第113話 〃
一度は火災などで雪が少なくなったものの、再び薄っすらと雪が積もる、ホワイトポートの街の中。
その中でも。まるでそこだけ竜巻に殴り付けられたように、車や道路標識がなぎ倒されている場所へ、俺達3人とオニカさんの乗る車が到着した。
忘れもしない。エミージャに加え、急に襲い掛かって来た人型機械と戦った場所だ。
「あっ。姉ちゃん兄ちゃん達!」
車から降りると、すぐさま高い声が響き。建物の陰から兎耳を生やした茶髪の双子が飛び出して来た。その後ろには、ライフルを肩に掛けたシェイプス先生や、余所者達――ケレンの民が10名ほど続いた。
嬉しそうにこちらに駆け寄る双子に向け、俺は問いかける。
「タム、ティム。どうしたんだこんな所で?」
「どうしたもこうしたもねえよ。ケレンの民皆が、髭のおっちゃんに頼まれてさ。何か分かんねえか探してたんだ」
双子の姉。タムが事情を答えてくれて、それに弟のティムが続く。
「えっとね。分かった事は何個かあるんだけど……。見てもらった方が早いのかな」
双子は顔を見合わせて頷き合い。次に後ろに立つシェイプス先生を見た。そして双子と先生は目で何かを会話したのか、すぐに街の先へと先導してくれる。
横転した車や、千切れ飛んで穴の開いたボンネット。それに窓ガラスが全て砕け散った建物などを尻目に少しだけ歩くと、すぐに目立つ物が視界に入った。
顔の右側を地面に着けて転がった、機械の巨人の生首だ。
白地に緑で彩られた装甲には殴られた痕や傷があり。力任せに千切られた首の断面からは、人工筋肉や各種の配線。そして剥き出しの骨格が見えていて、機械であるのに妙に生っぽく感じてしまう。
生気の無い双眸からも、何だか虚ろなものが感じられる上。この首は俺が切り取った物なのだ。まじまじと見るのは、あまり気分が良くない。
そしてティムが、この場の全員に言う。
「えっと、まずこの首なんだ。特に動いたりしてる様子は無いから、ここに転がってそのままだと。ボク達は予想してます。誰かが引っ張ったり、解体しようとした痕も無いです」
「ブラン。見覚えはあるんだろ? この人型の頭には。機体の名前が、あー……なんだったか」
オニカさんが機械の巨人の生首に近づいて、物珍しそうに見ながら俺に聞いた。
周りでは、シェイプス先生や他の余所者達が、それとなく警戒をしてくれている。
「確か、慈恵号です。マルフィーリ商会ってとこが所有してたはずです」
「マルフィーリ……ああ! 統合作戦本部長のとこのボンボンか」
「ご存知ですかオニカさん」
「名前だけな。俺はナビチみたいに、人間相手に色々するのが得意な探索者じゃない。ボンボンがどんな奴で、何をしてて、今どうしてんのかまでは把握してないんだ」
俺とオニカさんが話している間も。シルベーヌがミルファと協力して、慈恵号の頭部の装甲を剥がしたり。露わになったコネクタに何やら機材を繋げていく。
「そういう事情が。役割分担、と言う感じですか?」
「それもあるが。まあ単純に俺は、人間相手に騙し騙され罵り合うような仕事がしたくないだけさ。生体兵器共に向かって銃を撃つ方が気分が良いしな。人相手は、どんだけ悪人相手でもスカっとしない」
「なるほど……」
オニカさんはそう言うと、俺の肩を軽く叩いて微笑んだ。
「この場で俺は活躍できそうに無いから、先に車に戻って、ちょっと書類をまとめたり確認しとく。戻った時に報告してくれ。薄くとは言え雪積もってて寒いしよ」
「了解です! お手数かけます」
「良いって事よ」
そして離れていくオニカさんの背を見送った後。
慈恵号の首の後ろに座り込んでいたシルベーヌが声を上げる。
「ブラン? ちょっとこっち来て」
言われるまま、大きな機械の生首の後ろに回ると。装甲に設けられた整備用のハッチを、ミルファがバールなどで周りの装甲ごと引っぺがしている最中であった。
しかし。シルベーヌが俺に手招きして指差したのは、無残な首の断面である。
諸々の機材が、千切れたケーブルやコネクタに繋げられ。シルベーヌの手に握られた大判のノート大の機材、その画面が薄く光っている。
「詳しくはもうちょっと精査しないと分かんないけど、慈恵号は完全に独立したAI制御の機体ってのが分かったわ」
「やっぱり無人機か」
「ええ。でも、これは頭部のセンサとかから、辛うじて拾えたシステムログからの推測だけどね。AI制御の利点の1つで、各部の独立性があるの」
「独立? 勝手に動くのか?」
「例えば、熱いお湯触ったら咄嗟に手を引っ込めるじゃない? 乱暴な例えだけど、あれのもっとすごい奴って思って良いわよ。肘の所で神経が千切れても、ある程度は手が動く感じ。それがAI制御機の良い所で、有人機じゃ出来ない動きが出来たり、損傷に強かったりする由縁ね。で、ここからが問題」
機材の画面を切り替え、シルベーヌが俺に見せる。
映っているのは、乱れて非常に見辛い動画だ。音声は無いが、動画には見慣れた人型機械が写っている。
メリハリのある白い装甲に赤い意匠。そして目元に戦化粧をして、額から1本角を生やした巨人の戦士。舞踏号だ。
舞踏号がこちらに向かって突進してきて、身を屈めて攻撃を数度耐え。その後、更に信じられない速度で突進してきたかと思えば映像が乱れ。再び映像が回復した瞬間には、爛々と光る左眼と、禍々しい爪の生えた拳を握った舞踏号の笑顔が微かに見え。すぐに映像が飛んだ。
「これって、俺との戦いだよな」
「カメラのシステム周りに残ってた、映像の破片みたいなものよ。で。この殴り合いに対応する時間前後の、他のセンサのシステムログを、拾えるだけ大雑把に拾ったの。センサの動きとか、得た情報へのフィードバックね。そこから察するに――」
シルベーヌが言い淀み。彼女の顔が、少しだけ曇る。
「慈恵号は、ブランに頭部を切られる時に、頸椎の胴側にある中枢回路を損傷してる。でも、体の各部はまだ生きてたみたいなのよ」
「……じゃあ、何だ? 中枢回路……この場合は脳っていうのか? そこは死んでるけど、身体は生きてる状態だったって事か?」
「表現し辛いけど、そんな感じかも。生ける屍っていうの? 中枢回路が全体の判断や行動を決定してるから、損傷した時点で、人間で言う脳が死んだのは確かだと思うけど……」
「シルベーヌ。装甲が外れましたよ」
硬い金属音と同時に、ミルファが声を掛けてくれた。
すぐさまシルベーヌがミルファの傍に近寄り、小さく礼を言ってから、自分の顔を半ば慈恵号の頭部に突っ込むようにして、内部の機械を触りだす。
機械油や何かの充填液が、彼女の服や顔に付くのも気にも留めない。その真剣な表情と所作に、周りがつい息をのむ。
少しした後。ミルファが先ほどのノート大の機材の配線を一度取り外し、新たに接続し直していく。
そして最後に。太めのケーブルがシルベーヌに手渡され、彼女は頭部の奥にそのケーブルを繋いだ。
「どう?」
「来ました」
2人は簡素な会話をして、すぐに機材を覗き込む。
薄く光る画面を、まるで返り血のように機械油が付いたシルベーヌの指が指したかと思えば、彼女は顔を上げて俺に言う。
「結論だけ言うわよ。この慈恵号の頭部は、切り取られてから30時間は生きてたわ。それも、センサをフル稼働させて周辺の情報収集して、そのデータをどこかに送りながらね。今は完全に沈黙してる」
周りの人間に、ざわりとした動揺が走る。
機械だからこそ、首を斬られてもまだ稼働する部位があった。そこはまだ分かる。
だが、切り取られた首が周りの情報を収集して。あまつさえそれをどこかの誰かに送っていたという事が、酷く不気味であったのだ。
「……倒した時にあっけなく感じたのは、このためか?」
「いいえブラン。それは恐らく違うかと思います」
すぐに否定して、ミルファが言う。
「私達が首だけを切り取ったのは、撃破した慈恵号を完全に停止させるためです。シルベーヌに判断を仰ごうともしましたが、ジャマーで無線が繋がらなかったために、古典的な方法を私が提案したまで。一連の行動を予測するのは、困難だったはずです。なすがまま、されるがままは違和感を覚えます」
「残ったシステムログによると、中枢回路がダメージを負ったのは完全に首と身体が離れる前みたいだから。行動不能にさせる方法としては、結果的に正解だと思うわよ。それに、仮に私と無線が繋がっても、そこだけ潰しておくように言ったと思う。手足を潰す時間は無かったでしょうしね」
シルベーヌがミルファの言に答え。指の機械油を自分の服で拭った。
そこで、ここまで沈黙を守っていたタムが言う。
「じゃあ、なんだよシル姉ちゃん。こいつは死んだふりして、舞踏号をやり過ごそうとしてたってのか?」
「……AIに設定された戦術っていうか、行動原理まではちょっと分からないわ。タムの言うように死んだふりして後から逃げるにしろ、普通は首を斬られそうになったら逃げると思うけど……」
「そういやそっか。首千切られそうになった時点で、テッテーテキにボコボコにされるって思うのよな。それでも助かるかもかもしれないって、ずっと死んだふりとか無理だし」
タムはそう言いつつ、慈恵号の首の前に回り。物珍しそうに、慈恵号の顔をまじまじと見つめだす
俺も頭の中身を整理しつつ、何となくタムの横に歩み寄る。
死んだふりをした理由を考えるべき? 違う。全体を見直さなきゃいけない? 慈恵号は確実に、俺と舞踏号を撃破しようとはしていた。エミージャからもそう指示されたのを聞いた。都市に被害を与える事もだ。
その後、逆に俺が慈恵号を打ち倒した。抵抗はされたがあっけなかった。単純にパワーの差があったから? それも理由の1つだろうか?
仮に抵抗を辞めた時、死んだふりでやり過ごす算段が出来ていたとしたら何故? そういう風に出来ているからか? 中枢回路が死んでも動くように? 心は死んでも身体は動く?
生ける屍。部位毎に生きている身体。でも動けるなら、首はどうして置いていった――?
「うーん……ぱっと答えが出ないな」
「あっ、そうだ! ごめん、首の事で色々飛んでたよ。身体の方は、どうも自分で移動したみたいなんだ」
タムがハッとして手を打ち。俺を見上げた。そしてティムと連れ立って歩き出し、俺達を道路の真ん中へ誘う。
そして双子が指さしたのは、薄く積もった雪が除けられた道路の一部。少なくとも俺の目には何の変哲も無く見えるのだが――。
「ここにちょっとだけ残ってる傷からして、身を屈めて歩いてた感じがするんだ。抜き足差し足って具合。道路の傷はもうちょっと先まで続いてるんだけど、途中で完全に分かんなくなってる。単純に時間が経ってるのと、やっぱ街中だから人とか車がいっぱい通ってて消えてるんだ」
「そこまで分かるのか……って。そういや、御屋敷の近くの森に行った時、追跡術みたいなのはちょっと教えて貰えたな」
「もうちょっと自然があるか、人通りの少ないとこなら色々分かったんだけどよ。ごめんな」
タムは申し訳なさそうに言い。並ぶ双子の兎耳がふにゃりと前に垂れた。
俺はそれを見てしゃがみ。明るい笑顔で笑いかける。
「何言ってるんだよ! 今ので十分すぎるくらいさ!」
「ええ。行方を捜して情報収集するにしても、今ので方針がバッチリよ?」
シルベーヌが俺に続いて笑い、腰に手を当てて割とある胸を張った。
「ただでさえ目立つ人型機械が、こそこそ逃げるなんてのは中々難しいわ。それよりも目を惹く何かが無いとね」
彼女はそう言うと、双子に注いでいた視線を俺に向ける。
「港を壊し終えた竜が、街の方に来たタイミングがあったじゃない。あの時に慈恵号の身体は、街中から逃げ出したんだと思う。タムとティムのお陰で、移動した時間と逃げた方角の目処が立ったから、闇雲に情報集めるよりも良いわ」
「おう! 後でオニカさんやナビチさんに、その辺りの事を相談しよう」
「はい。あの時街中で戦っていた探索者だけでなく、都市の外で戦っていた騎士団員や。市民の中にも、何かを見た人がいるかもしれませんしね。私達3人だけでは、とても手が回りません。それに、マルフィーリ商会に掛け合って、慈恵号の詳細を知る事も必要です。ガナッシュさんの伝手を頼りましょう」
ミルファもたおやかに微笑んで続いた後。彼女は双子の傍にしゃがみこんで、2人の小さな手をそっと握った。
「タム、ティム。2人もあの夜は大変な目にあったでしょうに。今こうして手伝ってくれているのは、本当に助かります。ありがとうございます」
「あの位大丈夫だよミル姉ちゃん。元々ワタシ達は、人間よりもっとヤバイのと戦ったりしてるんだ」
「ボク達には先生も皆もいるしね。それに、御屋敷の人達だって凄かったんだよ」
タムとティムが、思い出したようにくすくすと笑う。
「普段は御屋敷を綺麗にしてるのに、銃声だ!ってなった途端に皆張り切りだしてさ。使用人さん達はデッカイ机とかタンスとかバンバン倒して壁にしだすし、絨毯だって泥の付いた靴でガンガン踏み荒らしてたよ」
「凄かったよね。どこにしまってあったのか、拳銃とか持って来て。訓練して撃てる人は撃ってたし。他にもモップが飛んだりお皿が飛んだり、使える物なんでも使って、すごい事になってたよ」
「そんな事が」
ミルファが思わず唖然として、すぐに朗らかに微笑んだ。
俺も驚いて、近くに立つシェイプス先生をちらりと見たが。先生は口角を微かに上げて、しっかりと頷くだけ。どうやら真実らしい。
逞しいと言うべきか。謎の襲撃者から生き残るために必死だったというか。
ウーアシュプルング家の人々は豊かな暮らしをしているとはいえ、やはり根っこの部分は戦後を生きる人々なのだ。多少の事ではめげもしない、凄まじいバイタリティに溢れているのだろう。
「とりあえず。慈恵号の頭部は回収しておきましょうか。詳しい解析が出来る時間は無さそうだけど、ずっとここに転がしておくわけにもいかないしね」
「じゃあ、俺が先に車に戻ったオニカさんに言ってくるよ。2人はここで頭部の調査を続けててくれ。ついでにトレーラーも……って。俺はこの腕だから、トレーラーの運転は無理か」
シルベーヌが話を締め。俺はその通りにすぐ動こうと返事をして止まった。
別にアクセルを踏むのは問題ないけれど、今は左腕が使えないので、どうしても咄嗟の事に対応が遅れるだろう。街中だってまだ混沌としているし、事故が起きる可能性は十二分にある。
「……今まで使えてた部分が使えなくなるって、やっぱり不便だな」
首から三角巾で下げられた、手だけが動かせる左腕を見て、俺は少し陰鬱な気分になってしまう。
食事や睡眠の際もだが。やはり色々な仕事がしにくいのが辛い。
ひっきりなしに運ばれてくる荷物の積み下ろしを手伝う事も、舞踏号や自分の装備の整備も、正直かなりやりにくいのだ。
それに加え。多少は人型機械の知識や、武器等の知識があるとはいえ。戦いが一度終わった今、人々に必要な知識では無い。
武器の使い方よりも、壊れた車の整備をする知識や、家屋を直す知識。あるいは寒さをどうにかする知識など。生活の復興に必要な知識が求められる。
俺にはそれらが殆ど無く。健康な肉体という利点も、左腕が使えないという欠点で霞んでいる。
一度掴んだ自分の出来る事が、手から零れ落ちつつあるのだ。
「ねえブラン兄さん。事情は聞いたし、片手でご飯食べるのも見るけど、やっぱりずっと動かないまま?」
「うん。全然だよティム。腕が上がったりはしないけど、手だけは動く」
心配そうに聞いてきたティムに微笑み。俺は左手の親指を立てた。
「まあ。気にしても仕方ないんだ。舞踏号の修理が終われば、ひょっとしたら俺の腕も使えるようになるかもしれないし」
「かも。なんだけどね」
不意にシルベーヌの顔が目に見えて曇り。俺におずおずと言う。
「ごめんねブラン。兆候はあったのに、原因の特定が難しくて、結局こういう事になっちゃって」
「何言ってんだよ、シルベーヌが謝る事じゃないって! そもそも未知の現象な上に時間だって無かったんだから、誰のせいでも無いぞ! 乱暴な使い方して、舞踏号がスネてるだけって可能性もあるしな! 結局俺の使い方の荒さが原因なんだ。シルベーヌの整備はバッチリだったんだぞ」
「そうは言われても……」
「良いんだよシルベーヌ。ほら笑って笑って、笑顔が一番! じゃあ俺はオニカさんに諸々の報告をして、トレーラーの手配をお願いしてくるよ。皆は待っててくれ」
シルベーヌに向けて微笑みかけると。彼女はパッと明るい笑顔を返してくれた。ミルファもそっとシルベーヌの隣に立ち、微笑んでその背を撫でる。
そんな2人を確認すると、俺はオニカさんの待つ車の方に、1人で歩き出した。
そうだ。治る”かも”。なんだ。
消えた慈恵号の事や、これからの事も不安は多いが、自分の身体がどうなるかも不安だ。
舞踏号の左腕を修理し終わった後。俺の左腕が直らなかったらどうなる? 一生このままかもしれない。
そしてこれから、もっと戦いが増えるのは明らかだ。その都度舞踏号が損傷して、その結果が俺に伝播して来たとしたら。
右腕も使えなくなって。足も動かなくなって。身体すら起こせなくなる可能性は、ゼロじゃない。
(そうなるのは、怖い)
胸の奥底にある暗い淀みが、じわりと大きくなった気がした。
それでも俺は、暗い淀みに負けないように顔を上げる。
(治るか治らないかじゃない。きっと治る。誰よりも俺が、そう信じていないといけない)
シルベーヌは不安そうな顔をしていた。ずっと舞踏号の面倒を見て来た彼女には、そのパイロットである俺への責任感や使命感などが渦巻いて、大きな不安となっているに違いない。
そんな女の子1人の不安を和らげれずして、何が”竜狩り”なものか。
ナビチさんを始めとした探索者の面々が言った、俺達を”英雄”にするという話。それがどんな役割なのかはまだ掴みかねているけれど、英雄という言葉の響きから想像出来る事は多い。
少なくとも俺は、自分と自分の周りにいる人々へ降りかかる厄災を全て蹴散らしてこそ。不安も憂鬱も吹き飛ばすような、鮮烈で快活な人物。そんな人こそ希望の象徴足りえる人で、英雄だと思う。
そして自分がそんな大それた人間になれるとは思わないが、そのフリならやれる。やるしかない。
「舞台の上に立ってるんだ。敵に大見得も切った。今更弱音を吐くのは、俺の役割じゃない」
深呼吸を一度して。白い息を吐く。
いずれにしろ、まずは目の前の事を1つ1つやっていくしかない。俺は車の中で書類を眺めるオニカさんに右手を振った。




