少女と少女
《相変わらず黒いな、お前は》
これが一番落ち着くんだよ。鏡を見ていると雪乃がそんなことを言ってきた。俺の服装は上下ともに真っ黒でどちらも俺の体にぴったりなサイズなので細い。
肩からは背中の真ん中辺りまでのマントのような物が腰からは膝の下あたりまでのマントのような物が。シルエットだけなら人間かそれ以外の何かか分からないだろう。
《何なんだ?そのヒラヒラは》
これは埃や砂塵何かを受け止めるものだ。この後人と会う約束をしてる時なんかはこれを外すだけで済む。そして何よりカッコイイだろ!
《男は単純だな》
呆れ混じりのため息が聞こえた。なんだろう、すっごい恥ずかしい。こういえばいいって言ってたのになぁあの人は。
《ん〜。どこかで見たことがあるな》
さぁ、どこだろうな。そんな事より雪乃、1度出てきてくれないか。そう言うといつもの青い光が姿を現す。一瞬の輝きの後雪乃が現れる。
「なんだ?」
「血の儀式だ」
「分かった。対価は?」
「そうだな、そこまで長い時間じゃないから。少しでいいだろう」
「了解だ」
血の儀式とは幻獣の契約者が自らの血や肉を対価として幻獣の力を得るものだ。
「我が契約者に我の持つ力をさずける。契約者、黒鉄海斗よ汝の血を捧げよ」
俺と雪乃の足元が光り出し円が浮かび上がる。円が何重かで、幻獣の強さがわかる。最高は十、雪乃は七。これでもすごい方で八以上は世界中を探しても両手の指で数えられるほどなんだとか。
「我が名は黒鉄海斗。我の血を対価に、力をさずけたまえ」
俺は腰についている剣で手首を切る。傷口から出る血を雪乃がすする。どれくらい吸うかは雪乃が決めることになっている。
「これくらいでいいだろう」
結構持っていかれたなぁ。貧血で倒れたりしたら目も当てられないな。そして雪乃が俺の首に手を回す。そしてまだほんのりと血の匂いがする唇が俺のものと重なる。
儀式の最後には何らかの合図が必要になる。それは握手でもハイタッチでも、もっと言えばグータッチでもいい。が、契約当時の雪乃がふざけてキスと言うと本当にそうなってしまったのだ。
雪乃が俺から離れると青い光の粒になりペンダントではなく俺へと入ってきた。光が全て入るも俺の体から冷気が出てくる。
《海斗冷気が漏れているぞ》
すまない、久しぶりだから感覚が掴めないんだ。2分ほどで冷気を引っ込め更衣室を出る。
***
どうやら最後だったようで、他は全員集まっていた。生徒達の装備はバラバラで、鎧に身を包む者や、俺のような軽装の者もいる。
《まるで調査隊みたいだな》
そうなるのかな、まぁ…誰とも協力するつもりなんてないんだけど。
《出来ないんだろ?》
ほっとけ…。
「全員揃ったね、最後にもう1度確認しておくね」
石神から、この試験のことを再度説明される。いいから早くしてくれよ。
「君、黒鉄くんだよねトーナメント優勝者の」
「あぁ、そうだが」
「私、藤村桜。よろしくね」
藤村はおっとりとしていて誰にでも優しいそんな感じの少女だ。髪は短く背は少し低い。いかにもな優等生な感じだ。だが、俺の対応は昔から変わらない。
「悪いが協力するつもりない。俺と話をするのは時間の無駄だからほかの奴を当たってくれ」
「あんたねぇ、桜が気を使って話しかけてやってんのに!」
藤村の後ろにいた俺と背丈の変わらない金髪のサイドテールの少女が俺の肩を物凄い力で掴んできた。
「痛いんだけど」
「良いんだよ有利ちゃん!ご、ごめんねこの子は須藤有利ちゃん。ホントはいい子なんだよ」
「言い訳ないだろ、こんな人の善意を踏みにじるやつは魔物に食われちまえばいいんだ」
「有利ちゃん!」
俺の態度が須藤の感に触ったらしい。どうでもいいんだけど。そしてその須藤の態度が今度は藤村の感に触ったらしい。どうでもいいけど。
「はぁ、ハッキリ言った方がいいみたいだから言うぞ。俺に話しかけないでくれ。偽善者と他人に自分の正義を押し付ける面倒なやつとは関わりたくない」
「てめぇ…やっぱりここで…」
「分かった…ごめんね…行こう有利ちゃん」
藤村が須藤の腕を掴んで離れていく。
《幾ら何でも言いすぎだ》
俺なんかと一緒にいるくらいなら今日だけ傷つくほうがいい。
そしていよいよ試験が始まる。