第143話 〃
『――と、まあ。そんな感じで農場の近くで戦いまして』
「組織立った戦闘というのは大変難しくもありますが。探索者部隊員達の善意に助けられています」
青空の下。薄い雪の絨毯の上。
指揮所の真ん中に広がるスペースで、片膝を着いて座る舞踏号が。身振り手振りを交えて大規模農場での戦いを語り。
足元でパイプ椅子に座るミルファが、それを細かく丁寧に補足してくれた。
「ははは! なるほどね! しかしまた派手な事してるね君達は!」
「騎士団の報告書はオレもチラッと見たけど、舞踏号の事と装輪戦車隊の事がしっかり書かれてたよォ」
湯気の上がるコーヒーを片手に、立ったまま明るく笑うラミータ中尉に続き。パイプ椅子に座って膝に毛布を掛けたカール中佐が、こちらもコーヒーで手を温めてニヤリと笑った。
『しかし、その破壊した機体が慈恵号か』
『何か知ってるのか、ベイク?』
『舞踏会の後。向こうに居た307のスタッフ全員が別部隊に呼び出されて少しな。試験機だと言っていたが、民間に卸されていた事は連絡されていなかった』
『部署が違うってやつかぁ。組織がデカいと、その辺面倒なんだな』
片膝を着いて座る舞踏号と、同じく片膝を着いて座る武烈号が話す様は。パイプ椅子に座るミルファ、ラミータ中尉とカール中佐。そして隣に座って黙り込んだままの忠義号が見ており。
今はそれ以外の目線も沢山引き付けていた。
すなわち。周囲に居る騎士団員達と、仕事をしていたり、そうでは無い民間の人々の視線だ。
敵意などは無く、ただこちらを見ているというのをセンサが体感覚として教えてくれるが。じろじろと見られるのはやはり気になる。
中には手を振って来る人もいるので。俺はそれに気づけた時は、小さく手を振り返したりもしていた。
もっとも。先輩の乗る忠義号とベイクの乗る武烈号は、そういった『サービス』をする気は全く無いようだが。
「ともかく。色々な経験を積んでいるようで何よりだよ! 関わりがあった探索者が出世したり活躍するのは、こっちとしても嬉しい事だしね!」
ラミータ中尉がそう言ってコーヒーを飲み切った後。
ふと何かを思いついた様子で、側に片膝を立てて座る舞踏号と武烈号を見上げて笑顔になる。
「そういえば! 今ブラン君とベイクが戦うと、どっちが強いんだろうね!」
『舞踏号と』
『武烈号が』
俺の乗る舞踏号と、ベイクの乗る武烈号。2人の巨人が、同時に顔を上げて視線を合わせ。すぐに視線をラミータ中尉に戻し――。
『それはまあ、俺が勝ちます』
『それはまあ、俺が勝てます』
舞踏号と武烈号が同時に、自信満々に答え。そのまま顔を見合わせた。
それを見た足元に居るミルファ、隣に座る忠義号が声を出さずにくすくすと笑い。ラミータ中尉とカール中佐が声を上げて笑う。
『いいや。もし戦うとしたら俺が絶対勝つな。舞踏号もきっちり応えてくれる』
『俺とて無為に時間を過ごしていた訳では無い。武烈号の見た目などは変わっていないが、細かい強化は幾度もされている』
武烈号を駆るベイクは、共に戦ったり訓練をした事もある相手だ。同年代の男というのもあって、シルベーヌやミルファとは違った意味で、どこか気安く話せていい。
『何だ。やるか?』
『仕事が全部済んで平和になり、余裕があればだな』
軽く言った舞踏号が、片腕を掲げて開いた手に。武烈号は握った拳を当てて笑った。
互いの拳の装甲が当たって、ちょっとした金属音が鳴った――ところで。ラミータ中尉が指をパチンと鳴らした。
「そうだ! 戦えば良いじゃないか! 2人で!」
その言葉に驚き。再び巨人の戦士と巨人の騎士が、膝元に居るラミータ隊長に注がれる。
「防衛設備の建築なんかは、概ね予想通りに進んでいるし。スケジュールには多少余裕がある。それらが終わった後には、パレードじみた事をするって話もあるけれど。そんな事をするよりは、人型機械同士の模擬戦をした方が、市民だって見に来るはずさ」
『それは、そうかもしれないですけど……』
「うん! 我ながら良いじゃないか! 昨今話題になっている、探索者部隊の人型機械と、我らがメイズ騎士団の誇る人型機械部隊の精鋭の決闘! 見た目は派手だし、頼もしい巨人が2人も居るって、沢山の人に知れ渡る!」
『効果はどうか分かりませんが……。中尉、それはあまりに――』
無理矢理すぎないでしょうか? と、舞踏号と武烈号が口を揃えて言おうとして。カール中佐のゆったりとした拍手が、言葉を押し留めさせた。
そのカール中佐が。この場で一番立場のある人物が、ニヤリと笑って言う。
「良いんじゃないのォ? 人型機械同士がガツンガツン殴り合うなら、ちょっとしたお祭りというか、ずーっと昔の剣闘興行みたいになるしねェ。壊す訳にはいかないから、武器は調整しないとだけど。それにどっちが強いのかは、オレも興味あるし……」
ちらりと周りを見て、こちらを遠巻きに見ている人々に、明るく軽妙に、大きな声で問いかける。
「皆も、いざ人型機械が戦うところって見たくないかい!? そこの若い騎士団員! そっちの運送業者の人も! どうだい!」
声を掛けられた人々は、最初こそおずおずとした様子だったものの。
誰か1人が見たいと強く言ったのを皮切りに、周りがガヤガヤして、ちょっとした喧騒になる程に波紋が広がっていく。
(これは、どうだ……? ヤバいのか……?)
パッと見では、ただの雑談が周りに波及しているだけか。軽妙なノリで問いかけをして、もし見れるならという曖昧な調子で返事が返されただけの状態だ。
だが俺は。今はその軽いノリと曖昧な調子に、どういう訳か薄ら寒い感覚を覚えざるを得なかった。
「ははは! 世論も賛成だね! どうでしょう中佐。突発的な行事になるだろうけれど、検討する価値はあるんじゃないですか?」
「オレは見たいねェ。舞踏号と武烈号が決闘をするのは。もちろん。ブラン君とベイク君の2人が嫌だって言うなら出来ないけど」
「その時は僕がパラディンに乗りますよ中佐! 相手にも。幸い、探索者部隊の人型機械がもう1機居るようだし。ブラン君が断るなら……」
そう言って笑ったラミータ中尉の鋭い視線が、先輩の乗る忠義号に向けられた。
忠義号の方は視線を動かして目礼しただけだが。どうする気かと俺に問い掛けているのが、何も言わずとも察せられる。
膝元でパイプ椅子に座るミルファもだ。微笑みを絶やしてはいないが、俺の決断と方向の提示を待っているのがよく分かる笑顔だった。
それらを感じ。1秒が何十倍にも感じられる程、俺の思考が加速する。
恐らく。騎士団はどうあっても、この”決闘”を開く気だ。
わざわざ舞踏号と忠義号を呼び寄せたのも、パイロットを集めておいて、すぐに意思を問えるようにするため。ましてや俺は探索者部隊長だ。
強権的な事をする気は無いが。部隊長である俺には、俺の意志一つで沢山の人間を動かせる立場と権力がある。そして騎士団側のカール中佐も、また立場と力のある人間であり。やろうと思えばこの場で、色々な事を即座に決める事が出来てしまう。
(そうか。明るく軽い調子のままで、平和に事を進めさせてくれるっていう提案なんだ。これは)
騎士団自体。本来は探索者達に、もっと無理矢理に命令を出せる立場なのだ。なのにこうやって周りを巻き込むのは、周りを巻き込む事自体が目的か、別の思惑があるという事。
周りの空気に押し負けて、渋々でも首を縦に振れば良し。断るのならば、何かと理由を付けて説得しに掛かるだろう。
そしてこの状況で部隊長の俺が、パイロットでもある俺が断るのならば。先輩と忠義号に話は持ちかけられる。
病み上がりのような状態の先輩を、こんな決闘に出す訳には行かないし。先輩の身に関しては、様々な思惑が渦巻いているのだ。なるべく戦わせない方がいい。
そうなると――。
『分かりました! その挑戦、俺は受けましょう!』
舞踏号が高らかに答え。ゆっくりと立ち上がって、両手を細い腰に当てて胸装甲を張る。
思惑があるのは確かだが。だからと言って、今何か出来る事は多くない。だったら真正面から突っ込んで、大立ち回りを演じてやるのがいつもの俺――舞踏号に違いない。
それを見たラミータ中尉が、明るい声で笑って俺に言う。
「ははは! 良いね! 思い切りの良さは素敵だよ! さて、という事はだ。役者がやる気を出してくれたなら、僕達宣伝部隊も黙ってはいられないね。ベイクにやる気は?」
『任務という事であれば、騎士団員としての自分は如何様にも。俺という個人としても、許されるのならば好い機会ではあります』
問いかけられた武烈号が、ゆっくりと立ち上がって胸を張る。
武烈号は、西洋騎士のような装甲と所作が相まって、まさしく騎士のように堂々としていて。
腰に手を当てて堂々と勇ましく立つ舞踏号と違い。その立ち姿は、見る者に毅然として厳格に感じられる何かがあった。
そうやって並び立つ巨人の戦士を騎士を見て。カール中佐が太鼓腹を掻いた。
「助かるねェ、役者の2人がやる気十分だと。それじゃあ賑やかなお祭りになるように調整をするのが、おじさんのお仕事になるね。細かい事とか場所は、決まったら都度連絡するよォ。事務員さんや、本部の人達によろしくね」
カール中佐はそう言うと。またこの場に居る巨人達とミルファを見回し、ニヤリと笑った。
その隣ではラミータ中尉が満面の笑みで武烈号を見上げ、腕を組んで言う。
「さて。急だけど模擬戦が決まったなら、307を上げて色々と準備しないとね。整備班も驚くよきっと! それにベイクは僕の一番弟子みたいなものだから、頑張って貰わないと困るよ?」
『はい!! 中尉!!』
周りに響き渡る大きな声で武烈号が答えて気を付けをし。
その声の大きさと張りに、周りの人々が少しだけ驚いた。
「ははは! いい返事だ! 本当にいいね。いい匂いがするようになったよ、君達は」
ラミータ中尉が優しく微笑み、舞踏号と武烈号を交互に見る。
「楽しみだよ。僕が関わった2人が、どれだけ自分を使いこなせるのか」
その後。
肩にミルファを乗せた舞踏号と、その後ろを歩く忠義号は。無線で事務所へと連絡を送って、事務員達やナビチさんに驚かれて笑われ。
色々な事で忙しく動いているウメノさんからは伝言で「目的がどうであれ、まずは仕事に集中して大丈夫。こちらでも色々と分かりそうだ」という御言葉を頂いた。
それから一度。
探索者達が集まる区画へと戻って、舞踏号の背から飛び降りたのだが――。
「聞いたわよブラン! 模擬戦やるって! 急すぎるでしょ!? でもやるなら本気で行くわよ!」
大笑いするシルベーヌが駆け寄って来て俺に明るく言い。
隣にふわりと降り立ったミルファに抱き付いて、金色の髪と銀色の髪がくるくると回った。
2回転程した後に、シルベーヌとミルファが並んで立ち。俺も傍に近寄ると、3人で顔を引き締める。
「どういう事情があるにしろ。とりあえずは仕事をこなしつつ、その模擬戦の準備ね。日程が全然掴めないけど、私は整備の皆にも色々相談しとかないと」
「武装に関して、テショーヤさんにも連絡を入れておくべきでしょうね。細かい部分は模擬戦のルールなどがはっきりしてからになるでしょうが、忠義号の武装の調整もありますし」
「他にも、なんだ? 今の塹壕堀りとかの仕事を続けつつ、俺は勘が鈍らないようにか……?」
にわかに忙しくなった事態を整理するべく。そうやって3人で顔を突き合わせ、指折りメモを取り話始めた。
特に俺は、一応とはいえ探索者部隊の指揮官役。責任ある立場なのだ。
事務仕事や眼を通しておくべき書類、聞いておくべき連絡と話しておく事は数多く。現場作業員や戦いの先駆けばかりをしてはいられない。
考える事だって多いけれど。自分の頭の処理速度と、社会の仕組みや策謀への理解が足りないのは。先のカール中佐やラミータ中尉との会話で明白だ。
それに加えて、こんな唐突に決闘の真似事をさせられるとなると――。
「……ああ、やっべえなこれ……。ナビチさんとか、事務員のエヴリンさんにも更にガッツリ手伝って貰わないと。俺の頭じゃ何にも回らなくなる……」
「そりゃもう、色んな人をガッツリ頼るわよ! 今までだって。私達だけじゃなくて、色んな人との関わりがあってこそだもの!」
「はい。誰かを頼る事は、決して恥じる事では無いのです。特にブランの場合は、グルグルと悩む癖があるのですから。早めに色々な人を頼らないと、すぐにオーバーヒートしてしまいますよ?」
少し不安になって呟いた俺に、シルベーヌとミルファが優しく微笑んでくれた。
自分でも心のどこかで分かっていたけれど。やはりこうして誰かから言って貰える事で、頼ってもいいと許されたような気がして、ぐっと心が軽くなる。
そして俺の弱い部分を肯定してくれる2人は、やはり俺にとって大切な人なのだと。心のどこかが熱くなる。
「……そうだよな。ありがとう。シルベーヌ、ミルファ」
「そう言うのはまだ早いわよ? 本格的に忙しくなるのはこれからなんだから!」
「模擬戦がどういったものになるにしろ。ブランには是非勝って頂かないといけませんしね」
2人は悪戯っぽく笑い。金の髪と銀の髪が、和やかに揺れ――。
「部隊長が苦労をしているというのなら、私も当然協力しよう」
青い髪が揺れ、先輩の声がした。
忠義号から降りて整備員達と多少会話した後。俺達の方まで来てくれたのだ。
「忠義号には、どうせ武装も殆ど無い。それに私の身体は頑丈だ。舞踏号が行う作業の一部くらいは肩代わりできる。まあ、もっと言うのなら……」
先輩がニッと笑って俺達を見つつも。隻腕を自分の腰に当てて力を抜く。
「私を打ち負かした相手には。模擬戦とは言え、必勝の構えで挑んで欲しいものだからな。時間を見つけられれば、人型機械同士での訓練もしよう」
「先輩!」
「他の探索者達から聞いたのだ。”先輩”というのは、後輩を大事にするものらしいからな」
そう言う先輩には、”先輩”らしさというよりは。明るく前向きに”先輩”として振舞いたいという、ちょっとした微笑ましい子供っぽさが見え隠れしている。
そして先輩の言葉と気持ちは。ともすれば優柔不断でシャキッとしない俺に手を貸したいという、確かな心の表れでもあった。
「ありがとうございます、先輩! よし! もう1回舞踏号に乗って、作業の続きを――!」
「やる気があるのは良いが、まずは今後の計画の練り直しに向かった方が良いぞ。連絡を受けた事務所の中は、今頃急で曖昧な変更と対応で大忙しだろうからな。隊長が居る方が話が進みやすい事も多い」
先輩にそう言われ。俺は事態の忙しさを再認識し、慌てて事務所の方に走って行った。
という訳で。周りに迷惑を掛けつつも。防衛設備の建築と並行して色々な事をする日々が始まった。
話が決まった次の日には、まるで最初から作ってあったかのように細かい計画書が騎士団から送られて来たので。最初から人型機械を使った興行をする気はあったようであり。俺やナビチさんは苦笑いしたものだ。
それはともかく。
舞踏号と武烈号の模擬戦――というよりは決闘は10日程後に決まった。
戦場は後で塹壕の向こう側の平地。武器は近接武器のみ。審判がラミータ中尉で、勝敗は騎士団での格闘訓練に準ずるという具合である。
そして『良い席』の観客達は塹壕やトーチカで巨人同士の剣闘を見る事になるらしく。噂が噂を呼んだ上に、騎士団が大々的に宣伝まで始めた事で。2日後には詳細について探索者協会にまで市民の問い合わせが来るという状態になっていた。
娯楽が少ない戦後の時代である。
騎士団というお上の目はあるが、ある意味公認の祭りという事態。しかも出るのは、最近なんだか噂をよく聞く人型機械達。人々の興味は尽きる事はない。
「コミッショナーが騎士団の、巨人の剣闘ってとこか。また派手な事になってんな……。初めてやるぞこんなの」
そう言ってナビチさんが笑ったのは言うまでも無く。
俺は探索者達から応援を貰ったり。騎士団の奴をぶっ飛ばしてくれ、絶対負けるな等々。荒っぽいお言葉を頂きもしているし――。
「いいか隊長。ケンカの基本は一撃必殺だぞ。ガツンといけば……」
「メンチの切り方も色々あってな。例えば……」
「殺し合いじゃないんなら派手に頼むぞ隊長! 一発入れてアピールとか――」
「隊長昔バックドロップしたんだろ! また期待してるし、今度はジャイアントスイングとか――」
等々。やたらと乗り気な探索者達が出て来るという状態である。
噂によると、騎士団の方でも同じような状態らしい。
ベイクが周りの騎士団員達に色々と吹き込まれて困惑しつつも「自分だけでは思いつかない戦法もあるから為になる」と、真面目に対応しているのだとか。
街の方でも、探索者と騎士団どっちが勝つか賭けが始まっていたり。人が集まりそうならばと出店を出す気の人達までいるらしい。
商魂たくましいというか、活力に溢れているというべきか。
まあ、ちょっと乱暴ではあるが。じわじわと危険が迫り、どこか暗い影が差していた街全体が、少しばかり明るくなったのは事実だから良いのだ。
そう思っておいて、細かい部分はもう気にしない事にした。
それからまた少し経った時。
とある連絡を受けた俺は、探索者協会の整備テントに呼び出され。
シルベーヌやミルファ、そして先輩と共に。武器商人のテショーヤさんの到着を待っていた。
連絡を受けていた時間の10分前。
重々しいトレーラーが3台、探索者の指示に従ってテントの近くに停められ。トレーラーから降りたテショーヤさんがにこやかに微笑む。
そして挨拶を交わす前に、居ても立っても居られないという様子で同乗していたスタッフ達に指示を出し。
トレーラーの荷台に乗っていた荷物をそれぞれ下ろさせる。
「おお!」
「わお!」
「いいですね」
「ふむ」
俺達がそれぞれ声を上げた視線の先には、人型機械用の武装がいくつかあった。
巨人が握るに相応しい、巨大な両刃のナイフが1本。
今はある程度分解してあるが、長砲身の砲が1門。
そして船の錨をほぼそのままの金属塊に、ただ頑丈な持ち手を付けた物。
とりあえず目立つのはそれら3つで。満足げなテショーヤさんがゆっくりとこちらに歩み寄り。優雅な一礼の後、薄い唇に妖しい笑みを浮かべて俺に言う。
「後ほど細かなご説明を。しかし、錨が気になると言った表情をされていますね」
「え、ええ。まあ。殆ど錨そのままの……鈍器というか、ハンマーです?」
「何とも言いにくい武器だというのは分かります。しかし。あの錨を改造したハンマーは、ホワイトポートの方々からの気持ちです」
「ホワイトポートの皆さんの?」
「はい。それに見た目は破天荒かもしれませんが。ああ見えて、立派な竜狩りの道具になると思います。近いうちに開かれる、巨人同士の剣闘には合いませんが……」
そう言ってまた妖しく微笑んだ後。
俺達は一度整備テントの中に入った。




