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第108話 〃

 息を吐く。

 全身のダクトから熱く白い息が噴き出すと同時に、装甲に付いた返り血や土埃が舞い散った。


 周囲には鉄パイプで殴打され、突き刺され。手足の爪で体を裂かれたり、拳や踵で骨を砕かれたミノタウロス達の死体が転がって。飛び散った熱い返り血で雪が解け、粘りのある大気が立ち込めていた。

 舞踏号の鼻である化学センサが効いていれば、むせ返るような血生臭さを感じているであろう。

 吐いた息が消える頃には、センサで周りが索敵され。自分の立っている場所を中心としたごく限られた範囲で、中型の敵影は発見できないのを察知した。


『ミルファ! ミノタウロスは終わった! そっちはどうだ!』

「ゴブリンの数が多すぎます!」


 ざらつく無線に帰ってきた言葉を聞くや否や、針金のように曲がった鉄パイプを握りしめ、銃声の続く方へ舞踏号は走る。

 ほんの数秒走った先には、2車線の道路が交わる交差点。その一角を占める、少し大きめの2階建ての民家があった。窓からはライフルが突き出され、屋根にも戦闘服バトルドレスを着た人々が鈴なりに。その皆が交差点に迫るゴブリンの波へ引き金を引き続けている。

 そうやってトーチカと化した民家の反対側には、半壊した建物の中で作られた粗末な陣地があり。その陣地の中で仁王立ちをし、腰だめに機関銃を構えて撃ち続けるミルファと、負傷しつつも引き金を引く探索者シーカー達の姿があった。

 民家の方へ合流したくとも、ゴブリンの群れが多すぎて道路を渡れない。僅かでも気を抜けばゴブリンが雪崩れ込んで来て人間が不利な格闘戦になるし、撃ち損ねたゴブリンが街へ入り込めば、銃を持った事も無い人が襲われるだろう。

 民家と陣地を隔てるたった2車線の道路が、凄く遠いのだ。


 そんな状況でもミルファは背筋を伸ばして機関銃を撃ち続け。背から伸びる2本の追加腕サブアームにそれぞれ片手で握られたマチェットとライフルも存分に振るい、魔人の如く戦っている。


『ミルファ!』


 走りながら上体を屈め、陣地に迫るゴブリンを曲がった鉄パイプで薙ぎ払った。血風と共に肉片が飛び、数多の肉塊が撒き散らされる。

 2度3度鉄パイプを薙ぐと、ゴブリン達の士気がグッと下がったのを肌で感じた。数の優位が個の強さで押し返され、敵は怯えているのだ。


「ブランはそのまま! 皆さん! 今のうちに隣の民家へ!」


 ミルファが叫ぶや否や陣地から飛び出し、機関銃と追加腕サブアームのライフルが唸る。彼女に続いて数名の探索者シーカーも飛び出して、ミルファと同様にライフルを撃ちまくった。

 その後に怪我人を抱えた探索者シーカー達が飛び出して、車道を渡った民家へと駆けこんでいく。


 ミルファはいわば、1人で機関銃座と通常の歩兵を兼任し、負傷した探索者シーカー達を護衛しているようなものだろう。

 稀にゴブリンが接近してきても、追加腕サブアームのマチェットがいともたやすくゴブリンを両断している。

 それを横目で見て、今更ながらアンドロイドの戦闘力というものを実感した。ミルファでこれなのだ。もっと戦闘向きになっている方々は、これ以上の火力を有する事だって可能だろう。


「よし! 押し返せ! ゴブが1匹でも街に隠れたらあぶねえから撃ち漏らすなよ!」


 そんなミルファと探索者シーカー達の動きを見て。指揮官代わりらしい、茶色の髪を短く切った碧の目の男性が叫び。民家から探索者シーカー10数人が打って出た。

 的確に逃げるゴブリンの背を撃ち抜き、迫って来るゴブリンもまた正確に撃って止め。整然とした銃撃が瞬く間にゴブリンの数を減らしていった。

 並行して、負傷者が民家に担ぎ込まれ。一帯のゴブリンが掃討され終わった。


「すまねえ人型とアンドロイドの姉ちゃん! 本当に助かる! よし点呼! 死にかけの怪我人も返事しろ!」


 すぐさま指揮官代わりらしい男性の号令が掛かり、全員集めて40人にも満たない数が報告される。そして半数は軽傷で、虫の息も含めた重傷者は6人程。旗色が良いとは言えない状況だ。


「ここに居ないって事は死んだな……くそっ!」


 正気を保つ為か。誰に向けてでも無い愚痴が吐き、男性は顔を上げる。


「応急処置と残弾の確認急げ! 半分は怪我人と残ってここの警戒! 無線がジャマーでほとんど使えない上に大混雑だろうが、怪我人の回収は呼び続けろ! 動ける奴は車まわせ! 次に行くぞ! それと人型とアンドロイドのあんた!」

『は、はい!』


 ハッキリした声で指示を出し、男性は舞踏号を見上げて笑顔になった。


「いいとこに来てくれたな! 自己紹介が遅れたが、探索者シーカーのオニカだ! ジジイから話は聞いてる!」

『ジジイ……? ああ、ウメノさんですか! って言っても、俺達は何が何だかで……』

「何だ聞かされてなかったのか! まあ良いさ! ジジイの息が掛かった連中がホワイトポート中に居る。非常事態に備えてな」

『それって――』

「街で待機しとくだけで金が入る旨い仕事……の、はずだったんだがな。まさか本当に生体兵器モンスターが来るなんて思いもしなかった。俺達含め、大体300人くらい居る」

『そんなに!』


 俺と会話しながらも、オニカさんは自分のライフルを点検し直し、残弾を確認し続ける。慣れた手つきからは、相応の経験と技術が良く分かった。


「これじゃ300人でも数が足りねえよ。それどころか、ホワイトポートは規制が厳しくて装甲車とか戦車の1台も持ち込めてねえ。お陰で洒落たレンタカー……だったんだがな」


 笑いながらちらりと見た先には、赤色の洒落た車――だった鉄屑があった。ミノタウロスに踏まれでもしたのか、盛大にへこんで傷だらけになり、横転している。

 そこへ、すぐさまオニカさんへ1人が駆け寄ってきて、現状の報告と、残るメンバーとの仕分けが終わったのを確認した。


「良し。行けるな」


 ニヤリとも明るくとも言い難い微笑みで報告をした人の肩を叩くと舞踏号を見上げ、次にミルファを見て、真摯な顔でハッキリ言う。


「ここから東に大体800mの地点で、別のチームが踏ん張ってるはずだ。援護に行ってゴブ共の横っ面を殴りつける。協力してくれるか?」

『もちろんです!』

「了解です。ブランと私も探索者シーカーですし、オニカさんの指揮下に入りましょう」

「頼もしいな! よし、あんたら2人は先行してくれ! 俺達は車で続く!」

『はい!』


 返事の後。軽く腰を落とすと、ミルファが機関銃を抱えたまま器用に肩へ飛び乗ってきて、すぐさま移動の準備が整った。

 同時に、近くへ走って来たバンや軽自動車が急ブレーキをかけて停まり、それに探索者シーカー達が乗り込んでいく。

 中でも一番質素な軽自動車。後部座席のドアが取れた車の助手席にオニカさんが乗り込み、身を乗り出して叫ぶ。


「進行方向は分かるな! 道路沿いに真っすぐ行って、2つ目の交差点が臨時の防衛線になってるはずだ! よし、全車前進!」


 号令と共にもはや使い物にならなくなった鉄パイプを捨て、地面を駆ける。

 いつの間にか崩れた建物や横転した車を飛び越え、倒れた信号機や道路標識を一跨ぎ。車輪とは違う機動力が遺憾なく発揮されて、背に続く車両達を引き離していく。


「実際に近くで見るのは初めてだが、ありゃあすげえな……」


 戦闘でセンサ鋭敏になっているのか、後ろからオニカさんの感心した声が聞こえて来た。走る車の中で、周りの騒音に負けないよう声を張り、隣に座る運転手と会話しているらしい。


「ちょっと姿が違うみたいですけど、あの人型と女の子が副会長から聞いてた”雛鳥”でしょう? メカニックが1人見えませんが……」

「だろうな。しかし、アンドロイドの方はともかく、あの気の抜けた声のパイロットがか……」

「ミノタウロスをぶん殴ってる時は頼もしかったのに、いざ言葉を交わすと何か弱そうですよね」

「だな。まあ変な奴だってのは聞いてたが」

「幸運の旅人。でしたっけ? 本物なんですかね」

「少なくとも、俺らにとっちゃ幸運を運んで来てくれたな。人型1機と追加腕サブアームの付いた戦闘向けのアンドロイドだ。今の援軍としちゃ十分すぎる」


 そんな会話も束の間。

 すぐ目の前に、機関銃座が設けられた瓦礫の陣地が見え、そこには丁度ゴブリンの波が食らいついた瞬間だった。

 銃弾の雨の間断を縫い、緑の小人達が人間達に飛び掛かり。赤い液体が舞うと同時の悲鳴がセンサに響く。

 背後の話し声を気にしていた神経が、正面の敵に集中する。


『お前らァっ!!』


 更にグッと加速する。駆け込んだままに蹴りを放つと、何体ものゴブリンが肉片に変わって血霧と化した。

 続いて、すぐさま手近な瓦礫の中にあった棍棒のような鉄骨を足先で拾い上げ。右手に握り直して地面を薙ぐ。ゴブリン達が、再び肉片へと変わっていく。

 突然の乱入者。それも異形の巨人の登場に、ついさっきまで狂喜に満ちていたゴブリン達の顔へ、動揺と畏怖が広がっていく。

 加えて。動揺した1体のゴブリンの真上に、舞踏号の肩に居た4本腕の魔人が跳び。着地と同時に鉈でゴブリンを両断した。顔を上げざま、魔人は腰だめに構えた機関銃の引き金を引き。血風が吹く。


「人型に続け! 全車突撃!!」


 オニカさんの叫びと共に、何台もの車が突っ込んで来て、ゴブリンの群れを轢き飛ばす。そこへ続いて車の中からライフルやグレネードが撃ちまくられ、優勢だったゴブリンの群れが、みるみるうちに潰走して行く。


「1匹足りとも逃がすなよ! そっちの3台は殲滅に回れ! 残りは俺と来い! 負傷者の救助急げ!」


 テキパキとした指示が飛び、ミルファもゴブリンの殲滅に回った。

 舞踏号は粗方ゴブリンを薙ぎ払った後。瓦礫の撤去に呼ばれ、横転した車やトラックを除けていくのだが――。


『うっ』


 鮮血に濡れた死体。それも老若男女問わず。裂けた皮膚から覗く筋肉や脂肪。破れた腹から零れている臓器。瓦礫の下には、そんな思わず眉を顰めてしまう光景が広がっていた。

 もちろん。他にも今しがたゴブリンに纏わりつかれ、鈍い爪で無理矢理に首を裂かれた探索者シーカーの死体などもあり、本能的に目を逸らしたくなる。


(いいや、ダメだ。これが今の現実なんだ。全部を受け止めて、それからどうするか考えなくちゃいけない)


 息を吐く。

 躊躇いが忍び寄ってきていた身体を震わせ、この光景を真っすぐに見つめ。瓦礫を撤去する手を止めない。

 そんな舞踏号をふと見上げ、オニカさんは言う。


「死体にビビるかと思ってたら、そうでもないんだな」

『いえ。正直ビビってますし、怖いです』


 手は止めないまま、オニカさんに返した。


『でも、だからこそ真っすぐ見ないといけないと思うんです。目を逸らすのは簡単ですけど、俺はどうしたら善いのかを考えなくちゃいけないから、色々な事を自分で知らないといけない』


 オニカさんが意外そうな、不可解だという顔をして、ライフルを肩に掛けた。


「本当に変な奴だな。人型のパイロット、あんた名前は?」

『ブランです』

「ブラン? ああ、分かった。話に聞いてた弱そうなぽややんか」

『弱そうって……』

「ナイフで顔を斬られてもへばらなかったってのは聞いてるぞ。若いそうなのにガッツあるじゃねえか」

『いやまあ。あれは一生懸命でしたし……って。それ、誰から聞いたんです?』

「うん? あー……そう言う事か。まああれだ。お前達に注目してる奴は、結構いるって事だよ」


 ニヤリと笑ったオニカさんが、周囲の探索者シーカーから報告を受け。顔を引き締めると様々な事への対応を指示していく。

 中でも大型の強力な無線機を背負った探索者シーカーの背には。オニカさん自身がしがみつき、なにやら無線を調整したり、無線に向かって状況はどうなっているかを問い叫んでいた。


 ほぼ同時に、残敵の掃討に向かったミルファ達がこちらに駆けよって来る。ひと段落というところだろう。

 再び残弾を確認したり、水筒の水で喉を潤す束の間の休息。

 それでも上空では未だにヘリの編隊とグリフォンの群れが格闘しており。港の側では竜が戦闘機を叩き落として、港の設備を破砕し続けている。

 悲鳴も銃声も、遠くから絶えない。この場にだって、生体兵器モンスターと人間の血生臭い香りがむわりと漂っていた。


 そんな中で。こちらの陣地に居た探索者シーカーの1人が立ち上がる。

 俺と同い年くらいだろうか。骨格のしっかりした青年だが、その頬には深々とした真新しい切り傷がある。それでも、傷が霞んで見える程の安堵した顔で舞踏号を見上げ、次にミルファを見て言う。


「援軍助かったよ……ありがとう……」

「人が生体兵器モンスターの脅威に対抗するのは当然です。それにこの非常時です。お気になさらず」

「いやそれでも。凄かったよ。人型が走り込んで来た時、人間が来たって思えてさ。本当にありがとう」


 青年はミルファから目を逸らし、舞踏号を見上げた。

 その目には、まるで古代の英雄を仰ぎ見るような。仄かな熱が篭っている。


『気にしないで下さい。俺もどうして良いやらいっぱいいっぱいで……』

「その声……! それに人型機械ネフィリム! ひょっとしてメイズの街でホットドッグ売ってた人ですか!」

『あれっ。ひょっとしてアルさんのお店に来た事あるお客さんですか?』

「ええ! いや、その時は何にも意識してませんでしたけど……不思議な縁があるもんですね。あ、エビサンド美味しかったです!」


 嬉しそうな青年の顔と、この緊迫した状況にそぐわないホットドッグ屋の話題に。周りの探索者シーカー達の緊張もいささかほぐれていくのが感じられる。

 戦う事にだけ向かっていた冷たい神経へ、人間味のある暖かさが巡って、心の疲れが少しだけ取れたような気がした。


「飯の話題も良いがな! 今しがた情報担当と連絡が付いた! 港の方がひでえことになってるらしい。逃げ遅れの一般人もだが、街のはずれからゴブやミノタウロスが湧いて来てるとさ」


 オニカさんも最初は微笑んだが、すぐに顔を引き締めてこの場の全員に通達する。


「このまま港側の援護に進みたい所だが、生憎弾が足りねえ。途中で補給を受けるぞ。このまま街の外縁沿いに進んだ先で、また別の探索者シーカー達が待ってくれてる。何でも港側から抜け出して来た武器屋が大盤振る舞いしてくれてるそうだ」

『了解です!』

「ああそれと! ブラン! お前のとこの整備士とも連絡が付いた! なんでもどっかの工場から武器を持ってきてくれるそうだ!」

「シルベーヌがですか?」


 ミルファが驚いた顔をしたものの、すぐに微笑みに変えて舞踏号の顔を見上げる。


「この状況でと言う事は、あの子は相当無茶な事をしていますね。早く行きましょう。心配です」

『間違いないな。急ごう』


 (舞踏号)が腰を落とすと、ミルファがすぐさま肩に上がって来た。


「こっちも行くぞ! 動けない負傷者は護衛と一緒にここの警戒! ジジイに追加報酬請求するから、死なないように気張れよ! 残りは車に乗れ! 車が足りないなら拝借するぞ!」


 再びオニカさんの大きな声で号令が響き。補給場所の詳細な地点が説明される。

 先ほどと同じ様に舞踏号が先導するよう言われ、雪が積もる街を、返り血で濡れた巨人が走る。

 どんどん近づいて来る港側からは、火災や建物の崩壊の音。そして悲鳴や銃声がはっきりとセンサに響く。道端にも時折誰かの死体が残されており、雪の積もった港町が、血と火薬で塗り直されつつある。

 そして空中ではグリフォンの1体がヘリに組み付き、揚力を失ったヘリが街のど真ん中へと落ちて行ったのが見えた。一際大きな悲鳴と衝突音がセンサを揺らす。


(そうか。俺は今。戦争のただなかにいるんだ)


 理解していたと思っていたのに。ずっと前に、何処かで小さく期待していた事すらあったのに。薄ら寒い実感が神経を駆け、身が小さく震える。


「大丈夫です。ブランの近くには私が居ます」


 機関銃を握り。肩の上にしがみつくミルファが小さい声で言った。


「胸を張り、堂々としていましょう。ブランはブランですが。今の貴方は、兵士を従える神話の巨人でもあるのです。自分と同じ姿をした”人”が、怯みもせず苦難に立ち向かう姿。それこそが今の状況で人々の士気を高め、冷静さと希望を与えます」

『……おう!』


 言われた通り、うつむきかけていた視線を上げる。

 すると視線の先に、駐車場の広いレストランが見えて来た。駐車場にはトラックが何台かと、戦闘服バトルドレスを着た探索者シーカーが10数人おり。件の補給場所で間違いない。

 その中でも、妖しげな笑みでこちらを見る、浅黒い肌の男性が1人。駆け寄って来る舞踏号を見て大きく手を振った。


『テショーヤさん!』

「混乱の中ですが、店から持てるだけ持って来ました! どうせ店があった辺りはもう火の海です!」


 テショーヤさんは声を張って妖しく笑うと、近くで急停車した車から出て来た探索者シーカー達へ、銃弾などを配り始めた。


 そして舞踏号も駐車場の隅に座ると同時に、今来た道とは違う場所から、1台のトレーラーが猛然と走り寄ってくる。荷台にはビニールシートが掛けてあり、戦闘服バトルドレスを着てライフルを握った人が数人しがみついても居た。

 そんなトレーラーが荒い運転で急カーブして舞踏号の前で止まると、急停止の揺れで放り出されるように、運転席から見慣れたぼさぼさの金髪が飛び出す。


『シルベーヌ!』

「お待たせ! 何とか都合付けて来たわよ! 探索者シーカーの人達が護衛してくれたから不安も無し! ゴブリンは何体か轢いたけどね!」


 そして荷台の探索者シーカー達がビニールシートの固定を解き、勢いよく引き剥がす。


 荷台には分厚くシンプルな、巨人のために拵えられた両刃の長剣が一振り。剣と言うには分厚く、どちらかと言えば薄い棍のような刃をした剣である。

 そして同じく拵えられた戦闘用の手斧。トマホークが1丁。こちらもシンプルで、頑丈さに重きを置いて作られた逸品だ。

 鈍色の剣と斧には、それぞれ刃の根元部分に『カラメル鉄鋼』と製造所らしい名前が掘ってあった。


「それと! ブランに工場長さんから伝言よ! ”武運長久を祈ります”ってさ!」


 長剣を右手に。斧を左手に。それぞれ握ると、しっかりした重みと同時に、この武具に込められた想いが伝わってくるような気がする。


『頑張るよ。俺は期待を背負ってるんだ』

「ええ! 頑張ってブラン! でも無理は厳禁だからね!」


 にこやかに言われ、返事の代わりに深呼吸を一度。

 全身のダクトから白く熱い息が噴き出し。両手の剣と斧がきらりと光る。

 それを見た周りの探索者シーカー達から感心したようなどよめきが上がり。剣と斧を握った巨人の戦士の威容が、見る者の心を沸き立たせた。


「補給は終わったな! 次にやる事を確認するぞ! ここから港側に進んだとこで、探索者シーカー達と騎士団の部隊が、ギリギリで一般人を守ってる。そこの援軍だ。敵はゴブとサハギンとミノタウロス!」


 オニカさんの声が響き。そのまま他にも詳細が説明され、巨人と探索者シーカー達が何度も頷いた。


「とにかく。どうにも敵の数が多い上に、一般人が多いから防戦一方らしい。だがこっちは補給したばっかり。気力は十分。やれない事は無い。それになにより――」


 ちらりとオニカさんが頼もし気に舞踏号を見上げ。それに続いて、この場の全員の視線が舞踏号に注がれる。


「こっちには人型戦車ネフィリムがいる。敵をぶっ飛ばす、人の形をした戦車がな」

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