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第105話 ぐるぐる 2人の話

「ブラン。ちょっとだけ、一緒にバルコニーに行きませんか?」


 宴もたけなわという時。ミルファが小さく言った。

 断るほど無粋でも無いし、少し酔いを醒ます意味でも、外に出るのは良いと微笑み返し。2人連れ添ってバルコニーに出た。

 夜空には少し欠けた月が浮かび。屋敷周りの雪景色を淡く照らしていて風雅である。シャツの袖を捲っているので、腕と手に感じる夜の空気も心地よい。


 2人で並んでバルコニーの手すりに身体を預けると、ミルファがたおやかに微笑んだ。


「俺は飲んでるからか丁度いいや。ミルファは寒くない?」

「はい。でも少しだけ寒いかもしれませんね」

「それなら上着でも――」


 言いかけた時。ミルファはグッと俺との距離を詰めて来た。彼女の細い右肩と、俺の左肩が触れるか触れないか。そんな距離で、彼女は軽く右手を差し出す。


「上着も良いですが。こういう時こそ殿方は気を利かせるものですよ」


 いじわるな笑顔でそう言われ、少しだけ頬が熱くなる。おずおずと手を取ると、ミルファは腕を絡めるようにして俺にくっ付いて来た。

 心臓が跳ねる。


「こうした方が暖かいでしょう?」

「まあ、そりゃあ」

「ふふ。どんどん体温が上がって行っているのが分かります」


 しばらくそうやって腕を絡ませ、手を繋ぎ合ったまま雪景色を眺める。

 黙ったまま。だけれど何だか落ち着く沈黙が、俺とミルファの間に満ちていく。

 そのまま不意に、彼女はこちらに少しだけ身体を預けて来た。再び心臓が跳ねるが、何とか動揺を悟られないように繕って、なるべくいつも通りに声を掛ける。


「飲み過ぎた?」

「いいえ。まだまだいけます。ただ、こうして2人になれる時間はあまり無いので、堪能しようと思いまして」


 ぽつりと言った後、ミルファは微笑んで俺を見た。


「そうですね。良い機会ですし。少し、私の話を聞いてください」


 彼女の視線が、空に浮かぶ月へと向かう。


「私はメイズ島で製造されたアンドロイドではありません。生まれはルナにある、戦前の機械兵製造施設です。全自動で動く施設の稼働を止める事も出来ず、生まれて来るアンドロイド達を放置する訳にもいかない。何故ならば、生まれて来るのは”ヒト”だから。という感じです」

「機械兵って……」

「驚く程の事でも無いでしょう? ブランもさんざん見て来たはずです。私の銃器取り扱い、また戦闘技術に関しての根拠と言える部分です。諸々の技術は、生来刷り込まれた本能のようなものらしいですよ」


 淀みなく。彼女は穏やかに自分の事を語りだす。


「アンドロイドを製造する方法は多々ありますが、その多くは戦前の失われた技術によるものです。中でも私の製造方法は、戦前から残されているDNAライブラリを使って培養された人工脳を利用する方式です」

「人工脳にDNA? ああいや。戦前は何があったか分かんないだから、そういうもんか」

「そう解釈して頂けると幸いです。さて。私の場合は培養され、ある程度成長を促成された人工脳へ、特殊な電離バーストを流し込む事で、脳の有機的な神経構造などを無機物の専用記録媒体に転写するという手法です。こうして作られたアンドロイドは、ヒトの脳と寸分違わない能力を備えた上に。保存と拡張や、機能の増設が容易い”実用品”となります」

「……中々難しいな?」

「自分でも、これはただの受け売りなので何を言っているのか分かりませんよ? ともかく、そう言った一種の工業的な手法で生まれたのが私です。元の人工脳は焼き切れているので、正確に言えば、私は一度死んでいるのかもしれませんね」

「それは、また」


 思わず、隣に居るミルファを見る。

 だが彼女はじっと月を見上げたまま。穏やかな笑みには、何の迷いも戸惑いも無い。


「何機かの同型機……いえ、姉妹と共に製造された私は、しばらくの後に戦いに駆り出されました。生身の人よりも頑強で、四肢がもげても問題が無いのが私達です。そしてルナでも、戦前の暴走した兵器や生体兵器モンスターは暴れ回っており、防衛の為には人手が足りない。そんな危険から人々を守る為。戦える身体で生まれ、戦える技術を持った私達は、戦う事をこそ誇りとする日々を送っていました」

「戦う事か……」

「ですが。ある日の戦闘で私の手は止まりました。漂流してきた戦前の宇宙船へ乗り込み、有用な品々を見つけるか、船体全部を資源とするか確かめる。通常の任務です。そこで私は、いつものように中に居たゴブリンへ引き金を引きました」


 月を見ていたミルファの視線が、静かに手元へ降りて来た。


「ゴブリンの死体は、互いが互いを庇うように折り重なって倒れ、動かなくなりました。ただ死体が折り重なっただけの、他意の無い偶然です。ですが私は、その偶然を見て疑問を持った。『何故こんな事をしてるんだろう?』と」


 憐みとか、悲しみとか。化物といえど生き物を殺した事に、何かを感じたのだろうか。

 いずれにせよ。その時の彼女の心の揺らぎは、小さくとも確かなものだったのだろう。


「それ以後。今まで言われた事だけをただこなしていた私は、色々な事を疑うようになりました」


 にんじんが赤いのはどうして? モニターに動画や画像が映るのはどうして? 眠らないといけないのはどうして? 銃で生き物を殺すのはどうして? 私が女性型なのはどうして? 私が生まれたのは何故?


「頭の中はぐるぐると。身の回りの全て。自分の全て。それらに向けた疑問符の連鎖は尽きません。当然。急に悩みだした私を見て、姉妹も周りの人々も、気付くのは早かった」

「周りは、ミルファを見てどうだった?」

「こういった事は珍しい事では無く、むしろ歓迎されるべきであると、私達のお世話をして下っていた方々からは祝福されました。自我と個性の確立に至る第一歩であると説明もされ、とても嬉しかったです」


 どこか懐かしむように、ミルファは目を細めて月を見る。


「諸々ありましたが、私は地球テランへ送り出されました。厄介払いでは無く、色々なモノを見て来るようにという旅立ちです。自分で感じた疑問を、自分で解決できるようにという意味を込められての出立でした」

「ミルファも旅人だった訳か。それでやって来たのが、この島?」

「はい。元はもっと大きな街に居たのですが。メイズ島では人手が不足していると聞き、思うままに飛び乗った次第です。そしてこの身体を活かした力仕事何かをしているうちに、シルベーヌに出会いました」


 以後は。予想が付くでしょう?

 そんな言葉で、彼女は笑って締めた。


「長々と話しましたが、なんて事はありません。私は戦後の世界で生まれて。星の海を渡ってこの青い星にやって来た。ただそれだけです」


 にこりと笑うと、ミルファは俺と手を繋いだまま、体をこちらに向けた。


「それでも何故でしょうね。ブランに話すとスッキリしました。つまらないお話ですみません」

「まさか! 俺はミルファの事を知れて良かった。ありがとう」

「御礼を言われるような事ではありませんよ?」

「それでも、何かさ。昔の事を話してくれるのって嬉しいよ」


 俺の言葉を聞き、ミルファは一瞬意外そうな顔になる。しかしすぐさま微笑み直して周りを見渡すと、今度はいじわるに微笑んだ。

 俺もつられて周りを見たが、よく見れば男女が数組、距離を置いて立っている。皆距離が近く、目を凝らさずとも親しい仲なのだと分かった。その中には。何度か見た、余所者アウトランダーとメイドさんの2人組も居る。


「色々な事に疑問を持ち、自分なりの解答を得て来た私ですが。私には私だけで解決出来ない疑問が多々あります。その疑問の1つの解決に、是非ともブランの協力をお願いしたいのです」

「俺に出来る事なら。どんどん頼ってくれよ」

「では。遠慮なく」


 手を繋いだまま、彼女は俺の胸にそっと身を預けてきた。

 自然抱きとめるような形になり。ミルファの体温と、普段とは違う微かな化粧の香りが分かる。華奢な肩や細い腰が分かり。薄くも確かな肉付きも、全身で分かる。

 この子を大切にしたい想いと、もう少し腕に力を込めたい想いが拮抗し。握られたままの手に、どちらからともなく優しい力が篭った。


「……解答は出そう?」

「……諸々の疑問の解決には、まだ時間が掛かりそうです。ですが、1つだけハッキリした事があります」


 小さく聞くと、ミルファもまた小さく返す。


「こうしていると、私は幸せです。この幸せは、独り占めするにはもったいないくらい」


 穏やかで、それでも弾んだ声が嬉しそうに響き。月明りの下で、満ち足りた沈黙が続く。

 その後。皆の居る大部屋から俺とミルファを探す声が聞こえ、ゆっくりと身体を離す。


「戻りましょうか。今の事は、お酒の所為という事にしておいてくださいね?」 

「了解っ」


 そうやって2人で微笑むと足並みを揃え、大部屋の中へと戻って行った。



 それからまた時が過ぎ。宴も終わりという頃。

 ガナッシュさんの、片付けはまた明日という大号令の後。ばらばらと各々の部屋に戻って行く人が出る中。

 俺は机に突っ伏して幸せそうにするシルベーヌの肩を揺らした。


「う”-……」

「大丈夫か?」

「うん……水飲んで休んだら平気……」


 シルベーヌはそう唸ると、大きなコップで水を飲み。再び机に突っ伏した。

 こりゃあ駄目だな。なんて視線を隣に居たミルファに送ると。彼女はシルベーヌと同じく電池が切れそうな状態で椅子に座る双子を、そっと撫でていた。

 俺もふわふわして心地良いが、このままシルベーヌを置いておくのは男が廃る。


「ほら。部屋まで連れて行くから。ここで寝たら風邪引いちゃう」

「うん……ごめんね……」


 グッと力を籠め。シルベーヌの背と膝の下に手を入れて、身体を持ち上げる。いわゆるお姫様だっこだ。

 日頃の筋トレのお陰でグラつくことも無い。こういう時の為だけという訳では無いが、格好を付けれるので鍛えた甲斐がある。

 大部屋を出て廊下を歩いていると、不意に抱えられたままのシルベーヌが恥ずかしそうに呟く。


「……重い?」

「ちょっとな」

「馬鹿」


 トン。と軽く胸を叩かれた。

 どこか甘えるような、心地よい叩き方に思わず頬が緩む。

 その後は2人黙ったまま、そう時間もかからずシルベーヌの部屋へ辿り着くと。彼女の身体をそっとベッドへと横たえた。


「もうちょい水飲む?」

「うん……」


 部屋の隅に用意されている簡易の冷蔵庫から、水を取り出しコップに注ぐ。

 そしてベッドに戻ろうと振り向くと、シルベーヌが着慣れぬドレスを脱ごうともがいており。まるでベッドの上で溺れているようだ。

 見てはならないと目を逸らし。衣擦れの音が治まって着替えが終わった頃。俺は視線を戻して言う。


「水持って来たよ」

「うん、ありがとブラン……」


 脱いだドレスは綺麗に畳み。質素なシャツとパンツだけで、ベッドの上に横たわる彼女の姿は。今の俺には刺激が強すぎる。

 何となく目を逸らす俺からコップを受け取り、グッと水を飲んだ後。シルベーヌは満足そうに枕に顔をうずめ、嬉しそうに呟く。


「……こういう事って、凄く幸せだな……」

「美味しい物食べて、美味しいお酒飲んで。色んな人と楽しかったしな」


 俺はベッドに腰かけ、ちょっとだけ見栄を張った腕を休めつつ返した。

 するとシルベーヌは、顔をうずめている枕にしがみつくように手を伸ばす。


「それもあるのかな。私には甘えていい人がいるって思うし。子供の頃と違って、ご飯食べる時も今は独りじゃないなって……。誰かが居て、一緒に居れてさ……」

「……昔を思い出す?」

「ううん。今が嬉しいし、楽しい。でもなんだか、頭がぐるぐるしちゃって……」


 そう言うと、枕を抱えて口元を隠したまま。ごろりと横を向いた。


「ブランみたいにさ、私も悩む事はいっぱいあるの。これからどうなるんだろうとか、何か大変な事になっちゃったなとか。今のままで良いのかなとか」


 彼女もまた。胸の内には色々な事が渦巻いているのだ。


 悩んでいるのは俺だけでは無い。シルベーヌもミルファも、シェイプス先生も。きっとタムやティムにも、色々と説いてくれたガナッシュさんにだってあるだろう。

 言葉にせずとも分かっていた事だが。皆が皆、微かな迷いや悩みがある。俺を支えてくれると言った2人もそうだ。

 過去を参考に、未来を善くするために。現在をぐるぐると悩む。

 ガナッシュさんは悩めと言ってくれた。それはきっと、人生経験ある年長者の余裕と優しさだ。だが、周囲の状況が待ってはくれない事も有る。

 どこかで答えを出さなければいけない。どこかで踏ん切りを付けなければいけない――。


「でもね。正直私は、どう転がっても良いかなって想えるの。私には、私よりぐるぐる悩む上に、何だかぽやんとしてるパイロットが居るから。その背を支えてあげるのが私は楽しいし。一緒に居ると、どんどん新しい事が起こるから楽しいの」


 枕を抱きしめたまま。ぽつりぽつりと嬉しそうに笑い、俺を見る。

 彼女は納得をしているのだ。納得して、自分で自分の進みたい事をしている。どんな胸中であれ。俺と一緒に居たいと想ってくれてくれているのだ。

 そんな想いに触れて思わず頬が緩む俺を見て。シルベーヌも頬を緩めた。そしてどこか潤んだ目で、俺のシャツの袖をそっと握る。指先だけで、おずおずと。


「……どうした?」

「……今日はさ。1人で寝たくないなって……。楽しいのが終わるのは寂しいから。楽しいまま、楽しい夢を見たい……」


 普段のしゃきしゃきしている物言いと違い、駄々を捏ねるような甘い声。

 その言葉をどう受け取って良いのか。むらりと立ち上がる想いと、この子を大事にしたいという想い。2つがせめぎ合う中。俺は枕で口元を隠したままのシルベーヌの頬を撫でた。

 くすぐったそうに、心地よさそうに彼女は微笑むと。頬に触れている俺の手に自分の手を重ね、小さく力が籠る。


 その時。遠慮するような音で、扉が小さくノックされた。


「ミルファかな。一緒に寝たい」


 満面の笑みでシルベーヌが言い。早く出るよう俺を急かした。

 言われるままベッドから離れて扉を開くと、部屋に入って来たのは、眠そうなミルファに連れられた、同じく眠そうなタムとティムだ。


「2人が、どうしても一緒に寝たいと」


 もう目蓋も閉じそうなのに、双子はミルファの両手にしがみついて、何か言いたげに顔を上げる。言わんとする事は良く分かる。それに、これは丁度良い。

 誰からともなく大きなベッドに倒れ。俺もとうとう体力と気力が尽き。ベッドの隅に身を横たえる。

 目を閉じれば、身体に残っている楽しさの余韻が幸せな微睡みを誘う。近くにいる誰かの寝息が、独りでは無いと気を緩ませ。すぐに楽しい夢へと引き込まれて行った。

 皆が幸せで、皆が平和な、楽しい夢に。




 それからまた何日か。

 宴席の日からは何となく、皆と前よりも距離が近くなったのを感じる。不思議な一体感には、ひとつの共同体という無自覚な共通認識があるのだろうか。

 そして昼前。俺は舞踏号に乗って、相変わらず雪景色の屋敷の庭に立っていた。


「はい動作チェック! 全体確認!」


 シルベーヌの明るい声が足元から響き。(舞踏号)は深呼吸をする。


『相変わらず鼻が利かない位で、他は特に大きな異常無し。新しく付けた”爪”も異常無しだ』


 そう言うと、(舞踏号)は自分の両手へ視線を落とした。

 指先には、超硬度金属で出来た爪が生えている。物を握る際や拳を握るのに邪魔にならないよう、それでも爪を立てれば薄い鉄板くらいは引き裂けるように調整されている、指に対して僅かに大き目の爪だ。

 足袋を履いたようなつま先にも、同様だが大き目の爪が2つ。踵にも同じ素材でカバーが設けられている。


「初の固定武装。って事になるのかな? あんまり上品じゃないけど、格好は付くわね。ガオー! なんて」


 シルベーヌはそう言うと獅子のように吠えて見せ、両手の爪を立ててミルファに笑いかけた。

 吠えられたミルファは、爪を立てた両手を優しく握って微笑み返す。


「直感的な武装の一つでしょうね。殴打の多いブランにとっては、舞踏号の指先を保護する意味もありますし。そして手足の爪もですが、やはり目立つのは額でしょう」


 見えるものでは無いが、(舞踏号)は自分の頭へ視線をやった。

 額のど真ん中。せり出した額当ての部分に、端材で作られた、真っすぐな一本角が設けられたのだ。額から頭頂部の方へ角度を付けて向けられた、片刃の剣のような角である。

 とは言え。角は鋭利に研がれている訳では無く、武器になるような代物では無い。本当に装飾以外の目的は無い角だ。強いて言えば、ミルファが舞踏号の上を移動する際に手を掛けれるくらいだろう。


「トレードマークになるし。これで視界不良でもシルエットでパッと分かるわ。見栄も張れるしね」

『タムとティムにも褒められたしな』

「ケレンの民にとって。角は勇ましい戦士の証だそうですしね。それに、昨今は人型機械ネフィリムへの注目度がグンと上がっていますから、ハッキリ他の機体と区別できる部分は良いはずです」


 そう言うと、ミルファはポケットにねじ込んでいた新聞を広げた。

 俺も何度も読んだが、改めて膝を折って正座をして、ミルファの持つ新聞を覗き込む。


『記録的大雪! 雪かきに活躍する古の巨人は、人々の心強い味方となるか!?』


 大袈裟な見出しと共に、一度見た緑に白の人型機械ネフィリム……慈恵号の写真が大きく一面を飾っていた。

 記事には他にも、発掘品の人型機械ネフィリムのパーツの値段が徐々に上がっている事や。民間の企業でも人型機械ネフィリムの導入が考えられていたりという話がたくさん載っている。


「御屋敷の人とかから聞いたけど。知る人ぞ知ると言った感じだった舞踏号の活躍がじわじわ広まるのと。この前のマルフィーリ商会の慈恵号が派手に人目に触れてるのが相まって。人型機械ネフィリム自体が良い話の種になってるみたいね」


 シルベーヌが苦笑いし。舞踏号の活躍と、慈恵号や騎士団の307(サンマルナナ)小隊の活躍とが混ざって、ホワイトポートでは噂に尾ひれが付いたりしているようだと続けた。

 それを聞いたミルファがくすくすと笑い。新聞記事から顔を上げる。


「噂が広まり過ぎると、妙な目で見られるかもしれませんね。いずれにしろ、そろそろこの街を離れる時でしょう」

『そうだろうな。エミージャが今も何してるか分かんない。けど、俺達もそろそろ動かないといけない』


 (舞踏号)はそう答えると、ふと視線を感じて空を見上げる。

 空の向こう、島のどこかから。目がこちらを見ているような気がしたのだ。

 大きな紅い双眸が。俺と舞踏号を見ている気が。

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