第127話 暗夜の舞台 彼らと私の
『”鉄屑が!!”』
舞踏号が叫びを上げ、全身のダクトから白い息を吐いて突進した。
慈恵号の握った鞭が今までに無い程鋭く振られ。半ば刃と化して地下通路の壁を裂き、天井を裂いて迫る。
突進の最中。それを右手の長剣で打ち払い、左手のトマホークで抑える――事が出来たかに思えたが。鞭はそれ以上に速かった。
慈恵号の握る鞭は音よりも早く、蛇のようにうねり。舞踏号の足を凄まじい力で払う。
舞踏号は突進の最中ゆえに加速が乗った状態で前に転がるが、四肢を縮め足を振って、大きく前転した。
当然。その隙を狙って慈恵号は左腕をかざす。接近してきた舞踏号を押し返そうと、腕に取り付けられた小盾から、空気の固まりが発射される。
『そうそう何度も――!』
言うや否や。前転終わりに片膝を立て、長剣を床に突き立てる。
すぐさま空気の固まりが舞踏号を襲うが、床にヒビを入れながらも、吹き飛ばされるのを耐えきった。
距離は十分。鞭もすぐには戻らない。
『”バラバラにしてやる!”』
舞踏号が叫び。床に突き立てた剣を引き抜きつつ、左手のトマホークを振り上げて踏み込んだ。
振り下ろされたトマホークは、慈恵号にガードされるよりも速くその左肩に食い込み。斧の刃が肩の骨格に引っかかった。
そして斧の刃を骨格に掛けたまま、力任せに慈恵号を引きずり倒す。呻き声にも似た金属音が、遺跡の中に響き渡る。
『”組んだ相手が悪かったな!!”』
呻き声に似た駆動音を上げて倒れ伏した慈恵号の身体を、舞踏号が蹴り飛ばした。衝撃で慈恵号の左腕が肩から千切れ、慈恵号本体は通路の奥へと転がっていく。
しかし慈恵号はすぐさま起き上がり、ふらつきながらも鞭を振るった。
柔らかく鋭い刃と化した鞭の一撃を、舞踏号は身を屈めて回避。そのまま更に攻撃を加えようと、舞踏号が走り出した――瞬間。舞踏号の足首を、今しがた千切れたはずの慈恵号の腕が掴んだ。
一瞬だけ動きが止まった隙を逃さず、再び鞭が振るわれる。咄嗟に防御をしたものの。肩を打たれ頬を打たれ、脛を打たれ。センサにエラーが走って目が眩み、片膝を着いた。
しかし歯を食いしばるように口元の排気機構が動き、必死に足首を掴む慈恵号の左腕を、トマホークで叩き壊す。引き千切れ、斧で叩き潰された腕がなおも痙攣するように跳ね、指先が虫の足のように蠢いた。
『”死に損ないが!!”』
舞踏号が再び叫び、慈恵号の鞭が振られる。顔を狙いすました一撃だ。
だが舞踏号は一歩横にずれ。振られた鞭を剣先で絡めとると、剣を杭のように床に突き立てる。
縦横無尽に振られていた鞭が一転。慈恵号の動きを縛る鎖と化し。慈恵号は鞭から右手を放そうにも、強く握り過ぎていた為か、すぐには離せないらしい。
舞踏号がニヤリと嗤い。白く熱い息を吐いた。
手斧を片手に、巨人の戦士が首無しの巨人に飛び掛かる。
そして嬉々として斧を振るい。拳を振るい。首無しの巨人を八つ裂きにせんと組み付いた。火花が散って装甲がひしゃげ、熱を持ったタンパク燃料が血のように散り、辺りを生臭くさせる。
合金製の爪を立て、慈恵号の脇腹を抉った。あばらのように胴体を守る骨格が力任せに千切り取られ、慈恵号が痛みに悶えるように痙攣する。
『”それでもお前達は――!!”』
舞踏号が怒りと落胆を含んだ咆哮を上げ、トマホークで慈恵号の胴を殴りつけた。装甲が割れ、人工筋肉を断裂させて、生温い飛沫が飛び散る。
『”――いいや……! だからこそ……!”』
スピーカーを通して聞こえる自分の声。それは俺の発した声では無い、舞踏号の意思と声だ。
舞踏号の怒りが沸点を超えたのか、一気に冷めていくのを感じられる。何に憤りを覚えていたのかは分からない。微かに感じる舞踏号の記憶すら、白く歪に塗り直されているのだ。
しかしただ一つ。舞踏号が何かを諦めたのだけは、確かに感じ取れた。
何も言わず。何も感じず。片手に握られた斧が振り下ろされる。それ以上考えるのを辞めたから。
トマホークの刃が胴の奥。人間で言えば背骨まで達したような手応えを感じると、慈恵号は一際大きく身体を痙攣させた。
だが、すぐさま痙攣が止むと。慈恵号が残った右腕を動かして、地面へ向けて空気砲を撃った。こちらはその衝撃をグッと耐えるが。慈恵号の方は反動で跳び、身体ごと通路脇に並ぶ柱の一本へ叩きつけられる。
そして震える右腕と両足を抑え、もはや背筋を伸ばす事も出来ない胴を歪に曲げ、まるでゾンビのように立ち上がった。
先ほど滅多打ちにしたばかりなので全身から人工筋肉が見え。タンパク燃料が滴り。砕けたり割れた装甲の隙間からはケーブルやセンサの破片が垂れさがって、火花と何かのランプが見え隠れするという異様さだ。
右腕だって先ほど手首からもげたため、もはや鞭を振る事すらできない。
それでもなお立ち上がり。震える身体を必死に抑えて構える姿には、機械の巨人のはずなのに、一種の憐みすら感じられる。
『各部の独立性ってやつか……』
舞踏号もゆっくりと立ち上がり。半壊してよろよろした慈恵号を警戒しつつも、鞭を抑えていた剣を引き抜いた。
右手に長剣。左手にトマホークを構え直し。ゆっくりと慈恵号に近づく。
『何がそこまで、お前をそうさせるんだ?』
単純な疑問だ。
ホワイトポートから今まで。じっと見られているような感覚があったのは、恐らくは慈恵号が俺か舞踏号を追跡していたからだろう。
恐らく。慈恵号は首を取られて街から逃げ出した後、どこかから遺跡に潜った。そしてずっと地の底を蠢きながら、機会を窺っていた。
エミージャに命令されたからではない。満身創痍でなお立ち上がる慈恵号には、機体を構成する”彼ら”の微かでも確かな自我を感じる。
しかし当然。喋る口はおろか頭など付いていない慈恵号は何も答えず、手首から先の無い腕をグッと構えるのみ。
羨ましい。何故自分達は違う。どうしてお前が。
そんな怨念と羨望の視線が、全身のセンサから発せられているのだ。
俺があの旅人に向けられていたように。舞踏号へ向けて。
『……分からない。けど、分かるような……』
何かを身体が感じ取り。俺はそのままを小さく呟いた。
同時に舞踏号が俺に語り掛け。その意思を汲んで、両手の剣斧に力が入る。
何も言わずに大きく踏み込む。慈恵号が抵抗に伸ばした腕をスッと避け、回避の際に長剣で肘から叩き切った。続けて身を捩じり、トマホークを横に一閃。もうぼろぼろの胴に直撃させ、慈恵号がぐらりと揺れる。
更に力を籠め、長剣で右足を腿から断ち切った。倒れ伏した所で左ひざにトマホークを打ち付け、刃で抉って膝から下を千切り取る。
それでもなお。頭を失い、四肢を失い、もはや虫のように蠢くだけになってなお。慈恵号は起き上がろうとした。ただそれが、彼らに与えられた命だから。
舞踏号が右手の長剣を逆手に持ち替え、未だ蠢く慈恵号の胴を踏み抑える。そして剣をグッと掲げて、排気機構の口を開いた。
『”何故悩む者に光を賜い、心の苦しむ者に命を賜わったのか――”』
ふつふつと悲哀がこみ上げるような、弱々しい声を舞踏号が呟く。
『”――私は安らかでなく、また穏やかでない。私は休みを得ない、ただ悩みのみが来る”』
そう続け終わるや否や。逆手に握った長剣を突き下ろした。
剣で胴を貫かれ、床に縫い付けられるようになった慈恵号が暴れるのをグッと抑え。舞踏号は四肢を失った巨人の命が尽きるまで動かなかった。
まるで何かを懺悔するように、深く俯いたまま。
しばらくの後。
遺跡の中に一台の装甲車が入って来た。8輪の装甲車に戦車砲を乗せた、セブーレさんの愛車である。
スロープをゆっくりと下り切ったところで一度停止し。その小さなハッチが開かれた。
中から押し合いへし合い出て来たのは、セブーレさんとシルベーヌの2人だ。装甲車の後ろに張り付いていたのか、ミルファも追加腕でライフルを握ったまま飛び降りた。
「ブラン! 大丈夫!?」
「おぉい仮隊長! 全然音沙汰ねえから心配で見に来たぞ!」
ハッチの2人が叫ぶ横をミルファが小走りで駆け抜け。首を無くし四肢を千切られて息絶えた巨人と、若干俯いたままの巨人の足元に近づいた。
そしてまるで獣に食い散らかされたような、惨い状態の慈恵号を見て静かに言う。
「舞踏号の勝利のようですね」
『ああ、一応は……』
力なく答え、左手のトマホークを腰に納めると。慈恵号を床に縫い留めている剣を引き抜いた。
タンパク燃料や機械油が血のように漏れ、辺りにゆっくり広がっていく。思わず目を背けたくなるが、舞踏号の光る左目は、決して視線を逸らさずにその遺骸を見つめた。
「……何かありましたね。なんとなく、舞踏号が悲しんでいる感じがします」
『……ミルファも分かる?』
「少しだけ。私の身体も機械ですから、多少なりとも舞踏号に近いからかもしれません」
ミルファはそう言うと、ちらりとぼろぼろの慈恵号を見て目を閉じた。
しかしすぐに目を開くと、呆然と立つ舞踏号の肩に上がって来ながら告げる。
「敵機は完全に沈黙しました。この場と外は、もう安全のはずです。あとはこの奥をもう少しだけ調査しましょう。まだ仕事は終わっていません」
『そうだな……了解だ』
その通りだ。まだ俺と舞踏号にはやるべき事がある。足元に居る”彼ら”の屍と無念を乗り越えて、先に進まねばならないのだ。
深呼吸を一度。全身のダクトから白い息を吐くと、すぐ側に装甲車が近寄って来た。
そのハッチに腰かけたシルベーヌが、手元の機材を叩きながら優しく微笑む。
「舞踏号もブランも、後でゆっくり休むのよ? 大丈夫。私達が居るんですもの。それに働いた後のパイロットと機体には、休養が大事なんだから。さて、それまではお仕事!」
パッと明るく言い切って、装甲車の上に仁王立ちになった。
「この遺跡は、ホワイトポートの地下にあったものとほぼ同一と言って良いわよ。構造的にはまだ分からない事が多いけど、この先に海水が流れてるのは確かみたいね」
「んじゃ、このまま進むか。先導頼むぞ仮隊長」
セブーレさんがパッと決め、装甲車の中に居る運転手に指示を出した。
ゆっくり進み始める装甲車の横を、舞踏号が足早に歩きだす。長剣を背に背負い直し、奪われて転がされていた機関砲を拾い直した。
幸い、多少外装に傷が付いた程度で済んだようだ。テショーヤさんが丹精込めて頑丈に作ってくれたおかげだろう。機関砲を抱え直し、また歩く。
地下通路の最奥。そこにあるの半開きの扉。近づいて見れば、分厚い合金製の隔壁らしい。半開きになっている奥は、4車線の道路程の通路に、海水混じりの濁流が流れているのが見える。
その通路は一段低くなっていて、人間ならば胸まで浸かる程の水量が流れていた。もはや用水路と言って良い様子だろう。瓦礫や石や、時折何かの死骸らしいものが流れてきたりもしている。
そして隔壁を出てすぐの直上には照明があるものの、用水路の先は照明が落ちていて真っ暗である。先に目を凝らしても何も見えず。空気も籠っている感じがした。
「うわァ……こりゃマジか」
隔壁の前で止まった装甲車からセブーレさんが飛び降り、奥を覗く舞踏号の足元に駆け寄る。その後ろを簡単な観測機器を担いだシルベーヌが続き。ミルファも肩から飛び降りて2人に近寄って、周りを警戒する。
「実際見ると、お前らの言ってたホワイトポートの下もなんとなく予想が付くな」
「セブーレさんは、こういう遺跡に何回か?」
「まあな。つっても、アタシは基本的に生体兵器狩りとか護衛が大半だ。遺跡に潜るのは、協会が生体兵器が多いから始末して来いって仕事で行く位だな」
シルベーヌと会話しつつも、セブーレさんはテキパキとした様子でシルベーヌの遺跡観測を手伝っている。
その所作からは、探索者としての経験が滲み出ていた。
「まあ、ここまでデカイ通路とかは初めてだ。大体はもうちょい小さめの旧軍施設とか、崩れて迷路みたいになったシェルターとかだな」
「この島はそういうの多いですからね……っと。これで大まかな部分の観測はいいかな」
「うっし、それじゃあ一旦撤収だ。ここをどうするかは本部で相談だな。まあ水量と勢いからして、中型の生体兵器位なら通れそうな感じだし。ここを封鎖か崩しちまうのが一番手っ取り早そうだが」
「かもしれませんね。奥に何かあるにしろ、この水じゃあ車は降りれないし、わざわざボートを持って来るにも手間が掛かりそう」
セブーレさんとシルベーヌは作業を終えると、素早く片付けをして装甲車に戻って行く。
目に見える危険も気配も無いものの。2人の背を守りつつ、ミルファが舞踏号を見上げた。
「私は扉の制御盤を探します。ブランは警戒を」
『了解だ』
淡々とした事務的な返事の後。ミルファはすぐに制御盤を見つけ出す。
一応電源は生きているとの事なので操作してみると、錆と埃をまき散らしながら隔壁が動き。重々しい音を立てて、通路と奥の用水路を隔絶させた。
『これでとりあえずは?』
「恐らく平気でしょう。しかしこの遺跡に関して対応が決まるまでは油断出来ません。本部との連絡は……」
ミルファがそう言い、耳元の無線に手をやった。舞踏号でも無線に耳を澄ましてみるが、どうもノイズが濃くて使い物にならない。
断片的に探索者達の声は聞こえるのだが、とても連絡には役立ちそうにない。
「アタシ達人間の弱点だよなあ。無線一つ使えないだけで、結構混乱しちまう」
セブーレさんも耳元をトントン叩きつつ苦笑いし、装甲車に飛び乗った。
シルベーヌとミルファも装甲車に乗ったのを確認すると、ゆっくり安全運転で装甲車が動き出す。
力強いエンジン音が鳴り響き、太いタイヤが遺跡の床をしっかりと踏みしめる音も鳴る。更に隣では舞踏号の足音が響くので、かなりうるさい状態だ。
「戦車だってそうさ。中にいるとうるせえのなんの。アタシは嫌いじゃないけど、いざ周りと連携を取るってなると不便すぎる」
「この駆動音では、戦闘中は大声を上げないといけませんね。車内ですら会話は難しそうです」
「ま。だからこそ無線とかあんだが、ジャマーの霧にやられるとどうしようもないや。他の車両との連携が大事なのに、でっけえ声で叫ぶか手旗信号でも降るか。光で合図するか位しないといけなくなっちまう」
装甲車の上に乗ったセブーレさんが自虐するように言って、舞踏号を見上げた。
「そういう意味じゃ。ジャマーで連絡付かない時の人型は、分かりやすい目標になって良いのかもな」
「でしょ! もっと舞踏号を褒めて良いのよ!」
「活躍が分かりやすいのは良い事ですしね」
セブーレさんにシルベーヌとミルファが言って、3人はくすくすと笑う。
しかしふと3人は顔を見合わせ、その視線が通路で倒れる慈恵号に向いた。
「なあ仮隊長。こいつは何だったんだ」
『……詳しくは分からないけど、どうも舞踏号は少しだけ知ってる……ような感じがした』
「あァ? 急に訳分かんねえ事言うな?」
『ええ。俺も分からないんです。でも最近、そういうのが多くなってて』
「……ちょっと気合入れ過ぎたんだろ。早く戻って休め。バラバラになったこいつは、こっちで回収したりするからよ」
セブーレさんはそう言うと運転手に声を掛け。装甲車がグッと加速して、遺跡の外に向かうスロープを上がっていく。
舞踏号は一度振り向き、完全に沈黙して血だまりに沈む巨人の遺骸を見た後。遺跡の外に歩き出した。
遺跡の外に出れば、無線に掛かっていたノイズが少し晴れた。
続いて事後処理の連絡や怪我人について、それに周囲の警戒に関する無線が聞こえだし、人の息吹を感じられる。
そして遺跡から出て来た舞踏号に気付いた探索者達が、歓声を上げて迎えてくれた。
暗くて分かりづらいが、皆が笑顔で舞踏号を見上げ、好意を抱いてくれているのは確かに伝わって来る。
「ほら仮隊長! 何かガッツポーズでもして見せてやれって!」
先に外に出ていた装甲車。その砲塔に座ったセブーレさんが快活に言い放ち。俺はその通りに、空いた左手を突き上げて、勝ち鬨を上げて見せた。
巨人の勝ち鬨に人々の歓声が続き、拍手が響く。
また1つ。一応の勝利を収めたのだ。大局的にどうなるかは分からないが、探索者達の不安と疑念であった俺への信用と言う部分に関しては、少しだけ払拭出来た気がする。この場に居る探索者達だけ、という具合ではあるが。
「馬鹿みたいだって思うかもしれねえけどさ。アタシ達は勇気のある奴が好きなんだ」
セブーレさんが、舞踏号にだけ聞こえるよう切り替えた無線に呟いた。
「やべえ時に真っ先に飛び込んで、先頭で大暴れしてくれる”勇者様”。そいつが暴れまくって目立ちまくってくれれば、その分だけアタシ達は狙いを付けれるし、安心して銃が撃てる。現金だって思うだろ?」
『まさか! そう思うのは、俺だって分かりますよ』
ホワイトポートの戦いでも見た光景だ。
統制の取れた射撃で生体兵器達を撃てている間は人間が優勢だった。しかし、ふとしたことで接近されたり、数に任せて押し込まれる。あるいは人間のまとまりが無くなった途端に、生体兵器の波に飲まれて殺される。
この歪んだ世界で見受けられる、化け物と人間の戦いの最たるものだ。
「弾避けにするって訳じゃないけどさ。まあ、正直……いや。少なくともアタシと知り合い達の理想はそういう奴だった。ところが仮隊長だって紹介された奴はボコボコのぽややん。しかも人型なんて妙な物のパイロット。何やら知り合いは多いらしいけど、見える仲間は見た事ある探索者2人と、トレーラーに居る四角いの3機。不安ばっかりさ」
『まあ、そう見えますよね……』
「ところがだ」
セブーレさんがくっくっと笑い。装甲車の上に胡坐を掻いた。
「こっちがヤベえって分かるや否や飛び出してきて、剣1本で化け物に斬り込んでいくと来た。戦争で色々歪んでるって言っても、今時そんな奴いねえぞ? しかも無線が使いにくいならって勢いで大声で指示出して、やたら機敏に走り回る。何だか分かんねえうちにお前の声で身体が動くし、訳分かんねえ」
そこで一旦言葉を区切り。この探索者は舞踏号を見上げて微笑んだ。
「訳分かんねえのに。アタシの求めてた”勇者様”なんだな、これが」
『何というか……恥ずかしいですね……』
勇者だなんて単語に、俺は思わず舞踏号の頭の角に手をやってしまう。
しかしセブーレさんの方こそハッとし、その三白眼と太い眉をしたきつめの顔立ちが、みるみるうちに赤くなって立ち上がる。
「うわァ、恥ずかしい事言ったなアタシ……!? 何だよお前! ホント訳わかんねえ!」
「そこはブランの変なとこよね。大丈夫よ、私もそういう感じになった事あるし」
「はい。何だか話しやすい雰囲気によるものかもしれません」
顔を真っ赤にしたセブーレさんを見て、近くに座るシルベーヌとミルファがニヤリとした。
それを気恥ずかしそうにギッと三白眼で睨みつけると、すぐさま舞踏号の方にキツイ視線を戻して叫ぶ。
「つってもよ! まだイイとこが1個か2個見つかったくらいだかんな! 情けねえ真似したら後ろから戦車砲でぶち抜くぞ!? いいな隊長!!」
『は、はい! 了解であります!』
思わず機関砲で敬礼をしてしまうと、周りの探索者から笑いが起こった。
とにもかくにも。少なからず探索者達と近づけた気がする。分からない事は数多いが、それだけでも十分な収穫だ。
そう思っていると、農場の方から車のライトが見え始める。きっと照明弾などを見て駆けつけてくれた援軍だ。
俺が率先して手を振ると、他の探索者達も手を振り出す。
何度か感じた事のある、1つの事を沢山の人間で乗り越えた満足感が、この場には満ちていた。




