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第145話 剣の舞

「事前のチェックは良し! 舞踏号は万全! 装備も良し!」


 座り込む舞踏号の膝元に立つシルベーヌが、整備状況などを書き込んだバインダーを覗き込み。顔を上げて明るく言い放った。

 その言葉通り、機体の各部は調子が良いし。装備もきちんと演習用に調整してある品を用意されているのだ。


 舞踏号の得物は、いつもの分厚く頑丈な長剣とトマホークでは無い。騎士団側が用意した、訓練用の刃と切っ先が潰してある長剣だ。

 人間で言えば、いわゆるごくシンプルで平均的なロングソードという物の人型機械ネフィリム版。振り心地を軽く感じてしまうのは、きっといつもの長剣が特別製だからであろう。


 ともかく。その模擬戦用の長剣を二振り、近くの地面に深々と突き刺してある。

 今までは剣と斧の二刀流が常だったが、流石に訓練用の斧など騎士団は持っていないので、今日は剣で代用という訳だ。


「緊張なさっていますか?」


 シルベーヌの横に立つミルファが問いかけ、舞踏号の顔を見上げた。

 その言葉に続くように。観客が居る方角から、ワッと歓声が上がる。

 何か盛り上がる事があったのだろうとは察せるが。その歓声の大きさと数は、否応なしに俺の心を強張らせた。


『流石に多少は緊張するな……。観客って人達に見られながらの戦いなんて、俺は初めてだし』

「今までは誰かに見られる事はあっても、こういう感じじゃなかったしねぇ」

「声援を受ける事はありましたが、少々勝手が違いますね。開始までもう少し時間がありますから、ブランはリラックスして下さい」


 肩を竦めて言ったシルベーヌに続いてミルファが言って、2人はくすくすと笑って身を寄せ合う。


 そんな姿を見て、舞踏号が口元の排熱機構から白い息を吐いたところで。センサが小さな影の接近を捉えた。

 鋼の身体を少し動かして視線をそちらに向けると。ビニールシートで作られた壁の後ろから、丁度ナビチさんとセブーレさんが顔を出したところである。


「よーう隊長。緊張してそうだな」

「お客さん達連れて来たぞ!」


 ニヤつきつつ髭を掻くナビチさんに続いて、セブーレさんが笑って言った。

 すると2人の後ろから更に3人。中、小、大の人影が現れる。


 ルビーを溶かしたような紅い髪をした、ウーアシュプルング家の御令嬢、エリーゼさん。

 そして黒髪でクラシックなメイド服を着た、球体関節のアンドロイド、シャルロッテさん。

 最後に、丸刈りの頭と屈強な体躯をした男性。以前関わりのあった、劇団員のメアさんである。


『こっちに帰って来てたんですか! お久しぶりです!』

「お久しぶりです。何だか模擬戦というのををやると聞いて、皆さんの応援に来たんです」


 そう言って微笑むエリーゼさんの後ろには、保温バッグを持ったシャルロッテさんとメアさんが続き。中身はちょっとした軽食と飲み物であることを告げ。

 近くの探索者シーカー達がそれを受け取って、いそいそと周りに配り始めた。


 大事な来客であるし。俺も舞踏号のコクピットから一旦出て、きちんと挨拶を一度。

 すると、ふっとこの場の雰囲気が懐かしいものに代わり。シルベーヌとミルファはシャルロッテさんの手を取って笑い合った。


「お久しぶり! で、ございます!」

「シャルロッテさんもこっち来てたのね!」

「エリーゼさんのお手伝いのような形でしょうか?」

「そうでございます! もちろんアルフォート様もこちらに!」

「店長と奥さんが戻って来たんで、お店も再開ですよ。今は皆こっちに来て、俺達以外は営業してる最中です。ついでにさっき、髭の探索者シーカーさんからもちょっとした仕事を頂きました」


 女子3人の会話を受けて、屈強なメアさんが続いて教えてくれ。

 賑やかな女の子達を見て微笑むエリーゼさんとメアさんが、改めて俺の方を向いた。


「今日来たのは、皆さんの顔を見たかったのもありますが。お父様から連絡があって、それを直接お届けしたくて。人は多いですけれど、メア達がとても優秀なボディガード役をしてくれてます」

「奥様の頼みならこれくらい! やっぱりガタイが良いと、こういう役は俺に向いてますしね!」

「皆さんお元気そうで何よりです。でも、ガナッシュさんからですか?」


 笑いつつも俺が問い直すと、エリーゼさんが赤い髪を揺らして頷き。ポケットから丁寧に封がされた手紙を一通取り出した。

 それを受け取った俺は、すぐに手紙を開けて中を検める。

 前置きは抜きだと文頭に書かれ、すぐさま本題に入ったガナッシュさん直筆の手紙を読み進めていくうちに。俺はつい眉間に皺が寄った。

 当然。それを見たエリーゼさんや、シルベーヌとミルファも何かを察知し。近くで成り行きを見守っていたナビチさんやセブーレさんもこちらに歩み寄る。


「ブラン。内容次第だけど、私達も聞いていい?」

「もちろんだ、シルベーヌ。この場の人には隠すような事じゃないしさ。まあ要約すると『騎士団に変な動きがある。人型機械ネフィリムを何機か組み上げてメイズの街に輸送した。』らしいんだ」

人型機械ネフィリムの部品を集めたりしている。という話は以前聞いた気がしますが……。竜の襲撃でうやむやになったとはいえ、慈恵号の事を思い返すと何か引っかかります」

「だよなミルファ。ナビチさん、セブーレさん。慈恵号を撃破した後の部品は今?」

「セブ達が回収して、騎士団の目を誤魔化してから、協会の管理する倉庫に放り込んである。手先が器用な連中が、ある程度は整理したりしてるはずだろうが――」

「何だよ。パーツ取りでもすんのか隊長?」

「いえ。ただ、ここ最近忙しくて。残骸の解析とかを出来ていないのが気になって……」


 そう呟き。俺はガナッシュさんからの手紙をシルベーヌに手渡した。

 それを探索者シーカー達が覗き込む中。エリーゼさん達は小首を傾げるばかりである。


「お父様の手紙にあった。騎士団が新しく作ったかもしれないという人型機械ネフィリムが、皆さん気になるのですか?」

「ええ。そうですエリーゼさん。……一応、というか。曖昧な思いにはなるんですけど」


 慈恵号を組み上げたのは騎士団だ。

 そしてその慈恵号は、未だに謎が多い白い子供に何かを吹き込まれて暴れ出し。ホワイトポートで舞踏号が首を落とした。

 だが、倒したと思っていた慈恵号は身体だけでメイズ島の地下遺跡に潜り。また別の場所で舞踏号と戦って敗れた。

 街中で起こった事件を発端としているのだから、騎士団が知らないはずが無い。


(そういえば。頭の部品はしばらく生きていて、どこかにセンサが得た情報を送ってるって言ってたな)


 振り返りの中、何かに思考が引っかかった。その時。

 また別の探索者シーカーがやって来て、そろそろ支度をしておくようにと騎士団から連絡が入った事を告げてくれた。

 俺はそれに明るく返事をしてから、この場の全員を一度見渡す。


「よし! 考え事はひとまずここまで! 今は目の前の戦いに集中します!」

「了解よブラン! ガツンとやって来てよね!」

「格好良いところを見せて下さいね?」


 俺の掛け声に、シルベーヌに続いてミルファが明るく返してくれて。

 周りに居る人々が、それぞれ明るい声で続いた。

 探索者シーカー達だけではなく、エリーゼさん達の声援も受けているのだ。確かに、格好悪いところは見せられない。


 ぱっくりと開いた舞踏号の背に飛び乗って、その脊髄に抱き付くような形のコクピットに滑り込んだ。

 いつもの操作を行えば、ハッチが閉じて意識が一瞬途絶える。



 任せて。何かあったらすぐ。



 そういういつもの幻聴。舞踏号の声が聞こえたかどうか――というところで。ハッキリとした意識が戻って来た。

 俺自身が舞踏号となった感覚と。生身の身体から、鋼の身体へと切り替わった感触を伴って。

 次いでエラーチェックが頭を猛烈な勢いで駆け抜けて。最後に一行、普段見かける事の無い<ニューロンリンクの最適化が終了>という文言が走った。


 同時に。舞踏号の身体全体が、いつもよりも軽く感じられ。つま先から額の一本角の先まで、まるで神経が通っているかのように、確かな感覚が全身を巡りだす。


 いつもと少し違う。けれど、いつもよりも一体感のある舞踏号は。座り込んだまま、鋼の手足を少しだけ動かした。

 全身のダクトから、命を得た巨人の息吹が吹き上がる。


「やっぱり近くで見ると凄いっすねえ」

「メアさんも、舞踏号に助けてもらった。のでございますか?」

「そうっすよシャルロッテさん。探索者シーカーさん達のお陰で、俺ら劇団員は良い方向に転がれたんです」

「私も皆様と出会ってから、色んな経験をさせてもらってます。不思議な方達ですし、不思議な機械。で、ございます」


 微笑むエリーゼさんの横で。今まで関わりが全くなかったであろう2人が和やかに話す声が聞こえて来て。

 探索者シーカー達がどこか嬉しそうな顔になったのを感じられた。



 それから少しだけ間があって。

 遠くから大音量の勇壮な音楽が鳴り響き始め。騎士団のカール中佐がスピーカーで簡単な挨拶を行った後、広報担当を名乗る騎士団員に変わる。


「さあ皆様! 堅苦しいのはここまで! まずは我らが騎士団の精鋭をご紹介しましょう! 彼は苦学の末。若くして騎士団に入り、厳しい訓練と専門教育を受けた――!」


 そうやって威風堂々と期待を煽る前口上も始まって、辺りに熱が籠り始めた。


「――都市に住む皆さんなら、騎士団の307小隊が保有する人型機械ネフィリムを必ず見た事があるでしょう! 名をパラディンと言う巨人の騎士は! 騎士団が保有する最新技術と最高のスタッフによって組み上げられた、至高にして最強の――!」

「おーおー。スゲエ言ってるな」

「最強って宣言するには早いと思うけどなァ」


 調子の良い口上が響き続け、それを聞く人達が盛り上がっていく中。

 ナビチさんがニヤついて笑い。それにセブーレさんが続いてニカッと笑って、舞踏号を見上げた。


「――では登場して頂きましょう! メイズ騎士団第307独立特殊戦車小隊! ベイク・キース少尉と武烈号です!」


 そんな叫びが轟くや否や。

 模擬戦場となる平野を挟んで反対側から。白地に青で塗装された甲冑を纏った巨人の騎士――武烈号が、毅然とした様子で歩き出して来る。

 その右手には訓練用の長剣を握り。左手には、巨人サイズで凧型の騎士盾が握られていた。

 美しく磨かれた盾であったが、それには大小様々な傷と弾痕が残っており。武烈号はその盾と共に、幾度もの戦いを乗り越えて来た事を物語っている。


 万雷の拍手で迎えられた武烈号は、模擬戦場の真ん中まで歩き出した後。剣と盾を構え直し、塹壕や客席のある方へゆっくりと一礼。地面に長剣を突き立ててから、その柄頭に手を添えて堂々と立った。


「そして次に、今回の模擬戦の相手! メイズ探索者シーカー協会所属の人型機械ネフィリムをご紹介しましょう!」


 いよいよこっちか。と、手足がむず痒くなった時。

 傍に居るナビチさんが無線機のマイクをメアさんに手渡し。ついでに何やら紙を渡している姿が目に入った。


『お2人は何を――』

「こういうのは役者に任せた方がいいだろ?」


 ナビチさんが笑って答えた刹那。メアさんが小さく喉の調子を整えてから、大きな深呼吸を一度。

 普段とは違う。威風堂々、意気揚々としつつも、低く威厳のある声でマイクに語る。


「こちらはメイズ探索者シーカー協会。探索者シーカー部隊の者です。まずはこの場を借りて、急遽この場を準備して頂いた、騎士団と関係者の皆様に感謝の意を述べたいと思います。誠にありがとうございます――」


 メアさんの渋く低く、威厳ある声が。スピーカーによって穏やかに広がって行き。先ほどまでの熱が微かに冷めさせた――かのように思った時だった。

 低く威厳のある声が、声質はそのまま、陽気な物に変わって叫ぶ。


「そして塹壕の中と、椅子もクッションも無い席に居る皆さま! 長らくお待たせしました! 我らが探索者シーカー部隊の長が駆る、その人型機械ネフィリムの名は舞踏号! いえ、こう言い直した方が良いでしょうか! 昨今の噂にある”竜狩り”の巨人! まさしくその機体なのです!」


 陽気さと意気の交じり合った、メアさんの熱い声がスピーカーによって増幅され。一度冷めかけたこの場の空気が、先ほどよりも熱くなる。


「彼の偉業を語るよりも、ともかく見て頂いた方が早いでしょう! では出撃して頂きましょう! 探索者シーカー部隊長ブランと舞踏号です!」


 辺りから万雷の拍手が鳴り響く中。側でシルベーヌとミルファが片膝を着き、大きな身振りで出撃の合図を送ってくれた。

 舞踏号は両手に長剣を握りしめ、膝立ちの姿勢から一気に飛び出し。模擬戦場の真ん中に立つ武烈号へ向けて、矢のように駆ける。


 微動だにしない武烈号の傍まで近寄ると急停止。

 両手に握った二振りの剣をくるりと回して、右手の剣を掲げて見せる。

 すると再びの大きな拍手が轟いて。この場に集う沢山に人間の視線が、舞踏号の全身に集まった。


 剣と盾を持った巨人の騎士と、両手に剣を握った巨人の戦士が並び立つ。

 その姿は、まるで神話の時代のような偉容を持っており。色々な物が歪んだ戦後の世界においては、特に珍しく鮮烈なものだった。


『派手な登場だな』

『こういうのは派手な方が良いだろ?』


 武烈号が無線を使わずに小さく笑った事に、舞踏号も同様に笑って肩をすくめ。二振りの剣を一度地面に突き立てた。

 それからは、また騎士団の司会の声がスピーカーに響き始め、今回の模擬戦の大まかなルールを話し出す。


 ごくシンプルに言えば、騎士団の格闘訓練に準拠し。

 審判による判定か、どちらかが参ったというまで戦い続ける。というのを3ラウンド行う。

 機体の損傷や破損があった場合は、格闘技よろしく簡素な修理で続行。致命傷の場合は流石に止められるが、そうはならないだろう。


 ある意味。互いに信頼があるからこそ、本気で振るう武器で殴り合えるのだ。

 力のぶつけ合いではあるが。これは生存を掛けた闘争や喧嘩では無い。

 互いに理性のある試し合いなのだと、少なくとも殴り合う当事者である、俺とベイクは分かっている。

 そしてこれが、見世物であるという事もだ。


『なあベイク。もしルール無用の戦いだったらどうしてた?』

『仮定でしか無いが。砲撃を要請してお前を蜂の巣にしてもらうか、機関砲などで射撃するだろうな』

『だよなあ。接近戦なら……は、今からの事だから言えないか』

『一応な。だが安心しろ。カメラを突いたりコクピットをこじ開けるような事はしない』

『俺もやらないよ。あと股間を殴るのも』

『紳士協定だな。人型機械ネフィリムでは平気だが、あれは見るのもされるのも冷や汗が出る』


 ルール等の解説が続く中、そう巨人2人で笑い合い。

 周りの状況などに不審な点は多いけれど。今は互いに精いっぱい、理性ある戦いをしようという。曖昧だが確かな想いが通じ合っているのを感じられた。


 それからは、青と白の正装をきちんと着て、耳に無線機を付けたラミータ隊長がこちらに歩いて来て。舞踏号と武烈号の足元で微笑む。


「やあやあ2人共。良い感じだね。早速だけれど第1ラウンドだ。準備は良いかい?」

『いつでも』

『いけます』

「良いね! それじゃあやろうか! 開始線まで離れよう!」


 簡単な受け答えの後。巨人の戦士と騎士は、2人とも剣を地面から引き抜いた。

 そのまま互いに距離を取り。振り返って武器を構える。

 舞踏号は長剣を二振り構え、僅かに腰を落とした緩い前傾姿勢で。

 武烈号は背筋を伸ばし、左手の騎士盾を前に、右手の剣をしっかりと握りしめた姿勢で。


「それでは皆様! 長らくお待たせしました! 人型機械ネフィリム同士の模擬戦、その第一試合目! 用意――!」


 ラミータ隊長の声が大きく響き。全神経が号令に備え――。


「始め!!」


 叫びと同時に、舞踏号は地面を蹴って突進した。

 そのまま両手の剣を、腰を落として盾を構える武烈号に叩きつける――のではなく。突進した勢いのまま、上体を逸らし。加速と体重の乗った前蹴りを一撃。

 重い金属音と打撃音が響く。


 だがその前蹴りは、武烈号の構えた騎士盾によって完全に防がれ。

 武烈号は即座に盾を小さく引いて、コンパクトなシールドバッシュと共に、右手の剣で隙の無い突きを見舞って来た。


 舞踏号は反撃の兆しが見えた刹那。再び上体を捻り腕を振って、蹴りをした姿勢から、跳ぶようにぐるりと舞い回って後ろへ回避。

 回避した勢いを殺しつつ、もう一度距離を取り。剣と盾を構える武烈号と睨み合った。


 巨人の戦士と騎士が、同時に各々の全身のダクトから白い息を吐いた後。武烈号がゆっくりと喋る。


『速くなったな。だが、もう2、3撃は打ち込めたろうに。デモンストレーションか?』

『一応。なのかな? 蹴りまでは俺だったけど、後は舞踏号がやってる感じだからどうにも……』

『訳の分からない事を言うな』

『そうは言われても』


 少しだけむっとした様子の武烈号に、思わず舞踏号が申し訳なく返す――が。先ほどの打ち合いを見た観客達から、わっと熱い歓声が上がった。

 舞踏号の急加速と派手な回避に声援を送る人々と。それを受け止めた武烈号の堅実な動きを褒める人々。2つの声援が1つに聞こえる歓声だ。


 それは今まで受けた事の無いような、独特の甘美な感覚を俺にもたらして。ベイクの方もその感覚に、若干の戸惑いを覚えているようだった。


『まあ、悪い気はしないけども……』

『少しばかりやりにくくあるな……』


 苦笑いして、2人の巨人は口元から白い息を吐いた。

 それでも。互いに改めて武器を構え直し、巨人の戦士と騎士は名乗りを上げる。


探索者シーカー協会所属! 探索者シーカー部隊長ブラン! 舞踏号!』

『メイズ騎士団307小隊! ベイク・キース少尉! 武烈号!』


 そして巨人の戦士と巨人の騎士が互いに踏み込み。剣を振り、蹴りを放ち。盾で防ぎ、身を捩じって避ける。重くも朗らかな剣戟が響き出した。


 いつだったか。確かミルファが話してくれた事がある。

 古の時代。力とは神であり、戦争とは神々を讃える儀式だった。『武』とは『舞』であり、戦士とは神々に命を懸けた剣戟の舞を捧げる踊り手達を指していたと。

 そして戦場は戦士達が舞い踊る舞台であり、神々が見守る神聖な場だった――かもしれないらしい。


 本当に神様が居るかは分からない。そもそもこの伝承だって曖昧なモノだ。


 けれど確かに分かる事が1つ。今この場は、戦後を生きる人々が見守っている大事な場だという事。

 多くの人々が、昨今暗雲が立ち込めているこの島の中で、物騒でも、何か明るい行事があればとここに集っているのだ。


 で、あるならば――!


『ベイク! 思いっきり行くぞ!』

『無論だ! 掛かって来いブラン!』


 鋼の身体が昂るままに叫び合い。先ほどよりも威力と速度の増した剣戟が、重くも明るい楽器のような音に変わって行く。

 そして装甲を攻撃が掠めれば、火花が血潮のように舞い散り。足捌きの度に、薄く積もった雪が残影のように舞う。


 そして地面で生きる人々と、どこかに居るかもしれない神々に、もっとよく見えるように。

 2人の巨人は、荒くも活き活きした剣舞を踊り出した。

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