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第130話 ペンは剣

「隊長! こっちの書類もチェックを――!」

「やあ、どうも隊長さん。昨日話した事で――」

「随分若いねぇ。まあいいさ。仕事の事だが――」

「あら。結構可愛い子じゃないか。隊長ねえ――?」

「隊長ォ! 何かあっちの連中が文句言ってて――!」


 農場から帰還から数日。

 探索者シーカー協会で簡単な結成式のような行事があった後。俺は目が回りそうな程忙しくなっていた。

 顔合わせに始まり、前から探索者シーカーと親しかった人、そうでもない人。老若男女、十人十色。職も立場も様々な方と話をして、書類仕事をし。部下となった一部の探索者シーカー達を小さな仕事に送りだしたりと、まさしくてんてこ舞いである。


 そして今日も朝から沢山の人に会い。部隊員の探索者シーカー達を送り出して。隊長という立場になった俺の署名と認可が必要な書類へ、きちんと目を通して処理するという仕事が。とっぷりと日が暮れてからようやく終わった。

 他人や他の民間組織との会合は、ウメノさんがスケジュールや時間を組んでくれており。書類仕事もナビチさんによってかなり簡略化されているが、それでも忙しい。

 他にも周りで支援してくれる大人達は数多く、本当に頭が上がらない。そして期待に答えようと全力全開で事に当たっていたのだが――。


「さ、流石に疲れた……」


 探索者シーカー協会の建物の中に設けられた、探索者シーカー部隊本部という名前の一室。

 色々な人や物を動かすため、沢山の人が集う事務室であり、情報処理の場でもある本部の中。窓を背にした一番偉そうな机に着き続けていた俺は。最後の書類を処理してから、ばったりと机に突っ伏した。

 4時間程だろうか。時折周りの事務担当と会話はあるものの。俺のミスがあってはいけないから、ずっと席に座って黙々と作業をこなしていたのだ。


「お疲れ様です隊長。ここ最近は忙しかったですが、これで一段落ですよ」


 軽い調子で声を掛けられ、俺は顔を上げる。

 見れば机の前に、黒髪を短く切った壮年の男性が立っていた。人当たりの良い顔立ちをしたこの男性はエヴリンさんという方で。俺が探索者シーカーになる際の手続きをしてくれた、受付の男性である。


「ありがとうございますエヴリンさん……」

「デスクワークは。それも慣れていない隊長には大変でしょう。これこそ我々事務方の戦場ですから」


 探索者シーカー協会の制服を着たエヴリンさんは優しく笑いつつ、俺が書き終えた書類の束を手早く検めていく。


「いやあホントですよ……。毎日こんな事する戦場に居る人は大変です……尊敬します……」

「尊敬も良いですが。これとこれ、書き直しです」

「えっ!?」


 思わず嫌な声が出た俺に。エヴリンさんはにっこりと微笑んで2枚の書類を渡し、訂正箇所を丁寧に教えてくれた。


「書類の不備とは武器の不備。隊長のような現場で戦う人々で言えば、ライフルが撃てなくなるのと同じです。慣れていないのは重々承知ですが、もうひと踏ん張りしましょう」

「……はい! 頑張ります!」

「それが終わったら、今度こそ一段落です。隊長はよくやっていますよ」


 明るく返すと、エヴリンさんも微笑み返してくれて。最後の言葉に、もう少しだけ頑張ろうという気力が湧いて来る。

 我ながら単純な奴だとは思うが、今は単純だからこそ良いに違いない。


 そうやって今度こそ書類仕事を終わらせると、エヴリンさんはコーヒーを淹れてくれた。

 探索者シーカー協会御用達の、目が覚める程マズい代用コーヒーだが、今の俺には勝利の美酒である。

 机の横に立ち、満足げな表情でコーヒーを飲む俺を見て笑ったエヴリンさんが、少しだけ話しかけて来た。


「お疲れ様です。今日の分の隊長の仕事は終わりですよ。後は裏方の仕事ですから、隊長はしばらく、事務仕事などから解放されると思います」

「そうですか……。正直、ちょっとだけホッとします。やっぱりこういうのは、慣れてる人に頼むのが一番ですよ……」

「でしょうね。私も、竜と殴りあって来いと言われたら二の足を踏みます」

「またもう。以前ちゃんと話したのにネタにされてますね……」

「一番派手な活躍ですからね。それじゃあ、私は少し出てきます。隊長は家に帰って、ゆっくり休んでください。ですが明日の朝はいつも通りの時間に」


 そう言ってにこやかな礼をすると、彼は鞄を抱えて本部から出ようと出入り口の扉を開けた――ところで。見慣れたぼさぼさの金髪と、ひとつに結ばれた銀髪が見えた。

 2人はいつもの作業着に探索者シーカー協会の制服を着て鞄を持っており。それぞれ仕事終わらせた様子なのが分かる。

 そして本部の人達ににこやかな挨拶をしつつ、俺の机の前までやって来た。


「お疲れ様ブラン! 丁度終わったとこらしいじゃない」

「おう。エヴリンさんと、ここの人達皆のお陰だけどな」


 ぐったりしつつもシルベーヌに答えると。今度はミルファが微笑む。


「先程シルベーヌと私もそれぞれ仕事を終わらせたところで。こちらに来る途中で合流できたんです」

「そっか。わざわざこっちまでありがとう2人共」

「いいのよこれくらい!」

「はい。苦ではありません」

「それじゃあ3人で家に帰ろうか。俺は一昨日から本部に泊まり込みだったし、自分のベッドで寝たいや」


 なんて言って笑うと、2人も微笑み返してくれた。

 その後は本部の人達に、仕事の無い隊長は帰れと笑って送り出され。3人揃って探索者シーカー協会の建物の中を歩いていたのだが、途中でどこからか帰って来た灰色の大猫、ウメノさんに出くわした。


 大猫の隣には鞄を持った秘書らしい人が居て、これからもう一仕事あるという感じが伝わって来る顔色である。

 ウメノさんは足を止め。尻尾を振ってその場に座り、俺達を見上げた。


「おう3人共。今から帰るところか」

「お疲れ様ですウメノさん。ちゃんと仕事は終わらせてますよ」

「よいよい。流石は隊長殿じゃな」

「ウメノさんは、これからまだお仕事が?」

「まあのう。わしはこの通り猫じゃからな。夜中には向いておるし、海賊稼業をやってた頃は、もっと厳しい毎日じゃった。この程度苦ではないわ」


 そう言うとウメノさんは大きく口を開けて笑って見せ、尻尾を振った。

 そこでふと。俺はある事を思い出す。


「ウメノさん。ちょっと聞きたい事があるんですけど、今良いですか?」

「ふむ?」


 足元の大猫が小首を傾げ。次いで隣に居る秘書を見た。

 秘書の方は腕時計を見てから何も言わずに頷き、自分は足早に協会の奥へと歩いて行く。


「で。ブラン。何を聞きたいんじゃ?」

「ウメノさんは火星マルスで海賊をやっていらしたんですよね。マーシャンズって言葉に聞き覚えは無いですか?」

「それはもちろんある。連中はとんでもなく荒っぽいぞ。海賊の方が大人しいと言われるくらいじゃ。……帰る途中だったのだし、駐車場まで歩きながら話そう。シルベーヌ、ちとわしを抱えてくれんか。視点が上下しては危ない」

「はいはいっ、と」

 

 言われた通りにシルベーヌがウメノさんを抱え上げ。彼女の割とある胸にウメノさんが納まった後。駐車場へ向けて歩き出す。


「それで。急にマーシャンズの事なんぞ聞いてどうした?」

「舞踏号の事なんです。前々から気にはなってたんですが、あいつは何処から来たんだろうと思ってて。この前から、あいつがよく話しかけてくるんですよ」

「……ふーむ?」


 シルベーヌに抱えられた灰色の大猫が、訝し気に髭を揺らした。

 別勢力についての興味かと思えば、俺が急にスピリチュアルな事を言い出したのだ。当然疑問を持つであろう。

 しかし、そこをミルファとシルベーヌが支えてくれる。


307(サンマルナナ)小隊でお世話になっていた頃、舞踏号の整備内容について目を通したウメノさんも知っているとは思いますが。舞踏号は謎が多い機体です。特に最近は、ただ戦前の物だから詳細が分からない。で済まされない事象が多くなってるんです」

「舞踏号の損傷が、中身のブランに伝播する現象。舞踏号と離れた場所に居るのに、ブランがセンサの索敵結果を受け取った現象。舞踏号の昔の記憶みたいな、変な夢にうなされたり。今パッと上がるのはこれくらいだけど、舞踏号とブランっていう関わりだけじゃなく、第三者である私達が見た……観測できた現象は少なくないわ」


 2人の言葉を真剣に聞くウメノさんの耳が、小さく揺れた。

 再び俺が言う。


「マーシャンズについても、舞踏号の記憶メモリから吸い出せた”敵軍機”のデータ。ヘカトンケイルの事が出て来たからなんです」

「ふむ……。それで何か関りがあるのかと」


 3人で頷くと。丁度協会の玄関から出た所だ。ウメノさんは視線を空にやった。

 少し雲の多い夜空には、月と星明り以外にはない。ひょっとしたら火星マルスが見えているのかもしれないが、天文に疎い俺には分からない。


「マーシャンズでも人型機械ネフィリムは運用されておった。大体は地表におったが、中には宇宙で暴れまわる奴もいてのう」

「宇宙で人型機械ネフィリムを? それ本当ウメノじーさん?」

「もちろんじゃシルベーヌ。数は少なかったが多少な。流石に宙間戦闘機との機動戦には勝てておらんかったが、宇宙船に張り付かれると厄介でのう……。外壁を走って船のセンサやエンジンをぶっ壊して回る上に、隙間があればこじ開けて入って来るんじゃ。忌々しい」


 灰色の大猫が空に向けて忌々しいと言い放つ姿からは、確かな実体験が感じられた。


「しかしな。海賊をやっておった頃でも、火星マルス周辺で舞踏号に似た人型機械ネフィリムは見た事が無い。まあこれは、舞踏号が最初の灰色だった頃をベースに考えての事じゃが」

「そうですか……。うーん、何か分かると思ったんだけどな」

「すまんのうブラン。しかしまあ。人型機械ネフィリムがパイロットに、特定の機体を敵軍機だと叫んだ事象というのも珍しいと思う」

「言われてみれば。俺はずっと舞踏号にしか乗ってないけど、別の機体はそういう、昔の勢力分けっていうか、敵味方判別って残ってるのかな?」

「多くの場合は、あらかじめ記憶メモリに書き込まれていたはずです。それでも人型機械ネフィリムの多くは、そういった部分に関しての情報があまり残されていないと聞きました」

「ミルファの言う通りね。大体はその辺スッカラカンよ。昔の時点で意図的に消されたって見て良いんじゃないかしら。そもそも軍事兵器のメモリとかは重要情報の固まりでしょうし、遺跡で放置されてるような人型機械ネフィリムに残ってる方がおかしいわよね」


 なんて事を言っていると。あっという間にいつもの軽トラまでたどり着いてしまう。

 ウメノさんがシルベーヌの胸からぴょんと飛び出し、軽トラの荷台で伸びをした。


「気になるようなら、わしも何か調べておこう」

「お手数かけます。でも、正直助かります」

「まあ戦前の技術や兵器などはまだしも。かつての勢力や敵対関係も関係してくるとなると、探索者シーカーというよりは学者の仕事じゃのう……こういうのに詳しいのは、ずっと前から帰って来ておらんし……」


 そこまで言って、ウメノさんはハッとした様子で荷台の縁に前足をかけた。


「そうじゃお主ら。丁度今日で細かい仕事は一段落なんじゃろう? ならば舞踏号を見つけた場所へ行って来ると良い」

「いいんですかウメノさん? 私達には探索者シーカー部隊の一員として、やる事があるのでは?」

「無論。これも仕事の一環じゃよミルファ。もう覚えておらんか? あの遺跡は街に近いが、当時は発見間もないものじゃった。あそこに2人が向かったのも、協会の出した危険性についての下調べじゃったろう?」


 ミルファとシルベーヌが一瞬記憶を辿り、そうだったと言わんばかりに互いの顔を見合わせる。

 俺は自分が目を醒ました時を思い出し。あの後、足の裏を怪我した事を思い出した。


「あの遺跡は小型の生体兵器モンスターが多少いた程度で、特に危険ではないと判断されたはずじゃが。つい先日、メイズ島全土の地下を繋ぐような遺跡の存在が示唆されたんじゃ。街に近いのなら、再調査に向かっておいた方が良い」

「でもさウメノじーさん。ブランは隊長でしょ? 今日だって色んな人と会って色々書いてたのに大丈夫?」

「前回の仕事で、探索者シーカー部隊員の多くがブランを隊長と認めたというても、まだまだぽっと出の小僧よ。言い方は悪いが、担ぎ上げた旗印が内外に示されたというだけじゃ。協会内部ではブランがおらんでも仕事は回る。外部に関しても、一通り顔合わせと話し合いは済んでおるから少し間が空く」

「って事は――」

「うむ。遺跡調査という探索者シーカーの真骨頂の仕事じゃな」

「マジですか!」


 俺はつい弾んだ声を出してしまう。


 てっきりこれからは探索者シーカー部隊の隊長として、前回大規模農場に向かったような仕事、それも今度からはナビチさんがやっていたような、依頼人や各所との調整に似た業務ばかりになると考えていたのだ。

 今までやって来た事――まあ乱暴で土と埃にまみれてスマートでは無いが――を続けれるというのはかなり嬉しい。


 そんな歓喜が周りに伝わったのか、この場の全員がニヤリと笑う


「詳しい事はわしがまとめておこう。情報の整理と事務仕事を含めても、まあ明日の夕方には正式な依頼としてお主らに出せるじゃろうな」

「さっすがウメノじーさん! 頼りになる!」

「ありがとうございますウメノさん!」

「流石は探索者シーカー協会副会長ですね」

「そうじゃ、もっと老人を褒めろ。しかしまあ。今度はきちんとした調査になるんじゃ。お主ら3人だけとはいかんから、当然探索者シーカー部隊員を連れて行く事になるぞ」


 力を持て余しておるのはお主らだけでは無いしな。と、ウメノさんは笑い。軽トラの荷台から飛び降りた。


「ではまた明日な」

「はい! ありがとうございます!」


 3人で礼を返すと、灰色の大猫は手の代わりに尻尾を振り。

 悠々とした歩みで探索者シーカー協会の建物へと戻って行った。


「さて。次やる事は決まったけど……」


 皆で軽トラに乗り込み。俺もいつものように荷台に乗ったところで。ぎゅぅっ。と、シルベーヌの腹が唸りを上げた。

 健康さの証拠に、俺とミルファはつい笑ってしまう。


「晩御飯どうしようか。帰って今から自炊するにはなあ」

「かと言っていつものファーストフードも。という気分です」

「だったらこの前。部隊の人に良い所教えてもらったのよ」


 シルベーヌがニヤリと笑い。軽トラを夜の街に走らせた。

 そして辿り着いたのは、街の中でも飲食店が集まる場所の隅にある、決して小奇麗ではない中華料理店だった。

 真っ赤な看板には読めない文字で店名が書いてあり。引き戸の入口横には、黒板に書かれたメニューが出してある。

 メニューにはラーメンや餃子、チャーハンと言ったいかにもな物から。唐揚げや豚の生姜焼き、あるいはカレーであるとかプリンとか。本格中華とはちょっと違う下町寄りの、暖かみのある品揃えだ。


「安くて美味しくて深夜までやってるんだってさ! 入ろ入ろ!」


 シルベーヌがいそいそと引き戸を開いて暖簾をくぐり、ミルファと俺もそれに続く。

 俺達は店主の明るい声に歓迎され、壁際にある4人掛けのテーブル席に案内された。

 明るい蛍光灯で照らされた店の中は、カウンター席がいくつかと、テーブル席が8席ほど。それほど大きくは無いが、かと言って狭苦しくもない。壁の至る所に張られたメニューと酒類のポスターが、何だか雑多で心地よい。

 席の埋まり具合は6割ほどで、俺達を含めて7割。といった具合だ。


 ミルファはこの店の雰囲気が好きなのか、どことなく興奮した様子でメニューを見始め。シルベーヌもそれに続いてメニューを覗き込んで、何にしようかを話し始める。

 俺も壁に張られたメニューを眺めていると。ふと、1人のお客さんが目を惹いた。


 カウンター席に座る、グレーの髪を乱暴にまとめた中年の女性である。

 見た目の年こそいわゆるおばちゃんなのだろうが。身体付きがまるで肉体労働をする男性のように逞しい。

 格好もまた中年男性のようで、汚れた頑丈そうなブーツに厚手のズボン。腰にはジャケットらしい上着が乱暴に巻き付けてあり、そして上は半袖シャツという出で立ちだ。


 何より驚いたのは。その中年女性の前に置かれた空き皿の数と、山盛りのチャーハンを豪快に食べ進める姿である。見ていて気持ちいい食べっぷりだが、空き皿を数えるだけでも、色々な料理を3人前は既に食べているだろう。

 そして更に。店員さんが湯気の上がるラーメンを近くに置いた。


「どしたのブラン? ……すごいわねあのおばちゃん」

「空き皿から察するに。相当な質量が既に体内にあるはずですが、まだ余裕そうですね……?」


 唖然とする俺に気付いたシルベーヌが、小さくとも驚嘆した声で言い。ミルファもそれに小さな声で敬意を表した。

 俺もそれに無言で頷き、目を逸らそうとした――瞬間だった。

 チャーハンをかきこむ中年女性の横顔と、一瞬だけ目が合ってしまったのだ。


 若干気まずいながらも黙礼して、今度はグッと目を逸らす。

 しかし気配が近づいてくる。大股で勇ましく、悠々とした足取りで。


 絡まれるのか? いやそんな馬鹿な! こういうので喧嘩を売って来るのはガラの悪い男じゃないのか? なんでガタイの良いおばちゃんが? つい見てしまうという失礼な事はしたけど、そこまで何かされるような事では――!


「ちょっと良いかいアンタら」

「は、はいィ」


 テーブルの横に腕を組んで立ったガタイの良い中年女性が、溌溂とした声を掛け。俺は恐縮した返事をしてから微笑んだ。

 見ればこの中年女性。立てば180㎝ギリギリ足らない位の身長をしている。近くで見れば腕も太い。肩の筋肉もしっかりしている。腕相撲をしたらそこらの男では確実に負けるという雰囲気の体躯だ。

 しかしシルベーヌは怯まずに、満面の笑みで中年女性を見上げた。


「何でしょう?」

「アンタらの着てるその制服……探索者シーカーやってんのかい?」

「はい。そうですよ! それが何か?」

「私はねえ、アンタらみたいな若くて生意気そうな探索者シーカーが……」


 中年女性が俺達を悠然と見下ろし。俺達の着くテーブル席。そこで1つだけ空いている椅子の背もたれを力強く掴み――。


「大好きなんだよ! ちょっと何だい、女の子2人は可愛いねぇ! このぽややんは彼氏? 2人もとか色男だねえ、でも怪我してるじゃないのさ! ちゃんと食わないと治らないよ! ちょっと店員さん! この子達に精の付くものだしたげて! お代は私持ち! あ、ここのオススメはチャーシューメンだよ! 私は探索者シーカーの話が好きでね――!」


 歓喜して矢継ぎ早に言いつつ、椅子に腰かけて話しかけて来た。

 その態度に俺達3人は当然驚き、思わず顔を見合わせたのは言うまでもない。

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