第52話 これからどうする?
翌日の朝である。やはり使い慣れたベッドと、多少なりとも自分の匂いが残っている部屋というのは素晴らしい。安心できるというか、テントや寝袋と違って睡眠の質が段違いだ。
まだ身体は痛むので、久しぶりの朝のランニングも軽めにして、筋トレなども優し目にしておく。特に左腕は動かすとまだ痛むが、生活に支障は無い。フライパンを振るうことだって出来るが、いざ戦闘となると肩の付け根に支障がある感じだ。回復に努めなければ。
回復と言えば舞踏号もである。細かなエラーチェックの結果、全身相変わらずの消耗具合で頭を抱える以外無い。ただ。骨格と人工筋肉に関しては、幾度もの刺激と微細な故障。それらからの回復によって、発掘当時よりも強靭かつしなやかになっているのが改めて確認された。機械に使う言葉も変かもしれないが、舞踏号も成長しているのだ。
シルベーヌが損傷具合などを書き込んだ紙と、車庫の隅で座り込む傷ついた舞踏号を交互に見つつ言う。
「この回復自体は嬉しいけど、問題が一つあるわね。骨格と人工筋肉の強化に、関節が追い付いてない感じがするの」
「関節が追い付いてない? 何か変わった表現だな」
隣に立つ俺が聞くとシルベーヌが続ける。
「医学系の事はちょっと詳しくないから違う感じがするけど、人間で言う成長痛って言ったらいいのかな。基礎部分の強固さとパワーに、可動部分が追い付いてないっていうか……」
木で出来たトラックに、戦車のエンジン積んでかっ飛ばす感じかも。そうシルベーヌは例えを言って微笑んだ。上手い例えかどうかはともかく、フルスロットルなら中々に危険な状態になるのが察せた。とはいえ走った瞬間バラバラになる訳では無いし、シルベーヌが関節に関しては手を打つらしい。
シルベーヌの額の傷は、もう傷用パッチが張られていない。傷口にはもう艶やかでピンク色の新しい皮膚が出来ている。しばらくすると周りと馴染んで痕も残らないだろう。女の子の顔に傷が残らなくて本当に良かった。
そして彼女は大きく息を吸うと、銃器の手入れをしていたミルファも呼び、食卓に場所を移す。食卓には舞踏号の修理箇所、トレーラーの修理箇所、旧市街で消費した物品を記した紙束が広げられた。それらを俺とミルファによく見えるように置くと、シルベーヌが朗々と節をつけ、舞台役者のように言う。
「さてさてお二人さん。我が家の家計は現在、急降下しつつあると言って良いわ。旧市街への依頼で得た報酬は少ない物だったし、見つけた電源を売り払ってもあんまり。収入に対して支出が2倍って感じ。仕事をしたはずなのに財布が薄くなってるの」
「一度街に戻った際の舞踏号の修理とトレーラーなどの修理。そこに装備、消耗品の関係や、307の整備班の方々に無理をさせた謝礼。お金が出て行く事ばかりでしたからね」
ミルファが指先で食卓に広げられた紙を撫でつつ答えたのを見て、シルベーヌがビシッと指を差す。
「その通り! まあ、そこについては別に良いのよ。お金の使い道は間違って無かったと思ってるから。それに、まだ普通に食べて行ける分にはあるしね。でも今後何か起こるとして、色々な装備が欲しいし、またこういう事があった時の為にお金が欲しい。生活を気にせずポンと大金を出せるくらいには余裕を持ってね」
俺も収支の書かれた紙を1枚手に取り、流し読みしながら言う。
「先立つものが無いと弾も買えない。明るい未来より今日の美味い飯。地獄の沙汰もなんとやらか」
「そこで今後の方針! メイズで起こってる大きな流れについての情報収集は大目標。小目標としては、舞踏号の修理と改修をしつつ、お金のために細かい仕事もたくさんこなすの。私は拾った機械の残骸も解析する感じで、3人で日々の小さな噂話なんかには耳を澄ましながら。ね」
シルベーヌがそう提案すると明るく笑い、俺とミルファを見た。
基本方針としては申し分ないだろう。具体的には、また探索者協会へ行って報告書の写しを探す事や、先ほどシルベーヌの言った機械の解析もある。大きな戦いがあるにしろ無いにしろ、俺達が持つ最大の武器。人型機械舞踏号の強化の為にも資金は必要だ。特に舞踏号用の銃器が欲しい。自分の行いを鑑みるに、ある程度乱暴に扱っても壊れないような頑丈な物が良いだろう。
俺が頷きつつもそんな事を考えていると、ミルファも頷いてから言う。
「私は申し分ないと思います。基本方針はシルベーヌの言う通りで問題ないかと。ブランはどうですか?」
「俺も良いと思う。俺達の生活をちゃんとしつつ、色々と調べていく。地道だけどこれ以外無いだろうし」
「それじゃあ決まりね! まずは探索者協会に向けて出発よ! 昨日の続き、書類の写しをあの保管庫の中で探さないといけないし、新しい仕事も探さないとね! 舞踏号とトレーラーの修理用のパーツとかも買って帰らないと!」
明るくシルベーヌが話を締め、とりあえず今日の動きが決まった。
久しぶりに軽トラの荷台に飛び乗り、尻に直接振動を受けながらメイズの街を眺めると、何だか懐かしい気がしてくる。少し肌寒いのは季節の変わり目だからだろうか。故郷を見ているようだというか、たくさんの人が居て活気があって、電灯や店がある街は安心する。
俺の基本的な生活圏はメイズの雑多な区画、中世から近世を混ぜ合わせてぶちまけたような街並みだ。そこに住む人々は、気取らず自由で溌溂とした感じがする。格式高いよりは気が抜けて好みだ。
(この街も、戦争が起こると旧市街みたいに廃墟になるのかな)
ふと思って、俺は荷台と運転席を隔てる部分に背を預ける。
(戦争が酷い事だって知識はある。やってはいけない事だという知識。爆弾で建物が吹き飛んで、何でもない普通の人が沢山死ぬ。忌むべき事だけど、やらなきゃいけない時もある。そういう相反する人間の歴史の一つ)
戦争が始まったら多分、呑気にフライドチキンも食べれなくなる。シャワーを毎日浴びるなんてのは贅沢になるかもしれない。シルベーヌやミルファとゆっくりお酒を飲めなくもなる。あの2人の事だ、笑顔だって少なくなるに違いない。街の中には死体が溢れ、逃げ遅れた人々が幽鬼のように彷徨い歩く。安心して寝れる場所も無くなり、いつ何が起こるか分からないまま不安な夜が続く。
でもこれは、実際に戦争を経験した事が無い俺にとって、知識と想像の中にしか無い惨劇だ。見た事は無いものに恐怖していると言って良い。けれど戦争について考えると、何かどろりとしたものが胸の奥から湧いて来るのは確かだ。
(嫌だな。そんな状況は)
少なくとも、メイズの街が廃墟になって欲しくは無い。それなりの愛着だってある。
でも、胸の奥のどろりとしたものの中に、小さく光るものがあった。その光るものは高尚な想いじゃない。ギラギラしていて生々しい、人前で露わにしがたい感情だ。
(戦争は嫌なはずなのに、俺は戦争を少しだけ楽しみにしている?)
戦う時の高揚。全身と全神経が『敵』を倒すというただ1つの目的に向かう時の、時間を忘れる集中の瞬間。俺がその状態に言い知れぬ心地良さを感じているのは事実だ。戦って勝利し、皆に褒められるのは嬉しいし、満足感がある。俺がやれる事の1つが、戦う事だという確信もあるからこそだ。
嫌だと感じている半面、血生臭い事に期待している自分に薄ら寒いものを感じて、俺は大きく深呼吸をした。土の香りに排ガスの匂い。そして人波の温度と街の熱が、俺の頭を軽くさせる。
(自分の事なのに分かんないな。あんまり考えすぎても良くないんだろうけど、考えるのをやめたくも無いっていうか……)
そんな事を思った瞬間。段差で軽トラが跳ね、俺の尻と荷台がぶつかって鈍い音を立てる。センチメンタルな考えを吹き飛ばす痛みが尻の骨に走り、俺はうめき声をあげた。
到着した昨夜ぶりの探索者協会は、相変わらずの賑やかさだ。
職員に断ってから再び書類保管庫に行き、薄暗く紙とインクの香りが立ち込める部屋の中で目当ての報告書を探しだす。昨日は早めに行動しなければいけなかったので意識していなかったが、この報告書の山は探索者達の経験を詰め込んだ宝の山だ。
探索者協会の仕事の多さを物語るように、無数の報告書は手書きの物が多いが、印刷された物もある。そして字の汚さと文字の量も千差万別。注釈だらけで欄外が埋まっているものがあったり、逆に3行半で終わっている簡潔過ぎるものがあったりする。内容もお使いから冒険日誌みたいなものまであるので、真剣に読んでみると中々面白い。思わず手が止まってしまう事も多々ある。
「こらっ。手が止まっていますよブラン」
「いてっ」
ミルファが俺の後頭部に優しくチョップをかます。痛いものでも無いけど何となく声を上げ、後頭部をさすりながら笑ってしまう。
「いや、つい読んじゃうんだよ。すごいよこの報告書の補足とか、一部に伝わる伝説について書いてあるんだけど」
「……2km上空から戦闘服のような装備だけで降下? パラシュートなども無しに? 当然地面に叩き付けられたが、少し気絶しただけで起き上がり、即座に戦闘に復帰した……事実なら、この最先任上級曹長という方は凄まじいですね……」
「だろ? しかも1人で戦艦の破壊だろうが何だろうがやってのけてたらしいんだ。ああいや、正確には曹長さんの守護天使? って人がサポートしてくれてたみたいだけど、2人で宇宙を舞台に大活躍を――」
「コラー! 2人ともちゃんと調べなさい!」
「痛いッ!?」
「あぅっ!?」
ミルファと話していると、俺達2人はシルベーヌに怒声と共に尻を叩かれた。優しい物ではなくきちんと痛いビンタだったので、2人で尻を抑えて飛び上がる。
とにもかくにも。俺達は真面目に、けれど真面目になり過ぎずに報告書を探していた。しかし、1年以内の直近の物は昨日見つけたが、ウメノさんが言っていた数年前の物が見当たらない。
「ウメノじーさん、適当な事言ったんじゃないでしょうね……」
「ボケているという事は無いでしょうが、私達の取り越し苦労と言う可能性も出てきましたね……」
シルベーヌがぼさぼさの金髪を掻きつつも言い、ミルファも不安げに続き、2人は新しい書類の山に取り掛かった。
成果が出ないというのは中々に厄介だ。特に調べ物という地道な事であるならなおさらで、目に見える何かが欲しいと思ってしまうのが人の性であろう。
でも、そうだ。目に見えるもの。ふと手を止め、俺は声を上げる。
「なあシルベーヌ。ウメノさんは数年前って言ったよな」
「うん? まあそうよね」
「言葉通りに受け取るなら、10年以上前って事は無いはず。……お年寄りの言う数年前が50年前の場合とかは、この際考慮に入れないぞ」
シルベーヌとミルファがくすりと笑ったが、俺は真面目に話を続ける。
「ってなると。喋る生体兵器の話が本当にあると仮定して、調べるべき範囲は10年前まで。それで俺達は今、7年前までのとこまで遡ってるよな」
「はい。丁度今から8年前の所に手を付けようと。ここまで何もありません」
「そこだミルファ。あるはずの部分が無い。見えないっていうのが変なんだ。俺達はずっと報告書の内容に注目してたけど、見るべきはそこじゃなかったのかもしれない。整理用の通し番号とか、受領の年月日とか、判子の部分とか、何て言うかな……」
俺の途切れ途切れの言葉に、シルベーヌが怪訝な顔をした後にハッとして言う。
「……喋る生体兵器について書いてある書類の、過去の分が抜かれてるって事?」
「そうだ。そうかもしれない。もう1度最近の部分から見ていかないか? 通し番号に抜けてる部分が無いかとか、書類自体に注目して。時間はかかるけどさ」
「分かった。ブランは最新の月の部分からお願い。ミルファはその前の月。私はミルファの前の月ね」
そうやって俺達は再び書類を検めていく。するとミルファが1枚の報告書を見つけ出した。手書きで書かれており、1年半ほど前にメイズ島西側の森に向かい、遺跡の調査を行った探索者の話が乗っている。喋る生体兵器の事は書かれていないが――
「2人とも見て下さい。字は手書きに見えるかもしれませんが、これは印刷です。特に受理などの判子の部分。判子のインクが乗っている朱色の部分ですが、よく見れば前後の報告書と比べても質感が違います」
言われるままに差し出された報告書を良く見ると、確かに違う。本来は書かれた文字の上から、更に判子のインクが乗っている感じがするものだが、これは文字と判子が同じ高さにいるのだ。後から押されるべき判子が、文字と同時に押されている。
シルベーヌが確信した顔で頷く。
「……集中して見るとこれ、紙自体も新しいわよね。他の紙とか古本みたいに、何人にも触られてる感じがしない。それっぽくはしてあるけど、紙自体がよれたり、人の手の脂が付いてなさすぎる。探索者協会なんて、特に色々事務仕事があるのに」
「って事は」
「ええ、ブラン。これは偽物の報告書でしょうね。本物とすり替えられてる可能性があるわよ。良く見つけたわねミルファ」
「ブランの気付きがあったからこそですよ。疑って見ないと見落とします。そしてこの偽物が意味する事は一つです」
ミルファが小さく深呼吸をしてから口を開く。
「喋る生体兵器が居ると言う現実を隠したい人物。あるいは組織が、人間側に居ると言う事。ウメノさんの言葉を借りれば『飲んだくれの妄想』が書かれた書類を、わざわざ偽物を作ってまで隠そうとする事自体が怪しすぎます」
「誰かが何かをしたくて動いてる確証を得たわね。とりあえず10年分全部を調べてからここを出ましょう。偽物の写しも取ってからね」
再びシルベーヌの言葉で、俺達は似たような偽物を探し始める。
世の中全部が公明正大に動いているとは思わない。しかし、いざこうして良からぬ事の胎動を目の当たりにすると苦い顔をしてしまう。しかもそれが、もしかしたら始まるかもしれない戦争に関わる事であればなおさらだ。
他にも数枚見つかった偽物も写しを取り、やや陰鬱な気分で保管庫を後にした後。俺達は一度昼食を取る事にした。時計を見ていなかったが、いつの間にか昼過ぎになっていたのである。
人が沢山居る所には商売の気があるという。探索者協会もご多分に漏れず、建物の裏手にちょっとした露店や飲食店が集まる場所がある。
確かに協会で働く職員達や、身体を使うからこそ健啖家の多い探索者達の胃袋は、それなりに大きな商売のチャンスなのは間違いない。その証拠として、早くて安くて美味しい店が自然と集まっていた。
とはいえ時間がずれているからか、昼の営業を終えた店舗もいくらかある。どうせ晩御飯もあるので軽食で済ませる事になり、シルベーヌの強い希望で、揚げ物の香りがする方向に向かっていった。
ほんの少し歩いた先にあったのは、店舗と言うには小さく、露店と言うにはしっかりしている個人経営の揚げ物屋だった。屋外に机と椅子が何セットか出してある店で『当店で商品を買った方のみ机と椅子をご利用ください』と書いてある。
喜び勇んで買ったのは白身魚のフライとフライドポテト、加えてチキンバー。紙の容器に押し込められた3人分の揚げ物と、飲み物にはコーラ。野菜が足りないという意見は揚げ物の香りに黙殺され、机に座っておやつ時に近い昼食を頂く。
「んー! この脂肪とタンパク質な感じがたまんないわね!」
熱く油が弾ける白身魚のフライに、店の手作りらしい具材が盛りだくさんなタルタルソースを乗せて口に運び、美味しそうに飲みこんでからシルベーヌが言った。
俺も同じく白身のフライにソースを乗せて口に含む。小気味よい歯触りでフライが噛み切れ、淡泊な白身魚の風味に、タルタルソースの旨味が口一杯に広がった。サクサクした食感が耳に心地よい。ぐっと飲みこんでから、幸せなため息をついて言う。
「ああ、やっぱり揚げ物は美味いな……」
「空腹ですと、特に耐えがたい誘惑がありますね」
フライドポテトにタルタルソースを乗せて食べた後、ミルファが幸せな微笑みで答えた。俺も後でやろう。
ある程度食べ進めて空腹が落ち着いた後、シルベーヌがストローなど使わず、紙カップについた薄いプラスチックの蓋を取って、コーラをゴクゴクと飲んでから口を開く。
「報告書の写しは後で再確認するとして、次はお仕事よねー」
「儲けがそれなりにある仕事で、なるべく支出とかが抑えられそうなものってとこだな」
「ブランの言う通り、そんな感じの仕事が良いわね。私としては、ここ最近撃ったり走ったりばっかりだったし、ちょっと落ち着いた事がしたいかも」
「メイズの街の中で終わる仕事って事か?」
「うん。特に街なら色んな人に関われるし、ちょっとした噂とかも聞けそうだしね」
ストローでコーラを飲んでいたミルファが、上品に口を離してから言う。
「探して見ないと分かりませんが、都市内で人と接する機会が多く、落ち着いた仕事となるとある程度絞られるでしょう」
「例えば接客業? それこそこういうお店のバイトみたいな」
シルベーヌがミルファの方を向いて答えると、ミルファが少し悩んでから返す。
「それもありかもしれませんが、私達はせっかく探索者なのです。それを利点にしたいですね」
「探索者らしい接客業の仕方? ……ライフルと拳銃持って、フリフリのスカート履いてウェイトレスするとか……? 舞踏号にもスカートを……?」
「それは変な人が居ると言う事で注目を集めるかもしれませんが、色々な意味でアブナイお店に見られますよ」
シルベーヌの発想に、ミルファが冷静に答えて微笑んだ。
シルベーヌとミルファの2人がウェイトレスをするのは華があるだろう。2人目当てのお客さんだって出るかもしれない。しかし舞踏号がスカートを履くのは想像して妙な気分になる。戦化粧をし、鉛色の鎧を着た厳つい巨人がフリフリのスカートで注文を取る――その巨人の中身は俺だ。自分が生足でフリフリのスカートを履いた姿を連想し、気分が悪くなった。
そんな俺達の側に近づいて来る影がある。別に敵意などは無く、おずおずと言った感じの気配。そちらに俺が視線をやると、恐縮した様子でテーブルに近づいて来ていたのは、この店の主人だ。恰幅が良く人の好さそうな、太めの男性である。犬の刺繍がされた可愛らしいエプロンが、不思議と似合う人であった。
「あのう」
「はい? 何でしょう?」
主人の申し訳なさそうな声に、俺がなるべく爽やかに見える笑顔で聞き返す。
「盗み聞きするつもりは無かったんですが、お声が聞こえまして。皆さんは探索者なんですよね。それで、街の中で出来るお仕事を探してると」
「そうですね、ここ最近忙しかったので。何か良いのがあればと」
「なら、丁度良いのが今出ているはずなんですよ。いえね。私の知り合いの店なんですが――」
俺の弱そうな雰囲気が店の主人の警戒を緩めたのか、主人はいささか嬉しそうになりつつ話を続けた。




