第56話 今も昔も
「なんだァ、姉ちゃん? このマズそうな屋台の店主と知り合いか?」
「……ええ、そうです。しかし失礼な言葉は撤回して下さい」
男達の嘲笑するような言葉にエリーゼさんが真剣な表情で返したのを、アルさんが慌てて止めるべくレジから抜け出し、男とエリーゼさんの間に割って入った。
「やめて下さいお嬢様! すみません、お客さん。今日は店仕舞いなので、機会があればいずれ」
爽やかな笑顔で男達を帰そうとするアルさんだったが、中でも屈強な男が、アルさんの胸倉を掴んで吐き捨てるように言う。
「ヘラヘラしてんじゃねえよ。お前ここの店主か?」
「すみません! はい、そうです!」
「笑うなって言ってんだよ。マズそうな飯を自慢げに見せられると気分が悪いんだよ、分かるか?」
「すみません! 善処します!」
「善処なんざしなくて良いんだよ。店辞めれば良いんだからな」
その後も続く男とアルさんの意味の無い問答。悪意は明らかだ。
ミルファがそっと動き、目立たぬように立ったところでシルベーヌに目配せすると、シルベーヌが毅然した態度で啖呵を切り始める。
「その手を離しなさいよ。それに好き勝手言ってくれるわね。今は営業時間外だからまだしも、店先で小汚いだの粗末だのと軽く言えるアンタ達の言動。本当に腹が立つわ」
唐突に女の子に声を掛けられ、屈強な男は一瞬困惑した様子だった。シルベーヌの割りと低い背は、屈強な男と比べるとよりハッキリとしており、子犬がクマに喧嘩を売っているようにしか見えないのだ。
だが屈強な男はアルさんから手を離すと、シルベーヌを真っすぐに見据え、近づきつつ言い返す。
「何だテメエ。部外者がしゃしゃり出てくるんじゃねえぞ」
「お生憎様。制服見て分かんない? 今の私は店員。店長が、商品も買わない上にやたらと偉そうで迷惑な客に絡まれてるから、助け舟を出すのも当然でしょ」
「迷惑だとォ?」
「当たり前でしょ? ガタイ良いのに頭の中身スッカラカンなの?」
シルベーヌが鼻で笑うと、屈強な男は一瞬で敵意を剥き出しにしてシルベーヌを睨みつけた。
売り言葉に買い言葉とはこの事で、空気が瞬く間に悪い意味で熱くなっていくのが分かる。
屈強な男がシルベーヌを睨んだまま言う。
「嬢ちゃん。あんまり生意気な口効くのは良くねえぞ」
「えらく前時代的な煽り方と絡み方ね。まるでお芝居みたい。だとしてもアンタは大根役者よ」
「テメエッ!!」
男の逆鱗に触れたのか、大振りな拳がシルベーヌの顔目がけて振るわれた――が、彼女は大きく一歩下がって拳をかわした。後方支援が多いとはいえ、シルベーヌも危険な場所に赴く探索者なのだ。その身のこなしは手慣れたもので、回避しつつ反撃の用意もしているのが分かった。
しかしシルベーヌは眉間に皺を寄せて仁王立ちになると、腰に手を当てて大喝する。
「すぐ手を出すのも馬鹿ね! 自分が何してるか分かって無い!」
「ガキが生意気に!!」
再び振るわれる男の大きな拳は、間に割り入った細い腕になんなく止められた。微動だにせず男の拳を握りしめているのはミルファだ。
ミルファは冷たい表情で、グッと男の拳を握ったまま勧告する。
「やると言うなら容赦はしません。私達は探索者です。それ相応の戦い方を心得ています」
「探索者だと? しかもテメエ、戦闘用の身体したアンドロイドか!」
ハッとした様子で離そうとした男の拳を、ミルファは冷たい表情のまま捻りあげた。関節が極まっているいるのか、苦々し気な顔で屈強な男は膝を付き、ミルファを見上げて脂汗を垂らし始める。
そして男が痛みに耐えつつもミルファに叫ぶ。
「離せっ……!」
「今後。私達と店に関わらないと約束をするならば」
「ああッ!? テメエ舐めてんのか――あがががっ!?」
「生身の方のようですが、中々鍛えておられますね。無理に動くとご自身の力で骨が砕けますよ。私としても、そういった事は不本意です」
ミルファが淡々と言い、後ろで狼狽していた残りの男2人に視線をやる――が。男達の更に後ろから、凄まじい気合を発するベイクが近づいて来て、辺り一面に響く大声で叫ぶ。
「貴様ら何をしている!!」
「ああッ!? 今度は誰だ!?」
「メイズ騎士団第307独立特殊戦車小隊! ベイク・キース少尉だ! 私闘は法で禁じられていると知っての事か!」
「騎士団!?」
屈強な男が驚いた顔で返し、他の2人もベイクの大声と気合に当てられたのか、狼狽したまま逃げ出した。屈強な男もミルファの手から何とか逃れると、慌てた様子で逃げ出していく。
「騎士団員が居るなんて話が違うじゃねえか! 適当な事言いやがって……! 覚えてろ!」
そう言って先に逃げ出した2人の背を追い。すぐに姿が見えなくなった。
俺も何かあったら飛び出そうとしていたのだけれど、ミルファが素早く動いた為に完全にタイミングを失っていて、半端な中腰で固まっている状態だ。逆にミルファやシルベーヌは落ち着いていて、荒事が多いという探索者を長い間しているだけある。彼女たちはこういった状況にも慣れているのだ。
だからと言っても。つい固まってしまっている俺の行動は少々情けない。いかに訓練を積んだとはいえ、生体兵器の相手と人間相手は違うのを実感したと言っても良い。人間相手に躊躇いなく動き、自衛のためとはいえ相手を傷つけるかもしれない事に、俺は根っこの部分で抵抗を覚えていたのだろう。
でも。抵抗を覚えているからと言って動かないのはダメなはずだ。今回は幸い皆に怪我は無かったが、もしもの時に動けないなど、情けないで済まされる事ではない。
大きなため息の後。シルベーヌが腕を組んでミルファに言う。
「最後のセリフまでお芝居みたいだったわね。今どき珍しい」
「はい。喧嘩慣れしている様子もありませんでしたが、シルベーヌは大丈夫ですか?」
「大丈夫……じゃなくて、ちょっと怖かったかも。自分でも訳分かんない啖呵切っちゃったし、馬鹿なのは私よね。それにごめんねミルファ。用心棒みたいな事させて」
「気にしないで下さい。私は自分の身体がこういった事にこそ向いていると、理解していますから」
2人の会話に並行して、ベイクが固まっている俺に近づいて怪訝な視線を向けた。
「何をしている」
「……いや、俺は、パッと動けなくて……」
「気にするな。拳を振るったのは1人。お前の仲間の探索者も反撃したのは1人。防衛は過剰でも無かったし、正当なものだ。お前が動けなかったという過程はどうあれ、流血沙汰にもなっていない。結果は十分だ。メイズの法と秩序を守る騎士団員として、仕掛けられたお前達に味方する理由にもなった」
そう言って一度言葉を区切ると、ベイクは真剣な目で、まだ自分の情けなさを噛み締めている俺を見る。
「もしかしてお前は『自分は躊躇わずに喧嘩も出来る』という蒙昧なアピールをしたかったのか? だとしたら俺はお前を見損なうぞ。騎士団での訓練の成果を、そんな事に使うなど」
「そんな気は無い! ただ、自分が情けないと思って……」
「なら、なおさら気にするな。お前の仲間は、庇護されるだけのか弱い存在ではないだろう。今の行動と以前の任務を鑑みても、危機に瀕して動ける才覚と気概のある人物達だ。俺が言うのも変だが。落ち着け、ブラン」
言い方にトゲがある気もしたが、それ以上にベイクは俺達を心配してくれているのが、語気から伝わって来た。
でも、そうだ。シルベーヌやミルファは、決してか弱い女の子じゃない。色々な事が歪んだ戦後の世界で生きているだけあって、俺よりも荒事に慣れているし逞しいのだ。
深呼吸を一度。俺は自分が動かなくてはいけないという思い上がりを反省し、ベイクに向き直る。
「ベイク。シルベーヌとミルファを、それにアルさんやエリーゼさんを助けてくれてありがとう」
「騎士団員として当然の事だ。礼を言われるような事じゃない」
「まったく。本当だよベイク。僕は面倒事が増えるだけだと止めたのに」
不意にラミータ隊長が歩み寄り、気だるげに頭を掻きながら俺とベイクの会話に割り込んだ。
「ベイクが派手に名乗りを上げたせいで、僕達は通常任務に加えて、この件に関わらなきゃいけなくなったんだ。所轄とか色々あるし、探索者達に任せておけばよかったのに」
「しかし隊長。俺は目の前でさっきの様な事が行われているのを――」
「ベイクは見逃す事が出来ないんだろうね。それは美徳だと思うけれど、損する事も多いよ。大人になる事も考えると良い」
ラミータ隊長は反論しかけたベイクに冷たく言うと、大きくため息をついた。しかし頭を切り替えたのか、明るい声と共にベイクの背を軽く叩く。
「ほら! 何してるんだベイク! さっきの3人を追わないのかい? わざわざ遠くまで聞こえるように名乗りを上げた君には、法と秩序を守るメイズの騎士として、義務と責任がある!」
「はい! 隊長!」
「それじゃあブラン君。僕たちはお仕事だ。積もる話もあるけれどまた今度、時間がある時にだね」
ベイクは力強い敬礼の後、猟犬のように走り出し、逃げ出していった3人の男を追いかけ始めた。そのベイクの後を、ラミータ隊長が俺に笑顔を見せ、ゆっくりと歩いて追っていく。
そうだ。ベイクと言う騎士団員。治安を維持する警察官のような存在が居たからこそ、さっきの男達は逃げ出したのだろう。ミルファの力にもいささか狼狽していたようだが、騎士団員が居る事の方が効果があったのは確かである。
つまりさっきの男達は、自分達が騎士団に知られて都合の悪い事をしている自覚があったのだ。そして『話が違う』や『適当な事言いやがって』という捨て台詞。これらが意味するのは、男たちの背後に依頼人のような存在が居た事に違いない。
なんて事を思いつつ騎士団員2人の背を見送ると、ミルファとシルベーヌが俺に声を掛け、アルさんとエリーゼさんの側へと戻る。
こちらもアルさんがエリーゼさんに、さっきの男達は何だ。こういった嫌がらせを受けているのか。いつからだと、質問攻めにされていた。
しばらくかかりそうなので、俺達3人で片づけの続きをして、詳しい話はアルさんの家に戻ってから。と言う事になる。アルさんも片付けをしようと――というよりもエリーゼさんの叱責から逃げようと――したが、ミルファがにこやかに笑い、プラスチックの椅子を2つ出して言う。
「店長はエリーゼさんとお話をしていてください。積もる話もあるでしょうし、片付けは私達だけでも出来ますから」
「ミルファさん。自分は――」
「ありがとうございます。アルフォート、折角の厚意を無下にしてはいけませんよ」
すまなそうにするアルさんに対し、アリーゼさんは堂々と返して頭を下げた。
そうやって片付けが終わるまで、アルさんはエリーゼさんと色々と話し込んでいたが、どこか嬉しそうでもある。やはり、恋人が自分を追いかけて来てくれたのが嬉しいのだろう。
それでも片付けが終わって移動できるようになるまで、アルさんはどこか申し訳なさそうでもあった。
その後は場所を変え。アルさんの家に集まった俺達は、白いテーブルクロスの引かれた食卓に着き、エリーゼさんの話を聞いていた。少しだけカーテンの引かれた窓からは、外が夕闇に包まれつつあるのが見えている。
食卓の上には、アルさんの淹れた香り高い本物のコーヒー。砂糖やミルクだって天然物の品で、普段飲んでいる物とは段違いだ。
そしてエリーゼさんは少しだけ頬を赤らめつつも青い瞳を嬉しそうに輝かせ、上品な手付きでコーヒーを飲みながら語ってくれる。
要約すると。
アルさんは小さな頃から両親と共にエリーゼさんの住む屋敷で働いており、年の近かった2人は自然と仲が良くなっていた。美男子と美女に育った2人はそのうち惹かれ合うようにもなったが、エリーゼさんの家は戦前から貿易商を営む良家であり、一介の料理人であるアルさんとは不釣り合いだと、エリーゼさんの父親に宣告されてしまう。
幸いアルさんの料理の腕が素晴らしいものだった為、色々な人々と会食をする事も多いエリーゼさんの父親は、アルさんをすぐに解雇する事も無かった。けれども、あまり娘に近づくなと厳命され、2人の間には大きな壁があった。
しかし、障害が多い程に燃え上がるのが人の性なのか。屋敷の使用人達の協力もあって、2人は心を通じ合わせ、公には出来ずとも幸せな毎日を過ごす。そして将来も共にと誓いまでしたが、ついに父親にバレた結果アルさんは解雇され、屋敷を追い出された後は、エリーゼさんを忘れようと自分の店を持った。と言う事だ。
戦争で歪んだ戦後の世界でも、人の営みは対して変わらないのかもしれない。
ともあれ。シルベーヌが興味津々という感じでエリーゼさんに聞く。
「それでエリーゼさんは、アルさんを追って?」
「ええ。酷いんですよアルフォートは。もう自分に関わらないで下さいとだけ言った後。いつの間にか屋敷から消えていたんですから」
「あれは、旦那様からも厳しく言われていたので……」
アルさんがいささか心細げに、いつも付けている作りの甘いエプロンを触り、所在なさげに両手を机に置いた。それを見たエリーゼさんは嬉しそうに笑う。
「本心では無かったのくらい、アルは嘘が苦手ですから分かります。それはあの時の言葉からも感じましたし、そのエプロンが何よりの証拠です」
「お嬢様……」
「昔、私の作った不出来なエプロン。買った方がよっぽど良いのに、わざわざ使い続けてくれているなんて」
そう言うとエリーゼさんはアルさんの手に、自分の手をそっと重ねた。
また画になる2人が甘い雰囲気を醸し出す前に、俺は慌てて聞く。
「そ、それでアルさん。さっきの男達について、何か知ってる事とかありませんか?」
「す、すみません! 多分、昔働いてくれていた店員達にも嫌がらせをしていた人達だと思います。何度か話に聞いた風貌と一致しますから」
「アルさんのお店の知名度が上がって来ましたから、ついに直接手を下そうとしてきた。というところでしょうか。偶然とは言え騎士団員のベイク少尉が一喝してくれましたし、私達探索者も居ると向こうは理解したはずです。しかし――」
アルさんの後にミルファが言い、少しだけ悩む様子で続ける。
「脅威が完全に去ったとは言えません。今後の為にも、何か手を打つ必要があります。が、相手を徹底的に痛めつける事や、四肢を千切るような残虐性を発揮して敵意を抑え込む事は、理性ある人間として避けるべきでしょう」
「怖い事言うなよミルファ……。でも、対抗策は要るよなあ。生体兵器相手みたいに、ぶっ飛ばして終わりってならないのが人間相手の難しいところか」
「本当よね。変な逆恨みとかは怖いし。売上が安定してくるなら、警備員を雇うとか? 探索者も、警護の依頼ならやる人が多いかもね。動ける店舗なんだし、なるべく騎士団の詰所の近くで営業するって手も良いのかも?」
ミルファに続いて俺も首を捻り、シルベーヌも真面目な顔で案を出した。
そうやって探索者3人でどうしたら良いかを話し合っていると、エリーゼさんが驚いた顔で俺達を見ていた。それに気づいた俺が2人に聞く。
「どうしました?」
「いえ。私の知っている探索者達とは、随分雰囲気が違うので……。失礼ですが、銃を握って傭兵紛いの事をしている人達だとばかり……。それに、アルの事を思って色々と考えて頂けるなんて」
「まあ、物騒な事してる自覚はありますね……。でも乗り掛かった舟ですし、この位はしないと。な?」
最後の言葉はシルベーヌとミルファの2人に言うと、2人はもちろんだと言って明るく笑った。
そしてシルベーヌが明るい笑顔でアルさんとエリーゼさんに言う。
「安心してください! どういう対応するか決まるまでは、何かあったら私達が守ります! これ位は依頼の内ですし、別料金取ったりしませんから! ”高い柔軟性を持って臨機応変に対応”するのが依頼ですしね!」
その言葉を聞いたエリーゼさんとアルさんは、どこか救われたような顔をした後、顔を見合わせる。そして優しい声で、何かを確かめるように話し始めた。
「アル。貴方は良い人達に会ったのね」
「ええ。お嬢様。探索者の皆さんが来てから、良い事ばかりです。店の売り上げも上がったし、人気も出てきていて、自分も休める時間が増えました。それに……」
「それに?」
エリーゼさんのきょとんとした顔に、一瞬だけ溜めて、アルさんが爽やかな笑顔で答える。
「エリーゼ様が自分の所に来て下さいました。こんなに幸運な事はありません」
「アルフォート……」
「自分も分かっています。エリーゼ様が出奔したのは、すぐに旦那様が知るでしょう。これから前途多難な事も分かっています。それでも自分は、エリーゼ様が自分の所に来てくれたことが……」
また画になる2人が甘い雰囲気になりつつあるのを察し、シルベーヌが微笑んで俺とミルファの袖を引っ張った。『邪魔しちゃ悪いし、今日は退散』という言葉を、目でハッキリと語っている。
深呼吸を一度。俺は小さく咳ばらいをしてから、今にも抱きしめ合いそうな美男子と美女に言う。
「じゃ、じゃあ俺達は今日はこれで! また明日来ます!」
「あっ、はい! すみません!」
「探索者の皆さん。今後とも、アルフォートをよろしくお願いします」
アルさんが慌てて答え、エリーゼさんが小さく頭を下げた。
そしていそいそと俺達は家から出て、舞踏号の乗っているトレーラーに向かう途中。ミルファと一緒にニヤニヤしていたシルベーヌがふと振り向き、何かに気付いて顔を赤くする。
どうした? と口に出す前に俺も視線の先を見ると、窓にかかるカーテンの隙間から、アルさんとエリーゼさんの姿がちらりと見えていた。
2人は熱い視線で何かを語り合うと、アルさんからエリーゼさんと唇を重ねた。そして2人はそのまま抱きしめ合い、熱い抱擁を交わし、互いの身体を確かめ合いだす。
「わっ、わー……うわーっ……! アルさん、やるわねー……!」
「見、見てはダメですよシルベーヌ……」
シルベーヌが興味津々という様子で顔を真っ赤にし、ミルファは自分の顔を手で覆いつつも指の間から窓を見つめ、小声で言い合った。アルさんとエリーゼさんはこちらに気付く素振りも無い、完全に2人の世界だ。
俺も頬が赤くなるのを感じつつ、視線を逸らして2人を小声で叱る。
「こらシルベーヌ! 見て良いものじゃないだろ! 覗きじゃないんだから!」
「や、でもさ……うわっ……! わーっ……! あんなにキスするんだ……!」
「す、凄いですね。見えにくいですが、アルさんの手が、エリーゼさんの――」
「ミルファも実況とかやめなさい! ほら帰るぞ! 晩飯の後は調べものだ!」
まだ少し見ていたそうな2人をトレーラーに押し込み、俺はトレーラーの運転席に飛び込んだ。
荷台で俯く舞踏号も半ば名残惜しそうだったのは、気のせいだと思いたい。




