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第125話 黒い影

「よーう。戻ったぞ仮隊長」


 丁度日が落ちた頃。

 本部として借りている農場の納屋の中に、セブーレさんが入って来た。片手には殴り書きされたメモや書類。もう片方の手には、肩に掛けたライフルのベルトが触れている。

 納屋の中には机や椅子がいくつもあり。机の上には周辺の地図や諸々の情報をまとめた書類が広げられ、無線機や弾薬の箱なども置かれていた。

 一応扉で雪の積もる野外と隔たれており、内部はストーブなどが置かれているものの。半分野外で半分屋内のようなものだ。中々に冷える。


 俺とシルベーヌとミルファの3人は、この納屋の中で机に置かれた地図などを見ており。ナビチさんも机に着いて色々な書き物や、周辺への連絡を細かに行っていた。

 目的はもちろん。『この農場近辺に、生体兵器モンスターが湧き出てくるような何かが存在するか?』を調べるためである。

 俺達の曖昧な気付きを元に、ナビチさんが巧く探索者シーカー達を動かしてくれたのだ。


「列車の事を思い出せば、お前らの勘が怪しくても気になるしな」


 そう笑っていたものの、これには本当に感謝しかない。頭が下がるばかりであった。


 そんな事情のあった納屋の中。

 セブーレさんが俺達の居る机に近づき、殴り書きのあるメモを広げ、内容を机の上の地図に清書しながら言う。


「仮隊長とナビチさんに言われた通り。農場の地下の補修箇所や、経年劣化で隠しようが無い亀裂なんかを調べて来た。しゃがみっぱなしだったから腰が痛いのなんの」


 笑いつつも手を止めず、セブーレさんが言葉を続ける。


「結果だけ言うと。噂の唸り声が聞こえる場所は、大体が随分前に補修された場所の周りだ。補修箇所は農場主の方から工事の記録を貰ったから、探すのは簡単だった。まあ問題はそっからで」

「それ以上の詳細が掴めませんでしたか?」

「アタシ達だって探索者シーカーだぞ仮隊長? 今回は協会から、地下構造を多少は調査する機材も借りてるんだ。補修箇所全部を調べるにはまだ遠いが、それでも分かった事はいくらか」


 セブーレさんが地図から自慢気に顔を上げ、俺達の方に差し出した。農場地下の地図である。

 マーキングと注釈の書かれた箇所は、地図の上側――北の方角に多くあった。


「唸り声が聞こえる補修箇所は、今のとこ農場地下の北側に集中してる。この地図見るに、地上の足跡なんかも多少は見つかってるみたいだな」

「はい。各班の地道な調査のお陰です」

「なら件の生体兵器モンスター達の湧いて来る場所ってのは、農場の北側のどっかにあると思うだろう――普通はな」


 ミルファの返事にセブーレさんは返し、一度息を整える。


「お前らも知ってると思うが、どうも最近は生体兵器モンスター達の様子がおかしい。今までは動物並みの動きだったのに、まるで誰かに指揮されてるみたいに統制の取れた動きをしてくる事が多くなってる」

「ホワイトポートの襲撃なんか、最たる例よね」

「だな。そこで浮かび上がるのが、進路の偽装ってやつだ。まあナビチさんの受け売りなんだけど」


 セブーレさんがシルベーヌの頷きに苦笑いして返し、次いで近くの机に着いて書き物をしているナビチさんをちらりと見た。

 彼の傍には煙草の吸殻が山盛りになった灰皿と、飲みかけのコーヒーが入ったカップが置いてある。


「この農場の北は、大まかに言えばメイズ島西部の森林地帯だ。身を隠すにはぴったりだろうし、調査だって完全じゃない。でもな、アタシは森に行った事あるんだ。あっちに居る生体兵器モンスターは、たまに探索者シーカーでも騎士団でもない奴に撃ち殺されたりしてる。生体兵器モンスターが逃げ込むのはあんまり考えられねえよ」

「……どういう事です?」


 俺が首をひねって聞きかえすと、セブーレさんは真剣な顔になった。


「あの森には、絶対に何か居る。ある程度奥に進むと無線にはノイズが増えて使い物にならなくなるし、コンパスなんかも狂っちまう。運良く森の外に向かえれば万々歳だけど、奥に進めば”何か”に撃ち殺される。アタシは森の浅い所しか行ってなかったから遭遇してないが、装甲車だろうが戦車だろうがぶち抜かれるって話だ」


 噂を実体験で補完したその言葉は、真剣な表情も相まって、俺の背筋に冷たいものを走らせる迫力があった。

 しかしその話を聞いたミルファが、口元に手をやって首を傾げる。


「ブラン。ウーアシュプルング家の御屋敷の、図書室での事を覚えていますか。地下遺跡に関して、情報収集をしていた際です」

「……ああ、あの。地下遺跡を通って、街のマンホールから出た後の?」

「そうです。『長い耳をした射手が森を守っている』という噂などがあったはずです。それらの噂の大元……と言いますか。噂が流れる原因でしょうか」


 言われてみれば、記憶がじわじわと蘇って来るものだ。ガナッシュさんがくれた資料に、確かにそう言う話があった。

 その話を聞いたセブーレさんも腕を組んで少し悩み、シルベーヌも腰に手を当てて聞く。


「第三勢力……って言うには、まだちょっと確証が足りないわね。でも、セブーレさんの話を聞くに、北側に生体兵器モンスターが湧く遺跡がある可能性は少ないんでしょうね。となると、他の方角と情報ももう1回洗い直しかしら」

「そういうのはアタシは不得意だからお前らに任せる。……でも、深くは考えてなかったけど、探索者シーカーじゃない外部の調べでそういう噂が出るってのはよっぽどだな。耳長ねえ……おっ。丁度別の班の連絡が来たみたいだぞ」


 セブーレさんが弾んだ声を出し、俺達全員も地図から顔を上げた。

 納屋に入って来たのは、南部班の班長をしている探索者シーカーだ。寒そうに身体をさすりつつも俺達の傍に来て、簡潔な報告をしつつ資料を手渡してくれた。

 結果を大まかに言うと”大当たり”である。


「雪が積もってて足跡を探すのに手間取ったが、雪さえどければ案外楽なもんだ。中型の生体兵器モンスターの足跡がずっと続いててな。辿った先にはちょっとした小山。その麓にデカい扉が見つかった。遺跡の入口で間違いない」


 探索者シーカーが詳細を話しつつ、地図の上にその情報を書き込んでいく。

 その小山と扉があるというのは、農場南側の、割と距離がある地点だ。大き目の地図と照らし合わせてみると、例え探索者シーカー達であっても用が無ければ近寄る理由も無さそうな場所であり。方角と周りの地形的にも、目に付きにくい地点のようだった。


 南部班の班長は、一仕事終えた顔で胸を張って言う。


「まだ遠目にしか確認してないが、扉自体は元々小山に埋まってたみたいだ。無理矢理土と雪を押し退けて、内側から開いた様子だった。ここ最近開かれたのは間違いない」

「確実ですね……ありがとうございます!」

「仮隊長が礼を言う事じゃないさ。それに、こっからが本番だぞ仮隊長。あと、こっちの班員がまだ扉を監視してる。交代する奴とかを用意して欲しいんだが――」

「はい! もちろんです! ナビチさん!」


 その通りだ。まだまだこれからが本番で間違いないのである。

 俺は少し離れた場所で書き物をしていたナビチさんに声を掛け、諸々の手配と今後の相談を始めた。

 シルベーヌとミルファも、舞踏号の支度やテトラ達に指示に出したり、機関銃や追加腕サブアームの支度をすぐさま始める。

 もちろん。話を聞いていたセブーレさんもだ。意気揚々とした様子で胸の前で拳を手に叩きつけ、嬉しそうであった。


「やっと部隊らしくなって来たな! ドンパチするならアタシの愛車の出番だ!」

「セブーレさんの愛車?」

「おうよシルベーヌ! 特別製の装甲車! まあ見てなって!」


 言うや否や颯爽とナビチさんに詰め寄って、自分と仲間達を遺跡調査の編成に組み込むように言いだした。

 当のナビチさんは顎髭をガリガリと掻き、セブーレさんの希望などを込みにして、部隊全体が上手く動くように図らってくれている。頭が下がるばかりだ。




 さて。もう日が落ちた郊外は、当然明かりなど全くない暗闇である。

 そんな暗闇の雪原を、1本角の巨人を先頭に、装甲車が列をなして進んでいく。

 

 先頭を行く舞踏号とほぼ並走しているのは、セブーレさんの乗る装甲車である。

 8輪の頑丈な装甲車で、上には105㎜戦車砲を載せてあるという逸品だ。戦車よりも装甲は薄く、キャタピラでは無いから悪路には弱い部分もあるが。軽快な機動性と自走して長距離を移動できる事と、部品や燃料が戦車に比べて少なく安価という利点があるのだという。

 重厚で頑強な戦車よりも探索者シーカー向きの、軽快で身軽な”装輪戦車”。あるいは機動砲だとセブーレさんは自慢げに言ったものだ。


 事実。セブーレさんの装輪戦車と似た作りの車両は多い。

 装甲車の上に戦車砲が載っているのが他に数台。機関銃座を付けてあるものや、完全に装甲輸送車となっているもの。あるいは上部にレーダーやカメラ、赤外線暗視装置、光学観測機器を盛りに盛った偵察用など。バリエーションは数多い。


 何より。こうしてかなりの武装をした味方が沢山いると言うのは、不思議な程に頼もしい。


『なんだろう。凄い心強い』

「あァ? 何言ってんだよ仮隊長」


 舞踏号を走らせつつ、何故だか高揚する俺が無線に言うと。セブーレさんの返事を筆頭に、多くの笑い声が返って来た。


「アタシ達は皆、探索者シーカー協会副会長から直接声が掛かった精鋭だぞ?  こっちからしたら、むしろその人型戦車ネフィリムの方が何か変な感じする」

『そうですか? 舞踏号は頼りになりますよ!』

「噂こそ聞いてるし、実際見ると何か”クる”ものがあるけどさ。アタシからしたらやっぱり、装甲車とか戦車砲の方が強いって実感あるんだよ」


 言われてみれば、その実感は何となく察せる。

 グリフォンを倒した。竜を追い返した。そういった噂が流れていると言えど、やはり2本足に2本腕の巨人という異形の存在には、どこか疑問が付いて来るもので違いない。

 しかも今先頭を走っているのは、機関砲を構え、背に長剣を背負い、腰にトマホークを下げた1本角の巨人である。まるで神話から抜け出して来たような――というのはパイロットの贔屓目であろうが、銃と防弾繊維の時代には、中々に似つかわしくない。


「まあ何だったいいさ。武器とか道具は、使えるかどうかってのが大事だし。それにいざって時こそ、担ぎ上げられてる我らが仮隊長がどういう人間なのかが分かりそうだしさ」


 セブーレさんの声が無線に響き、他の探索者シーカー達も同意の言葉を漏らした。

 これにも同意できる。危ない時にこそ、人間素の自分が曝け出されたりするもので違いない。



 そうやって雪原を歩いていると。いよいよ深夜になった頃に、件の小山の近くに到着した。

 事前に聞いていた通り。小山の麓には、まるで地中から無理矢理に開かれたように土に囲まれた、舞踏号が余裕をもって通れそうなサイズの扉が存在した。

 周りには土や雪が積もっているし、開かれた痕跡もある。だが扉は閉まったままだ。


 扉を監視していた探索者シーカー達にお礼を言った後、彼らは回収されて本部の方まで。それに並行して、偵察用の装備をした装甲車の上で、色々な機械が扉を見つめ続ける。


「どうですか?」


 装甲車の陰で、観測結果を待つシルベーヌがそわそわした様子で探索者シーカーに聞いた。


「駄目だ。電波的な物は全部扉で遮られてる」

「そうですか……。やっぱり直接開くのが一番早いですね……」


 無線越しの声なのでシルベーヌや装甲車の探索者シーカーの動きは見えないが、互いに首を横に振ったのが察せる声色だった。

 舞踏号の目やセンサでも、遺跡の扉の奥は何か見える訳でも無い。


『それじゃあ、扉を開くしかないな。そういう仕事は舞踏号がやりやすいから、装甲車の皆さんは少し距離を取って警戒を。周辺の警戒もお願いします。サイクロプスなんかが居るかもしれないし、何かあればいつでも撃てるように』

「あいよ仮隊長!」


 装甲車のハッチを開けて事のいきさつを見守っていたセブーレさんが大きく返事をして、運転席に居るであろう人に移動を叫んだ。それに続いて他の装甲車達が動き出し、扉を半円状に囲む形で散らばって、ライトが土と雪にまみれた扉を照らし出した。

 舞踏号はしゃがんだまま深呼吸を一度。口元の排気機構がガシャリと動いて白い息を吐き、全身のダクトもまた息を吐いた。


「では、参りましょうか」

『おう!』


 足元に居た、追加腕サブアームにライフル2丁と、手に機関銃を握ったミルファを肩の上に誘い。舞踏号は立ち上がった。

 ゆっくりと遺跡の扉に近づき、開閉装置のようなものが無いかをミルファと探す。扉にはかなりの年季を感じるものの、継ぎ目すらない壁のような物だ。シャッターのような形式なのだろうか。


「ブラン。扉の下部に、スイッチがありそうな箇所が」


 ミルファが言うや否や肩からぴょんと飛び降り、壁の一部を触った。

 すると低く唸るような音がしてから、一枚の素材だと思っていた扉の中央が微かに開き――止まった。


「どしたー! 仮隊長!」


 セブーレさんの少しだけ心配する大声が、無線とセンサに響く。


『扉の開閉機構はあるんですが、どうも劣化してるのか途中で止まって。こじ開けます』

「了解! 気を付けろよ!」


 舞踏号はずっと握っていた機関砲をいそいそと地面に置くと、背に斜めに背負っていた分厚い長剣を抜いた。片手でくるりと剣を回して両手で握り直し、扉の中央の微かに開いている所に狙いを付ける。


『むんっ!!』


 気合を入れて切っ先をねじ込むと、オレンジ色の火花が散った。

 人工筋肉の膂力に任せて更に剣先をねじ込み、ある程度めり込んだところで、剣をてこのようにして思い切り力を込める。

 鈍く低い金属音と共に。ゆっくり、ゆっくりと扉が開かれていく。


「はー……パワーはすげえな……」


 誰かは分からない感嘆の声が無線に聞こえるが、それに構わずグリグリと扉を開き続ける。中が覗き込める程に開いたところで剣を使うのをやめ。両手と足に切り替えた。

 それから身体が入る程に開ければ、後はもう楽なものだ。扉の隙間に半身になって入り、全身の人工筋肉をフルに使って、扉を蹴るようにこじ開ける。


 大きく開かれた扉の奥に、冷たい空気が一気に流れ込んだ。


『奥は……どうだ?』


 何か飛び出てくるわけでも、何か吹き出て来る訳でも無い。少しだけ安心するが、扉の奥はすぐにスロープのようになっていて、地下へ地下へと伸びている。

 ゆっくりと装甲車が近づいてくる中。ミルファが追加腕サブアームで握ったライフルのライトを点け、軽く入口周りを探索した。そしてすぐに、床面に色々な足跡が残されているのに気付く。


「形状からして、小型と中型の生体兵器モンスター達の足跡ですね。出入りした形跡があります」

『奥に何かいるのは確実か』


 俺も剣を背負い直し、機関砲を拾い上げて扉に近づき直した――ところで。真上からばさりと雪の固まりが落ちて来て、舞踏号の1本角と頭に当たった。

 痛くも何とも無いけれど、何だか水を差されたような気分でつい上を見てしまう。

 そんな舞踏号を、真剣な表情をしていたミルファが見上げ、くすくすと笑う。


「頭上注意ですね。角があるのですから、天井に引っかけたりしないようにして下さい」

『了解っ。それじゃあ中に進もうか。部隊の皆さんは少し、外で待ってて下さい』


 再びミルファを肩に乗せ。舞踏号が振り返って言った。

 その言葉に、セブーレさんが装甲車のハッチから身を乗り出して返す。


「なんだ仮隊長。安全確認とかに人手は要らねえのか?」

『とりあえずは、俺と舞踏号とミルファで十分です。俺はこの通り2本足で2本腕で、何かあっても短距離走なら車輪より機敏ですし、腕で障害物を除けれたりします。装甲車の皆さんが入ってくるのは、それからで』

「連絡は逐次、私が行います。遺跡の丈夫さなども、舞踏号の重量と歩く振動に耐えれるのであれば十分でしょう。シルベーヌ。いつも通りマッピングもお願いしますね」

「了解よ! 地図データに関しては、皆さんの手元に随時送るようになってるから! それと、こっちでホワイトポートの地下と照らし合わせて、似た物かどうかも確認するわ。他にも――」


 偵察車両に乗せてもらっているシルベーヌが、細かい部分を補足して、周りと対応を手際よく決めていく。

 いつも通りの役割分担と仕事に、他の探索者シーカー達の手を借してもらう形だ。戦力があるので、仮に大群が湧き出して来ても、この扉部分で殲滅できるだろう。また、事故などがあってもすぐに救援が手配されるのは安心だ。

 何より。身体を動かしていると、色々な決定に躊躇いが無くなって良い。若干独善的な気もするが。


『それじゃあ行ってきます!』


 段取りが済んだ後。装甲車のライトで照らされながら、舞踏号は片手を上げた。

 そして踵を返し。薄暗い地下に向かって進んでいく。

 ほとんど照明の無いスロープを下り切ると、少し進んだところにまた扉があった。入口の扉と同様にミルファがスイッチを押すと、今度は鈍い音を立てながらも、ゆっくりと扉が開ききった。


 奥は天井に、仄かなオレンジ色の照明が点いている大きな通路だった。

 道幅は舞踏号が10体は並んで歩けるほどだが、壁際には太い柱が立ち並ぶ、神殿のような通路である。そして通路は長く。最奥にはまた大きな扉があり、そこは半開きのようになっている。

 その扉の奥からは、水流の音と微かな潮の香りをセンサに感じとった。


『大当たりか……』

「恐らくは」


 肩に乗せたミルファと会話して、警戒しつつも通路を奥へと進んでいく。

 そして通路の中程まで来た時――脳髄にビリっとした感覚が駆け抜けた。



 敵機! 右前方20m!



 舞踏号がコクピットの俺に叫び。同時に身体が自然と構えを取って、腰だめに機関砲の引き金を引いた。

 轟音と砲声。マズルフラッシュ。

 壁際の太い柱が1本、機関砲弾で崩壊するのと同時に、黒く汚れた影が躍り出た。


 影はそのまま身を捩じり、左腕を伸ばして舞踏号に拳を向けた。

 考えるよりも早く。記憶と記録メモリが腰を低く構えさせ。すぐさま巨大な破裂音と共に、見えない拳に殴り付けられるような衝撃が全身を襲った。


 足先の爪が床に食い込み、よろけはするものの衝撃に耐える。

 すぐさま影へ向けて機関砲を向け直し、引き金を引く――よりも早く。影が右手を唸らせ、しなる細長い影が機関砲に巻き付いた。握っていたままでは手指と関節をごと捩じられると直感し、素早く機関砲から手を離す。

 直感通り。細長い影が機関砲を締め上げ、舞踏号の手から砲を奪い取った。

 機関砲はきりもみしながら通路の奥へ弾き飛ばされ。舞踏号は背の長剣と腰のトマホークを抜き放ちつつバックステップ。通路脇の柱の陰へ飛び込んだ。


「ブラン! 今のは!」

生体兵器モンスターじゃない!』


 肩にしがみついていたミルファが顔を上げて聞き。柱を背にする舞踏号が、口から白い息を鋭く吐いた。

 先ほどの一瞬の間にセンサが得た情報が統合され。舞踏号がそれらから判断した、見覚えのある機影を脳裏によぎらせる。


『”所属不明詳細不明の無人機!” 形状が少し違うが、慈恵号だ!』


 通路の奥。柱の陰で、首の無い巨人がゆらりと蠢いた。

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