罠と壁
「最後になったけどみんなにはこれを渡しておきます」
石神が取り出したのは筒状の斜めがけのカバンだった。
「魔物のドロップアイテムはちゃんと回収してきてね。それは君達のお金へと変わるから取らない理由はないと思うけど」
お金…か。なぁ、雪乃。俺の貯金っていくらだっけ。
《そんなものは無い》
はぁ?Sランクの依頼をそこそここなしてたからウン万円はあるはずだぞ。
《忘れたのか。お前がこなした依頼の報酬は全て施設に渡すことになってるんだぞ。その代わりに衣食住やお前の我儘を叶えてもらう契約だったろ》
そうだったかな。ま、なら今から貯めればいいか。
「それじゃあカウントダウン。10…9…」
カウントダウンが始まる。貰ったカバンを肩にかけ、ポケットから黒い革の手袋をはめる。そしてカウントダウンが5秒をきった時、俺は地面に両手を付ける。
久しぶりに本気だぞ雪乃。
《あぁ、そうだな》
俺は今どれくらいいけると思う?
《さぁ、だがここにいる全員がお前にはかなわないだろうな》
そうか…ならいい。
《ニヤけてるぞ》
ほっとけ
「3…2…1…スタート!」
その瞬間に魔法を発動させる。俺の魔法に気づいて飛び上がったのは石神だけか。地面に冷気が広がる。そして、地面に触れているものを凍らせる。
石や小さな動物なら全体を。人間なら下半身全体を氷で埋める。俺の全身からも冷気が出ていた。
「てめぇ!黒鉄!ふざけんな!」
田中が俺に罵声を浴びせる。痛くないものなんてなんの役にもたたんだろうに。周りを見渡すと、すでに氷を砕き始めている者がいた。もう少し楽したいからそうだな…壁を作るか
5メートルほど歩き振り返る。再び地面に両手を付ける。すると今度は幅1メートルの壁が迫り上がる。
「メチャクチャ硬くしてるから、登るか回り込むかした方がいいぞ」
壁の向こう側にそう呼びかける。
《意外と良心的じゃないか》
そんなんじゃない。試験に参加出来ない生徒がいたら俺がどうなるか分からないだろ。
そしてダンジョンへと続く螺旋階段を駆け下りる。