第106話 走り火
「ふむ。その巨人用の武装が出来次第、ホワイトポートを離れるか」
「はい。こちらでは、大変お世話になりました」
屋敷の書斎の中。悠々と書き物をしていたガナッシュさんが手を止めたのを見て、探索者3人は深く頭を下げた。
「なに、構わんよ。行く先は決まっているのか?」
「はい、一応は。とりあえずは一度メイズの街に戻って、ザクビー中尉と今までの事を報告。それから急な用事が無ければ、西部の森に向かおうと考えています」
「生活圏に近いのに、未開の地とも言える森か……探索者向きの場所だな。君達がそうするのが善いと思うなら、その通りにしなさい」
優しくそう言うと、ガナッシュさんは椅子に深く座り直す。そして何か足りない事が無いかと聞かれたりもし、改めて協力は惜しまないと言ってくれた。
だが、今までも十分な程に恩恵を受けているし、あまりにも援助を受けすぎるのは善くないと丁寧に断る。ただの探索者がやたらと裕福であったりするのは、色々なやっかみがあるに違いないのだ。
ガナッシュさんもそれは理解しており。俺達とウーアシュプルング商会の間のやり取り。こと、金銭に関しては、正当で妥当な報酬のやり取りしかなされていない。
それこそ帳簿を見せろと言われても、胸を張って清廉潔白であると言え。前の宴席から仲が深まった今となっては、厳格過ぎると思う程である。
俺達はこれからもウーアシュプルング商会との繋がりは大事にするし、向こうも大事にしてくれるだろう。だからこその一線だ。親しき中にも礼儀ありというやつだろう。
「しかしまあ。こちらも色々と手は打っているが、やはり大々的に動けんのがやりにくくもあるな」
「と、言うと?」
「生体兵器との戦争の危機。そう一言に言っても、平和な今、実感など湧きようが無い。ワシは少年少女達を信頼しているし、情報もある。そして事実、屋敷の近くに生体兵器が現れ、シャルロッテという身内の者が危険な目にあったから実感があるが、これは特異な例に過ぎん」
それもそうだ。
今のところ街は平和そのもの。陰謀が渦巻いていると知っていて、それを確かに感じているのは極少数の人間だけなのだ。
事情を知らない者から見れば、今までの俺達の事だって、何をやってるのか理解できないの一言で終わるだろう。むしろ、平和を脅かしているのは俺達に見られてもおかしくない。
シルベーヌも頷き、形の良い顎を触りつつ言う。
「生体兵器がやって来ますよ! 絶対やって来ますよ! だから準備して下さいね! って街の中で叫んでも、誰か聞く耳持つはず無いですしね。変な奴だって思われておしまいか、騎士団に捕まっちゃう感じです?」
「その通り。分かりやすいのが自然災害に対する備えだな。地震や洪水などはいつ起きるかは分からんが、起こった際に人と生活とを守る備えが必ず必要になる。必要だとも皆知っている。だが、そうそう起きるものではない。そして何も起こっていない時の備えは無用の長物。それ用の施設や装備、非常用の品々の維持だってタダではない。更に、人間は自分に恩恵の無い物、効果の分かりにくい物には金を出しにくい」
ガナッシュさんはそう返し、指先で丸を作って笑った。
「加えて。あまり大々的に『災害や戦争への備えをしよう!』と、平和な街にアピールするのは好ましくない。それが善意からとしても、社会に異様な不安を煽るのは好く思われないのだ」
「過度すぎる防犯防災意識は、日常を侵食して人々の心を張り詰めさせますし。張り詰めた空気は社会全体に影響し、諸々の経済活動にも響く……という感じでしょうか」
ミルファが小首を傾げて言い、解答の正否をガナッシュさんに求める。
「いかにも。それだけでは無いがな。まあ平和な世の中での非常の備えというのは、必要であるが中々に難しい。それこそ――」
机に両肘を着き、ガナッシュさんがニヤリと微笑んだ。
「目の前で誰かが死にもせん事には、大多数の理解を得れんものだ」
確かにその通りではあろう。そうなのだけれど、俺の胸の奥にはざわりとした感覚が駆け抜ける。
頭では分かっていても、あまり好ましくは思えないのだ。とはいえ。それ位の清濁は飲み込めない訳では無い。
何事にも必要とされる理由や流れがあり。こと非常事態への備えには、ある程度出血があってこそ社会全体が動き出す。血を流す必要が。誰かが犠牲になる必要がある。
(じゃあ誰が犠牲に?)
倫理も道徳も投げ捨てて言えば、俺の知っている人は嫌だ。見知らぬ誰かなら良いとさえ思う。
でも、それは善くない。見知らぬ人にも生活があり、家族が居て、知っている人が居る。見知らぬ誰かなら良いと思うなど最低すぎる。戒められるべきだ。
そもそも、犠牲が出るのはそれこそ俺のやりたい事では無い。死人が大量に出るのは嫌だ。ならどうする?
少しグルグルし始めた俺の頭に誰か気付くはずも無く、ガナッシュさんが話を続ける。
「まあ、もうしばらくはここに居るのだろう? それまでに、商会としてちょっと人型機械でやって欲しい事があってな。どうだ少年?」
声を掛けられた俺はハッとし、背筋を伸ばして微笑んだ。
「舞踏号で出来る事なら喜んで。でも、何をすれば良いのでしょうか?」
「なに。防災グッズの看板を握って立ってもらうだけだ。あの巨人は広告塔としては申し分ない。最近は人型機械自体も注目されつつあるし、効果はあるだろう」
「防災グッズって……あれですよね。配布した防災マニュアルを持って行けば、飛び切り安く売るとかいう」
「なんだ知っていたか」
ガナッシュさんはそう言って笑うと、机の棚から防災グッズが一通り入ったリュックを取り出した。値札が付いているままの代物で、その値札には昼飯代よりも安い値段が付けられている。
そのまま中身を解説されたが、しっかりした実用品のリュックの中身は非常食や水、医療品の他、非常の際に必要とされる品々が一通り詰められた物だ。どう考えても、この値段で儲けが出るとは思えない。
「実用品のワンセット。防災マニュアルがあれば、更に半額だ」
「これの半額って……どうやって儲けを?」
「儲けなどいらんいらん。配る事が目的だし、他で儲かっている。一応金を取るのは、いくらか払ったのだからと、物品の存在を意識させるためだな」
ガナッシュさんは手をヒラヒラとさせて笑った。
「これを売る主目的は、都市の人間に非常事態の際の動き方をまとめたマニュアルと、非常用の物資を広く普及させておく事だ。大雪が降ってくれて、急な災害への対応という大義名分も得た今だからこそ、スッと広まりつつある」
「……そうか。別に声高に叫ばなくても、珍しい大雪だから皆それとなく備えは意識してて。でも高いんじゃないかってところで、その防災セットが渡りに船で」
俺がハッとして言うと、ガナッシュさんは満足そうに微笑んだ。
天の助けとでもいうべきだろうか。ここ最近の天候が、僅かながらにこちらに味方してくれているのかもしれない。
ともかく。広告塔の役目はお安い御用だ。打ち合わせの後、また後日街中でという事になった。
と、言う訳で。その後日の昼過ぎ。
『防災フェア! 大雪への対応について、特別イベント開催中!』
なんて書かれた看板を握り。俺は車道にほど近い公園で、胸を張って立っていた。
戦化粧をした一本角の巨人が防災を謳う。それはいささか歪であったけれど、人々の目を惹くのは間違いなく。何事かと人が集まってきてくれている。
いつぞやした。アルさんのお店の宣伝と同じだ。見世物かと思った人が集まり、本来の目的である防災フェアへと誘われる。
公園に出された天幕には、本題の防災フェアの事を話している天幕と、暖かい飲み物と軽食を出す天幕の2種類があった。そのどちらでもストーブなどが置かれて、野外だけれど暖かい、独特の風情を醸し出している。
俺が以前と違うのは、喋らずとも良いと言われた事だろう。しかしまあ、無言で立って看板を掲げているだけというのも刺激が足りない。
「何かコイツ、向こうで雪かきしてた緑と違うよなー」
「確かに、ちょっと離れたとこにいた緑のと違うよな。緑のがじ……じ……じけー号? なんかそういうやつ」
「それそれ」
不意に足元に近寄って来た子供達。男の子の2人組が、俺を見上げて訝し気に言った。近くには親らしい大人がおり。男の子達の背には、防災セットの詰まったリュックがある。
俺は看板を下ろし、片手で自分を自慢げに指しつつ、足元の男の子2人に名乗る。
『俺の名前は舞踏号! 舞い踊る神話の戦士にあやかった名前だぞ!』
「うわっ!? 喋った!」
男の子2人が同時に驚き、周りの人々も若干驚いて俺を見た。
驚かせれて少々気分が良いが、なるべく怖がらせないように、そっと身を屈めて片膝を着く。
分厚い雪の絨毯が、巨人の足や膝でぎゅっと踏み固められた。
『ちゃんと中に人が乗ってるからな。喋る位は訳ないさ』
「へえー、何か意外だな。緑の奴とは違うの?」
『慈恵号はAI制御だと思うから、有人か無人かが違いになるのかな? 後はまあ見た通り、形も違うけど』
「ふーん……なあなあ、何かすごい事出来るの? 人型って空飛んだりするんだろ?」
『ジャンプが精いっぱいだよ。まあ凄い事って言われてもな……』
周りを見ながら一度看板を置き。苦笑いと共に思わず頭を掻こうとして、新しく付けた爪が装甲を傷つけると気付き、ゆっくり手を下ろす。そして溜息のような排気が、笑って見える口元のスリットから漏れ出た。
そんな一連の仕草を見て、足元の男の子達は笑った。
「変なの! 緑のより人間臭い!」
『中身が人間だからな?』
「それだけじゃないって。何か変だよ」
男の子達はくすくすと笑い、俺の膝元に歩み寄る。今までの訝し気さはもう無く、純粋な好奇心の目で巨人を見上げていた。
巨人が踏み固めた雪の絨毯が、子供の足で更に締まっている。
『あ、コラ。危ないから離れて離れて』
「えーちょっと触るくらい良いだろ」
『ダメダメ。雪降るくらい寒いから装甲が冷えてるんだ。素手で触ると張り付くかもしれないぞ? 張り付いたが最後、剥がす時に皮膚やら肉がベリベリって……!』
「うわー!」
爪の生えた指を立てて見せ、声色もおどろおどろしくすると、男の子たちは大袈裟に笑った。
それからも膝元の男の子達と話すうちに、段々と人が集まって来る。戦化粧をした一本角の巨人が子供達と話すのは、ただ立っているよりも、より印象深く周りに見えるようだった。
すると俺の膝元に、見慣れた金髪と銀髪が歩み寄り、微笑んで見上げる。ウーアシュプルング商会の仕事を手伝っていた、シルベーヌとミルファだ。
「我らがパイロットらしいわね?」
「はい。戦っている時より活き活きしてます」
2人はそう言うと小さく何事をかを話し合い。ミルファは小走りで舞踏号を乗せるトレーラーに向かった。
残ったシルベーヌは顔を上げると、これ見よがしに耳に付ける無線機を取り出し。そして小さな声で、無線越しに俺に問いかける。
「ブラン。ウーアシュプルング商会の人が”人気取り”をした方が良いって教えてくれたの。今でも十分親近感はあるみたいだけど、もう1歩踏み込んだ形でね」
『どうするんだ?』
「今できるのは、手の上に人を乗せてあげるくらいかな? ミルファが戦闘服に着替えに行ってるから、戻って来たらミルファが安全確保しながらって感じ」
『了解だ。細心の注意を払う』
無線で会話しつつシルベーヌに視線をやると、俺と会話をしていた男の子達が、何を内緒話しているんだとシルベーヌに言い始めた。
叱責では無く、何か面白い事をしようと言うなら混ぜろという雰囲気だ。それは和やかで、雪が積もる寒い公園なのに暖かい。
そこに背から追加腕を生やしたミルファが戻って来て、にこやかに俺を見上げた。
すぐさまシルベーヌが男の子達2人に手の上に乗ってみないかを話し、親御さん達からも許可を取る。
舞台が整えられれば、後は俺とミルファの仕事だ。
俺は両手を静かに下ろし、指を真っすぐ地面と平行に。そしてミルファが爪に気を付けるように言いながら、自身の両腕で男の子達をしっかりと脇に抱え。追加腕の手で、いつでも舞踏号の手を掴めるように準備した。
「良いですよブラン」
『了解。それじゃあ立つぞ!』
一本角の巨人が立ち上がる。そっと恭しく、ぐっと力強く。
背筋を伸ばし、雪景色の公園に立った舞踏号の手の平の上で、男の子達から歓声が上がった。
「結構たけえ!」
「すごいね!」
「この眺めを見れる人は少ないのですよ? 一番の眺めは肩の上ですが、そこは私の特等席です」
はしゃぐ男の子達を抑えつつもミルファは自慢げに話し、ちらりと俺の顔を見上げ。そして周りには見えないよう、俺にだけそっと追加腕でピースサインを見せつけた。
周りの人からも歓声が上がり、他にも何人かの子供たちが、自分も手に乗りたいとシルベーヌにせがみ始める。この子達を下ろしたら、また別の子達を同様に手に乗せてあげる事になるだろう。
そしてふと、俺は手元の子供達に聞いてみる。
『慈恵号……緑の人型機械はこういう事しないのかい?』
「しないよ。というかあいつは、何か時々動きがぎこちなかったりして怖いし」
「急にガクッてなったりするしね。そうなると、緑のに指示出してる兄ちゃんが凄く怒るんだ。ちょっとでもミスするとって感じで、周りに人が居ない時に緑の足蹴ってるとか噂もあるよ」
『それは確かに怖いな……』
「だろー。今も、ちょっと離れた場所で、何か花屋さんみたいな事しててさ。木の苗か何かを緑のが握りつぶしちゃって、めっちゃ怒ってた」
子供の言う兄ちゃんとは、確かリベラ・マルフィーリという名前だ。
前回慈恵号を起動させているところを見た時は穏やかそうであったが。子供の印象で怖い、怒っている、という言葉ばかり出て来ると言う事は、中々苛烈な人なのかもしれない。
2面性があるというよりは、他者の失敗に怒る事が多いのか。それとも――?
「でも、ぶとー号? は、違うよ」
俺の思考を男の子の声が止める。手の平の上の屈託の無い笑顔が、一本角の巨人の顔に向けられた。
「強そうな感じはあるけど、なんか近寄りやすかった。喋り出してからは気が抜けちゃってるけど」
「そうそう。ゴツイのに声がふにゃってしてる! そういう作戦?」
『ふにゃってるのは素! というか、そんな印象なのか俺は……』
「喋り出してから、ほら、なんだっけ」
「バケの皮がはがれる?」
「それそれ」
『渋いとか、威厳があるとかは?』
「無い!」
笑って一刀両断され、俺は手を揺らさないまでも肩を落とした。
喋るとダメってのはどうもいけない。そしてふと気づけば。子供達の話を聞き、ミルファが笑いを噛み殺して震えていた。
せめてもの対抗として、息を吹きかけるように口元のスリットから生暖かい排気を手元の子供達に当てると、子供2人は嬉しそうにはしゃいだ。
まあ、とにかく平和だ。本当に、これ以上無いほどの。
その後は一度子供達を手の平から降ろし、また別の子供を乗せて立ったり座ったりを繰り返し。簡易のアトラクションとそのキャストのような事をして時間が流れていく。
するとあっという間に時間は夕方に差し掛かり、人波もぼちぼち途絶え始めて来た。
「ウーアシュプルング商会の人達も、そろそろ撤収だってさ! 片付けの手伝いして、私達も帰りましょう!」
足元に戻って来たシルベーヌが明るく言い。同じく俺の近くで、折角付けた追加腕で重い荷物を運び終えたミルファが微笑んだ――その時だった。
熱い電流が神経繊維を駆け、濁りのあるノイズが頭を突き刺した。思わず体の動きが止まり、額に手をやるほどの強烈な違和感だ。
『なんだ……? ミルファ。今の聞こえたか?』
「はい……! ここまでのノイズは初めてです……!」
ミルファも俺と同様に額に手をやって、険しい顔で頷いた。
そして更に、道行く人の中に数人混じっているアンドロイドの人々も、皆頭を抑えている。それは違和感というよりも苦悶に近いようで、不安げな表情ばかりだ。
(おかしい。絶対におかしい――!)
確信した瞬間。空から何かの咆哮が轟いた。姿が見えずとも分かる、これは何か生物の声だ。
平伏せよと言わんばかりの威風堂々たる叫びは、音系センサが異常を訴え、装甲が小さく震える程の圧力を持っている。
当然。それは周りの人々にも聞こえており、皆が一斉に空を見上げた。
更に、遠くで空に向けて何条もの光が走り、何かが破裂するような音が鳴り続ける。それはホワイトポートの街の北側からで、街中の人間の視線が空を滑る。
「これ……対空砲の音……? というかそれって……!」
何かに気付いたシルベーヌの顔に、冷や汗が垂れた。
続いて鳴り響いたのはサイレンの唸り。周りに居る人々の誰からともなく、これは空襲警報だと声が上がる。空襲警報のサイレンは連鎖し、街中へと鳴り響き。不安が煽られて親子が身を寄せ合い。雪景色の豊かな街から、一気に活気が消えていく。
そして舞踏号が俺に叫ぶ。
正体不明機が接近している事と、脅威のレベルが段違いな事を。
サイズから察するに、異形の大型爆撃機であろう事を。
今すぐここから逃げ出して、安全な場所に退避するべきである事を。
次いでセンサが捉えた機影を俺の頭に叩き込み。自分の記録には無い機影の正体を、俺が知っているか問いかける。
『飛行機、じゃない……翼はあるけど違う。これは――?』
頭に浮かび上がる”爆撃機”のイメージ。
その姿を感じたままに俺が呟くと同時に、空から大きな羽音が轟き。巨大な影が都市を横切った。
前足と一体になった巨大な翼。太い後ろ脚と禍々しい蹴爪。そして太くしなやかで、鞭のような尾。全身を覆う、血のように紅く分厚い鱗と盛り上がった甲殻。
蛇と似て非なる頭部。その横に裂けた口には鋭利な牙が並び。大きな紅い双眸には、縦に裂けた燃えるような瞳が爛々と輝く。
古より綴られる力の象徴。人智の及ばぬ、威容ある生命――。
『竜……?』
信じられないという呟きが、口から漏れた。
全長70mはあろうかという赤く巨大な竜。それが雪景色の都市の空を駆けるのは、いかに戦後の世界とて異常すぎ。見上げる人々の頭が追い付いていないのだ。
更に竜の翼を追うように、沢山のグリフォンが遠くの空に見えていた。
そして赤く大きな竜は、夕闇迫る街の空で身を捩る。次いで威容ある両翼をいっぱいに広げてピタリと空に留まると、咆哮と炎滾る喉の奥から、太陽のような火球を吐き出した。
火球は港へと叩きつけられ、金属が軋む悲鳴と、人間の悲鳴が遠く響く。
街が燃える。人が燃える。平和が崩れ、火が走る。




