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第51話 祝福と報告

 英気を養う宴の翌朝。シェイプス先生が俺達探索者シーカーを天幕の下に呼んだ。


「簡潔に申しましょう。私は今回の事を、島中に散っている仲間達に伝えて回ろうと思っています。もちろん、この場の皆を連れてです。『冠』については、私が厳重に保管を行うと約束いたします。神子様達には触れさせませんし、私も『冠』には何かあるのだと疑っておりますから」


 コンテナで作られた簡易の机に両手を置き、机を見ながら独白するようにシェイプス先生が言う。


「島中を移動する事にはなりますが、基本的には普段の生活を続けていく所存です。生体兵器モンスター探索者シーカー、都市や騎士団にも不干渉だと言った方が良いでしょうか。まあ完全には無理ですが、立ち位置はそうだと認識してください」

「分かりました、シェイプス先生」


 俺がそう答えると、シェイプス先生は顔を上げ、猛禽のような眼で俺達探索者シーカーを見た。


「しかし。全てが杞憂に終わるか、良からぬ事が始まるのかどうかは気になるところです。我らも島中の動向を気にはしますが、全てを悟るには視点も情報も足りないでしょう。そして、分からないからと言って耳を塞ぐのは間違っております。なので是非とも、探索者シーカーの御三方には、我らとの縁を切らずにいて頂きたいのです」

「それはもちろんですよ! せっかく皆さんと知り合えたんです! それに、今回の事の当事者なんですから、何か分かれば知ってもらうのが普通です」


 シルベーヌが快活に、大きな動作を交えて答えた。その言葉と動きを見たシェイプス先生の目に若干の安心が見えるが、すぐに顔を引き締める。


「ありがとうございます。躊躇わずにそう言って頂けた事、痛み入ります。ですが、我らはこれから島中を移動する身。探索者シーカーの皆様も、依頼で西へ東へ走り回るでしょう。なので、我らへの連絡法をお教えしたいのです」

「連絡方法ですか。確かに、無線では確実性に欠けます。運よくジャマーの霧が薄い場所に双方が居る事など、そうは無いでしょうし」


 ミルファが納得した様子で言うと、軽く頷いた。

 シェイプス先生も頷くと、ちらりと俺達の後ろに視線をやる。そこに居たのは栗色の髪に兎耳を生やした双子。タムとティムだ。

 タムが自慢げに笑みを浮かべ、腰に手をやって胸を張り、俺を見上げて教えてくれる。


「別に難しいもんじゃねえよ。口笛を一曲教えとくだけ。朝焼けか夕焼け時に吹いてくれれば、この曲は遠くに響くんだ。別に直接ワタシ達に聞こえなくても、島中に居る余所者アウトランダーが曲を繰り返して、どんどん遠くに曲を運んでくれる。人力の電話みたいなもの」

「そりゃすごいな……」

「曲を聞いたら、ワタシ達は兄ちゃんたちの所に行くよ。ちょっと時間はかかるだろうけど、そこはゴアイキョーってやつ」


 タムはすぐさま口に指を入れてその曲を吹く。高い音で鋭利に鼓膜を揺らす、まさしく電話の呼び出し音のような曲だ。1分にも満たないけれど、それを何度も繰り返すと良いらしい。タムは5回程曲を繰り返した後、さらりとした顔で言う。


「ブラン兄ちゃん、覚えた?」

「ああいや、それ以前の問題があって」

「問題?」

「俺、口笛吹けないんだよね……」


 タムが信じられないという顔で俺を見て固まる横で、今までもじもじとして黙っていたティムがハッとして手を挙げた。

 ティムは昨日の一件以来、何だかよそよそしいのだ。決して嫌われている訳では無いようなので良いけれど、どうにもやりにくい。


「ボク、ブラン兄さんに吹き方教えるよ! 向こう行って、皆で練習しよう? 良いよね。先生?」


 シェイプス先生は一瞬悩んだようだが、俺達が邪魔で無ければと条件を付けて送り出してくれた。そういう事ならと双子に連れられ、公園の隅で口笛の練習が始まった。

 教え方が上手いようで、ほんの1時間程で俺は指笛を吹けるようになる。親指と人差し指を口に突っ込んで吹くやり方で、音程はいまいちだけれど一応曲も吹けるようになれた。細かい部分はしっかり練習するようにと、ティムが俺に厳命して笑う。なんでもケレンの民達の間では、口笛や指笛が上手いとモテるらしい。

 そんな事をしていると、シェイプス先生が遠くからティムに手招きしたので、兎耳の男の子は跳ねるように先生の下へと走って行った。何やら話しているが、ちょっとした確認事項か何からしい。


「ブランは慕われてるわね?」

「恥ずかしいから言うなよシルベーヌ」

「まあ昨日は茶化したけど、そういう文化って事もあるから、深く考えないのが良いんじゃないかしら? 幸い、ここには神子様がもう1人居るし」


 シルベーヌが横に立つタムの頭を撫でて言った。当のタムは何が何やらという顔であるが、シルベーヌが聞く。


「ねえタム。ケレンの民にとって、キスってどんな意味があるの?」

「意味? 好きな人にする以外無いだろ。嫌いだったらしないよ」

「それはそうかもしれないけど。えーとほら。文化的な、宗教的な意味よ?」

「……あー。そういうのか。だったら姉ちゃん達、ちょっとしゃがんでくれよ」


 タムがシルベーヌとミルファを見上げて言い、次いで俺にも手招きをした。視線の高さがタムと同じくらいにはなる。そしてタムは躊躇わずにシルベーヌの頭を軽く両手で触れると、その額に軽く口づけをした。次にミルファの額。最後に俺の額にだ。

 軽く驚いていると、タムは胸を張って自慢げに言う。


「古い習慣で、神子のセップンは良い事があるようにっておまじないなんだ。祝福がありますようにって感じ。もちろん。別にワタシとティムだけじゃなくて、皆もしたりするよ」

「なるほどねー。そういう文化が」

「メイズの都市は宗教色が薄いですから、あまり表立ってこういう事は見ませんしね」


 シルベーヌに続いてミルファが嬉しそうに、そして感心したように言った。


 そういえば、俺には口付けを友人や家族への挨拶代わりにするような意識が無い。もっと親密な、恋人などへの情愛を表現する手段の1つだと言えばいいだろうか。衆人環視の中でするものでは無いという意識が強いけれど、これは一体どこの文化なのだろう?

 ただまあ、祝福がありますようにというのは、されて中々に嬉しいものだ。男としては、可愛い子にされるならなおさらである。


 俺がそんな事を考えつつ頬を掻いていると、タムは更に続ける。


「好きな人とかには、きちんと好きって言った方が良いってのも聞いた事あるぞ。言わないと分かんない事が多いのは、何かワタシもここ最近で分かったし。だからシル姉ちゃん。ミル姉ちゃん。ブラン兄ちゃん。愛してるぞ!」


 昨晩も聞いた言葉だが、屈託のない笑顔で真正面から言われると、背筋が良い意味でこそばゆい。好意を向けられて悪い気はしないし、それが裏表のない暖かいものなので、不思議と心にも暖かさが伝播して来る。

 そうやって何となくふんわりした雰囲気を出していると、ティムが戻って来て俺達を見た。そしてタムがティムの背を押す。


「ほらティム! 兄ちゃんと姉ちゃん達に祝福してあげな!」

「タム、やったの?」

「もちろん。祈るだけならタダだし」


 タムはそう言って笑うが、どこか照れ隠しもあるような感じがした。

 ティムはそれを聞いて、いささか貴い雰囲気を出す。そしてタムよりも厳かな手付きと所作でミルファの額に口づけをし、次にシルベーヌの額に。そして最後に俺へ向け、軽く深呼吸をしてから唇を――重ねず、途中で向きを変えて額に口づけをしてくれた。先ほどの厳かな雰囲気は何処へやら。恥ずかしそうに兎耳を前に垂らすと、ティムは頬を染めて俯いた。


「……何か雰囲気違うな。変なの」


 タムは怪訝な顔でそう言ったが、すぐにティムがシェイプス先生が呼んでいる事を告げたので、場の雰囲気はがらりと変わった。

 呼ばれたのはもちろん、これから帰り支度をするからこそだ。テントが片付けられ、塹壕は埋められる。公園地下への入口は扉を閉められ、シルベーヌが簡単な地図と中は危険だという注意事項を、扉の隅に濃い色のペンで直接書き込んだ。

 他にも様々な片付けや支度を済ませると、いよいよ俺達もメイズの街へと帰る時が来た。シェイプス先生やタムとティムが、改めて俺達に向き直る。


「また会おうな。兄ちゃん姉ちゃん達。怪我すんなよ」

「絶対だよ。風邪とかも引かないでね」


 タムが笑い、ティムが心配そうに言った。その言葉を聞いてくすくすと笑ったのはミルファだ。


「出会いのドタバタから考えると、その言葉を送るのは私達の方ですよ」

「それは……まあ、そうかもだけど……」

「ボク達も、ね……?」


 双子がぎこちなく口を尖らせていると、シルベーヌが微笑んで双子の頭を撫でた。


「色々事情とかが分かったら、もちろん連絡するから。教えてくれた口笛を吹いてね」

「分かったよ、シル姉ちゃん」

「私からもよろしくお願いします。無論。我々の手助けが必要な時も呼んでください。ケレンの民全てがとは言いませんが、少なくとも私は、皆さまの火急の際には駆けつけましょう」


 シェイプス先生がしっかりと言って俺の方を見た後、トレーラーに緩い体育座りで項垂れる舞踏号に視線を移してから続ける。


「どこに居ようともその巨人が、御三方の居場所をハッキリと示してくれましょう。勇猛な神話の戦士のようで、大蛇との戦いは、見ている私も高揚するものがありました。人の形をしているというのは不思議なものですな。実態は御三方が整備などで苦しんでいるのを見ているのに、立ち上がった巨人を見上げるだけで強大に思え――」

「あ、そうだ! 舞踏号の事忘れてた!」


 タムがシェイプス先生のしんみりした言葉を唐突に区切ると、ティムの手を取ってトレーラーの荷台によじ登った。

 話の腰を折られていささか不満そうなシェイプス先生を尻目に、皆が何事かと思って見ていると、双子は体育座りの舞踏号の膝へ器用に上がり、手を組んでぶつぶつと祝詞のようなものを呟いた。そして恭しく頭を下げた後、傷のついた舞踏号の額に軽く口付けをし、子供の小さな手が舞踏号の額を撫でた。

 シェイプス先生はその所作を見つつ、少し意外そうに、しかし嬉しそうに腕を組んで顎髭を触りつつ語る。


「略式ではありますが、神子様達の祝福の儀式です。戦士に真実を見聞きする力を僅かながら付与し、その勲しを祈る、古来の習わし。なるほど、この為にここ数日は私に文言を……」

「タムとティムが、少し前から準備を?」

「……どうでしょうな。舞踏号と言いましたか。祝福を受けている彼ならば分かるかもしれません」


 俺が聞くと、シェイプス先生が優しく笑った。この人がこんな冗談を言うのは、初めて聞いたような気がする。


 その後は双子に寂しがられつつも、俺達3人は旧市街を後にした。余所者アウトランダー達も手を振ってくれたのが壮観で、俺達3人は少なからず胸打たれるものがあった。

 さて。ひとまず区切りは付いたけれど、これからやるべき事は多い。まずは探索者シーカー協会へ依頼の達成を連絡しなければいけない。



 

 そうやってメイズの街に戻って来た俺達は、シルベーヌが旧市街で得られた情報などをまとめた報告書を作成し、正規の手続きを踏んで探索者シーカー協会副会長への面会を要請した。後学のためにも報告書がどういうものか見たかったが、シルベーヌに今はダメとやんわり断られてしまって悲しい。

 面会に関しては、副会長は忙しいので数日待つかもしれないとも言われたが、実際呼ばれたのは面会を頼んだ当日の夜。夕食の前であった。伝令に来たのはメイズ探索者シーカー協会の職員で、迎えの車まで用意されているという状態だ。無論。断る理由も無い。出来上がりかけていた夕食をひとまず置くと俺達3人は迎えの車に飛び乗った。


「いやすまんな。急に呼びつけて」


 夜の初め頃。旧市街への依頼を受けたいつぞやの部屋の中で、ウメノさんが柔らかい声で言った。机を挟んで反対側のソファには俺、シルベーヌ、ミルファが座っている。

 灰色の大猫。ウメノさんは前足をグッと伸ばすと、大きく欠伸をしてから足を揃えて座り直した。


「依頼の報告をするだけなら、受付に行くかわしに電話の1本でもくれれば済んだろうに。じゃが、今のお主らがわざわざ正規の手続きを踏んで面会を求めるんじゃ。何かあったのは察せる」

「ウメノさん。この部屋には私達以外居ませんよね?」

「もちろんじゃミルファ。多少はボロイが、防音もきちんとしておる」

「では」


 ミルファがそう答えるとシルベーヌは頷き、手元の鞄から報告書を取り出して机の上に広げる。ウメノさんは机を覗き込み、前足で書類を押さえて内容を簡単に検めた。灰色の大きな猫の顔が、どんどん怪訝になっていく。


「これは本当か? ああいや、お主らを疑う訳では無いが。しかしこれは……」


 予想していた反応だ。それ自体に驚く事は無いが、旧市街での一件は探索者シーカー協会の副会長という戦後の世界を生きる古株も驚く事態だという事が、この反応によって明らかになった。

 ミルファが静かに言う。


「全て事実です。私達が依頼を受けて行動している間に何が起こったのか、シルベーヌが書きました」

「概ねはわしも理解できる。じゃが、生体兵器モンスターが戦術を使って来たという部分は腑に落ちん。こちらにも書いてあるが、ブラン。これはお主の感じた主観でしか無いのじゃろう?」

「はい。ウメノさん。俺の感じた部分です」

「客観的に見れば、警戒を怠った結果、夜中にサイクロプスに襲われたとしか見えん。あのサイクロプス自体はお主らの持ち帰った死体の解剖や研究が進められておるし、新種としても探索者シーカー協会の連絡網に回してある」


 ウメノさんはそう言うと、後ろ足で首元を掻く。


「正直な話。これは突拍子も無い話じゃ。証拠が足りん。しかしな」

「しかし?」


 ミルファが聞き返し、ウメノさんが眉間に皺を寄せた。


「……お主らに黙っていても仕方ないか。喋る生体兵器モンスターが居る。これ自体は、数年前から数件報告があるんじゃよ。それは指で数える程しかない報告で、飲んだくれの妄想か幻聴だと思われていたが、ここ数か月でおもむろに数が増えている。小さく噂になっても立ち消える程の間隔で、2件3件づつじゃ。勘や予想で物を言ってはいかんが、わしは作為的なものを感じる」

「それ本当に? ウメノじーさん?」


 今度はシルベーヌが信じられないという顔でグッと身を乗り出す。


「嘘を言うても仕方なかろう。物証が欲しいなら報告書が保管庫に転がっておるだろうから、そこを探してみろ」

「分かった。後で探して、写しをもらっても良い?」

「良いぞ。後で職員にも伝えておく。しかし、喋る生体兵器モンスターと一か所に集まる生体兵器モンスターか……ノイズも気になる。論理の飛躍は否めんが、集まった生体兵器モンスターが何か起こす可能性は大いにある。動向に注意が必要じゃ」


 ウメノさんが髭を揺らし、再び俺達の作った報告書に目を落とす。しばらくの沈黙の後。この大猫は顔を上げた。


「発見された旧市街の公園の地下は、探索者シーカー達を送って制圧する。他の事も良いように計らおう。手を貸してくれたという余所者アウトランダー達の安全のためにもな。そして、この事は他言無用じゃ。後の事は全て探索者シーカー協会の副会長たるわしがやる。お主らは手を出すな」

「ちょ、ちょっと待ってください! ウメノさん」

「なんじゃブラン。何か問題が?」

「後の事を取り計らってくれるのはとても嬉しいです。余所者アウトランダーの皆さんの為に動いてくれると言ったのもありがたいです。けど、俺達はこれ以上関わるなっていうのは……」

「文句は言わさんぞ。お主らはあくまで一介の探索者シーカーじゃ。仮にお主らの立てた仮定の、人間と生体兵器モンスターの戦争が始まるとしても、お主らが何を出来る? 銃を持って戦うか? 人型機械ネフィリムを使って戦うか? 3人で数千の敵を倒せると思っているのなら、それは思い上がりじゃ」

「そんな事は思ってません!」


 俺がハッキリと否定すると、ウメノさんは髭を動かして俺を見つめた。左右に座るシルベーヌとミルファも、俺と同じようにウメノさんを見る。

 探索者シーカー達を見た後、ウメノさんが口を開く。


「ならば分かろう。大きな事が始まるのであればこそ、組織の下っ端、一個人であるお主らに出来る事は少ない。そしてお主らは探索者シーカー協会の一員じゃぞ。その副会長たるわしの指示に従え。情報収集などには、もっと向いた人材や部署もある」

「でも、俺はここで。これ以上関わるなと言われるのは――」

「納得出来んか。じゃが、納得出来ん事でも飲みこめ。それが社会の一員というものじゃ。引っ掻き回したくないならば、なおさらこれ以上関わるな。3人ともご苦労。依頼の達成は確認したから、後々報酬も支払われる。以上」


 ウメノさんはそう言うとソファの上に座り直した。淡々とした態度と、感情の篭っていない言葉である。そして部屋の外へと繋がる扉に向かって声を掛けると、探索者シーカー協会の職員が一礼の後部屋に入ってきて、シルベーヌの作った書類を回収して鞄に厳重にしまう。

 そしてウメノさんが職員を見上げて聞く。


「次はなんじゃったかな」

「騎士団の将官達との会食です」

「うむ。急ごう」


 簡単な言葉を交わすと、探索者シーカー協会の副会長たる大猫は、尻尾を下げて部屋の外へと歩いて行った。職員も俺達に一礼した後、その背を追って部屋を出た。

 小さな音が響き、扉が閉まる。その直後、憎々し気に口を開いたのはシルベーヌだ。


「何が『関わるな』よ。よく言うわねじーさん……」

「シルベーヌ?」

「ネタばらしは後。とにかく、報告書の写しを貰ってから家に帰るわよ」


 シルベーヌがソファから立ち上がると、ミルファは何か合点がいった表情をして立ち上がった。俺だけがいまいち理解できないまま、探索者シーカー協会の建物の中を歩く。そして職員に書類保管庫で報告書の写しが欲しい事を告げると、既に副会長から直接、俺達の事を聞いているとの返事があった。

 ここまでスムーズであったが、書類の探索自体が難航した。なにせ、喋る生体兵器モンスターが居たなどと言う与太話が掛かれた報告書を探すのだ。無数の書類の山に片っ端から目を通していく以外無く、直近の数件を見つけた段階で一度引き上げる事になった。

 すっかり深夜の時間帯。協会が送りの車を出してくれたので、家に入って車が離れて行ったのを見てからシルベーヌが『ネタばらし』をする。


「ブラン。私が書いた報告書には、『王様の冠』の事と『旧市街の南で拾った機械の残骸』については書いてないわ。余所者アウトランダーが協力してくれた事なんかはきちんと書いてあるけどね」

「それってつまり――」

「私はウメノじーさんを信頼してる。けど、じーさんとか探索者シーカー協会を取り巻く状況は油断できないからこその保険のつもりだったの。それにウメノじーさんが冷たかったけど、あれも何かおかしい」

「はい。ウメノさんは『関わるな』と言ったのに、私達に報告書の写しを取る事を許可しました。後で否定する時間もあったのにですから、何か意図があります。その証拠としては、私達が書類保管庫に行った際。既にウメノさんは直接、職員に私達が来ることを告げていた事があげられます」


 シルベーヌに続き、ミルファが気がかりな部分を告げた。

 俺は少しの間腕を組んで考えた後。シルベーヌとミルファを見て、ゆっくりと口を開く。


「……これってつまり。関わるなって言いつつも、調べろって事か?」

「明言はしなかったけどね。それにどっちかって言うと、調べろっていうか『引っ掻き回せ』って感じかも。これはホントに長い付き合いになりそうよ」


 シルベーヌがぼさぼさの金髪を掻くと同時に、ぐぅぅっとその腹が空腹を告げた。彼女の頬が赤くなり、俺に向けて「私の腹の音を聞くな」という視線が投げかけられる。


「そんな恨みがましい目で見られても……」

「少し遅いですが、夕食にしましょう。何か行動を起こすにしろ、きちんと食事を摂らなければ名案は出ません」


 ミルファが微笑んで言い、俺とシルベーヌも笑い返した。


あけましておめでとうございます。

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