第38話 損害報告
「う”ー……沁みるわねー……」
シルベーヌがはにかみつつ言った。彼女の怪我は、今消毒している、片眉の上に5cm程の切り傷が1つ。あとは全身に打ち身があるくらい。いつでもトレーラーを走らせれるようにとシートベルトをしていたおかげで、横転したトレーラーの中で上下左右に吹っ飛ぶことも無かったらしい。
探索者の常で、戦闘服と作業着を着ていた事も、窓ガラスの破片から身体を守っていた。頭の辺りは血管も多く、見た目以上に血が出る事もある。窓ガラスに血が付いたのは、その結果だった。
ミルファが冷静に言う。
「傷に破片が残ったりはしていません。怪我が無いかもう少し見ます。服を脱いでください」
「あいあい」
シルベーヌは答えると、躊躇うことなく作業着を脱ぎ、次いで薄い戦闘服の前を開いて諸肌脱ぎになった。手や首が薄っすらと日に焼けた健康的な身体、割とある胸が露わになる。
ミルファは歪んだランタンで、シルベーヌの身体を照らして怪我が無いか調べていく。
「アザがありますね。骨が折れたりはしていないようです。気になるところはありますか?」
「肘打ったから痛いくらいかな。気分が悪かったりは無いから、多分大丈夫」
「瞳孔の動きも正常ですね。しかし、後から症状が出る事もあります」
「うん。もちろん」
ミルファは再びランタンで怪我が無いか調べた後。安心した様子で頷く。そして眉の上の傷の大きさに合わせて切った傷用パッチを、服を着直したシルベーヌの眉の上に貼りつけた。
シルベーヌは軽く額を触った後、優しくミルファに笑いかける。
「ありがと。ミルファ」
ミルファは返事をせず。ただぎゅっとシルベーヌの首に抱き付いた。微かに震えているのが察せ、シルベーヌは抱き付かれたまま、そっとミルファの背を撫でる。
そしミルファはシルベーヌから離れると、同じくトレーラーの中でひっくり返っていた双子を見た。双子は外傷も無く、目がグルグルした程度だと言っていたが――
「2人の傷も見ます。服を脱いでください」
「えっ。別に良いよアンドロイドの姉ちゃん。ワタシは――」
「恥ずかしさなど言っている場合ではありません。怪我をしていても、一時的にその痛みに気付かない事は多々あります。特に生身の方は、目立たない打ち身や腫れが原因で死ぬ事だってあるんです」
ミルファはタムに向かってきっぱりと言うと、冷静な顔と強引な手つきで、その小汚いコートを脱がしにかかった。
もちろん。タムは顔を赤くし、兎耳をピンとして暴れる。
「わ、分かった! 分かったから! 一人で服くらい脱げる!」
「はい。貴方が終われば、次はティムです。準備はしておいてください」
「あ。私がティムの方は――」
「シルベーヌは怪我人です。座っていてください」
「あい……」
ミルファが真剣な表情で、気を利かせて動こうとするシルベーヌに有無を言わさず制した。
診察の結果。タムとティムも無事である。打ち身はあるものの、2人は軽く目を回しただけでピンピンしていた。流石は身体が強いと褒めるべきだろう。ミルファの強引かつ真剣な簡易診察を受けた2人は、揃って兎耳をピクピクさせ、恥ずかしそうに身を寄せ合って地面に座っていた。
しかし。念のためしばらく横になっておくよう告げられ。シルベーヌと双子は地面に敷いた寝袋の上に身を横たえた。
そして俺はと言えば。そんな事を皆がしているとは知らず。舞踏号で横転したトレーラーを元に戻した後、コクピットから出て、撒き散らされた荷物を集め直していた。
俺には応急手当の知識など無いのだ。精々消毒液をかけて、そこにガーゼを当てて包帯を巻くくらいしか思いつかない。
なにより。生体兵器相手とはいえ、無我夢中で自分がした事が薄気味悪く、1人になる時間が欲しかった。舞踏号の手越しに、ぬるりとした気管を引き裂いて首の骨を握る感覚が、右手に残っている気がする。
あの一瞬。俺はまず間違いなく、人型機械という機械を動かす部品になっていた。何も感じず、何も考えない。ただのパーツに。
そして舞踏号だが。全力での稼働が響いたのか、全身の関節が痛み切っていた。特に右手は全て突き指したようになっており、手を開いたり閉じたりするのも支障がある。左手も殴りつけた拳の骨格が砕けたようになっている。
足腰も似たようなものだが。中でも人工筋肉が痛みを放ち、熱を持っている感じがした。微細な筋繊維の断裂が起こっているのだろう。オーバーホールが必要とは言わないが、しっかりした整備が必要なのは明白だった。
何とも言えない心地のまま、黙々と荷物を集めていると。不意にミルファが俺に近づき、同じく散らばった荷物を回収しながら静かに言う。
「ブラン。大丈夫ですか? 身体的な面では無く。精神的な面です」
「……多分。大丈夫」
ぽつりと答えると、ミルファは優しく微笑んだ。
「先ほどのブランの戦闘は、シルベーヌと双子を救うという意味で正しい行いでした。私はトレーラーが倒れた瞬間。最悪の事態を想像して動けなかったのですから」
「ミルファ……」
「ですから。胸を張って下さい。最初にブランがいち早く危機を察知して、躊躇わずに動いたからこそ、私達も動けたのです」
そう言うとミルファは、無事だった水のタンクを持ち上げた。
そうやってしばらくの後。
散らばった荷物を集め終え、歪んだランタンを囲んで、暖かく甘いコーヒーが全員に行き渡った頃。ミルファが被害報告を告げる。
「水と食料が、あと2日分になりました。トレーラーの燃料等も同じです。舞踏号もまだ稼働はしますが、足回りの摩耗が酷く、両手がエラーを発しています。補給パーツも7割ほど使い物にならなくなりましたね。トレーラー自体も、外装と車輪がいくらか歪んでいます」
「結構痛手ねー。ミルファ。トレーラーの修理は出来そう?」
「はい。シルベーヌ。車輪の軸やエンジンなどは無傷でしたので、簡単な修理でなんとか」
「軽傷で済んだし。足が無事だったのは幸いね。下調べありがと」
シルベーヌが笑い、ミルファも微笑み返した。そして、シルベーヌは大きく息を吐いて、全員に言う。
「完全に無警戒過ぎたわね。タムとティムの事で頭がいっぱいになって、夜中の見張りの事とかすっかり忘れてた。もっと言えば。1回ここに泊まって安全だったから平気だろうっていう、思い込みもあった。都市の外で安全な場所なんて無い。キャンプ地だって、比較的安全かもしれないってだけ。探索者失格よ。我ながら情けない」
「いや。シルベーヌ。俺にも責任がある」
俺は心苦しくも言った。全員の視線が集まる。
「俺は。俺の身体は旧市街に来てからずっと、視線に気づいてたんだ。それを理解しようとしなかったのは俺だ。分かっていたのに、身体の使い方が甘かったんだ」
「うーん? ごめんブラン。よく分かんないわね?」
「いや。こっちもごめん。そうだよな。えっと、ふっと感じたんだ。俺達は旧市街に来てから、ずっとサイクロプス達に狙われてたみたいで、遠巻きに眺められてた。シルベーヌもミルファも、視線を感じたりとかはあったろ? それは勘違いとかじゃなく、本当に見られていたんだ。それと――」
俺のたどたどしい言葉に、皆が真剣に耳を傾けてくれていた。
戦う前に感じた事を全て言い終わると、ミルファが少し悩むようにした後、俺に向かって言う。
「舞踏号に乗っているブランが、周りの気配に敏感になるのは実績があります。ゴブリンの群れ。山岳のミノタウロス。盗賊。そしてタムとティム。しかし。それは感覚的な事です。確たる根拠は無いと言って良いでしょう」
「まあ、そうだよな……」
俺の感じた事は、結局は感覚と仮定で彩られた妄言でしかない。その自覚はある。軽く落ち込みそうになるが、ミルファがたおやかな笑顔で口を開く。
「ですが。逆説的ではありますが、その感覚が実績を上げている事自体が根拠になり得るかもしれませんね。ブラン。他に感じた事は?」
「……サイクロプス達は、確実な機会を待ってたんだと思う。最初にシルベーヌが言ったように『飛び道具を使う知恵は無いけど、掴んだ物を投げるくらいの知恵はある』相手なんだ。確実を期すために、じわじわと囲んでから闇に紛れて……ってのは、どうなんだ? 生体兵器はそういう戦術があるもんなのか?」
ふと俺が聞きかえすと、全員が首を捻った。シルベーヌとミルファの2人は俺の質問に対して首を捻ったが、双子は意味が分からないという様子だ。
少しだけ考え込んだ後、シルベーヌが返事をしてくれる。
「人間が戦争で使うような戦術って意味では、そういう知恵は無いはず。けど、動物の群れが狩りで使う戦術って意味では、そのくらいの知恵はあると思う」
「じゃあさっきのは人間的な方だ。そういう感じがした」
「戦術を使う生体兵器ですか……。襲って来たサイクロプス達も変でしたね。私の情報不足かもしれませんが、表皮の色がこんなにガラリと変わる事は、探索者協会でも聞いた事がありません」
ミルファもふと気づいた事を続け、全員の顔を見た。
シルベーヌが頬を掻いて聞き返す。
「新種って事? でもそうか。旧市街の周りにある道路でもサイクロプスが出てるって、ウメノじーさんは言ってた。その原因はこの新種で。肌の色が変わって見つけにくいから?」
「かもしれません。しかし。生体兵器に襲撃されたという報告が上がっているのですから、群れの中に変わった個体が居れば、小さな噂が立つはずですが。いずれにしろ――」
ミルファが一度言葉を切り、息を吸ってから続ける。
「現時点で、これ以上の探索は難しいですね。サイクロプスの死体を持って一度メイズに戻り、協会に新種の報告をするのが最善だと思われます。こういった存在は、知っていれば対応できますが、知らなければそれなり以上の脅威です。注意喚起が、探索者全体の為に必須でしょう」
「食料とかも2日分しか無いし、仕方ないか……。けど、タムとティムを親御さんのとこに送ってからね。改めて聞くけど、タムとティムの身体は平気?」
深呼吸の後。心配するようにシルベーヌは言ったものの、双子は肩身が狭そうだった。折角淹れた、甘いカフェオレに近いコーヒーに、一口も口を付けていない。
ミルファが双子に向け、優しく微笑む。
「どうしました? 暖かいうちにコーヒーは飲んでくださいね。喉を潤すと心も落ち着きます。苦いのが苦手でしたら、今から紅茶でも――」
「違う! そうじゃねえよ。そうじゃなくて……」
「……ボク達が、皆さんを危ない目に合わせた気がして……」
ミルファが驚いた顔をした。シルベーヌもである。
しかし。シルベーヌは大きく息を吸うと、優しく笑ってゆっくりと立ち上がり、双子の前に回った。そしてギュっと。双子を同時に抱きしめる。
「何言ってるのよ! そんな訳無いでしょ! サイクロプスにずっと狙われてたのは、さっきブランが言った通り! ティムとタムはむしろ、偶然私達に巻き込まれた被害者よ?」
双子は驚いた顔で兎耳がピンと立ち。シルベーヌになすがままになっていた。
シルベーヌは一度身を離し。太陽のような笑顔で双子を見る。
「元気出しなさい! 私の言う通りにトレーラーの中でも大人しくしてたし。横転した時だって、悲鳴は上げたけど泣いたりしなかった。さすが余所者ね! って、この言い方はキライだったわね」
「……別に、良いよ。姉ちゃんになら」
「そう? ありがとねタム」
シルベーヌは明るく笑い、タムの頭をゆっくりと撫でる。兎耳が左右に揺れた。彼女は次に、ティムの頭もゆっくりと撫でた。
「ティムも流石男の子! 横転した時、ちょっとだけタムを庇おうとしたの。私は見てたわよ。いざという時に、そうそう出来る事じゃないわよ?」
そう言ってシルベーヌは満面の笑みを浮かべた。
ティムは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに。シルベーヌになすがままにされている。
暗くなりかけた雰囲気を吹き飛ばす、暖かく快活な気風。怪我をして、被害が出てなお後ろ向きにならない、凛とした前向きさ。シルベーヌはそれを、自分の身体一杯で周りに放っているのが感じられた。
「起こった事を反省するのは大事。けど、もっと大事なのは、それからどうするかって事! 後ろ向いたまま歩いてたらこけちゃうもの」
シルベーヌがそう言って笑い。双子の兎耳を軽く撫でた。
「では。安全のために公園の地下に続く扉は埋め直して、朝日が出たら移動が出来るようにしましょう。タム。ティム。貴方達にもルールがあるのは存じていますが、お仲間の所に合流する方法か、道を教えて頂けますか?」
ミルファの言に、双子が凛とした顔になる。
「動かなくても良いと思う。なあアンドロイドの姉ちゃん。笛ってある?」
「笛ですか? 楽器はありませんが……遭難時用のホイッスルならあったかもしれません」
「もし無くても大丈夫です。朝になったら、ボク達で皆を呼びます」
そう言うと、タムとティムは真剣な表情で頷いた。
という訳で。
無事な俺とミルファが交代で見張りを担当して、夜を明かす事になった。
どうせトレーラーを移動する事も出来ないので、日の出まではこの公園に居るしかない。何より。平気に見えても怪我人が3人いるのだ。今は少しでも身を休めておくのが重要だろう。
しかし。双子は緊張で寝れないらしい。せめて眠気が来るまで耳で警戒するのを手伝うと言ったが、歪んだランタンの灯りを見つめつつ、ぼんやりと身を寄せ合っている。
「アンタ達。無理せず寝なさいよ? 私はちょっと、トレーラーの足回り見るから!」
シルベーヌは明るく言って優しく双子の頭を撫でると、伸びをしながらトレーラーの裏へと回った。姿は見えないが、微かにカチャカチャとした金属音が聞こえ、言った通りにトレーラーを整備し始めているのが察せる。
「……金髪の姉ちゃんは、普通の人で生身なのに元気だな」
「怪我もしたのに、体力あるよね……」
タムに続いてティムが感心した様子で言い、再びぼんやりと身を寄せ合う。
そこでふと。ミルファが俺に手招きをした。何事かと思って近づくと、小さな声で俺に囁く。
「ブラン。シルベーヌに声を掛けてあげてください」
「俺が?」
「シルベーヌのあれは空元気です。体力面もですが、精神的なケアが必要になります。そして私よりもブランが声を掛ける方が、あの子の為になります」
「……そうなの?」
「はい。早く行ってあげて下さい」
ミルファは急かすようにそう言うと、トレーラーの方に俺の背を押した。
言われるままにトレーラーに近寄り、俺はシルベーヌが居る方に回った。シルベーヌは大きな車輪の横に屈み込み、足元に大きなボルトやナットが転がっている。そして彼女は、すぐに俺の存在に気付いて顔を上げた。
「どうしたのブラン? 手伝ってくれなくても大丈夫よ?」
シルベーヌはそう言って、優しい笑顔で俺を見る。
「いや。ただ、シルベーヌが気になってさ」
「気にしてくれたんだ。ありがと! でも怪我は大丈夫よ。この通りピンピンしてるし」
彼女はそう言って立ち上がり、ぐっとガッツポーズをして笑う。先ほどまでタムやティムに見せていた、いつもの笑顔では無い。空虚で欺瞞のある、偽りの笑いだ。無理をしているのがひしひしと感じられる。
その無理の奥にあるものを感じて胸が痛い。彼女は双子に責任を感じさせまいと、気丈に振る舞っていたのだろう。
「なんでブランが泣きそうになってるのよ」
そう言われ、俺は慌てていつの間にか熱くなっていた目頭を拭う。
そんな俺を見てシルベーヌが笑いかけ――彼女の目がジワリと潤んだ。手に持っていたスパナを取り落とし、一瞬の逡巡の後に俺の胸に飛び込んだ。
「ごめん。ちょっとだけ、このまま」
驚く間もなく、くぐもった小さな声が震える。少しだけ背が低い身体も微かに震えていて、いつもの元気など欠片も無い。
それはそうだ。命の危機に瀕して怯えない人間などいない。
しかし。彼女が双子に言った、自分の行動が周りにどう影響を与えるのかを考えるという事。ここで彼女が怯え、悲鳴を上げるのは簡単だ。でもそうしなかったのは、ひとえに双子の身体と心を守る為だ。
双子は自分達のせいで、俺達が襲われたのかもしれないと言っていた。シルベーヌがぐったりしていれば、双子はより気持ちを落ち込ませていただろう。その気持ちの落ち込みが、子供の心をどれだけ蝕むかは想像に難くない。
そうならないように、彼女は自分に鞭打っていたのだ。本当は怖かったけれど、ぐっと自分を抑え込んで。自尊心と見栄のためだと言えばそれで終わりかもしれないが、例え見栄でもそうそうできる事では無い。
俺はいたたまれなくなり、シルベーヌの身体に躊躇いがちに腕を回して抱きしめた。彼女の身体は一瞬だけ跳ねるように震え、ゆっくりと弛緩する。
おずおずと、シルベーヌの震える腕も俺の胴に回された。胸に顔をうずめると、すぐに嗚咽と涙声がぐすぐすと漏れ始める。トレーラーの影で抱き合い、互いに何も言わない時間が過ぎていく。
しばらく経った後。シルベーヌが顔を上げずにぽつりと言う。
「……私達、変な事してるよね」
「まあ、勢いとは言えこの体勢はな……。でも、泣きたくなるのは変な事じゃないはず」
「……そうかな……」
「おう。前に、シルベーヌが俺に言ってくれたろ。溜めてちゃダメで、ちゃんと出さないとって」
無意識のうちに、彼女を抱きしめる手に力が篭る。
胸の前から、シルベーヌの弱々しく消え入りそうな声が小さく聞こえだす。
「……怖かったし、痛かった。傷が残ったらやだ」
「うん。帰ったら病院に行こう」
「……私、情けないよね……子供に偉そうな事言って、こんなの……」
「そんな事無い。立派だし、強い人だよ」
「……お風呂入りたい……ごめんね。今だって汗くさいでしょ?」
「いいや。良い匂いだよ」
「……うわー……ブランはヘンタイなんだ……」
「おう。俺は可愛い子の匂いに弱いって、最近気づいたんだ」
気持ち自慢げに答えると、胸の中でシルベーヌはくすりと笑った。笑ってくれるなら、俺の嗜好くらい曝け出してもお釣りがくるってものだ。
そして彼女は俺の胸に頭を擦り、恥ずかしそうに言う。
「……ありがと。何かちょっと変だけど、元気は出たかも」
「なら良かった」
「でも、ブランにそんな趣味があったとはねえ」
「……周りに言うなよ?」
「どうしよっかな?」
シルベーヌの声に、いつもの元気が戻って来ている。それだけでも、俺にとっては嬉しい。
彼女は一度恥ずかしそうに身じろぎして、俺から身体を離した。その身体はもう震えていないが、代わりに目を伏せ、消えそうな声でぼそぼそと言う。
「……また。溜め過ぎたら、お願いしてもいい?」
「もちろん。いつでも!」
「鼻の下伸ばして言われると、格好付かないわね……」
「むぐっ」
慌てて口元を抑える俺を見て、シルベーヌが明るい声で笑ってくれた。




