海斗と雪乃
魔術士養成学校。それは、ダンジョンの入り口の大穴の上にある。ダンジョンとは人ならざる異形の存在、魔物のすみか。日本には現在北海道、仙台、東京、大阪、九州の5つの場所に大穴があり、その上には魔術士養成学校が大穴に蓋をする形で建てられた。
この世界には魔法が存在し、体内の魔力を様々なものに変換することができる。魔力とは生活をする上で必要なエネルギーのことで、消費すればするほど体内の魔力の最大量が増える。
最大量が増えればその魔力を腕力や脚力に使え、常人ではありえないほどの力を発揮できる。魔力は日常生活ではほとんど使用されず、魔力を力に変換して使用するか魔法を使用することによって消費される。
人間は睡眠や食事などで魔力を回復できる。これにより、時間さえかければいくらでも魔法を使用できる。しかし、体内の魔力が一定量を下回ると体に様々な影響が出る。目眩や吐き気が出始め、魔力が尽き掛けると気を失い魔力が最低限回復するまで目覚めない。
全く、この程度の知識数年前から持ち合わせている。お腹空いたなぁ、お昼まだかな。
《だらけるのは良いが、警戒は怠らるなよ。海斗よ》
あぁ、分かっている。あの女教師、石神とか言ったか。あいつは凄腕の魔法士なんだろ。おそらくSランクの。
《そのとうりだ、私は今あまり魔力が残ってないからな。昼休憩までは出来るだけ目を離すな》
了解。その言葉を聞いて、俺は首にかけている硬い氷のペンダントを見つめる。ペンダントは弱々しく光っているだけだった。
そして、チャイムがなり昼休憩の時間となった。
「それでは、今回はここまで。昼休憩が終わったらグラウンドに体操服で集まるように」
そう言って石神は教室を出て行った。さて、俺もメシにするかな。鞄を掴み教室を出る。近くの階段を登りきって屋上に出る。屋上まで来た理由は決してなにかをこじらせているわけではなく人に見られたくないことがあるからだ。
「雪乃。もう出てきていいぞ」
するとペンダントから青い光が出る。青い光は空中で一点に集中し、一瞬眩く輝く。そして光の中から長い黒髪の俺と同じ黒をベースとした制服を着た少女が現れる。
「海斗、受け止めろ」
地面から離れ過ぎたところに出現したせいで雪乃は落下するかのように俺へとダイブしてきた。
「受け止めろって言うんならもう少し下に現れろよ」
「結構難しいんだ、文句を言うな」
これが、俺の最大の秘密。雪乃は人ではないが限りなく人に近い魔物だ。本当の姿を見せなければ人との差は無いに等しい。
俺は屋上の隅に座り鞄から弁当を取り出し、蓋を開ける。
「お前も食べるか?」
「私に食料は必要ない。そのかわり…」
そう言って雪乃は俺に顔を近づけ唇をつける。魔力供給。吸血や口付け、接触でもいいらしいこれらの行為をする事で魔力の供給が出来る。吸血で良いならと最初は俺が自らの体を切り血を飲ませてやっていたが雪乃はこの方法を選んだ。
理由は雪乃いわく、『私はとても寂しがりやで臆病なんだ。だから、こうでもしないとお前が逃げてしまうかもしれないと思ってしまうんだ』だそうだ。
逃げるわがないのにな。俺、黒鉄海斗と雪乃は恋人や婚約者なんかではない。お互いの命を繋げ合う。そんな関係だ
「今ので十分か?」
「あぁ、すまなかったな」
「謝るな。俺たちはこれで良いんだ」
「魔力を吸ったら少し眠たくなってしまった。膝を貸してもらえるか?」
「好きにしろ」
膝の上に雪乃の頭がある。こんなに無防備なら殺す事も出来る。殺しても構わないのだ、なにせ雪乃は魔物だから。しかし俺はそれをしない。コイツの力が必要だから。
俺はしばらく無言でご飯を食べていた。この学校に来て約1ヶ月。雪乃の事を隠していたわけではないが、詮索されるのが嫌だったから友達と呼ばれるものを作らなかった。
この学校の主な授業は、魔法や魔力の知識に関する授業、魔法の実技の授業、ダンジョンに入って行う実践の授業の3つ。実践はまだやっていないが近々やる予定だそうだ。
ん、そろそろ時間か。時計を見てこれからの簡単なスケジュールを立てる。更衣室に行って体操服に着替えそのままグラウンドへ。5分前には付いていたいのでそろそろ行かないとな。
「雪乃。そろそろ移動だから寝るんならペンダントの中で寝てくれ」
「ん、んん。あぁ、もうそんな時間か。もうしばらくは寝ているが何かあったらすぐに起こすように」
「了解した」
雪乃は青い光になり、今度はペンダントに入って行った。先ほどとは違いペンダントは青い光を強くしていた。魔力供給のおかげか。
魔物は基本人間と同じように魔力を回復できる。しかし、雪乃は封印された時に付けられた呪いによって魔力の自己回復が出来なくなっていた。
俺と雪乃は利害の一致により契約を結んでいる。ある領域に達した魔物は幻獣と呼ばれ場所によっては崇められたりするそうだ。そして、人間は幻獣と契約する事で魔力の最大量を高めたり、規格外の力を出せるようになる。
幻獣が契約する理由は気まぐれやただの好意なんだとか。力ある幻獣にとっては人間に力を分け与えるくらい暇つぶし程度にしか思ってないらしい。
幻獣である雪乃は俺と初めて会った時、封印されていた。呪いによってもうじき魔力が尽きかけていた雪乃は俺に魔力の提供してくれと助けを求めた。
逆に俺は魔物に追い詰められ戦えないほどにボロボロだった。魔物を倒してくれた雪乃に助けを求めた。雪乃は俺の魔力を限界まで吸い魔物を撃退。
しばらく気を失い目覚めた時にはすでに契約が交わされていた。俺は力を、雪乃は魔力を手に入れた。
更衣室に行き体操服に着替え、グラウンドに出る。そこにはすでに数人の生徒と石神がいた。
「このクラスって何にんだっけ?」
「えっと、36人です」
クラスの中でも大人しそうな女の子(名前は分からない)に話しかける石神。
「おっ偶数じゃん。次の授業は対人魔法の訓練で一対一のトーナメントをやろうと思ってて」
トーナメントか、二回戦ぐらいでわざと負けよう。目立つのは面倒だからな。
続々と集まる生徒達。トーナメントと聞き準備を始める者や、友達同士で作戦会議を始める者。俺と同じように一人でただただ時間の経過を待つものもいた。
そして、チャイムが鳴りいよいよトーナメントが開始された。
このお話は少し長めのものをゆっくりと投稿して行きたいと思っています。