。非公式だが、お前達にも色々と協力してもらうぞ」
「オッサン!」
「ザクビー中尉」
シルベーヌが嬉しそうに言い、ミルファもパッと顔が明るくなる。
「だが心に留めておけ。俺は治安の維持と犯罪の捜査が任務だ。戦争が起こるなら、それを止めるのが仕事になる。目的が一致しただけだ」
どこか気恥ずかしそうにザクビー中尉は言い切った。この文字通りの黒いサイボーグは、更に続けて言う。
「それにどうせ、俺はこれからもっと煩雑な事務処理や関係者への対応に掛かりきりになる。勝手に部隊を動かして、それなりの予算を使いもしたのだ。しばらくは動けん。シルベーヌ。ミルファ。ブラン。頼んだぞ」
「はい!!」
各々名前を呼ばれ、俺達探索者は大きな声で返事をしたのだった。
戦争が起きそうならば止める。その決意は固まったけれど、もう少し目の前の事後処理があるので、ザクビー中尉やシルベーヌとミルファが歩き始める。
俺は足を止めてその背を少し見てから、深呼吸の後に自分の両頬を一度叩いた。
目が覚めて意識がハッキリしたような気がして、グッと空を視る。青い空に雲は無く、そろそろ天球の頂上に着こうかという太陽があるだけ。
迷ってはいけない。躊躇ってはいけない。誰かの為では無く、自分が後悔をしないようにだ。『それもあり』だと色々な事を飲みこんで、きっちり自分なりに消化できる心を鍛え上げよう。
そう自分を律した後。俺は3人の背を追って歩き出したのだった。
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