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第122話 〃

「一応聞いときたいんだが」


 ナビチさんが、いささか年季の入り過ぎている車を運転しつつ。一緒に乗っている俺達に聞く。

 助手席には俺。後ろにはシルベーヌとミルファという席順だ。


「あのザクビーって騎士団員は、どこまで信用出来るんだ。いや、それなりに親しそうだったから、気分を悪くしたらすまねえけどよ」

「えっとですね。ザクビー中尉は今、俺達がホワイトポートに行く前までの殆どの事を知っていると考えてもらって良いです。信頼できる方ですよ」

「お前らがホワイトポートに行く前って言うと……」


 俺が答え。ナビチさんが記憶を辿りつつ、ハンドルを切った。

 舗装はされておらず、信号や車線すらも無い道路を器用に走りながらも、思考は全く別の方向へと向けられている。慣れていないと中々できない事で間違いない。

 そして角を曲がり切った後。ナビチさんはアクセルを踏みつつ合点がいった様子だ。


「ああ。バックドロップの所までか。しかしまあ、そこまで言うなら安心だな」

「そうなるのかな。オッサンとも細かい話をしたいんだけど、先に探索者シーカー協会の事を終わらせないといけないし。向こうも忙しそう」

「もちろんだ。ウメノのジジイがお前らに会いたがってるのは、ただの連絡が理由だけじゃねえしな」


 ナビチさんがバックミラーでシルベーヌを一瞬だけ見て言い。再びハンドルを切る。


「ラミータ中尉も言ってたが、お前らも組織勤めの一員なんだ。これからは受けるか受けないかを自由意思で決めれる任務とかだけじゃなくて、無理矢理働いてもらう事も多くなるだろうよ」

「はい。私も理解はしています」


 ミルファが答えてたおやかに微笑むと、ナビチさんがハンドルを片手で握って髭を掻いた。


「忙しくなるから、せめてもの情けとしての列車移動で休暇のはずがよ……。あの夜だって、どうせ何にもねえだろうと思ってたんだがな」

「えっ。信用してくれた訳じゃ?」

「血気迫る何かを感じたのは確かだが。まあ何かある訳ねえと普通は思うだろ? むしろ妙な事を言うお前に『わざわざ周りの人間を動かしても何も無かった』って失敗の経験をしてもらおうと思ってた……はずがよ……」


 歩行者が前を横断し始めたのでナビチさんは車を止め。ちらりと俺の方を見た。


「ありゃなんなんだブラン? こう言っちゃなんだが、カンが良いとか言う話じゃ済まねえぞ? しかも舞踏号が何か言ったとか、魔法にでも掛かってんのか?」

「いやあそう言われましても……」


 事実。そう感じたとしか言えないのだ。

 そんな気がする。そう感じる。そう思う。曖昧な自分の主観という、他人から見れば意味の分からないものを頼りにした以外には表現しようが無い。


「いよいよもって変な奴だよお前は。まあカンでも魔法でも、原理は分かんねえが実利があるなら万々歳だ」


 そう言ってナビチさんは笑うと、ゆっくりとアクセルを踏んだ。



 そして到着した探索者シーカー協会の建物は、相変わらずの雑多具合であった。

 建物の周りには、トラックや装甲車や自転車までが立ち並び。戦車やヘリなども置いてある。装甲の付いた戦闘服バトルドレスを着た人々もそれなりに居て、物騒ではあるが賑やかという、不思議な活気に満ち溢れている。


 俺達も駐車場からいそいそと建物の中に入り、階段を上って小部屋に通された。ナビチさんはちょっとした手荷物も持っている。

 小部屋はソファとテーブル。そしてちょっとした棚があるくらいの、簡単な応接室とでも言った部屋である。窓辺に立てば、カバーを掛けられた舞踏号の座り込んだトレーラーが見えた。

 テトラ達がごそごそしていて、細かな整備を続けてくれているのが分かって何だか嬉しい。また今度、良い機械油でも差し入れしてあげなくては。


 すると。扉が小さくノックされてから、無遠慮に開かれる。

 中に入って来たのはもちろん探索者シーカー協会副会長たる灰色の大猫。ウメノ・カーツ・マッキィその()である。


「うむ。手間をかけたなナビチ」

「良いって事よジジイ。貰うもんはしっかり貰ってるしな」

「本当に助かる。しかしなんじゃ。ブランは男前になっとるのう」


 部屋に居るナビチさん、シルベーヌ、ミルファ、そして俺。その全員をぐるりと見てから、顔が腫れている俺に視線を向けてウメノさんは笑った。


「死んでなければ上々。元気そうで何よりじゃ」

「お陰様で健康です。色々聞きたい事も多いんですけど……」

「じゃろうな。まあ待て。先にわしの話を聞いて欲しい」


 扉が閉められ、机の上にウメノさんがひょいと乗ったのを皮切りに。俺達もソファに座った。

 ウメノさんが息を吸い、髭と尻尾を揺らして息を吸う。


「ナビチから諸々の事は聞いておろう。生体兵器モンスターとの戦いが始まった今、このメイズ島は非常に混沌として来ておる。この街にしてもそうじゃ。保険でしか無かったはずの街を囲む防護壁が、いよいよもって機能し始めたのは見たはず」


 市民権のある人以外は街の中心に入れない。あの検問の事で違いない。


「ホワイトポートと違って、まだ直接生体兵器モンスター達の襲撃を受けていないのが幸いじゃが。それでも目に見えぬ不安は計り知れん。現に、探索者シーカー協会にも護衛や防衛のような仕事はかなり増えておる。特に騎士団が対応しにくい街の外。農場や小さな村落での不安は大きいらしく、そういった場所からの依頼が多い」

「騎士団の防衛力や資金だって無限じゃねえからな。当然、人口密集地の都市以外はある程度切り捨ててるのさ。現実的な判断として、守れる奴と守りにくい奴を区別するのは珍しい事じゃねえ。普段は特段露わになるような事じゃねえが、生体兵器モンスターとの戦争なんて状況で、その歪さが良く分かるようになってる」


 ソファにだらりと腰かけたナビチさんが補足して、手をひらひらさせた。

 ウメノさんも小さく頷き、ぐっと前足を伸ばす。


「もちろん。わしら探索者シーカーはそれらを見捨てるなどせん。元より、騎士団の手が届かぬ範囲の防衛や調査などを行うのが探索者シーカー協会の仕事の大半じゃしな。個人差はあるが、小集団での戦闘や護衛などは探索者シーカーの得意分野と言って良かろう。しかしな――」


 まさしく猫背であったウメノさんの背が伸び。振られていた尻尾がピタリと止まった。


「しかし。生体兵器モンスター達が組織立って行動し始めた以上、それに対抗するために、こちらにも同様に組織立った戦力が必要になる。探索者シーカー達で、ある程度まとまりのある戦闘集団。”探索者シーカー部隊”がな」

「”探索者シーカー部隊”?」


 その単語に。俺とシルベーヌとミルファの声が被った。


「今言ったように。探索者シーカー達だけで構成される戦闘集団じゃよ。騎士団の要請を受けて編成される義勇兵達。民兵の独立部隊、遊撃隊とかだと考えてもらっていい。一応は騎士団の命令に従う下部組織となるな。その探索者シーカー部隊の隊長を、お主らに任せたい」

「そりゃあまた……」

「大仕事と言いますか……」

「結構重要な事をさらっと言いますね……」


 ウメノさんの説明に対し、まずシルベーヌが唖然とし、ミルファが頬に手をやって心配げな顔になり、俺は猫背になる。

 そんな俺達を見て、ウメノさんは尻尾を振った。


「まあ不安じゃろうな。当然わしらも補助はするが、これはかなり大仕事じゃぞ」

「名実ともに探索者シーカーの旗印になる訳だからな。ただの子供じゃいられねえ」


 だらりとしていたナビチさんが、持って来ていた手荷物を漁り。真新しいファイルを取り出して机に広げる。

 顔写真のある名簿や、各々の所有する装備。あるいは協力をしてくれる商店や組織の名前など、見ているだけでも中々厄介そうな代物ばかりだ。


「とは言っても、前みたいに細かい部分はオレやジジイなんかがやる。人員の目星も付いてるしな」

「総勢約1200名。その全員と顔を合わせろとは言わんが、まあ何十人かとは合って話もしてもらわねばならん。話を既に付けていて、理由はどうあれ喜んで協力してくれる者も多いが――」


 ナビチさんに続いてウメノさんが話している最中。俺の身体は誰かの足音を捉え、無意識に警戒させた。

 大股で、かなり荒々しい足取りだ。力強さのあるその歩幅と歩き方は、かなり男らしい。

 俺の視線がその足音を追うように動いたのをミルファが気付き、小首を傾げて問いかける。


「どうしましたブラン?」

「いや。何か男らしい足音がした気が」

「また妙な事言ってるなお前」


 ナビチさんが呆れたような顔をしたが、すぐにハッとした様子で顔をしかめ。名簿を一瞬見てからウメノさんに視線をやった。


「喜んで協力してくれる奴もいるが――」

「当然。そうではない者もおるな」


 ウメノさんが顔を洗って大きく欠伸をした――次の瞬間。部屋の扉がしなやかな足に蹴り飛ばされ、大きな音を立てて開いた。

 頭を抱えるナビチさんと、若干めんどくさそうに後ろ足で首を掻くウメノさんを除いて。俺やシルベーヌやミルファは驚いて身構える。


「何コソコソしてんだジーサン! 隠し事は無しだって言っただろ!」


 高めのよく通る声で叫んだのは、今しがた扉を蹴り飛ばした人物である。


 あまり手入れのされていない黒髪を短く切った、化粧っ気の無い女性だ。太い眉と三白眼が印象的な、俺達と同じくらいの年頃の方である。三白眼のせいで目付きが悪く見えるが、顔立ちは綺麗であり、間違いなく美人であろう。

 だが、右頬に長方形の白い医療用パッチが張られているのと。履き込んだ太いズボンに、袖がよれよれで厚手の長袖という出で立ちが、どこか粗雑な雰囲気を醸し出していた。


「順番がいくらか飛んだが……まあ紹介しよう。こやつはセブーレ。探索者シーカー部隊の一員になる予定の1人じゃな」

「あァ……?」


 ウメノさんがセブーレと呼んだ女性の方を向いて言うと、彼女はその三白眼でギロリとこちらを見る。

 ガラの悪い演技と言う訳でも無く。単純に機嫌が悪いのがありありと伝わる表情と目付きであり。素早く俺やシルベーヌとミルファを見た眼の動きは、かなり疑り深い感じがした。


 そして今度はナビチさんが、だらりとソファに座ったまま、首だけをセブーレさんに向けて言う。


「セブ。お前もうちょっと静かに出来ねえのか」

「ナビチさん。ついこの前、もう隠し事はしねえって言ったろ。なのにまたすぐアタシ達の身に関わる話をコソコソされたんじゃ、気分も悪くなるだろうが」


 セブーレさんはそう言うと、ズボンのポケットに手を突っ込んみながら歩き。ナビチさんから少し間を空けて、ソファにどっかりと座った。

 俺の真正面に座る形になったので、必然的にセブーレさんの三白眼からの視線が俺に注がれ。何だか居心地が悪い。


「セブーレ。紹介しよう。こっちが不運にも探索者シーカー部隊の隊長になるかもしれん予定の3人でな」


 まさしく俺達とセブーレさんの間に立ったウメノさんの紹介に従い。俺達はそれぞれ名乗って、なるべく友好的に見えるように微笑んだ――の、だが。


「お前ボッコボコじゃん。大丈夫か」

「ちょっと色々ありまして……」


 セブーレさんが怪我だらけの俺に向けて真っ当な感想を言い。俺は未だ腫れぼったい頬を掻きつつ返した。


「別に濁さなくても大丈夫だ。大抵の事はアタシも聞いてる。喋る生体兵器モンスターの事とかな」


 セブーレさんはそう言うと、ジッと睨むように俺を見つめてきた。

 大体の事は聞いているという言葉と、喋る生体兵器モンスターの事を知っているのに少し驚き。三白眼とキツめの目付きが相まって、顔立ちこそ美人なのだけれど、やはり非常に居心地が悪い。

 だが。ナビチさんが助け舟を出してくれた。


「セブはシルベーヌやミルファと同期くらいの探索者シーカーだな。年だって同じくらい。依頼の達成履歴だけ見ても優秀な奴さ」

「だけってなんだよ。アタシは品行方正、清廉潔白、将来有望な若者だろ?」


 厚手のシャツの上からでも分かる胸を指さし、セブーレさんが白い歯を見せてニヤリと笑うが。ナビチさんは髭を掻いてため息を吐く。


「セブ。お前は自分で言うあたりがダメなんだよ」

「どうせ周りからの評価なんてグルグル変わるじゃん。だったら自分で言った方が得だし。何にも知らない奴からしたらそういうもんかって思いこむし」


 セブーレさんはナビチさんにサッパリと言い放った後。再び俺に視線を戻した。

 キツイ目付きがまた俺を品定めするように真っすぐ見据え。少し気まずい思いをしていると、セブーレさんが俺から視線を外し、今度は机の上に座るウメノさんを見た。


「でさあ。こんなんが指揮官役とか大丈夫なのかよジジイ? ベテランとかもっといるだろ」

「不安は大いにある。とはいえ、我ながら中々の人選とは思っておるが」

「ホントかあ……? いや。やっぱりアタシは信用できねえ」


 また俺に視線を戻し、セブーレさんはバッサリと俺に言い放った。なんとなく察せてはいたが。彼女は『協力を渋る人』なのだ。

 至極当然の事である。何やら俺達が噂になってる事や、舞踏号の活躍を耳にする人は多いと聞いた。最近であれば、ホワイトポートで竜を追い返したのも鮮烈な噂になっているであろう。

 しかし噂は噂。実際に見聞きしていない人からすれば、それが真実かどうかは疑問が残る。ましてや今の状況だと、顔を腫らして左手に包帯を巻いた男が、そんな噂の大人物だとはまず思えまい。

 なにより。周りからよく聞く俺のぽややんとした雰囲気や、若いという変えようの無い部分。それらに不安を抱く人は少なからずいるだろう。


 ナビチさんがあまり知らないザクビー中尉を少し疑ったように、俺はいまいち信用されていないのだ。


「正直言えば。別に協会から言われりゃ何だってするさ。それが探索者シーカーのルールだし、文句を言うのは筋違い。組織の一員だし、場合によっちゃ嫌でも黙って働くのが大事だって分かる」


 セブーレさんはまたサッパリと言い放ち、ソファにだらりと座ったまま足を組んだ。


「でも、今回のその探索者シーカー部隊ってやつは、参加者の自由意思も鑑みてるってジジイは言った。だったらアタシは文句を言うさ。『よく分かんねえ奴の下で命が関わる仕事するなんて嫌だ』って。そりゃあジジイとナビチさんから、お前達の事は聞いてた。中々イイ奴だって噂はアタシも聞いてたしな。サイクロプスの新種の話とか、皆ビックリしてた。でも、どうも締まらねえ奴だって噂も聞いててさ」

「そんな噂が」

「で。実際会ってみると、何かさ。今までの噂全部本当か? って思いたくなる奴じゃん。ボコボコだし、ぽややんとし過ぎてるし、何か弱そうだし不安になる」


 忌憚のない意見。真っすぐな言葉。キツめの口調で嘘偽りの無い素直な思いを口にするセブーレさんだが、不思議と嫌な気分にはならない。

 彼女の持つ雰囲気によるものなのだろうか? キツイ目付きも決していい印象を相手に与えないはずなのに、俺は特に何とも思わない。むしろ愛嬌があるようにも見えた。


「アタシがここに来たのは、ジジイの言う探索者シーカー部隊の隊長になる予定の奴がどんな奴か確かめるのが目的。言っとくが、お前が信用ならないって思ってるのはアタシだけじゃない。他にもおっさん連中とか友達とか知り合いとか、話を聞いても信用ならないって思った奴はそれなりに居る。まあアタシはその代表者って思ってくれていいぞ。これ、別に見栄を張ってるとかじゃなくて、割とガチ目の話だからな」

「りょ、了解です」

「なんでどもるんだよ。別に尋問してる訳でも無いだろ」


 俺が背筋を伸ばして返すと、セブーレさんはちょっとだけ笑いつつ、ソファに浅く座り直す。


「変な奴だなお前。大体の奴はさっきみたいな言い方だと、多少なりとも不機嫌になるのに」

「だって、セブーレさんは別に変な事を仰っていませんし」

「あァ?」


 疑問の声が上がったが、俺は自分の顔や体を指さしつつ笑う。


「俺は見ての通りボコボコ。身体だって大柄じゃ無いし、筋肉モリモリマッチョマンでも無い。ぽややんとしてるとか弱そうとかは、ずっと言われて来てます。そりゃあ皆さん大丈夫かコイツって思いますよ」

「ブランらしいといえば、らしいんだけどね。弱そうに見えるってのは、ずっと一緒に居る私達も分かるし」

「はい。どちらかと言うと戦闘員向けの方ではありませんね。飲食店でウエイターをする方が似合う方だと思います」


 俺が自分で笑いつつ自分への評価を語ると、シルベーヌとミルファがその通りだと笑って続いた。

 セブーレさんはそんな俺達を見て、足を組み直す。


「……確かに変な連中だなナビチさん」

「だろうセブ? お前とはちょっとばかし違う毛色の奴らさ。特に女子2人は、お前と違って愛嬌もあるしな」


 不思議な生き物でも見るかのような目で俺を見た後。セブーレさんに問いかけられたナビチさんはニヤリと笑って返し。その笑いと言葉を受けたセブーレさんが、ケッと太い眉をしかめてそっぽを向いた。

 そんなやり取りを見た後、ウメノさんが机の上で尻尾を立て、ゆっくり歩きながら言う。


「ともかくじゃ。身内で争ってもどうにもならぬし、月並みな言葉じゃが団結は必要不可欠。部隊としても、一組織としてもな。しかしまあ、いきなり訳の分からぬぽややんを頭に据えて、そいつをとりあえず隊長として信用しろ。なんて事も難しい心情は大いに分かる」

「その辺を理解してくれて嬉しいぞジーサン」

「少し黙っておれセブーレ。と言う訳で、手っ取り早く互いを知ってもらうのと、組織立った動きの訓練として。とある依頼を用いようと思っておってな」


 ウメノさんの言葉を聞いたナビチさんが、ファイルからクリップで何枚か留められた書類を取り出して机の上に置いて広げた。

 その書類を、この場の探索者シーカー達がグッとのぞき込む。


「大規模農場の警戒と、その周辺に増えてきている生体兵器モンスターの調査、討伐?」


 シルベーヌが書類の表題を読み上げ、口元に手をやって真剣な表情になった。ミルファもそれに続き、小首を傾げつつも書類に目を落とす。もちろん俺も、セブーレさんもだ。


「その通り。この農場が中々に大きな場所でな。10人や50人では手が回らん。よって、探索者シーカー部隊の一員になる予定の探索者シーカー達に協力を仰ぎ、一緒に仕事をこなしてもらう。歯に衣着せぬ物言いをすれば、団体行動の予行訓練じゃな。もっとも、この依頼自体はきっちりこなしてもらわんといかんが」

「なるほどねえ」


 セブーレさんがソファから立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで俺を見た。


「実際にどんな仕事をする奴かは見せてもらった方が早い。アタシはこの話に乗る。アタシの判断を待ってくれてる探索者シーカー達もな。ブランだったな。お前は?」

「当然やります。俺の方も、皆さんの事をきちんと知らないといけませんし」

「戦力として見るなら当然だろうな。能力位は把握しときたいってやつか?」

「いえ。そうじゃないんです」


 俺が首を横に振ると、セブーレさんは太い眉をひそめ、三白眼で俺を訝し気に見る。

 深呼吸を一度。ハッキリ、朗々と俺は言う。


「現場でも裏方でも、一緒に戦う人達がどんな人達で、どんな事をすれば皆に善いのか。俺は考えないといけない。考えて、皆さんに善い結果をもたらすために行動しないといけない。それが自分の役割だと思うからです。もちろんセブーレさんの事も、俺はきちんと知りたい。能力だけじゃなくて、どんな事が好きか嫌いかとか、そういう部分も。俺の事も知って欲しい」


 背筋を伸ばし、真っすぐに言い切った後。少しの間沈黙がこの部屋に満ちた。

 その後。セブーレさんがいよいよ怪しみ、腕を組んで俺に聞く。


「……お前、ひょっとしてアタシを口説いてるのか? 物好きだなァ……」

「いやいやいや!? なんでそうなるんです!?」

「冗談だよ。まあ何が言いたいのかは半分くらいしか分かんなかったが、どうもお前は他人を駒に見たりはしなさそうだってのは分かった」


 十分な収穫だ。

 セブーレさんが最後に嬉し気に言うと、俺達は今回の依頼について細かい話を詰め始める。


 そして俺は、外のトレーラーで待っている舞踏号が、何かの気配を微かに感じ取ったような感覚がした気がした。

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