第54話 動く広告塔
良く晴れた午前。もう半袖の時期は過ぎたと確信できる天気の日。アルさんの依頼を受ける事が決まってから数日の後だ。
俺達はアルさんの家兼事務所に呼ばれ、業務の細かい説明や、明日からの仕事に向けての最終確認を行っているのだが――。
「あぁ、舞踏号が……」
俺は自分の半身とも言っていい人型機械を見上げ、なんとも言えない声を漏らした。
顔に紅い戦化粧をし、鈍色の装甲を纏った厳めしい機械の巨人――だったのはほんの数時間前まで。今の舞踏号は、身体の装甲のいたるところに広告が描かれたポスターが張られている『動く広告塔』だ。
目立つ部分では、右肩に『エビロールセット 今なら増量中!』と写真付きで大きなポスターが。左肩には『現在開店中! この足元までどうぞ!』と書かれた明るい彩りのポスター。胸の装甲や背中、太ももにも同様の広告が。近づいて来た人の目が届きやすい両脛の装甲板には、大きな文字でメニュー表が張り出してある。
そして〆に。余った広告用の紙を貼り合わせて作った白いコック帽子が、舞踏号の鉄兜のような頭に乗せられた。顔の戦化粧はそのままなので、妙にミスマッチで愛嬌がある。
やや俯き加減に事務所の駐車場に座り込む、そんな広告だらけの舞踏号。俺の意に反して、心なしかウキウキして見えるのは気のせいに違いない。舞踏号も格好良い方が好きな奴だと思いたい。
ともあれ、アルさんが感心した様子で舞踏号を見てシルベーヌに言う。
「これは目立つね! まさしく動く広告塔だよ。車とかじゃ、この目立ち具合は出せない!」
「ポスターはきちんと固定してありますけど、すぐ剥がせるようにもしてます。新しい物への張替とかもカンタンですよ」
「でも、足元に人が来たら危なくないかい? この人型機械、立つと結構身長あるんじゃ?」
「そこは安心してください! 私のパイロットは優秀ですから! ね? ブラン?」
シルベーヌはアルさんにそう言って、若干項垂れる俺に明るく笑いかけた。
その笑顔でいささか気持ちを取り戻した俺は、背筋を伸ばしてからアルさんに答える。
「任せて下さいアルさん。俺だってパイロットという自負がありますし、危ない時は片足立ちでも何でもして、人に怪我をさせません。何だったら足元周りは近寄れないように、ロープとかで囲めば良いですしね。それよかシルベーヌ。舞踏号を元に戻す時は大丈夫なのか?」
「そこは安心して良いわよ。装甲に金具付けてポスターを張り付けてあるだけだから、中身はガチガチの戦闘用のまま。一緒に整備したブランやミルファも見てたと思うけど、関節の強化とかがまだ間に合ってないだけね。本格改修はお金が入ってから、307の人達に謝礼を渡して手伝ってもらう感じかなあ。まあ今回はミノタウロスぶん投げたり、槍投げしたりする仕事じゃないし大丈夫よ!」
俺の質問に明るく答えると、シルベーヌは腕を組んで満足そうに微笑んだ。
そう。舞踏号は外見こそ歩く広告塔と化したが、中身は修理をして、307の整備班に修理を手伝ってもらった時とほぼ同等と言って良い。指のテーピングや追加装甲はそのままで、ポスターの下の装甲は、実戦の傷がある本物だ。
違和感があるのは、きっと今まで戦ってばかりで舞踏号を。人型機械を兵器としてしか見ていなかったからだろう。思えば平和な利用の仕方など、あまり考えた事が無かったかもしれない。自分で自分の可能性を狭めていたという事も有り得るし、せっかくなので今回は肩の力を抜いて気楽にいかねばなるまい。
そんな事を思っていると、隅の方に人影が現れた。普段は襟足で括っている銀色の長い髪をまとめ、頭の後ろで団子にしたミルファである。その格好は普段の実用一辺倒な作業着から変わり、膝丈のスカートと半袖で襟のあるシャツ。そしてエプロンといういで立ちだ。
少しだけ気恥ずかしそうに、ミルファがはにかんで俺達に聞く。
「制服に着替えました。どうでしょうか?」
「うん! 似合ってるよ! 流石美人さん! これは売り上げが上がるよ!」
「やっぱりミルファは何着ても似合うわねー、流石私の相棒!」
アルさんが爽やかに褒め、シルベーヌも親指を立てて褒めちぎる。
確かに似合っている。簡素な格好のはずだが、このままバーや高級な料理店に行っても働けそうな程に上品で優雅に見える気がした。加えて普段見慣れないシャツとスカートなのも相まってか、すらりとした足や腕、その陶器のような肌艶に、つい目を奪われてしまう。
ポカンとして見ていると、ミルファがいささか不安げな顔で俺に問う。
「へ、変ですか? ブラン? やはりいつもの格好の方が――」
「いやいやいや! 凄い似合ってる! 綺麗でつい、見惚れちゃったというか、本当。良いよ」
「そ、そうですか! 良かった!」
慌てて褒めちぎると、ミルファの不安げだった顔がパッと明るくなった。そして彼女は、今度はシルベーヌに目を向けて言う。
「さあ、シルベーヌも着替えますよ」
「えっ!? わ、私はスカートとかいいよ! ミルファと違って似合わないし!」
「仕事なんですから、文句を言ってもしょうがないでしょう」
「ま、待って待って! 私はエプロンだけで良いから! 良いよねアルさん!?」
そう言うとミルファはシルベーヌの首根っこを掴み、返事も聞かずにシルベーヌを引きずって更衣室へと連れて行った。
この場に居るのはアルさんと俺だけになったところで、アルさんが爽やかな笑顔で俺に話しかけてくる。
「明るい御友人達ですね。一緒にお仕事をして長いんですか?」
「ええまあ。探索者仲間と言う事で」
「良いですねぇ。お宝を探して遺跡を巡る大冒険! みたいな感じですか!」
「大冒険とはいきませんけど、遺跡を巡りはしてますね。実際危ない事ばっかりですよ。アルさんはこのお仕事をしてどれくらいです?」
「店を持てたのは、ほんの2ヵ月くらい前です。元はとあるお屋敷で料理人として雇われてたんですが、ちょっと色々あって辞めまして。元々、そのうち独立して店を持ちたかったので、貯金とかはあったんです。少し早いかなとも思いましたが、良い機会だから店を持ちました。やる気はあるんですが、世の中難しくて大変ですよ」
そう言ってアルさんは首をすくめ、爽やかに笑った。金褐色の短髪と優しい一重、画になる雰囲気も相まって、とてもモテそうな感じだ。
しかし、色々あって――か。気になるところだけど、今詮索するのはどうも良くない気がする。単純にコミュニケーションを取っている回数や、一緒に居る時間が少ないので、心理的な距離があるのだ。
俺の身体はアルさんからは敵意や猜疑心を感じていない。感じの良い人だし、前回の言動を鑑みるに、本人も自分の影響を気にしていそうだから、聞けば教えてくれそうな感じもある。それでもやはり、グッと踏み入った事情を聞くのは良心が咎めてしまうのだ。結局。俺が小胆なのだろう。
その後も他愛ない話をしていると、ミルファが笑顔で戻って来る。その隣には、制服に着替えて恥ずかしそうに頬を赤らめ、耳を真っ赤にしたシルベーヌが立っていた。
普段は男らしく立っている足先が内股になり、少しだけスカートの裾を持って伸ばそうとする姿など初めて見る。割とある胸がシャツ越しにもハッキリ分かり、スカートもミルファより女性的なラインを描いていた。決して太っている訳では無く、健康的で密度のある身体なのがよく分かり、俺はドキリとしてしまう。
そんな姿を見たアルさんが、爽やかで嫌味の無い声を上げる。
「おお! 似合いますねシルベーヌさんも! 華がありますよ!」
「ど、どうもー……」
シルベーヌはおずおずと言った様子ではにかんで会釈をし、ちらりと俺を見た。先ほどのミルファと同じく、不安そうな目だ。同じ轍は踏まない為にも、俺が先に動く。
「凄く似合うよ。何かスカート姿が新鮮だし可愛い。健康的な感じが素晴らしい!」
「なんか、何かブランに言われると悔しい……! ミルファの時より余裕あるし……!」
「ええー……褒めてるのに酷くないか……」
「褒められるのも恥ずかしいの!」
顔を赤くしつつもシルベーヌは答えると、深呼吸をして腰に手を当てて背筋を伸ばす。そして小さな咳払いの後に、いつも通りに努めてミルファに話しかける。
「スカートはスースーして落ち着かないのよねー。パンツが冷える感じがしちゃう。ミルファもそう思わない?」
「そうですか? 私はあまり感じた事ありませんし、スカート自体は好きですよ。やはりお洒落な物も多いですし。実はこっそり買ってあるんですよ」
「えっ、そうだったの」
「履く機会が無いので、タンスにしまってあるだけになってますが。シルベーヌに貸しましょうか?」
「……ウエストがキツイかも。アンドロイドは食べすぎとかで体型の変化が無くて羨ましいのよね」
シルベーヌは呟くと、やや恨めし気にミルファの細い腰を見た。そしてその腰をぎゅっと掴んだので、ミルファがくすぐったそうにしてじゃれ合いだす。
ミルファは深窓の令嬢のような、そして美麗な西洋人形のようだとも言える華奢な体付きをしている。対してシルベーヌは健康的で張りのある体付きで、適度な肉付きが魅力だ。
そんな2人のやり取りを聞き、アルさんが微笑んでから俺に言う。
「何だか、お屋敷に居た頃を思い出します。お二人を見ていると懐かしくて、自分も元気を貰えます」
「そう思ってもらえたら幸いですね……ほら2人共! 仕事だろ!」
俺が苦笑いしつつ答えてから声を掛けると、2人は真面目な顔になってこちらに近づいて来た。舞踏号の支度や2人の支度が終わった後は、いざ実際何をするかという確認と、接客などの練習なのだ。
もちろん俺もずっと呼び込みと言う訳にはいかないので、同じく真面目な顔になったアルさんの話を聞き始めた。
そうやって迎えた初の勤務日。結果としては大成功だと言って良いだろう。
アルさんのトレーラーの横で、俺が立って胸を張る。片手には即席の看板も握り、口で少し大きな声を出せば、かなり多くの人が興味を抱いてくれた。
特に子供などはこっちを見て手を振ってくれたりするので、軽く手を振り返したりすると、とても喜んでくれる。そして子供が来ればその親達も自然と俺に視線を注ぐ。財布を握る大人が俺に興味を持ち、足元まで来れば脛に大きく書かれたメニュー表がある。
広告まみれの巨人の脛にメニューが貼ってあるというのは、普通に看板を見るよりも可笑しいらしい。そして足元に人だかりが出来ていて、その人だかりが何事かと更に人を呼ぶ。更に俺は遠くからでも目立つので、何かの催しかと、どんどん人が増えて来る状態だ。
そんな中。足元まで来た老齢のご婦人が、俺に聞く。
「ねえロボットさん。人が多くて分かんないんだけど、これは何処で買えるの?」
『はい! あちらになります! ご注文が決まりましたら、列にお並び下さい!』
俺がビシッとテーピングまみれの指で示す方向には、アルさんのトレーラーだ。こういった所作も、人型機械なればこそ効果がある。足元に居る人々が、俺の指さした方をつい見てしまうのだ。
そして見てしまった人の大半は、アルさんのトレーラーから良い匂いが漂って来るのに気付くだろう。サイドメニューのフライドポテトや、オニオンリングなどの揚げ物の香りである。
それらと色々な種類のホットドッグが食欲を刺激し「せっかくなので食べてみようか」と、トレーラーに向かえば勝利は目前だ。
アルさんの爽やかな笑顔。シルベーヌの人好きする笑顔。ミルファのたおやかな笑顔。それらと共に、アルさんの料理が手渡される。
これが本当に美味いのだ。手頃な価格に反して、予想の3段は上を行く味をしていると言って良い。特にオススメのエビロールは絶品で、まさしく飛ぶように売れていた。
多めに用意したはずの机と椅子は全て埋まり、軽食なのが幸いして、トレーラーの近くに立ったり、適当な所に腰を下ろして舌鼓を打ってくれている人が多く出た。それらの人を見た別の人が、俺やトレーラーに気付いて、また人が集まって来る。良い循環が出来上がっていた。
お試しの意味も込め、昼前からおやつ頃まで営業したのだが大繁盛だ。全てが品切れ品薄の状態で、材料はもう欠片も残っていない。今日の営業時間は昼前からおやつ頃過ぎまでと広告にも明記して無かったら、店を閉める機会は無かっただろう。
全員で一度アルさんの家に戻ってから、アルさんが震える指で売り上げを計算するのを見守りつつ、俺は聞いてみる。
「ど、どうですか?」
「……すごいですよ! こんな額初めて見ました! ほら!」
アルさんが驚愕しつつも嬉しそうな顔で売り上げの書かれたノートを見せた。俺達3人がノートを覗き込むと、今までとは比べ物にならない程凄まじい黒字が書かれている。
「わぁお」
「これは凄いですね」
シルベーヌとミルファも、すっかり着慣れた制服のまま明るい声を上げて目を丸くする。
アルさんは、まだ薄っすらあるクマすら吹き飛ばす笑顔で俺達を見た。
「探索者さん達、ありがとうございます! まさかここまでとは! 皆さんのお手伝いがこんなに効果があるなんて! 自分はなんてお礼を言えばいいのか分かりません! ありがとうございます!」
「俺達というか、舞踏号のおかげですよ。アイツは目立ちますから」
「私達も、アルさんに言われた通りにレジとか調理とかしてただけだもんね」
「はい。人を集めた後は、アルさんの料理の味が大事です。そしてその料理は、とても美味しいものですから」
俺に続いてシルベーヌとミルファが答え、皆嬉しそうに微笑んだ。
そんな笑顔を見て、アルさんはじわりと涙ぐむ。爽やかな顔に男泣きが、やはり画になる男性だ。
「いえ、もうなんとお礼を申し上げて良いか……! ああ、こうしてはいられません! 明日の仕込みと仕入れをしないと!」
「もちろん俺達もお手伝いしますよ。準備だけでも大変でしょうし」
「すみません何から何まで……! 助かります!」
再びアルさんが爽やかな顔で言った瞬間。ぐぅっと誰かの腹が鳴った。音源は俺の隣に立つシルベーヌの腹で、今までで一番大きな音だった。舞踏号の駆動音かと思う程である。
その音と発信源に気付いた俺が少しだけ吹き出してしまうと、シルベーヌが顔を真っ赤にし、無言で俺の背中を叩いて来た。
俺達を見てミルファが微笑み、アルさんも涙ぐんだ目を拭いてから笑って言う。
「もし良かったら、今日の夕食は自分にお任せ下さい! もちろん挟むものではなく、きちんとした料理です! 自分の専門は本来コースだったり、会食なんかで召し上がってもらう料理ですから」
「そういえば、アルさんはお屋敷の料理人だったと仰っていましたね」
ミルファが答えると、アルさんは自慢げに手作りエプロンを触り胸を張った。
「ええ! 自分はこれでも、料理長には高い評価を受けていたんです。でも、料理人は口より腕で語るべきだと料理長も仰っていました。やらせて貰えるなら腕によりをかけますよ!」
俺の背を叩いていたシルベーヌが手を止め、顔の赤さを戻しながらもアルさんに答える。
「じゃあ、せっかくなのでお願いします」
「分かりました! どんな物が良いですか? 肉魚野菜。調理法も何でも大丈夫ですし、お代はいりません!」
「えっ。なら。うーん……お肉を」
「かしこまりました!」
アルさんは爽やかに答えると、明日の材料も含めた品物を書き出すと言って動き始めた。俺達も手伝って買い出しに向かい、普段使いの車に山ほど材料を乗せて家に戻ると、まずは腹ごしらえだとアルさんが告げて準備をしだす。
「食前酒は良かったんですか?」
「いえいえ! これからまだお手伝いがありますし、飲むのはダメですよ!」
「そうでしたね。気を使わせてしまいした」
アルさんは俺とそんな会話をしつつも、テキパキとした動きで食卓を彩って行く。質素なテーブルにはとっておきだと言うテーブルクロスがかけられ、顔が映るほど磨かれた銀のナイフやフォークが並べられる。そして少しの間ご歓談下さいと出された水には、透き通った氷と共に、飾り切りされたレモンが浮いていた。
ふわりと香るレモンの香り。刺繍のされた白いテーブルクロス。艶やかな銀の食器。さっきまで売り上げで喜んでいた部屋が、高級料理店の個室に見える程の雰囲気の変わり具合だ。
シルベーヌが驚いた顔をして、同じく驚いている俺に言う。
「……何か、凄いわね。ここまで10分かかってないくらいでしょ?」
「手慣れてるってレベルじゃないな……アルさん一体何者だ?」
「というかこれ。ナイフとフォークいっぱい出されたけど、どれから使うのよ?」
「俺が分かる訳無いだろ?」
「あ、でもこのフォーク良い銀使ってる……舞踏号の電装品に使ったら良さそう……」
「舞踏号の頭に刺したりするなよ?」
「する訳無いでしょ! 刺すなら胸の電装品よ」
「否定するのそこ!?」
田舎者丸出しという俺とシルベーヌに対し、ミルファは凛として口元に微笑みを湛え、静かに水を飲んでいた。皆いつもの作業着に戻っているけれど、やはりミルファの姿だけは令嬢のように見える。
俺とシルベーヌが変に緊張していると、やがてアルさんが丁寧に盛り付けられた皿を3つ持って来た。こちらも爽やかな顔に微笑みを湛えて配膳する姿は堂に入っており、『トレーラーでエビロールを作るお兄さん』
から『一人前の料理人』の姿に変わっている。
目の前に置かれた皿には、僅かに香草がまぶされた生ハムとチーズ。ハムは向こうが見える程に薄く切られ、まるで美麗な扇の様に盛られたそれらは、食べるのがもったいないと感じる繊細さに満ちていた。
「前菜です。ちょっとしたコースを作るつもりですが、皆さんお腹が空いているでしょうし、あまり時間の掛かる物はしません。でも、自分もこうやって誰かに振る舞うのは久しぶりなので、何卒お付き合いください!」
アルさんは俺達の前に皿を置くと嬉しそうに言い、一礼した後そそくさと厨房に戻った。
その背を見送った後。ミルファがナイフとフォークを優雅に手に取って、俺とシルベーヌの田舎者2人に微笑みかける。
「並べられたナイフとフォークは、外側から使うんです。1品に1セットづつですね」
言われるまま、見様見真似でハムとチーズを口に入れ、俺の身体に電気が走った。
美味い。何が美味いのか分からないくらい美味い。いつぞや食べた黒い合成肉の何かとは真反対のベクトルで、何で美味いのか分からないくらい美味い。
雰囲気に因るものだとか、口当たりのいい切り方なのかとか、そういう事も考えずにバクバクと食べ進め、一瞬で皿を空にしてから一息ついた。隣を見ると、シルベーヌも同じく一瞬で皿を空にしており、ミルファは少しづつ、上品に食べ進めている。
そんな田舎者の片割れが、凄く美味しいしお洒落で良いけど、と前置きしてから言う。
「少ない! 一口じゃないの!」




