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第53話 〃

「あった。これね」


 探索者シーカー協会の建物に戻った後、シルベーヌが依頼の羅列された端末を見ながら言った。

 手招きされたので、俺とミルファもシルベーヌの横から端末を覗き込み、俺は眉間に皺を寄せて呟く。


「……食品の移動販売車の手伝い。給仕、調理、広告などなど。幅広く様々な事を、高い柔軟性を持って臨機応変に対応できる方求む……」

「要は行き当たりばったりでも何とか出来るような人材が欲しい。という事でしょう。移動販売車というと、フードトラックですね」


 ミルファが答えた後。シルベーヌが端末から顔を上げると、どんな物か想像が付いていない俺に言う。


「ブランは見た事無いんだっけ? 移動販売車って言っても、これはコンテナとか引っ張れる大きいトレーラーを改造した車の事ね。お店がそのまま移動できるような感じって言ったらいいのかな」

「トラックの荷台全部がでっかい屋台って事か?」

「イメージはそれで良いかも。10トントラックの荷台がお店になってるのとかあるわよ。売ってる物もお店ごとに色々あって、結構数多いのよ?」


 そういう物があったとは知らなかった。俺があまり街並みを注意して見ていなかったせいかもしれないが、トラックの周りに人だかりがあるのは見た事あるような気がしなくもない。

 もっとも。食事に関しては自炊かファーストフード店、騎士団の食堂に行く事が多かったのが理由か。人間満足していると、案外それ以外の物を探そうとしないものなのかもしれない。

 シルベーヌが再び端末に視線を落とし、俺とミルファに言う。


「報酬は……内容にしちゃ割と良いわね。しかも来れる日だけでも良いって書いてあるし、今の私達には丁度良いかもね。話だけでも聞きに来てって書いてるし行ってみようか。場所はメイズの中央寄りの場所。壁の向こうって感じ」

「んじゃそっち行ってから、舞踏号の修理パーツとか買って帰ろう」

「はい。では手続きを」


 俺とミルファが答え、3人でゆっくりと街へと繰り出した。



 再び軽トラの荷台に乗ってメイズの街を移動するが、307(サンマルナナ)小隊に向かう時も止められた検問で、俺達の軽トラは止められた。何か目を惹くような物も持っていないのに何故だろうと3人で不思議がっていると、鎧を着た騎士団員が近寄ってきて、呆れた顔で荷台の俺に言う。


「君。壁の外ならいざ知らず、こっちに来るなら荷台に乗ってちゃダメだよ。狭いかもしれないけど助手席に行って」

「あ。そうですよね! すいません!」


 うっかりしていた。移動の際は荷台に乗ったり立ったりしてばかりだったので、本来は人が乗らない危険な場所だという認識が薄れていた。会釈しつつ荷台から飛び降りると、ミルファが助手席のドアを開けて微笑んだ。


「どうぞ。詰めればなんとかなります」

「お邪魔しまっす」


 助手席に入ってドアを閉めると、騎士団員は気怠そうに早く車を出せと合図を送って来た。シルベーヌがゆっくりとアクセルを踏み、軽トラが再び走り出す。

 元来1人乗りの助手席に2人だ。危ないので運転中のシルベーヌの腕や身体に当たらないよう、極力ドアに寄っているのだが、必然的にミルファが凄く近い。というより身体の側面が密着しているし、いい匂いがする。彼女の体温も伝わってくる。彼女の襟足でまとめた銀色の髪が、俺の背を撫でているような気もした。

 はにかみつつ、俺はミルファに言う。


「いやあ狭くてごめんね」

「いいえ。もっと近寄っても良いんですよ?」

「もっとって、これ以上どうするんだよ」

「膝に乗せて貰えれば大丈夫ですよ」

「それは、色々と問題が……」

「私は気にしませんし、この場合は仕方ないでしょう?」


 さらりと言いのけると、ミルファはいじわるに笑った。こうして押してくる間は凄く強気なのがミルファなのだろう。いつぞやのように押し返してみたいところだが、隣にはシルベーヌも居るのだ。

 そしてそのシルベーヌがハンドルを握ったまま、ニヤニヤしつつこちらをちらりと見てから口を開く。


「熱いわねーお二人さん。ブランも鼻の下伸ばしていやらしー」

「これは仕方ないだろ! 男の性ってやつだよ!」

「健康な男の人なのは良い事ね! あ、ちなみに私は異性が好きだからね? ブランは男の子もイケル口みたいだけど」

「おまっ……! あれは文化の違いって事になったろ!?」

「どうだか。顔赤くして言われてもね?」


 俺の反論にシルベーヌが快活に笑い、ミルファもくすくすと微笑んだ。2人の笑顔が見れるのは良いが、せめてもの対抗として、俺は外の景色を見ながら愚痴るように呟く。


「俺だってなあ、女の子とキスしたりが良いよ。でもあれは嫌じゃなかったし、むしろ後々、俺の反応でティムが傷付いたりしてないかなって不安になったんだぞ……」

「そこまで不安にならなくても良いと思いますよ。ティムの接吻は純粋な好意、その表現の一つだったのでしょうから」


 ミルファが俺を励ますように言い、シルベーヌもそうだと同意して頷いた。そして信号待ちになった時。2人は一度顔を見合わせてから俺に言う。


「勘だけど。あれは()()()()()じゃなかった感じするもんね」

「はい。乙女の勘で分かります」


 2人はそう言って、俺に明るい笑顔を見せつけた。自分も大いに使っている、勘という曖昧だけど確かな根拠を言われて何も返せなくなり、俺は頬を掻いた。



 そんなこんなで件の場所に着くと、依頼人の場所はすぐに分かった。低めのビルの谷間にある広い公園。その隅に、明るい色で塗られた大きなトレーラーが停まっていたからだ。

 遠くからでもよく見えるトレーラーは、荷台の部分が長方形の貨物コンテナのように真四角だ。しかしコンテナの一面が跳ね上げ窓のように上に開いており、跳ね上げた部分が屋根になっている。そして開いた部分には、ガラスケースやレジ、商品を渡すカウンターらしい物が見えていた。

 そのトレーラーの周りには何人か人がおり、安いプラスチックの椅子と机のセットがいくらか出してある。周りに居る人は皆、サンドイッチかホットドッグのような物を食べているから、軽食を提供する屋台。というか移動販売車なのだろう。

 軽トラを適当な所に停めて3人でトレーラーに近づくと、眼を凝らしていたシルベーヌが何かに気付いた。


「あ、これ知ってる! 最近美味しいって噂になってるお店だよ!」

「有名店だったの?」


 俺が聞きかえすと、シルベーヌは少し悩んでから首を横に振る。


「有名。って訳でもないかなあ。まだ知る人ぞ知るって感じみたい。でっかいエビの入ったサンドイッチが美味しいとかなんとか」


 近づいてから足を止めると、トレーラーの近くに出されたメニューが書いてある看板や、トレーラー自体に書かれたメニューが色々と分かる。オススメのところにエビロールと言う、ホットドッグのような形のパンに、野菜と茹でた太くて大きなエビが、零れんばかりに大量に乗っている写真が載っていた。

 他にも普通のソーセージが入ったホットドッグ等もあるので、つい3人でメニューを眺めて話していると、カウンターの奥から爽やかな声が響く。


「いらっしゃいませ! お決まりでしたらどうぞ!」


 金褐色の髪を短く切った、爽やかで清潔感のある、感じの良い男性だ。年は20代の後半だろうか。整った顔立ちと、しなやかで少し背の高い体躯。優し気な一重の奥に、白目とハッキリ分かれた黒い瞳が特長的だった。

 美味しそうなメニューに心を奪われ、つい本来の目的を忘れていた俺達はハッとして顔を引き締める。


「ああいえ! 俺達、探索者シーカー協会で依頼を見て来た者で!」

「おおっ、探索者シーカーさん達がホントに来てくれるとは思ってませんでした!」


 カウンターの奥からグッと身を乗り出した男性は、少しだけ作りの甘いエプロンを付けていた。そして更にカウンターの奥からぐっと手を伸ばし、爽やかな笑顔と共に握手を求めて来る。

 まずは俺がその手を取ると、力強く握り返して言う。


「自分はアルフォートと言います! アルと呼んでください!」


 俺も名乗り返し、その後にシルベーヌとミルファも続く。見た目が爽やかな印象だからか、アルさんはカウンターの奥から身を乗り出して握手をする姿すら、妙に画になる人だった。華があるとはこの事だろう。

 全員の自己紹介が終わった後、シルベーヌが話を切り出す。


「今日来たのは、とりあえずお話だけでも聞かせて頂こうと思ってです。詳しい事を聞かないと、依頼受けても何をしたら良いのか分からない感じでしたから」

「そうでしょう、そうでしょう! 少し待っててください。店を閉めちゃうんで」

「え、良いんですか? まだ明るいですよ?」

「開業時間は気まぐれなんです。秘密ですけどこれ、営業戦略なんですよ。特別感を出す為の」


 少しだけ驚くシルベーヌに、アルさんはわざとらしく声を潜めて答えて爽やかに笑った。次いでテキパキと後片付けをして、跳ね上げ窓のようになっていた部分を閉める。そしてプラスチックの机を1台と、椅子を4脚持って、まだ食べているお客さんのから少し離れた場所に俺達を誘った。

 言われるままに椅子に腰を下ろすと、アルさんも椅子に座ってから大きく深呼吸をする。少しだけ雰囲気が変わり、目の下に薄っすらとクマがあるように見えた。疲れていたり、寝不足な感じが察せる。

 そして作りが甘いエプロンは、どうやら手作りらしい。無地で飾り気の無い物で、色々なところがほつれたりしているのが分かったが、とても大事にしているようだった。


「さて、お仕事の話ですよね」


 アルさんがパッと顔を明るくし、爽やかな笑顔で話を始める。


探索者シーカーさん達にやって欲しいのは、単純にウチの店の手伝い。口コミなんかでじわじわ人気も出だしてるんで、これを機会にグッと知名度を上げて、売り上げも伸ばしたい。っていうのが大まかなとこです」

「お手伝いってなると、やっぱり配膳とかですか?」


 シルベーヌがポケットから手帳とペンを取り出し、さらさらと要点を書きとりつつ聞き返した。


「それ以外にも簡単な調理とか、商品を包んでもらったり、レジもですね。それと宣伝もです! ウチはまだ駆け出しで、トレーラーが店なんで、色々な所で店を出せるのが利点です。朝は人通りのある道。昼は色々企業の入ってるビルの前。おやつ頃は今みたいな公園。って感じですね。人が多い場所へと動けるフットワークの軽さが、今の自分の強みだと思ってますから」


 でも。と、アルさんは机をトントンと指先で叩きつつ言葉を繋ぐ。


「移動するから、大きい看板とかが使えなくてダメなんですよね。ここにウチの店を今出してるぞ。って、お客さん達に分かってもらえない。動く広告塔でもあれば良いんですが、そうもいかないから人手でカバーしようと。依頼を受けてくれるなら、看板持って呼び込みしてもらったりとかを考えてます。他にも思いつけば様々な事を!」

「なるほど。高い柔軟性と臨機応変さっていうのは、そういう意味だったんですね」

「自分はあまり賢く無いので、ちょっと言葉が硬くなりましたけどね。包丁握るのは得意なんですけど、何分1人で切り盛りしてますから、新しい事をするには人手が足りなくて」


 シルベーヌが返した言葉に、アルさんはそう言って苦笑いした。

 商売の事はあまり分からないけど、常に人の多い場所に向かえるのは、確かに強みになりそうな気がする。

 しかし。今の話を聞いて疑問も湧くので、俺はアルさんに聞く。


「やる事は大体分かりました。けど、なんでまた探索者シーカーに? それこそ、こういうのは一般的なお仕事ですし、普通に求人を出しても人が来そうな気がしますけど」


 何気ない質問だったが、アルさんの整った顔が少し曇った。それでも、すぐに真面目な顔で俺を真っすぐに見て答えてくれる。


「自分は隠し事が苦手です。ハッキリ言うと、うちの店はちょっとだけ嫌がらせをされてるんです」

「そりゃまた……」

「変な話でしょう? ウチみたいな小さい店舗にですよ? 何度か人を雇ったりもしたんですが、皆すぐに辞めて、いえ。辞めさせられてるんです。ウチで働くのは楽しいとも言ってくれてたんですが、妙な連中に脅されて怖いと。騎士団にも通報はしたんですが、他に優先する事があるらしく、もっと直接的な被害が出ないと動いてくれないようで」


 自嘲するように言った後、肩をすくめたアルさんの顔に陰りが差した。それでも元が良いからか、画になる感じがする男だ。


「自分のせいで他人が傷付くのは良くありません。働いてくれていた人達には辞めてもらって、お客さんとして来てくれるように言いました。それが良いんです。まあ仕事はちょっとキツイですが、店の小ささが幸いして、自分1人が頑張ればなんとかなりますしね。でも、流石にそろそろ限界で……」

「”臨機応変”に動ける探索者シーカーを頼った。って事ですか」

「ええ、一縷の望みってやつです。もちろん、こんな話を聞いたからこそ、断って頂いても良いんですよ! 今までも1人で何とかしてきましたし、これからも何とかなるでしょう! ああ! 冷えてきますし、暖かいコーヒーを淹れますよ」


 俺が聞くと、アルさんは爽やかに笑って席を立つ。そしてそそくさとトレーラーの中に入って行き、机の周りには俺達以外居ない時間が訪れた。

 ミルファが心なしか声を潜めて俺とシルベーヌに言う。


「嘘を言っている風ではありませんでしたね。疲れた表情から、長い間1人で切り盛りしているのは事実のようです」

「だよな。しかし嫌がらせか。酷い事する奴がいるもんだ」

「どういう理由で嫌がらせをされてるのか分かんないけど、パッと見た感じアルさんは良い人に見えるわね」

「全てを疑う訳ではありませんが、アルさんが何か良くない事をした結果。という可能性も捨てきれません」


 ミルファの言う事ももっともだ。俺達は今、アルさんの話しか聞いていないのだ。被害者だと思っていたのが加害者であったり、加害者の行動は正当な防御反応だと言う事も、無きにしも非ずと言える。

 俺は小さく深呼吸してからシルベーヌとミルファに聞く。


「で、どうする? やるか?」

「一応。いつでも辞めて良いのかを聞いてからですね。いつでも辞めて良いのならば、その嫌がらせ如何。あるいは事情が分かった際、すぐに私達に被害が及ぶ前に身を引けます。きちんとした形で」

「私もミルファに賛成。いつでも辞めて良いなら、ちゃんと書面でも貰って、協会にもその旨を伝えてから仕事をしましょう。街の色んなところで情報収集しつつお金も貰えるなら、中々良いしね」

「それじゃあ決まりだな」


 俺達の意見が固まったところで、コーヒーの匂いと共に、湯気の立つ紙カップを3つトレイに乗せたアルさんが戻って来た。先ほどの事を伝えると、もちろんだと明るい顔で頷いて快諾してくれる。

 いつでも辞めて良いし、キッチリ書面にもする。探索者シーカー協会にも自分から行くとまで言い、何度も頭を下げて礼を言われる程だ。


 詳細は後日まとめる事にして、俺達はアルさんに見送られて軽トラに乗った。ダッシュボードの上には、エビ特盛りのエビロールが3つ。アルさんが手付金代わりだと言って笑って作ってくれた逸品である。

 日の落ちて来たメイズの街を眺めつつ、俺は笑って言う。


「しかし飲食店かあ。2人はいわゆる看板娘みたいな感じになるんだろ? 俺は裏方だな」


 今度はミルファが運転席に居るので、俺は助手席でシルベーヌと密着するような状態だ。ミルファとはまた違った良い匂いがするし、服越しにでも感じる体温と、ミルファよりも少し肉付きの良い感じが分かる。

 距離が近いと否応なしに煩悩が鎌首をもたげるので、俺がハンドルを握ろうとしたのだが、メイズの中心街で事故でも起こされたらかなわないとミルファとシルベーヌの両名に説得された結果。再び助手席なのだ。

 隣でシルベーヌが俺に笑いかける。


「何言ってるの! ブランには宣伝係っていう立派な役目があるでしょ?」

「呼び込みか? そりゃまあ良いけど」

「ええ。うちにはまさしく動く広告塔が居るし」

「……舞踏号使うのか!?」

「あの子なら目立つでしょ? 私達の整備した舞踏号が呼び込みすれば、それはもう広告効果抜群よ!」


 そう言ってシルベーヌは快活に笑った。運転席でミルファも微笑んでいる。

 まあ目立つという部分は否定できないかと納得していると、信号待ちになった時、シルベーヌが俺の太ももをパシッとはたいた。何事かと思って驚くが、彼女は臆面も無く俺に言う。


「狭い! ブランの膝に乗るから動きなさい!」

「マジでやるの?」

「その位良いでしょ別に。ほら早く動きなさい! 信号変わるから早く早く! ハイ5! 4! 3――」

「ま、待て待て!」


 カウントダウンされると何故だか焦ってしまう。そして言われるままに助手席に深く腰掛けると、シルベーヌが俺の膝に乗り、力を抜いて背を預けて来た。身体の前面全部が彼女の背中側に密着し、体温や薫り、柔らかさを目一杯感じる形になる。

 しっかりと感じるシルベーヌの体重と身体の柔らかさ。必然的に、柔らかく少し大きい尻がイイ具合の所に乗っているので、色々と素晴らしいけれど危険すぎる。しかもうなじが丁度顔の前に来たので、薫りに反応する俺の身体は、節操なく堪能し始めた。心臓が跳ねる俺に対し、シルベーヌの方は余裕で嬉しそうなのが悔しい。


「こんなの初めてだけど、結構気分良いかも。良い座り心地よ! なんか落ち着く」

「そ、そウ? なら良かったケド」

「なんでちょっと声が裏返ってるのよ」


 シルベーヌが笑い、少しだけ身をよじって座り直す。服越しとは言え自然と身体同士が擦れるので、俺の身体は素直に反応した。手を彼女の腰に回す訳にもいかず、助手席の隅を力強く握る。

 正直、すっごい興奮す――馬鹿か俺は! 節操の無さが露見するだけだぞ! ゴブリンの顔でも想像して耐えろ! などと内心毒ついても。せめて俺の反応にシルベーヌが気付かないのを祈るしかない。

 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、彼女は俺に背を預けて脱力し、明るく笑う。


「私用のシートベルト無いから、何かあったらよろしくねー」

「お、おう!」

「背中が温かいと眠くなるわね。舞踏号とトレーラーの修理用品買わないといけないけど、ちょっと寝そうかも」


 シルベーヌの甘えるような言葉に、今まで黙っていたミルファが心なしか羨望の眼差しで反応した。


「寝ても良いですよシルベーヌ。でも、修理用品を買った帰りは、私もブランの膝に乗りたいです」

「良いわよー家までの運転したげる。中々良い膝してるから、癖になるかも」

「……そこに俺の意思は介在しない訳だな?」


 俺が言うと、シルベーヌの邪悪に笑った顔が軽トラのサイドミラーで見える。


「内心嬉しい癖に。ブランがむっつりなのは反応でよーくわかるわよ」

「や、やっぱり分かる?」

「うん。とってもよく分かる。とってもね」


 彼女のハッキリした返事に俺は気恥ずかしくなって、口をつぐむ。頭の中がグルグルしていけないが、バレているのなら仕方ない。せめてなるべく自分の身体が動かないように気を張り、車窓から外の景色を見つつ、心を落ち着かせようと通り過ぎる電柱の数を数え始めたのだった。

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