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第42話 〃

 メイズの街に戻って2日目の昼。

 307(サンマルナナ)の整備班員有志達によって突貫作業で整備された舞踏号は、宣言通りかなりの割合で修理が済んでいた。もちろん騎士団での仕事があるので全員がずっと張り付きっぱなしとはいかず、何度か人員が入れ替わりはしたものの、修理自体は相当なペースだった。

 現役の兵器整備員が規制と規則を取っ払い。義侠心とやる気で自分の能力をフル活用しているのだから、当然と言えば当然かもしれない。



 そして舞踏号であるが、見た目に多少の変化がある。

 繊細な指周りはある程度割り切って、補強材によってボクサーが拳にテーピングをしているような見た目になっている。指自体も全部修理すると時間が掛かるので、小指と薬指、中指と人差し指の2つに分けてまとめて固定し、曲げたりするのに問題は無いけれど、3本指の様な見た目になっていた。

 そのテーピングの上から、拳や手首周りに即席の追加装甲板を被せてある。籠手と言うよりは、指だし手袋に鉄板が張り付けてあるようで不格好だが、多少殴りつけても指は無事な程に強度のある装甲だ。

 ダースさんとシルベーヌ曰く『癖で咄嗟に殴ったりする事が多いようだから』だそうだ。言われてみれば、確かにそうかもしれない。


 足回りの見た目はあまり変わっていないが、膝や足指も手と同様にテーピングされたようになっている。見えない足腰周りはきっちりと直されているので、移動などに問題は無い。


 そして顔にも多少変化がある。どうも頭部に集約されたセンサが熱を持つ事が多いらしく、冷却効率を上げるために、顔の装甲にいくらかスリットを入れたのだ。場当たり的な対応なので、そこまで大きい物では無いけれど、人間で言う口元にギザ付いたスリットが入り、不敵に笑っているような印象を受ける顔になった。


 最後に。ダースさんの勧めで、舞踏号の両肩の装甲に鮮烈な赤い塗料で、太い線が1本ずつ引かれた。両目カメラの下や目尻も少しだけ赤く塗られている。今までずっと鈍色だった巨人にほんの少し赤色が入る事で、見る者に幾分締まった印象を与え、機械であるのに血色も良く見えた。



「地下で同業者の人に警戒されたって言ってたし、ちょっとした識別用の線だよ。何より、赤色っていうのは昔は魔除けだったらしいよ。そして顔に塗るのは戦化粧って言ってね。色々願掛けとか意味もあるんだけど、一番大事なのは――」

「大事なのは?」


 真剣な表情のダースさんに、同じく俺が真剣に聞きかえす。すると彼は自慢げに胸を張った。


「格好が付く事だ!! 赤色はヒーローの証だからね!!」


 ガクンと俺の膝から力抜ける。


「いやぁ初めて君達の人型機械ネフィリムを見た時から思ってたんだよ! パラディンが青と白でしょ? 赤色が居たら様になるなーって! 騎士団に居る間は仕事だから、あんまりそういう事も言わなかったけどね!」

「あ、それは分かります! そっか。色はずっと悩んでたけど、赤色を差していくのも良いですね……!」


 ダースさんの嬉々とした言葉に、シルベーヌが同様に嬉しそうに答えた。

 まあ、楽しそうだし良いのだ。舞踏号も嬉しそうであるし。


 次に武装だが、今回使う事の多かった人型機械ネフィリムサイズの手斧。これはそのまま使い続ける事に決まった。刃の研ぎ直しには俺も参加している。それ用の機械など無いので、抱える程のサイズの鑢を使うという重労働だった。

 探索者シーカー協会から借りていた機関砲は返却したので、ミルファは次回から12.7mmの重機関銃をメインに持つことになる。

 これらに関しても、ダースさんや整備班の意見が大いにあった。


「話を聞く限りと稼働データを見ると。どうも接近戦がブラン君は好きみたいだし、剣みたいな斬る物じゃなくて、殴りつけたり叩き潰す物の方が良いと思うよ」

「確かに、俺はどうも力任せに殴るみたいな事が多いんですよね」

「もっと良い物もあるよ。接近戦最強の武器とも呼ばれる道具だ」

「何です?」

「シャベルさ!」

「シャベ……」


 いや。確かに強そうというか、実用的なのは間違いない。先を研げば両刃の斧にもなりそうだし、突き刺したりもできる。ついでに工具として土を掘ったりできるのだから、探索者シーカーが運用する人型機械ネフィリムの武器としては最高では無いか?

 ミルファも納得した様子で頷き、俺に向かって言う。


「現実的に考慮の余地あり。ですね」

「だよな。ただまあ、見た目はちょっと格好が付かないかもしれないけど」

「そこは言うんじゃない! シャベルでもデザインを頑張れば、格好いいかもしれないだろう……!」


 ミルファに返した俺に、ダースさんが残念そうに続いた。

 

 他の装備。トレーラーなどもある程度綺麗にしてある。とりあえず転がり落ちたドアは直してあるし、フロントガラスも綺麗なものに変えた。細かい部分も修繕してあるので、動かすのに全く問題は無い。けれど、触っていない部分の見た目は傷だらけでボロボロなので、走っていると壊れそうな印象を受けた。


 とにもかくにも。再び旧市街に戻る装備の算段は付いた。荷物を乗せれば今すぐにでも出発出来るし、出発したい。逸る気持ちで荷物の積み込みを急いだ俺達に、待ったをかけたのもダースさんと整備員達だ。

 休む間もなく動くのは駄目だ。忙しいからこそ休息は取らねばならない。機械や道具はあくまでハードウェア。それを動かすソフトウェアである人間が疲労困憊では何の意味も無い。

 そう語られて、半ば強引に休む様説得された。


 風呂に入ってしっかりと食事をし、夕方までベッドで泥のように眠った後。

 寝ぐせもそのままに車庫に戻ると、流石にダースさんは騎士団に帰っていた。残っているのは整備員が数人。ギリギリまで細かい作業を続けてくれていたのだ。なんとありがたい事か。ついでに、伸びて来た髪が寝ぐせで四方八方に跳ねる俺を見て、全員が優しく笑ってくれた。

 そして整備員の1人から、ダースさんから俺宛てだという伝言が書かれたメモを貰う。


『帰ったら、暇な時間を見つけて祝勝会だぞ! 女の子2人を無事に連れ帰るんだぞ!』


 力強い筆跡に笑ってしまうとともに、確かな応援の気持ちを貰い、胸が熱くなった。

 

 整備班にお礼や謝礼を渡した後。暗いうちから俺達は旧市街へ向けて出発する。

 休息は大事だと言われていたので夜通しトレーラーをぶっ飛ばす事は無かったけれど、気持ちは逸るばかりだったのは言うまでもない。

 そうやって一度旧市街から離れて6日目の昼過ぎには、余所者アウトランダー達が待つ公園が見えて来たのだった。俺達が優秀なのではなく、整備班員達の手伝いがあったのが非常に大きい。自分たちの無理に付き合わせてしまった事を、ゆめゆめ忘れないようにせねば。



 辿り着いた公園は、少しだけ様変わりしていた。

 会った時よりも随分人員が増え、あちこちにテントが張られて焚き火が焚かれており、ちょっとした集落か陣地のような様相を呈している。機関銃を据え付けられた塹壕。隅にはバイクやトラック。変わったものでは鞍の付いた馬もおり、ヤギも居たのが驚きであった。

 トレーラーを隅に停めるとすぐさま案内されたのは、遊具と遊具の間に布を張り、半分野外の集会所のような天幕の下だった。コンテナで作られた簡易の巨大な机が真ん中に。机の上には、旧市街の地図らしい物が広げられていた。

 そこで机を睨んでいたのは、オレンジの線が入った薄汚れたコートを着た大柄な男。猛禽に似た眼を持つ余所者アウトランダーの中心人物。シェイプス先生だ。


「お待ちしておりました」


 先生は俺達に気付くと、軽く会釈をして口元を緩める。


「予想よりもお早いお帰りですね」

「ちょっと無理して、というか。知り合い達に無理をしてもらって、体裁を整えて来たんです」


 俺が若干申し訳なさそうに答えると、シェイプス先生は背筋を伸ばして言う。


「経緯はどうあれ、火急の際に駆けつけてくれる人物達が居るのは素晴らしい事です。言われなくともと思っているかもしれませんが、どうかその方々を大切になさってください」

「はい! もちろん!」


 探索者シーカー3人の明るい返事が公園に響いた。

 その後はシェイプス先生の雰囲気が変わり。俺達が離れている間に旧市街で起こった事を説明された。



 曰く。やはり旧市街の南に向かって生体兵器モンスターが移動しているのは確かなようだ。その数は、中型の生体兵器モンスターが確認できるだけで50体程。都市の外で暮らす余所者アウトランダー達にとっても、異様な事態であるのは間違いないとの事だ。

 ミルファが小首を傾げ、シェイプス先生に問う。



「やはり、旧市街の南に何かがあるのでしょうか?」

「ハッキリとは分かりません。旧市街の南は、元は政庁や軍の駐留地域だったと伝わっております。ゆえに爆撃が行われ、地面を深く抉ったクレーターが大小無数にあります。我々とてその全てを把握している訳ではありませんが。運よく残った地下施設も、まず無事では無い状態のはずです」

「軍施設ですか……収穫が得られるかはともかく、探索する意味は十分ありますね」

「何人か手の者を回してあります。また異常があれば、すぐに連絡が来るでしょう」


 シェイプス先生の言葉に、全員が頷いた。

 次に、シルベーヌが問いかける。


「公園の下はどうですか? 何か、変わった事は」

「まだ扉は開けておりませんが、足音が聞こえるような気がする。と言うのは、多くの者が感じております。それと神子様達が言うには、それなりに大きな空間が南の方へ続いているようだとの事です」

「タムとティムが調べてくれたんですか!」

「ええ。毎日耳を澄ませて、溝などを歩き回っておりました。神子様達は今もその調査で出かけております。もちろん、護衛を付けてですが。ああそれと、扉に書かれていた文言ですが……見てもらった方がよろしいでしょうな」


 シェイプス先生はそう言うと、公園の地下に続く扉の方へと俺達を誘った。

 扉は土が避けられ、幾分綺麗な形になっていた。入りやすいようにしてあると言って良い。そして扉の周りは土嚢などで囲まれているが、入る事を拒むためというよりは、中から何かが出てこないかを見張っているような形に見える。

 先生を先頭に扉に近づくと、前回感じた寒気が無い事に気付く。今は奥に、誰も居ない感じがした。


「『災ある者は誰か――赤い目をしている者は誰か』。こちらの文言ですが、古い本の御言葉の一つで、こう続きます」


 先生はそう言うと、少し息をすってから詠うように声を出す。



 酒に夜を更かす者、行って、混ぜ合わせた酒を味わう者である

 酒は赤く、杯の中に泡立ち、滑らかにに下る、貴方はこれを見てはならない

 これはついに、蛇のように噛み、蝮のように刺す

 貴方の目は怪しいものを見、貴方の心は偽りを言う

 貴方は海の中に寝ている人のように、帆柱の上に寝ている人のようになる

 貴方は言う、「人が私を撃ったが、私は痛くはなかった。私を、叩いたが、私は何も覚えはない。いつ私は覚めるのか、また酒を求めよう」と


 

「……以上です。これ単体は意味が分からぬものですが、解釈次第でどうとでも取れます。こういった文言は古い本の訓戒に多いですので、決して特別なものでもありません。呪文という訳でもありませんので、ただ落書きと言っても良いでしょう」


 シェイプス先生が補足した後、シルベーヌがどことなく気まずそうにした。

 俺は気になって声を掛ける。


「どうした? シルベーヌ」

「……私はその文。お酒の飲みすぎ注意。って事かなって思っちゃって。ほら。前だって私。片付けもせずにぐっすり寝てたでしょ」


 シルベーヌの真剣な言葉に、ミルファが口元を抑えてくすくすと笑った。俺も思わず吹き出してしまい、耳まで赤くしたシルベーヌに軽く背中を叩かれる。シェイプス先生は神妙な顔をしつつも、どこか納得した様子だ。


「ちょっともうやめてよ! 恥ずかしいんだから!」

「ごめんごめん。まあでも、飲みすぎ注意ってのは本当だと思う!」

「シルベーヌは飲みますけど、それなりに弱いですからね」


 顔を真っ赤にするシルベーヌに俺が答え、ミルファも微笑みつつ言った。

 気が抜ける雰囲気で笑っていると、シェイプス先生が低い音で咳払いをする。慌てて全員で気を付けをすると、少しだけ厳しさが増えた態度で俺達に聞く。


「仲が良いのは良い事ですが、時と場合をお考え下さい。遊びに来ている訳ではないでしょう」

「はい……」

「では御三方。今日はゆっくりと休んで英気を養って下さい。中に入るのは明日の朝でよろしいでしょう。何分、皆さんは移動で疲れていらっしゃるのが見えます」

「あ、ありがとうございます」

「テントも用意してあります。どうぞそちらでお休みになって下さい。周囲の警戒は我々がしましょう」

「はい。とても助かります」


 シェイプス先生の言葉に皆で返し、しばらくの休息が決まった。



 シェイプス先生だけでなく、他の余所者アウトランダーの皆にお礼を述べたり、ちょっとした食料などを渡して回って社交辞令を済ませた後。俺達は簡単な拠点と化した公園でくつろぎはじめる。

 3人で焚き火の近くに座らせてもらい、暖かいお茶を飲みながら背伸びをした。


「やっぱり、人が多いと助かるわねー」


 シルベーヌが肩をグルグル回して言った。

 ミルファも一口お茶を飲んだ後、ホッとした様子で答える。


「3人だとどうしても、全員が同時に気を緩めるという事がしにくいですからね。夜中も皆さんが交代で見張りをして下さるそうですし、私達はしっかり寝て。地下探索に集中できます」

「ホントね! やっぱり数は力よねー。生体兵器モンスターの事を気にせず、安心して休める場所があるってだけでも随分違うもの」

「皆さんの為にも頑張らないといけませんね。もう少し休憩したら、探索の下準備もしておきましょう。特にブラン。あの入口を舞踏号で拡張するにしろ、最初は生身での探索になりますよ」

「あ、そうか!」


 唐突に言われ、俺は手を打って頷いた。

 そうだった。すっかり気が回っていなかった。ミルファの言う通り、実際舞踏号で押し入るにしろ、最初の調査は生身で行わなければならない。いきなり入口をぶっ壊して、中から危険な物質やら生体兵器モンスターやらが湧きだして止まらない。なんて事になったら冗談では済まないのだ。

 生身での戦闘も訓練はしたけど、素人に毛が生えた程度のものだ。不安ばかりだけれど、気合と根性で乗り切るしかあるまい。


 そんな事を思っていると、不意にどこからか、馬の蹄の音が聞こえて来た。音のする方を見ると、荒れた旧市街を背景に、若く雄々しいタテガミの馬がこちらに走って来ていた。

 手綱と鞍の付いたその馬の背には、薄汚れたコートを着た塊が乗っている。その塊には兎耳が4つ。ぴょんと立っていた。

 更にその馬を追う形で、何台かバイクに乗った人が追ってくる。その絵面はどこか奇妙で、牧歌的であった。

 

 馬に乗っていたのはもちろん。ケレンの民の神子様達。じゃじゃ馬ならぬじゃじゃ兎の双子。タムとティムだ。栗色の髪の毛を揺らし、頭の上の突き出た兎耳を揺らし、更に走る馬の動きに合わせて身体を揺らしている。

 手綱を握っているのは双子の姉。タムだ。タムは俺達の姿を見とめるや、馬の腹を蹴ってこちらに加速させた。タムの背にしがみつく双子の弟。ティムがバランスを崩して若干慌てたが、そんな事お構いなしにこちらに急接近してくる。


 俺の背丈以上。そして筋肉の躍る健康な馬という生き物が突進してくるのは、本能的な恐怖を感じさせる何かがあった。思わず立ち上がって身構えていると、馬は俺から3mほど離れた地点で土を巻き上げつつ急停止した。


「兄ちゃん達! 思ったより早かったな!」


 タムが満面の笑みで叫ぶ。手綱を横に引っ張り、馬の頭を横に向けた。

 近づいて見るとこの馬。かなり大きく感じてしまう。俺の背丈以上にあるとは思っていたが、馬の背と俺の額が同じくらいの高さだ。そして体躯こそ屈強であるが、どこか優し気な雰囲気があり。背に乗せている双子を気を使っているような感じすらする程だった。


「地下の様子を探っていたんです。何となく分かった事も多いので、後でお話します」


 ティムが嬉しそうに言うと、馬は何かを察し、そっと身を屈めて座った。双子はするりと馬の背から降り、手綱を外して馬の顔を優しく撫でる。

 馬は嬉しそうに顔を双子に摺り寄せた後、ゆっくりと立ち上がって、別の馬やヤギが居る場所へと自分で歩いて行った。


「……すっげえなあ……賢いんだ」


 俺はポカンとして、心のままに感想を言った。

 ティムがそんな俺を見て笑う。


「アーノッツはボク達と育ったみたいな感じですから。場所を選べばバイクとかトラックよりも速いし、自分で動いてくれるから楽なんです」

「まあ、アイツは大食いだから燃費が悪いけど!」


 タムが補足し、双子は顔を見合わせて大笑いした。屈託のない明るい笑顔に、周りがパッと明るくなったような気もする。唐突な馬の登場で驚いていた俺達探索者シーカーだったが、その笑顔で大分気が抜けた。

 しかし。タムとティムは思い出したように顔を凛とさせ、貴い雰囲気を繕ってから口を開く。


「よく戻られました。我々ケレンの民は、旅人の再来を歓迎いたします」

「我らと旅人と達が力を合わせ、異変の元凶を突き止められるよう。神々の加護があらんことを」


 タムに続いてティムが堅苦しい様子で言い、胸の前で両手を組んで恭しく頭を下げた。双子に続き、周りに居た余所者アウトランダー達も両手を組んで頭を下げる。

 そうだった。この双子は宗教的な旗印だったのだ。これも何らかの礼儀とか、作法の一環なのだろう。

 俺は戸惑いつつも礼を返すと、シルベーヌとミルファもそれに続く。それを見た双子はぱっと顔を上げ、いつもの雰囲気に戻って俺達に笑いかけた。


「兄ちゃん達、どうせ仕事は明日からだろ! 色々話したい事あるからさ、ワタシ達のテントに来てくれよ!」


 タムが俺の右手を力強く引っ張り、ティムもそっと俺の左手を引き、立ち並ぶテントの中でも一番しっかりした物の方へと誘おうとする。


「待て待て! 俺達も色々準備があるんだよ!」

「良いじゃん兄ちゃん。ちょっとくらい!」

「ダメよタム。ちゃんと仕事の準備をしてから」


 シルベーヌはそう言うと腰に手を当て、口をへの字に曲げた。

 双子が俺の手を引く力が弱まり、2人の兎耳がしゅんと前に倒れ、タムが残念そうに言う。


「分かったよ。金髪の姉ちゃんが言うなら」

「そんな顔しないの! 準備終わったら話は色々聞くから! それと、私にはシルベーヌって名前があるのよ?」

「……分かったよ、シル姉ちゃん」

「その呼ばれ方は初めてかも」


 タムのシルベーヌへ向けた呼び方に、思わずシルベーヌは笑ってしまった。

 ミルファもたおやかに微笑みつつ言う。


「でしたら私はミルファですので」

「ミル姉ちゃん?」

「何だか、不思議な呼ばれ心地です」

 

 タムの呼び方に、ミルファがどことなく恥ずかし気に答えた。

 そして全員の視線が俺に向けられる。


「じゃあ俺はブランだから」

「ブラ兄さん……?」


 ティムがおずおずと言った。

 俺は天を仰いで返す。


「流れ的におかしくはないけど、ブラで兄さんは嫌だ!」

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