第128話 水を差されて
翌日の早朝。
雪の薄く積もる大規模農場の隅では、探索者達が忙しなく車に荷物を積み込んだり、弾薬やライトなどを積み込んだりと、様々な準備をしていた。
目的は当然。昨日見つかった遺跡の入口を封鎖するためだ。
封鎖と言っても爆破したりするようなモノではなく、あの遺跡の入口の中にちょっとした拠点を設けて、中から生体兵器達が湧いてこないか。あるいは何か異常が起きないかを監視するのだ。
俺もいつもの作業着で手伝おうとしたが、『隊長は怪我人なんだから座ってろ』と、探索者達に左手の包帯を差されて断られ、手持無沙汰である。
シルベーヌとミルファはそれぞれ自分の得手を活かして働いているし。やはり戦いが終わると自分の仕事が急に少なくなっていけない。
とはいえ今すぐはどうしようもないので、テトラ達と一緒に装甲に傷の付いた舞踏号を軽く整備したり。コーヒーを淹れて配ったりと、細々した事をして過ごしていた――のだけれど。
「おーいブラン! ちょっとこっち来てくれ! 依頼主が話を聞きたいらしい!」
片膝を着いて座る舞踏号の傍に居た時。ナビチさんに呼ばれて、俺は農場の中にある大きな家に招かれた。
農場で働く人の住宅や食堂とは一段格の違う、農場主の邸宅だ。しかしウーアシュプルング家の御屋敷程では無く、普通の家2軒分と言ったところだろう。それでも家の周りを柵で囲まれていたり、手入れされた庭園があるなど、中々立派な物だ。
珍しく探索者協会の制服をきちんと着て、身だしなみを整えたナビチさんに連れられ。その大きな家の玄関を叩く。
中から男性の声で返事があった後。少しだけ待つように申し訳なさそうな声が響いた。
これを好機とナビチさんは、自分と俺の制服の乱れを直したりしつつ言う。
「ねえとは思うが、まあ失礼の無いようにな。キッチリかっちりじゃなくても良いが、謙虚に誠実に」
「どうしたんですナビチさん。珍しくというか、妙に緊張して見えますけど……」
「探索者の事を気に入ってる優しい爺さんとはいえ、得意先の依頼主と話すのはそりゃあな。慣れてこそいるが、おっさんでも緊張するもんなんだよ」
わざとらしく苦そうな顔をしたナビチさんに脇を肘で小突かれ、つい笑ってしまった時。玄関の向こうに気配がして、扉が開けられた。
「すみません! お待たせして!」
家の中から現れたのは、この農場の農場主の息子さん。マーブルさんだ。栗皮色の長い髪がどこか爽やかな、若い男性である。
社交辞令もそこそこに、俺とナビチさんは応接間に通される。東向きの大きな窓から庭が見える応接室は、質素だけれど暖かみのある雰囲気でまとめられていた。
その応接室のソファに、年取ったお爺さんが腰かけている。この人こそこの大規模農場の主。マーブルさんの父親である。
「お呼びして、すみません」
農場主は掠れた声で言うと、ソファからゆっくりと立ち上がった。
俺は農場に来た段階で数度会ったくらいで、細かな話はナビチさんが担当してくれていたので。近くに居たのに改めてお会いするという感じで、少々気まずくもある。
しかし御年70か80程の御老人は、和やかな笑みを向けてくれた。多少背筋が曲がって痩せてはいるものの、足腰のしっかりした方だ。手や顔にある日焼けや染みから、この方自身も長年農場で働いて来たのを確かに感じる。
とはいえ。流石に寄る年波には勝てない様子で、立ち上がるのも中々に億劫そうだ。マーブルさんがそっと農場主を支え、俺とナビチさんは2人に向き合う形になる。
再びきちんとした挨拶を交わした後。楽にして良いと微笑まれ、ソファへ座るように勧められた。その通りにさせて頂き、飲み物がテーブルに置かれると、とりあえず一段落と言った感じだ。
「今朝。昨晩何があったのかを聞いて、資料も読みまして」
「何分急な物で、手書きばかりで申し訳ありません……読みづらい部分があったりしませんでしたか?」
「大丈夫ですよ。私の方がよっぽど悪筆です。それに、こういった方が探索者さんらしくていい」
ナビチさんが恐縮して言い、農場主はそれに和やかに微笑んだ。
声と態度と雰囲気から、この人は特に悪意を持っていない。全身がそう感じとった。
「事情は理解しました。中々大変なようですが、探索者さん達には引き続き警戒などをお願いしたくて」
「もちろんです。こちらには長年依頼を出して頂いていますから、副会長も快諾して下さいます」
「それはよかった」
にっこりと笑い、掠れた声で言った後。深い皺のある目が、静かに俺の方に向けられた。
俺がつい緊張して背筋を伸ばすと、農場主はふっと微笑む。
「お若いですね、隊長さんは。おいくつですか?」
「あー……その。失礼だとは思いますが、正しい数字は分からないんです。俺はいわゆる幸運の旅人ってやつらしくて……」
「ほお」
隠したって仕方がない情報だ。素直に俺が言うと、農場主の目に好奇心が宿った。
「旅人さんと言う事は、どこかの遺跡でお目覚めに?」
「はい。そうです。本当に運良く、良い人達に助けてもらって。なんだかんだで探索者に」
「なるほど。少し気になりますね……」
グッと身を乗り出すようにして、農場主が俺を見る。
綺麗な灰色の瞳には確かな年齢が感じられるが、新しいものへの興味と言う若々しい力も感じられた。
「私は探索者さん達の話を聞くのが好きでして。皆さんの冒険譚を聞くのが、長生きの秘訣でもあるんですよ」
「ブランは派手な事ばっかりしてますからね。こいつの話はそこらの探索者とは違いますよ」
ナビチさんが期待させるような事を言い、少しだけ意地悪そうな顔を俺に向ける。
そんなにハードルを上げないで欲しいと言う目線で返すが、当のナビチさんは知らんぷりだ。
「それは楽しみです。でも今日お呼びしたのは、遺跡の入口についてもう少し詳しく聞きたいのと。それらが一段落したら、探索者の皆さんを労って差し上げたいので。ちょっとした宴会を開こうと」
「おお! そりゃあまた!」
「冒険譚はその時にでも。まずは遺跡の事について、片付けてしまいましょう。詳しい事はこちらに……マーブル?」
「はい。父さん」
そんな会話の後。俺とナビチさんは、農場主親子と遺跡についての事を話し合う。
とは言っても。今の俺はほとんどナビチさんに細かな事務などを任せているから、多くは聞くだけという情けない状態だ。それでも自分なりに全体を把握し、一字一句漏らさぬよう耳を傾けてメモを取り。質問されれば真剣に返す。
そうやって集中していると。遺跡の事についての話が終わった頃には、つい深いため息が出る程になっていた。
事務や外部の人との調整というのは、戦闘よりも疲れるかもしれない。これを普段仕事としている人達は尊敬する。
相手の表情や仕草から機微を読み取り、和やかだがきちんと段取りなどを決めていくなんて。他人を相手にするという事柄だからこそ、誰にでも出来るように見えて、そうそう出来る事では無い。
「隊長さんは、こういう事にあまり慣れていない様子ですね」
「こいつは人型に乗ってる時は活き活きしてるんですが……まあこういう事に関しちゃ圧倒的経験不足ですよ。でもこっちで事務系の補佐はするんで、安心してください」
農場主とナビチさんが俺を見て笑い。マーブルさんは微笑み、コーヒーを淹れ直してくれた。
やはりこういう事になると、自身が経験不足の”ガキ”という事を強く感じてしまう。もっと頑張って、信頼を勝ち取れる渋い大人の男にならねばなるまい。
なんて事を思っていると。ポケットに忍ばせていた無線機が音を鳴らした。ナビチさんの方もだ。
2人で断ってから無線に耳を傾けると、まずはセブーレさんの声が聞こえた。
「おーい! 隊長かナビチさん! 返事くれ! 伝えたい事がある!」
「騎士団の大隊。その先遣隊を名乗る士官がいらっしゃったんです。責任者に会いたいと」
「事情を聴いて取り次ぐって言っても、直接でないとダメって聞かないのよ。頭固いわねー」
ミルファとシルベーヌが続き、無線の向こうで姦しい声が遠く聞こえる。その声色からどうもあんまりよくない雰囲気なのが察せて、俺はナビチさんと顔を合わせた。
「俺が1人で行きましょうか? まだもう少し話があるでしょうし……」
「いや。2人で行った方が早えが……」
「後は参考に、お好きな料理などを聞くような雑談のつもりだったので大丈夫ですよ」
マーブルさんがにこやかに言ってくれて、農場主も大きく頷く。
それならばと御言葉に甘え。2人で席を立ち、きちんと挨拶をしてから小走りで外に出た。
すると遠目に。先ほどまで探索者達が忙しなく準備をしていた場所の近く。そこから少し距離を置いた場所に騎士団の車が数台停まっており。車の傍には、戦闘服の上にボディアーマー状の甲冑を着て、ライフルを肩に掛けた騎士団員が10数名。気を付けをして立っていた。
そんな騎士団の反対側には、戦闘服に装甲を付けた探索者達が、トラックの荷台やボンネットに座り込んで騎士団員達を睨んでおり。
両者の間には、どうも和やかではない空気が漂っているのが感じ取れた。
セブーレさんとシルベーヌとミルファの3人は、そんな探索者達から一歩前に出ており。
騎士団の方からも、甲冑を着ていない制服の騎士が3人。一歩前に出て、何やら話している様子だった。
「……友好的って感じじゃ無さそうですね」
「横槍か? にしちゃあ対応が早い気がするが……」
ナビチさんと小さな声で言い合った後。
セブーレさんが何かを叫び、制服の騎士に向かって思い切り中指を立てたのが見えた。その動きはまさしくチンピラと言って良いだろう。
とはいえ。他の探索者達も同様に不満を抱えているようで、シルベーヌとミルファからも、どこか不機嫌な様子が分かる。
「あのバカ……! おーい! 呼ばれて戻って来たぞ!」
ナビチさんが頭を抱えてから大きく手を振ると、一斉に探索者と騎士団員達の目がナビチさんと俺に注がれた。
視線に負けじと姿勢を正して近づけば、制服を着た男性の騎士団員が1人こちらに歩み寄って、ナビチさんに微笑みかける。
「貴方が探索者部隊の仮隊長ですね?」
「いいや。隊長はこっちだ」
「どうも。ブランと言います。一応、仮の部隊長という役職を」
ナビチさんの紹介に従って軽く会釈をすると、騎士団員が露骨に不審な顔をした。
騎士団員は切れ長の目をした、くすんだ茶髪の神経質そうな男性だ。年は20後半か30代だろうか。首元の階級章を見るに大尉のようだ。そしてこうして屋外に居るよりは、机に着いて仕事をする方が似合う。そういう雰囲気の方である。
そんな男性が、俺をつま先から頭のてっぺんまでスッと眺め。眉を顰めた。
「……君が?」
「ええ。まあ」
「やはり所詮は傭兵紛いか。こんなのを部隊長にするなど程度が知れる」
鼻で嗤い、小さな声で、まるで独り言のように。
それでも周りに居る人間に聞こえる声量で放たれた侮蔑に、流石に俺も面食らう。だがまあ、俺個人への評価は分からなくもない。
俺は気を取り直し。背筋を伸ばしてにこやかに話しかける。
「騎士団の方が、私達に何か御用ですか?」
「遺跡の入口が発見されたと聞いた。統合作戦本部からの命令だ。以後は騎士団の部隊が遺跡の事を受け持つ。お前達は騎士団のために遺跡周辺へ陣地を構築して帰れ。期限は2日だ。ああ、生体兵器の死体なんかも綺麗に片付けろよ。目障りだからな」
切れ長の目をした騎士団員は淡々と言い放ち。隣に居た部下から受け取った紙束の資料を、俺に投げて寄越す。
「詳細はそれに目を通せ。質問は無いな」
「ちょ、ちょっと待って下さい! まだ何にも――!」
「おい騎士様よ。ガキ相手だからって、やり方が少し大人気ねえんじゃねえか?」
慌てて資料と、統合作戦本部発と銘打たれた命令書に目を通す俺を差し置いて、ナビチさんが低い声で問いかけた。
背も高く、探索者協会の制服の上からでも鍛えられた肉体が分かるナビチさんが凄むのは、確かな圧力がある。
しかし切れ長の目をした騎士団員はそれに動じず、呆れた様子で嗤った。
「探索者などと言っても、所詮は下請けの何でも屋だろう? 騎士団の言う通りにしていれば良い。ましてや探索者部隊など寄せ集めだ。誰も戦力として期待していない」
「あァ!? さっきからテメエ何様だよ! 急に出て来てウダウダ抜かしてんじゃねえぞ!」
「黙ってろセブ!!」
近くに来て話の行く末を見守っていたセブーレさんが、怒り心頭と言った様子で叫んだのを。ナビチさんがそれ以上の大声で制した。
思わず、名前を呼ばれていない俺やシルベーヌとミルファですらビクッとしてしまう。
「若年層の教育はきちんとして欲しいものだ。特に、階級や立場のある者に対する礼儀はな」
「こちとら最低限の教育しか受けてねえのが大半なんでね。まあそれでも、無礼には無礼で返すのが礼儀ってもんさ」
騎士団員が嘲笑いつつ言った言葉にナビチさんが返し。ポケットからクシャクシャの煙草を取り出すと、手早く火を点けて咥え。大きく吸ってから両手をポケットに突っ込んだ。
一連の仕草を見た騎士団員は露骨に嫌そうに眉を顰め、ナビチさんを睨む。しかしナビチさんはニヤリと笑うと、そのまま俺の受け取った資料を覗き込み。大仰な文章の書かれた命令書を手に取った。
そして2つを素早く見比べて、煙草を口から一度離す。
「おいおい騎士様。塹壕堀りや銃座の構築はともかく、装備に弾薬や医薬品の類まで置いてけってのはどういう事だ?」
「命令書と資料を見ての通りだ。分からないのか?」
「統合作戦本部の命令書の方には、徴発紛いの事まで出来るような文章がねえって言ってんだよ。分からないのか?」
声色を真似たナビチさんの返事に、一気に空気が緊迫する。
俺は気が気ではないが、セブーレさんの方はニヤっと笑った。
次いで切れ長の目の騎士団員がナビチさんを睨むが。ナビチさんの方は咥え煙草のまま、再び資料と命令書に目を落とす。
「……やる事は大体分かった。隊長。この騎士様の率いる部隊は、元々この近くに生体兵器が湧いてる原因を調べに来た一団らしい。それが丁度昨晩オレ達の見つけた遺跡が原因だと分かったから、後は遺跡に関する本格調査の後に、遺跡をどうするか判断してくれるそうだ」
「騎士団と探索者協会の連絡はどうです?」
「命令書を見るに、協会もこれに関しちゃ承認済みだ。探索者部隊で大方目処が付いただろうから、後は騎士団の部隊でキッチリ始末をつけるって具合だな。こっちに無線で連絡が来てないのは、昨晩のジャマーの霧のせいか。騎士様はその辺の情報も中継ぎして、オレ達に連絡する手筈だったんじゃねえか?」
ナビチさんが顔を上げると、切れ長の目をした騎士団員は何も言わずにこちらを見て来た。
言動から何となくは察せていたが、どうも探索者の事を快く思わない方らしい。それにしたって、確かに大人気ない気がするが。
「まあ。別に探索者が嫌いでも、この任務が気に入らねえでも何でも良いが。仕事はきっちり頼むぞ騎士さん。でないとこの農場の人間にも被害が出る」
「……言われなくとも。民間人の被害を抑えるのは当然だ」
「なら良いんだがな。さて隊長。最終的な判断を聞く」
ナビチさんは騎士団員と話した後。煙草を携帯灰皿に押し付けて消してから俺に向き直った。
周りを見なくとも、セブーレさんやシルベーヌとミルファ。そして他の探索者達が。それに舞踏号やテトラ達も遠くから、俺に視線を集めているのが分かる。
深呼吸を一度。姿勢を正してにこやかに笑い。ナビチさんの方を見てから騎士団員を見る。
「当然やります。これは正式な探索者部隊への依頼ですし。断る理由なんてありません」
「了解だ! それじゃあこっちで”出来うる限り”一生懸命やる。それで良いな騎士様?」
「……それでいい。これから農場主に挨拶に行く。連絡要員に部下を置いていくから、細かな部分はそっちで詰めろ」
言うや否や、切れ長の目をした騎士団員は、制服の部下を1人連れて農場主の家の方へと歩き出した。
その背中がある程度離れて行くのを見るや。セブーレさんが再び中指を立ててから腕を組んだ。
「あァームカツク! 何だよアレ! 引継ぎは別に構わねえけどよ! アタシ達だって人間だぞ!? なんだよあの態度と言い方! 水差された気分だ!」
「ホント。何アレ? 急にやって来てずっとあんな態度だったのよ? 流石に非常識すぎるんじゃない?」
腰に手を当てて割とある胸を張るシルベーヌが続き。セブーレさんと同様に怒りを露わにする。
「騎士団の悪い部分、その代表のような方でしたね。最近は良い方ばかりだったので忘れていましたが、外部から見た探索者という存在の立場を再認識します」
「しかも普段ならいざ知らず。今の探索者部隊は騎士団の下に付く、有象無象の鉄砲玉みたいなもんだからな。あんまり信用ねえのは頷ける。それにしてもなセブ」
いささかご立腹。と言った様子のミルファの言葉をナビチさんが補足してセブーレさんに近づき――資料の紙束で、セブーレさんの頭を軽くはたいた。
「いてえっ!? 何すんだよナビチさん!」
「士官相手にメンチ切って中指立てる奴がいるか。反省しろバカ」
「でもよ――!」
「お前はそういうとこがガキ過ぎるんだよ。隠さず素直に感情を出すのは良いけどな、時と場合を考えろ。……まあ、オレも十分ガキ臭い事したが……」
ナビチさんが真剣な表情と低い声で叱ると、流石のセブーレさんも俯いて肩を落とす。
周りの探索者達も、それに関しての反応は似たようなものだ。ただ。躊躇わず中指を立てたセブーレさんに、自分の代わりに言いたい事を叫んでくれてスッキリしたという声もあった。
それらと今までの言動などを鑑みるに。セブーレさんは、その素直に嫌な事には嫌とハッキリ言う性質でもって、周りの人々の信頼を得ているようなのが察せた。
初めて俺が会った時だってそうだ。多くの不満を代弁する存在と言うべきか。誰しもが抱える言いにくい事を、包み隠さず発する事が出来る豪胆さ。そう言う部分を気に入っている探索者達に、彼女は支持されているのだろう。
あまり上品とも言えない人も少なくない探索者とはいえ、こういう形で人々の支持を集める事が出来るのも珍しい気がするが。それこそ彼女の才能に違いない。
「それでも俺は、セブーレさんが言う事言ってくれて、ちょっとだけスッとしました」
「なんだよ隊長! 分かってんじゃん!」
「私も! ちゃんと言ってくれると、胸のつかえ具合が大分違うわよ」
「はい。後から来てあの態度を取られては、流石にむっとしましたし」
セブーレさんが笑い、シルベーヌとミルファも同様に頷いたのを見て、ナビチさんが大きくため息を吐いた。
「こういうとこはお前ら……まあ良い! よーし探索者! 騎士団のために立派な陣地を拵えるぞ! 終わったらちょっとした息抜きも、依頼主が用意してくれるそうだ! きっちり働くぞ!」
大声で掛けられた号令に、探索者達がまた大きな声で返す。
もちろん俺達もそれに片手を上げて続き。先ほどまでの少しトゲトゲした雰囲気は何処へやら、明るく快活な空気で仕事の続きと段取りの打ち合わせが始まった。
パッと怒って後には引かない。そういう部分は、案外悪くないのかもしれない。
そして探索者達が動き出す。俺も舞踏号を使って塹壕を掘るために、小走りでコクピットに向かっていった。




