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第47話 次に備えて

「では、得られた情報を共有しましょう。皆さま、よろしいですか?」


 公園の天幕の下。コンテナを寄せて作られた机の前に立ったシェイプス先生が言った。

 机の周りには俺。シルベーヌ。ミルファ。余所者アウトランダーが数人。ついでにタムとティムも隅に控えている。全員で机を囲んで立っている状況だ。

 シルベーヌが作業着のポケットからメモ帳やペンを取り出して返す。


「お願いします、シェイプス先生」

「はい。一応聞いておきますが、気分が優れないのでしたら、寝ていても良いのですよブラン殿」


 先生に若干心配そうな目で見られ、俺は全身の痛みを抑えつつはにかむ。半袖シャツでリラックス出来る格好に着替えているし、重量が掛かって痛む左腕はテーピングなどがされている。ちょっとした脱臼と靭帯が伸びて痛んでいるだけなのだが、大袈裟な姿に見えるのは確かだ。

 治療はミルファの手によるものだが、テーピングなどはタムも手伝ってくれた。もちろん、ビンタされた部分は無事である。本当に良かった……!


「大丈夫です。ご心配なさらず!」

「なら良いのですが……」


 明るく返した俺にシェイプス先生はそう言って、ちらりとミルファを見た。

 彼女はどこか気恥ずかしそうに俯くだけだ。アレ以降ずっとこんな調子で、皆何となくは気にしているのであるが、ハッキリと聞けるような雰囲気でも無いのでそのままになっている。

 しかし、シェイプス先生は咳払いの後に雰囲気を変えた。


「では改めて。探索者シーカーお二人の得た施設の俯瞰図。そして地下のマッピング。それらから得られる情報は非常に有用でございました。実際の状態の把握と詳細の確認には再調査を要しますが、公園の地下から続く階段……521番通路の下までは、我々も既に安全確認などをしています。一際分厚いシャッターの所までです」


 机に置かれた大きな紙。そこに手書きで丁寧に写された地下の地図を指さしつつ先生は言った。隣でタムとティムが机の上に身を乗り出し、地図を見ようとして兎耳が前に倒れる。


「その奥にある空間は、探索者シーカーお二人以外にはまだ入っておりません。そして昨今増えていた生体兵器モンスターの原因。その一つが地下にある『緊急装備培養区画』だと推測されます」

「やっぱり、名前の通りここで生体兵器モンスターが?」


 俺が聞きかえすと、シェイプス先生が頷く。


「左様です。培養区画などと言っても、我々にとっては生体兵器モンスターの巣穴。そして強力な生体兵器モンスターにとっては餌場でしょう。中にはゴブリンが居たのですから、恐らくはゴブリンの生産設備なのですな。あの大蛇がどこから来たのか分かりませんが、安全なねぐらでゴブリンをエサに丸まると太った。そして大蛇に食われまいと、地下からゴブリン達が逃げ出していた」


 こう考えれば一応の説明がつくとは思います。とシェイプス先生は言葉を区切った。


 確かに、旧市街で会った探索者シーカー。ナビチさんもゴブリンに会い過ぎたと言っていた。それも弾が無くなりかける程というのは、相当な数だったのだろう。「地面の奥から湧いて来てるみてえ」なんていう表現も、まさしくその通りだったのだ。


 しかし、ふと疑問が湧く。地下にゴブリンの巣穴があるのは事実だとしても『ならばあの大蛇や、南に集まっているという中型の生体兵器モンスター達は何故旧市街に?』という部分だ。


「地下の施設は探索者シーカー協会に連絡して掃討なり破壊なりをしてもらうとしても。南に集まる中型の生体兵器モンスターがどうしてかがまだ分かりませんね……。何かその辺りの事は?」


 シルベーヌが俺とほぼ同じ疑問を、この場の全員に問いかけた。

 シェイプス先生が答える。


「はい、そちらに関しても続報がございます。先ほど帰って来た斥候によれば、生体兵器モンスターが増加する事は無くなったものの、一か所に集まっているとの事です」

「一か所に?」

「ええ。そのまま言うと『虚ろな目をして立ちすくんでいる』感じだと言うのですが……。どうにも地面の一点を見つめているのだとか」


 全員が首を捻る。生体兵器モンスターが立ちすくむとは一体どういう事なのだろう?


「こればっかりは、実際行ってみるしかないのかな」

「そうね。結局は自分の目で確かめるしか無いわね」


 俺の言葉に、シルベーヌが同意して明るく笑ってくれた。


「こっちからも連絡です。トレーラーは無事。弾薬はあと2戦闘分くらいはあります。私達の最大戦力である人型機械ネフィリム、舞踏号も消耗はしているけどまだまだ動きますから、探索には行けます」


 シルベーヌがこの場に居る余所者アウトランダー達に伝えると、今度は俺に舞踏号の詳細を言う。


「舞踏号の摩耗は許容範囲よ。右肘とか肩。あと背中とかの人工筋肉が、槍投げし過ぎでちょっと痛んでるくらい。重要な骨格フレームが折れたりもしてないから、タンパク燃料ぶっかけて応急処置でまだなんとかなるわ。ミルファも大丈夫?」

「はい! 私は大丈夫です。ちょっと、興奮冷めやらぬという感じなだけですので」


 唐突に声かけられ、ミルファが背筋を伸ばして答えた。興奮冷めやらぬとは言うものの、ちょっと前の事が頭から離れていないだけには違いないはずだ。

 シルベーヌがその姿を見て笑う。


「地下を走り回ってたみたいだしね! 良いわ! 今日は休んで、明日また朝移動して旧市街の南に行きましょう!」

「では明日。東ブロックを抜ける案内を付けましょう。真っすぐ進めば2時間程で旧市街の南に回れるはずです」

「ありがとうございますシェイプス先生。まあでも、そんなにたくさん生体兵器モンスターがいるなら、明日は派手に立ち回っちゃだめよね」

「明日は隠れながら進めって事か? そりゃまた難しい事を」


 俺がそう返して笑うと、シルベーヌは肩をすくめる。


「地面の一点を見つめてるっていうし、そこに何かがあるんでしょう。ならいっそ、地面の下から回れたら楽なんだけどね」


 そんな冗談に反応したのは兎耳の双子だ。兎耳を揺らして同時に手を挙げたので、皆が少しだけ驚く。


「シル姉ちゃん。手伝わせてくれよ」

「ボク達が居たら便利だよ」


 タムに続いてティムが言った。しかし、シェイプス先生が猛禽のような眼でぎろりと双子を睨む。それに若干怯える双子だったが、むしろ凛とした目で先生を見返した。

 雰囲気が違う事を察したシルベーヌが腕を組み、真剣な声で言う。


「……私達は遊びに行くんじゃないのよ?」

「もちろんだろ! ワタシは本気で言ってんだ!」


 タムが頬を膨らませて言った。

 隣でティムがタムをなだめつつ、冷静に言う。


「この公園の下にある入口を見つけたのはボクとタムですよ。地理に詳しいのもボク達ケレンの民。手がかり無しで地下の事を把握するのは、ボク達が居ると絶対役に立ちます」


 それもそうだ。何の変哲もない地面の下の事を判断できるという能力は、今回非常に有用だろう。だが、ここですぐさま首を縦に振れない。タムは子供扱いするなと言うが、実際に子供なのだ。危険な場からは離しておきたいのが当然の心理だ。

 無論。2人をシェイプス先生が諫める。


「神子様達、我が儘を言いなさいますな。今度はこの公園の周りを調べるのとは訳が違います」

「でも先生。ボクは付いて行きたい」


 ティムが真っすぐに兎耳を伸ばし、優し気な目を凛とさせてシェイプス先生を見る。タムが驚いた眼でティムを見つめていたが、ティムは小さく息を吸って口を開く。


生体兵器モンスターが南に集まっている理由を知りたいのは、ケレンの民の皆もでしょう? その為に力を惜しむ事は出来ません。ボク達の耳は絶対に役に立ちます」

「しかし、神子様達をあまり動かす訳には……」

「お願いです先生。ボク達を行かせてください」


 ティムは一度言葉を切って俯くと、決意を秘めた瞳でこの場の全員を見た。


「ボクは、これがボクにとって都合の良い事を言ってるのも分かってます。ズルイ事を言ってるって。ボクはタムみたいに思い切りも良くない。けどボクも、探索者シーカーの皆さんの為に働きたい。これがきっと、今ボクのする事だって、何となく思うんです」


 たどたどしくも兎耳を揺らして言うと、ティムは周りをゆっくりと見渡した。天幕の下に居る全員の目が、この大人しい双子の弟に注がれる。

 しかしまあ『する事』か。ちょっとだけ、自分にも似た何かを感じいってしまう。

 深呼吸を一度、俺はシルベーヌをちらりと見て聞く。


「……シルベーヌ。地表から地下を把握する事は出来るんだっけ?」

「ちょっと無理ね。機材が無いし、あったとしても闇雲に地下を調べて、そうそう当たるもんじゃないわね」

「ってことは。今のところ手掛かり無し。手がかりを見つける手段も無し。これが探索者シーカー側の見解って事でいいな」

「ええ、その通り。私達だけじゃお手上げ」


 シルベーヌが俺に向かって肩をすくめた後、両手を軽く上げて微笑んだ。

 それを確認した後、俺はちらりと双子を見て言う。


「でも運のいい事に、ここには耳が良い人が2人居る。ケレンの民の神子様達っていう、畏れ多い方々ですが」

「ブラン殿、良いのですか? 確かに2人の耳は有用かもしれませんが……」

「実際問題。手がかりが無いのは本当ですし、藁にも縋る思いです。俺達としては、2人が協力してくれるならとてもありがたいです。もっとも――」


 答えたシェイプス先生にそう返し、俺は周りの人々を一度見渡して言う。


「護衛の事とか色々考えないといけませんし、大量の生体兵器モンスターに絡まれたら危険です。移動するのがあんまり大人数になってもいけない。そういう風に、今回はちょっと事情が事情なので大手を振って双子を歓迎するわけにもいかないってのが……」


 そう言って俺はティムの方を見た。この兎耳の子供はどこか不安げな表情で俺を見上げ、どうなるのかとそわそわしている。

 俺はティムを安心させようと、特に意識せずに手を伸ばして頭を撫でた。癖のある髪の毛が指先に心地よく、兎耳に生えた毛も滑らかだ。子供の少し高い体温を手の平に感じていると、ティムは俺を見て意外そうにし、微笑んでくれた。


 シェイプス先生が大きくため息をしてから、少しだけ目を瞑った。顎髭を触りつつ色々な事を考えているのが察せ、眉間の皺から悩んでいるのがありありと伝わってくる。しばらくそうやって沈黙が満ちた後、シェイプス先生がカッと目を見開いた。


「分かりました。神子様達をお連れになって下さい」

「先生!」


 ティムとタムが同時に嬉しそうな声を上げた。

 シェイプス先生はそれを手で制しつつ言葉を続ける。


「案内の他には、護衛に手練れを10人ほど付けましょう。また、トレーラーの荷台に乗る形になると思いますがよろしいですか」

「大丈夫ですよ! 大歓迎です!」


 シルベーヌが答え、俺とミルファをちらりと見た。

 全員礼儀はきっちりと。そう口を開かずとも、目が雄弁に語っている。


「それと、私達探索者シーカーは神子様達を守り通すと約束します」

「はい。護衛はお任せください。私の身に変えても」

「俺もです。必ず無事に」


 探索者シーカー全員が深々と頭を下げると、シェイプス先生も同じ様に礼を返してくれた。

 次いで顔を上げたシルベーヌが明るく微笑むと、周りの雰囲気がパッと明るくなる。ティムとタムの顔にも光が差し、嬉しそうに手を取り合った。

 シェイプス先生が息を吐き、近くに居た余所者アウトランダーに言う。


「では、細かい部分を詰めて行きましょう。地図を持って来てくれ」






 そうやって時間は進み、いつの間にか夕日が差している時間。ほんの少し冷えるが、筋肉痛などで熱を持った身体には心地よい。

 明日に向けた作戦会議の後。俺は舞踏号の応急処置をしていた。何せ、今この人型機械ネフィリムを弄れるのはシルベーヌ。ミルファ。俺の3人しか居ないのだ。全身が痛いからと言って寝ている訳にもいかないし、多少なりとも身体を動かしている方が楽なのもあった。

 シルベーヌは関係各位との調整に、ミルファは改めて公園地下のシャッターまでを調べているので、今舞踏号の側に居るのは俺1人だ。

 地面に座る舞踏号の脛部分。その装甲板と黒い皮膚カバーを一部分外して、タンパク燃料をゆっくりとかけていく。


(今回も色々無茶させたよなあ)


 戦化粧をした舞踏号は、口元のスリットと相まって、まだまだ余裕があるようにも見えた。しかし、消耗しているのは事実なのだ。労わってやらねば、無理がたたって腕が取れたり腰砕けになってしまうだろう。

 そんな事を思いつつ。人工筋肉を揉んだり、今まで何度か教えられた通りに小さな部品を交換していると、ふと後ろから声を掛けられた。


「ブラン兄ちゃん! 何か手伝える事ある?」

「ボク達も明日は一緒に行くんです。何かさせて下さい」


 ちらりと後ろを見ると、そこに居たのは栗色の癖毛と、頭の上に揺れる兎耳。タムとティムだ。2人はやる気十分というか、目を輝かせて鼻息荒く、相当に高揚しているのが察せた。

 そんな子供2人の雰囲気に笑いつつも、俺は手を止めずに返す。


「気持ちは嬉しいけど、俺も人に何か頼める程じゃないからなあ」

「そうなんですか?」


 ティムが意外そうな声で俺に聞きかえし、そっと俺の隣に立って手元を見つめた。タムは近くで改めて見る舞踏号を見上げ、装甲を小突いたりして嬉しそうだ。

 俺は舞踏号の、人間でいう足首の靭帯部分の摩耗を確かめながら答える。


「知らない事が一杯だよ。記憶が全然ない『幸運の旅人』だって聞いたろ? 目が覚めてから、ほんの4か月くらいなんだ。舞踏号の整備の事だって、シルベーヌとか騎士団の人に渡されたマニュアルが無いとどうしようもない」


 自嘲する様に言うと、ティムがゆっくりと俺の隣にしゃがんだ。長いコートを着ているので、そっとその裾を整えつつしゃがむ姿は、男の子なのにスカートを気にする女の子のようでもある。

 そんなティムが中性的で可愛らしい顔で、優しく俺に微笑みかける。


「ブラン兄さんは、とっても頑張ってるんだね」

「そうかあ? どっちかって言うと、流れに任されてるだけって感じだけど」

「それでも、流れに乗って生きていけるのは凄いと思うよ。明日の事を話し合ってる時、ボクの事も気にしてくれたし。その……」


 言い淀んだのでちょっとだけ手を止めてティムを見ると、少しだけ気恥ずかしそうに俯いていた。男の子なのに女の子ように見え、若干頭が混乱しそうになるが、それくらいで動揺する俺ではない。

 ティムは少しだけ溜めた後に、俺の顔を見て口を開く。


「ありがとう。ブラン兄さん。とっても嬉しかった」

「良いって良いって! 自分のする事って言葉に、俺もちょっとだけ感じる部分があったんだよ」

「そうなの?」

「おう。何にもない自分が、何が出来るんだろうって。シルベーヌやミルファに世話になりっぱなしで、ずっと考えてる感じ……かな?」


 明るく返して、俺は再び視線を手元に戻した。皮膚カバーを元に戻して、スパナで固定していく。

 ティムは少しだけ俯き、小さい声で言う。


「……ボクも、自分が何が出来るのかは考えます。タムみたいにぐいぐいいけないし。今日の話し合いの時だって、ドキドキして大変だった」

「決まってたと思うぞ。流石神子様って感じ。それに、ぐいぐい行くのが正しいって訳でもないんじゃないかな」

「そう?」

「おう。目が覚めた頃にミルファが話してくれたんだけど『それもあり』って、昔の人が言ってたらしいんだ」


 皮膚カバーを固定し終わると、俺は装甲板を持ち上げて脛に固定していく。筋肉痛などで少しふらついたので、ティムが慌てて立って横から支えてくれた。

 俺は笑ってティムに言う。


「ありがと。で、まあ『それもあり』ってのがあってさ。何かそれで、俺の中にある常識と全然違う事もあるけど、まあ良いんじゃない? って思えちゃったんだよな。ティム。手離しても大丈夫だよ」

「うん。でも、『それもあり』かあ」


 装甲板をしっかりと取り付けた後、俺は一度深呼吸をしてからティムを見た。いまいち納得いかないような、そういう複雑な表情で兎耳をぴくぴくさせている。この子は真面目に、きちんとモノの道理を考えているのだろう。今までの事を鑑みても明るく感情的なタムと違い、物静かで理知的な感じがするのだし。

 そんなティムを見て、俺は少し苦笑いした。


「そんなに考え込まなくても良いと思う」

「そうなの? ブラン兄さん」


 ティムはパッと顔を上げて俺を見た。

 その可愛らしい顔を見つつ俺は返す。


「何て言うか。心の持ちようっていうやつ? 世の中色々あるけど、こうじゃないといけない。こうでないとおかしいってキッチリ考えなくても良いんじゃないかって感じ」

「うーん?」

「好き嫌いとかはあるけど、まあ緩ーく大雑把にいこうぜ。って思いなんじゃないかなって、俺は『それもあり』を考えてるよ。俺の常識からしたら、人型の機械が居てモンスターが居てなんてのは、とてもじゃないけど信じられないしな。幸運の旅人なんてのも、自分で自分が眉唾物だぞ?」


 俺がそう言って笑うと、ティムも釣られて微笑んだ。


「マユツバって何? 聞いたことない」

「知らない? なんだっけな……何かに騙されないように、眉毛にツバを塗ると良いとか言うおまじない? だったはず?」

「えー。ちょっと変だよそれ」


 ティムがくすくすと笑う。兎耳が揺れて可愛らしく、子供の屈託のない笑顔に心が癒される。

 そしてそんな俺とティムを見て、舞踏号の装甲を叩いていたタムが近寄って来た。ティムが『マユツバ』について説明すると、タムもそれは変だと言って笑った。

 俺はちょっとした文化の違いを感じてしまうけれど、よく考えずとも当然の事だろう。何せ俺の知らない地域と風習のある土地なのだ。ケレンの民からすれば、俺は都市から来た、変わった余所者よそものに違いないのである。


「でも、おまじないならワタシ達もいっぱいあるよな」


 タムがふと思い立って、自慢げに言う。


「例えばさ。最近は誰もしないけど、ケレンの民が戦う時はヘルメットとか兜に角を付けてたんだ。神様から良く見えるようにって。あとなんだっけ、力のショウチョウ? なんかそういうの」

「昔、先生から教えてもらったよねタム。角があるのは勇ましくて、力強い戦士だって信じられてたんだって」

「ツノォ?」


 今度は俺が聞きかえすと、双子は妙案を思いついたという顔で舞踏号を見上げた。

 タムが嬉しそうに言う。


「なあブラン兄ちゃん! 舞踏号に角つけよう! 絶対カッコイイぞ!」


 ティムも嬉しそうに続く


「ボク達神子がおまじないもするから、縁起もいいよ!」

「そうは言われてもなあ……パイロットは俺だけど、整備の全部と装備に割く資金を握ってるのはシルベーヌだから……」

「まず設計図描こう! 紙とペンもらってくる!」


 タムは俺の話を聞かずにそう言うや否や、兎耳を揺らして跳ねるようにどこかへ行った。

 そしてすぐに帰ってくると、タムとティムは工具箱などを机代わりにして絵を描き始める。子供という外見らしい姿に微笑ましく見ていたが、丁度双子の手元を覗き込むようになっていた舞踏号の顔色が変わったような気がした。

 つい気になってタムの絵を覗き込む。


 そこに描かれていたのは、妙に絵心のある舞踏号の姿。だがその頭には、まるでウニのように角が突き出している。


「それは却下!」

「えーなんでだよ! いっぱいあった方がいいじゃん!」

「多すぎるんだよ! もっとシンプルにしてくれ!」


 俺の言に、舞踏号もその通りだと頷いてくれたような気がした。

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