第136話 シェオル監獄 隕鉄
早く行こう。
いつものように舞踏号に乗り込んだ時。そんな幻聴と共に、俺は意識を取り戻した。
自分自身がこの機械の巨人となった感覚と共に、全身のエラーチェックが頭を駆ける。
光学センサ良し。化学センサ良し。音系センサ良し。全身の骨格は万全。人工筋肉も温まりつつある。
「ブラン! 調子はどう?」
『舞踏号は大丈夫だ! いつも通り万全!』
近くで声を上げたシルベーヌに返し、俺は膝立ちの状態から立ち上がった。
それに前後して。テトラ達がトレーラーの荷台に駆けて行き、荷台に置いてあった機関砲や、舞踏号用の長剣とトマホークの拘束を解いていく。
シェオル監獄の奥で、青い髪のアンドロイドと遭遇してからしばらく。
日はもうすっかり落ちており。薄っすら雪の積もる屋外には、ライトの明かりくらいしかない。
そして全身のセンサが、夜の冷たい空気を数値として教えてくれ。身体の奥から湧き上がる熱い感情が、神経繊維を巡って暖めていく。
『落ち着け。焦っても何も変わらない』
舞踏号に言い聞かせるように言うと、口元の排気機構が、まさしく喋るように動く。
以前からちょくちょく見られていた現象だが。喋ると口まで動くのは、意図したプログラムでは無いらしい。シルベーヌが覗けるプログラムの範囲では異常や変わった事はないので、全くもって良く分からない現象なのだ。
テトラ達が合図をしてくれたので、背のハードポイントに長剣を納め。腰にトマホークを下げる。右手には機関砲を抱え、舞踏号の戦闘準備は完了だ。
そしていつものように。肩の上にミルファが――来なかった。
周囲を索敵するまでも無く。武装などを積んだトラックの傍で、追加腕を付けたミルファが12.7㎜の機関銃を準備しているのが見える。
手際こそいつも通りだが。顔や眼に精彩さが欠けているのがありありと分かった。
それに気づいたのか。足元に寄って来たシルベーヌが、耳を貸すように手招きしたので、俺は身を屈めて顔を近づける。
「ブラン。ミルファに声掛けてあげて。あの子、結構不安みたいだから」
『やっぱりか。でも、シルベーヌの方が良いんじゃないか』
「ううん。ブランが思ってるより、あの子にとってブランは大きい存在なの」
慈愛に溢れる顔でシルベーヌが言い、舞踏号の爪先をパシッと叩いて急かした。
そういう事ならばと舞踏号を歩かせて彼女に近寄ると、流石に足音に気付いたミルファが舞踏号を見上げて微笑んだ。
「どうしました?」
『いや。ちょっと元気が無さそうだったからさ』
「……そうですね。少し、考え事をしていました」
ミルファは少しだけ言い淀んだ後。準備を終わらせた機関銃を抱え直して言う。
「私は改めて、自分が生身の人間では無いのを確認したと言ったらいいのでしょうか。少し時間が経った今、あの方の言った『自分達を過去にするな』という言葉が。とても重いものに感じられるのです。私達アンドロイドの存在自体が、まさしく過去の優れた技術の遺産であるがゆえに」
『ミルファ……』
「ただ。考え事はしていても、悩んでいるという訳ではありませんよ?」
ミルファがたおやかに微笑み。舞踏号の脛を登って、腰からひと跳びに肩の上まで上がってきた。
いつもの定位置。いつもの微笑み。いつもと違う雰囲気。
そんな彼女が、決心した様子で言葉を続ける。
「私は戦後の人間です。幾度もの大戦争と滅亡を乗り越えた世界で。勇気と希望ある人達によって創られた、鋼の心臓を持ったヒト。そして私は、同じ鋼の心臓を持った同胞に。この世界に生きるヒトは、どんな方向にも歩いて行けると示したい。ですが――」
決心したはずの表情が、僅かに曇った。
「包み隠さず言うのなら、私は不安ばかりです。これが一方的な偽善である可能性は大きく、私の想いは感情の発露による、理知的では無い揺らぎなのかもしれない。私が想い、成そうとしている事は正しいのか……」
『”大丈夫”』
舞踏号と俺、2人の想いと声が被り。肩の上でしゃがむミルファに、口元の排熱機構とカメラ保護シャッターの目蓋で造られた笑顔が向けられた。
『”君には俺が付いてる”』
たった一言。だけれど2人分の想いが篭った言葉を告げて、舞踏号は歩き出す。
「……貴方は、本当に……」
肩の上でしゃがむミルファが視線を逸らし。しかしどこか嬉しそうに呟いて、朗らかな笑みを浮かべた顔を上げた。
そして俺達探索者一行は、半開きになったメインゲートの前に立った。
今回は舞踏号とミルファ。そしてセブーレさんの指揮する装輪戦車が2台。指揮車両兼歩兵の兵員輸送車が1台という陣容だ。
「さて! 全員に再確認よ! これから私達探索者部隊は、シェオル監獄のメインゲート奥に進むわ!」
小脇にノート大の機材を抱えたシルベーヌが、指揮車両の上に仁王立ちしたまま言った。
「事前に少しだけ調査してくれた人のお陰で、入ってすぐは地下へと進むスロープになってるのが確認されてるわ。結構奥まで行った後に水平に戻って、最奥は行き止まりみたいなの。で、ここから大事なところ。最奥の壁はシャッターになってて、多分垂直のエレベーターよ」
『一回降りたら、戻ろうにも戻れないかもしれない。って感じだな?』
「ブランの言うとおりね。だから、更に下に行く事になった時は、舞踏号とセブーレさんの戦車1台を突入組に。エレベーターの手前に、この指揮車両ともう1台の戦車を残しておくことになるわ」
「質問良いか!」
「もちろんよ! どうぞセブーレさん!」
「奥に何かヤバイのが居るかもしれないって話は、お前らが遺跡から一旦出てきた時に聞いた。そいつが殊勝な態度で出て来たら別だが、場合によっちゃ見つけ次第撃っちまっていいのか? アタシは正直、戦前の戦闘兵器が現役で活動してたりしたら、死に物狂いになると思う。だから、隊長の指示を待たずに先手を打ちたい」
装輪戦車の上に座ったセブーレさんがシルベーヌに問いかけて、視線を隣に立つ舞踏号の顔へ向けた。
シルベーヌの視線もこちらに向けられ、無言で是非を問うてくる。もちろん、ミルファもだ。
舞踏号は肩の上にしゃがむミルファを一瞥した後。周りの探索者達に言う
『危険そうな物は、発見次第撃ってもらって構いません。身の安全が第一です』
「了解だ! まあ、だからって馬鹿みたいに反射で撃つ訳じゃねえけどな! そのへんはちゃんと考えてるから、安心してくれよ隊長」
セブーレさんは明るく返してくれ。装輪戦車の上で背伸びを一度。開いたハッチに飛び込んで、上体だけを外に出して準備万端といった様子だ。
それを見て満足げに頷いたシルベーヌが、周りを見渡して問いかける。
「他に質問がある人は? ………………居ないみたいね。それじゃあ行きましょうか!」
たっぷりとした間の後。気合の入る声で出発が告げられて、この場の全員が明るい声を返した。
「ゲート開けます!」
探索者の1人が叫び、低く固い金属音が響き渡る。
崖に偽装されたメインゲートの大きな扉が、ゆっくりと上へ開いていき。完全に開放された。
外の空気が奥へと流れ込み、まるで地の底へと俺達を吸い込もうとしているようだ。
『さあ。行こう』
機関砲を抱え直し、舞踏号が先頭を歩きだす。
巨人が地の底へ向かうしっかりした足取りには、2台の装輪戦車と、1台の指揮車が続いた。
内部は先ほど言われたように、少しだけ平面があってから、すぐに緩いスロープが続いている。
今までのように、壁面にぼんやりとした非常灯の明かりが時折見受けられる以外に。天井には白い光を淡く放つ照明がまだ生きている。
そして壁も床も金属製で、空気が凍えきっていた。
探索者達と舞踏号は、白い息を吐きつつも、スロープを下り切った。そして通路は水平に戻り。また少し進むと少し開けた空間に出て、巨大な門のようなものが正面に現れた。
黒灰色の巨大な門は飾り気の無い単純な構造で、直線ばかりで構成されている。しかも、殆ど劣化していないのが分かる程に艶やかであった。
『これが……』
「ブランは待ってて。多分、周りに制御盤みたいな物があるはずだから、それを皆で探さないと」
シルベーヌがそう言って、肩に乗っていたミルファも床に飛び降り。探索者達が周りを探索し始める――のだが。
舞踏号が何かを発信して、即座に返信があった。同時に、正面で押し黙っていた巨大な門が、真ん中からゆっくりと開いていく。
この場の探索者達が驚いて固まる中。シルベーヌがいち早く舞踏号を見上げ、すぐに開かれた巨大な門と、その中に広がる大きなエレベーターに目をやった。
「……誘われてるのかしら」
『いや。今のは単純に、舞踏号が施設側に働きかけて受理されただけみたいだ』
「何か他に、そっちで出来そうな事は?」
『このエレベーターの操作くらい……なのかな。ごめん。詳しい事が掴めない』
「ううん。大丈夫。いずれにしろ、この奥まで行くしかないわね」
その言葉で、あらかじめ決めていた突入組の探索者達。セブーレさんの装輪戦車1台と、他数人の歩兵役の探索者、シルベーヌとミルファがエレベーターに乗り込み。
最後に俺。舞踏号がエレベーターに乗った。
巨大な門は閉まる事無く。僅かな振動の後。エレベーターがゆっくりと真下に下がっていく。
今まで見てきた遺跡のように、どこかガタついたりする事も無い。気味悪さを覚える程の滑らかな動きで、探索者達は警戒したままだ。
しかし。そこは若い探索者達である。
あくまで緊張は保ったまま、ちょっとした軽口を言いあって、自分達をリラックスさせる若さがあった。
ぐんぐん下へと潜っていくエレベーターの中。戦車のハッチから上体を出したセブーレさんが言う。
「正直アタシは、今からとんでもない場所に向かってる気がして震えちまう」
「ここまでの稼働状態の遺跡は、相当珍しいと思います。歴史的にも、かなり貴重な場所でしょう」
「そうなのか? アタシはあんまり詳しくないが、やっぱスゲーのかミルファ」
「数百年の間、人が立ち入ることは無かった場所なのです。それこそ幽霊や亡霊が出て来ても、おかしくはないでしょうね」
「……意地悪な事言うなよ……。アタシどうも苦手なんだよなあ……そういうの」
「セブーレさん。結構怖がりなの?」
「そうじゃねえよ! シルベーヌは分かるだろうけどさ、ほら。対処法が分かんないっていうか、銃で撃っても死にそうにないモンって。どうしたら良いのか分かんねえんだよ」
「あー……。なんか分かるかも。機械の修理でも、分かりやすくコードが千切れてたりすると良いけど。パッと見て何も異常がないと、どうして良いか分かんないみたいな」
「そんな感じそんな感じ」
そんな3人娘の和やかな会話が続き。他の探索者達もちょっとした雑談を続けていく。
極度の緊張から、無駄に心身を疲労させないようにする行動の一つだろう。
だが。俺は身体に走る緊張感から、ずっと押し黙ったままだ。
長い長いこのエレベーターが、まるで地獄に続いているような気がしたから。
5分。あるいは10分だろうか。エレベーターがようやく、音もなく止まった。
正面には少し道があって、また大きなシャッターだ。傷も無く、汚れも無い灰色のシャッターは。一種独特の神聖さを醸し出しており、見る者を少しだけ威圧する。
しかし。舞踏号は躊躇わずに一歩進み出て、そっとシャッターに近づいた。
小さな音も立てず。シャッターがゆっくりと開き。目が眩む。
『ここは……』
シャッターの先は、奥行きのある広く明るい空間だった。まるでスポーツを行うスタジアムのような広さと天井の高さに、思わず感心した声が漏れる程だ。
しかし。雪のように白い、金属製の壁と床。そして白い照明。四隅や壁と床の境に直線的な角は無く、曲線で構成された、まるで病院のような雰囲気がある空間である。
そしてよく見れば。一見何も無い壁には、規則的に扉か壁のような模様が走っていた。
「嫌な予感がします」
足元のミルファがそう言って、機関銃を構え直し。セブーレさんはシャッターの近くに装輪戦車を停め。退路の確保と警戒に努めている。
殆ど時間をおかず。数人の探索者に護衛されつつも、シルベーヌが周りをよく観察して、壁の隅に小さな制御盤らしい物を見つけた。
「すごい……。操作盤は殆ど完璧な状態って言っても過言じゃないわよ」
『何か分かるか?』
「待ってね……ブラン。今、ブランが居る場所の近くの壁の裏に、第1収容所っていうのがあるみたい。そこから時計回りに、ずっと数字の付いた収容所が並んでる」
『この裏に?』
手を伸ばして壁を撫でてみるが、感触からはドッシリとした厚い壁なのが分かるくらいだ。
言われなければ、本当にただの壁としか認識できないだろう。
「それで、その第1収容所なんだけど……ううん。全部ね。その全部に、エラーと目視での確認が必要って表示されてるの」
『それってつまりは――』
「何かあったのは確か。……凄いわよ。この操作盤だけで、内部の生命反応とかまで分かって――!?」
感心して言いかけたシルベーヌの声が悲痛な呻きと共に止まり。
無線を聞いていた探索者全員が警戒を強めた。しかし、シルベーヌは大丈夫だと言って。俺に問いかける。
「ブラン。その先にある、第1収容所の中を確認して欲しいの」
『もちろんだ。中に危険は?』
「無いって言い切れるわ。いくわよ」
重々しい声と同時に。舞踏号の真正面にあった壁が、パズルのように上下に別れて開いていく。
その壁の動きに俺は当然驚いたが。舞踏号は第1収容所の中にあったものを見て、身体を震わせた。
首と手首に太い枷を着けられ。さらにそこから壁に繋がる鎖を着けられた、白い髪の朽ちた遺体が転がっていたのだ。それも手足の先を潰されており、何度も辺りを這いずった血痕を残して。
機関砲を床に落とし、舞踏号がその朽ちた遺体に駆け寄った。
そっと遺体を抱きかかえようにも、触れた途端に枷が付けられていた首と手首が千切れ落ち、両目の抉られた頭が床に転がる。
『”嘘だ……!”』
舞踏号が俺の声で唖然として、両膝を着いた。
記録には、関連する事項は何も無い。何も分からない。
そのはずなのに、神経繊維が悲しみに震え。その震えのあまりの激しさに思考がぐちゃぐちゃになり、身体に染みついていた記憶が滲み出る。
『”嘘だ……こんなの……!”』
優しく撫でてくれた手も。微笑みかけてくれた顔も。一緒に歩いた足も。
その全てが無残に朽ち果て、もの言わぬ亡骸となった。大切な人。
『”嘘だ!!!”』
舞踏号が身体を折り曲げて床に両手を着き、声にならない叫びを上げた。
その感情に呼応するかのように。不可視の力場が周囲を滾り、金属の床と壁にひずみが走る。
近寄ろうとしていた探索者達がその現象に戸惑って、一歩退くほどだ。
『”こんな事……どうして……”』
「その個体に、深刻なエラーが発生したからだ」
再び呟いた言葉に、冷徹な声が浴びせかけられた。
舞踏号は素早く跳び起きて広間に戻り。機関砲を拾い上げると腰だめに構え。左手でトマホークを抜いた。
「施設の記録を再調査した。機体と、機体に付随する物は全て我々の管理物だ。即刻使用を停止しろ」
いつの間にか広間の真ん中に、あの青い髪のアンドロイドが立っており。また冷たく言い放った。
左腕を肩から無くし、右手にミルファのマチェットを握った痛々しい姿のままだが。その青い目には前回よりも明確な殺意が満ちていた。
探索者達の銃口が向けられ、戦車砲も向けられているものの顔色一つ変えない様子は、一種恐ろしくもある。
そして舞踏号が湧き上がる憎しみのままに、機関砲を青い髪のアンドロイドに向けて叫ぶ。
『”お前が!! お前がやったのか!!”』
「我々ではない。正規の施設職員と軍関係者の行った正当な行為だ」
『”ふざけるな!! こんな事が許されるはずが――!!”』
「許されないのは貴様達の方だ!!」
青い髪のアンドロイドが叫び返し。どこかで低く鈍い音が響く。
「この場へ侵入した貴様達には、我々の行える最大限の攻撃が許可されている!! 故に!! 我々は貴様達を、実力をもって排除する!!」
「隊長!!」
セブーレさんの声が響いたのと同時に、戦車砲が火を吹いた。
105㎜の砲弾が音よりも早く青い髪のアンドロイドへと到達する――直前に。砲弾が、まるで磁石が反発するように弾道を反らし。アンドロイドの遥か後方の壁に直撃した。
「嘘だろ……!?」
「今のってまさか――!?」
「そんな原始的な兵器が、通用すると思うな!! 来い!!」
セブーレさんとシルベーヌの驚きに対し、アンドロイドが叫んだ瞬間。壁の一部が内側から破壊された。
その埃と煙の中から、灰色の甲冑を着て、分厚い籠手を着けた巨大な人影が飛び出し。青い髪のアンドロイドを守るように片膝を着き、爛々と光る赤い左目でこちらを睨みつける。
舞踏号の視界には、それは”友軍”だと素早く表示されたものの――。
「人型機械……!? でも、この感じは……!」
鉄兜と覆面をしたような頭。左眼だけがギラギラと光る眼。装甲で逆三角形に見える体型は勇猛な男の戦士の如く勇ましいが、反して腰が儚い女優のように細い。
だが四肢は鍛えられていて、細身ではあるがしっかりとした力強さを持つ巨人。まごう事無き人型機械だ。
そして分厚い籠手という差異はあるものの。俺はその姿を良く知っている。シルベーヌとミルファも、当然の如く知っている。
間違いない。目の前に現れ、青い髪のアンドロイドを自らの背へと誘う人型機械は――。
『”同型機……!?”』
「同じだと? そんな非正規の改造を受けた戦闘端末とは違う」
青い髪のアンドロイドがそう言い。昔の舞踏号と同じ姿をした人型機械に乗り込んだ。
即座に左目が赤みを増して輝き。灰色の巨人がゆっくりと立ち上がり。不可視の力場が灰色の巨人の周りを渦巻いた。
IFFのやり取りが為され。視界に映る表示が、”友軍”から”敵軍機”へと切り替わる。
『我々は宣言する!! 我々は全力をもって、貴様達を全員殺害すると!!』
灰色の巨人が分厚い籠手を着けた腕を上げ、握った拳をこちらに向けた。機械の高い駆動音が、何かを溜めているのを如実に物語る。
以前戦った慈恵号のように、空気の塊を撃ちだす機構が備わっているのかもしれないと直感し。飛ばされないようにグッと構え――。
「駄目よブラン!! 真横に跳んで!!」
シルベーヌの焦った叫びを聞き。舞踏号はその通りに跳んだ。
瞬間。細い閃光が灰色の巨人の籠手から一条伸び。ついさっきまで居た地面に、見えない剣で切り裂かれたかのような、赤熱して溶けた痕を残す。
『何だ今のは!?』
「レーザー兵器よ!! それに戦車砲を反らしたあの現象!! 間違いないわ、あの機体は――!!」
シルベーヌが徒歩の探索者達と、物陰に走りつつ叫ぶ。
「ウメノさんが言ってたみたいに、宇宙で使われてた機体よ!! 砲弾が逸れたのは対デブリ防護膜!! レーザーは火薬の反動に依らない射撃兵器!! スペックは間違いなく向こうが上よ!! まともにやり合っちゃダメ!!」
そんな小人の叫びを意に介さず。
天から堕ちてきた巨人は、地を這う巨人と小人達を真っすぐに睨みつけた。




