試験内容と驚愕
寮に戻り後は風呂に入って寝るだけになった。魔法士養成学校の寮はヘタなホテルよりすごしやすく、1人で住むには少し広いぐらいだ。
「雪乃、出てていいぞ」
青い光がベットの上に集まり、雪乃が姿をあらわす。結構様になってるじゃねぇか。ボフッとフカフカのベッドに雪乃が寝転がる。
「俺は風呂に入ってるから大人しくしてろよ。あと、誰も来ないだろうが誰か入ってきたらペンダントに戻って監視して俺が戻ったら報告をしてくれ」
「了解した。変な所で慎重なんだな」
「いつも慎重で冷静だろ?」
「え?」
「え?」
「あ…そうだな…」
その優しさが辛い!
寮の設備もなかなかの物で、パネルに触れるだけでお湯が出てくる。最初は本当に苦労した。便利なのは時に面倒だったりもする。つまり慣れるまでは風呂に入るのが嫌だった。
バスルームには大きな鏡が付いていて俺の体がうつっている。俺の体には大きな傷跡が3つ残っている。左肩、右脇腹、背中。あの時から俺は人を信じられなくなった。そう…あのSランク昇格試験の時から…。
「…クソッ!」
思わず壁を殴ってしまう。ドンッという音がおそらくベットにまで聞こえていただろう。
「何かあったのか!海斗っ!」
大きな足音とともにドアがバタンッと開けられた。
「すまない…昔の事を思い出してしまっただけだ」
「…そうか。なぁ海斗…」
「なんだ?」
「いつになればお前は人を信用できるんだ?もちろん、あんな事があったんだ無理にとは言わない。でも、少しくらい…」
「雪乃…その話はしない約束だ…」
「そう…だな…」
ドアが閉められ雪乃が戻っていく。おそらくアレに気付いたからだろう。玄関、窓、ベランダベットの下、机の中、あらゆる場所に設置してある鉄の球に。
信用なんかできるわけがない。アイツらは自分の利益のためなら他人の命なんてなんとも思ってないんだから。
「…ハッ…ハハ…」
乾いた声が喉から漏れ出た。俺は人間が嫌いだ。なのに、俺もその人間なんだと思い出したからだ。
✴︎✴︎✴︎
昨日はあまり眠れなかった。いろいろな事を思い出しすぎたんだろう。俺が許容できないほどのことを。席に着きHRまで時間を潰す。
「はーい、みんな席についてー」
チャイムが鳴り石神が入ってきた。今日はダンジョンへ潜る人なっている。俺は初めてではないがこの中にもそんな奴がいるのか?
「さて、まず最初に君達にはこれを付けてもらいます」
渡されたのは黒い時計のようなものだった。
「これは、君達の生命活動と魔力量を遠くから確認するためのものです。ダンジョンち潜っている間は外さないように」
なるほど、これで各階層に配置された職員が緊急時は駆けつけるわけか。
「これを許可無く外した場合は即失格、潜った深さは0メートルと鳴ります」
失格?これ、何かの試験だったか?生徒の能力を測るものじゃないのか?
「そして、これが最重要事項。今回君達には潜った深さを競ってもらいます。そして最下位は…」
少しの間。クラスメイト全員が注目している。ここまで言われたら大体予想できるけどな。
「退学してもらいます」
クラスメイト達が一斉に騒ぎ立てる。うるさい、急に大声出すなよ。あと、うるさい。
「正当な理由なく、退学に出来るわけないだろ!」
田中が怒鳴りつける。だが、正当な理由はある。
「正当理由はあるぞ」
つい、口を出してしまった。
「なに?」
「ここは魔法士を育てる学校だ。ダンジョンで一番浅い所にまでしか行けない生徒が調査隊や治安維持隊に慣れるわけないだろ」
口を出してしまったのだから仕方がない。ここまで言えばバカでも理解して黙るはずなんだけど…黙るよな?
「その通り、まっ…受け入れろとは言わない。ただ理解しろとだけ言っておこうかな」
コイツ楽しんでるな。この時のためだけに、教師をやってるとまで言える。
「9時からダンジョンに潜ってもらうからみんな準備してね」
そう言って石神は出て行く。俺も行くか。
クラスメイト達は俺のようにさっさと移動する者、協力しようと声をかける者、なにもできずただただ混乱する者など、様々だった。
ただ1つだけ言えることは、俺は退学しないということだけだ。