9、忠誠を誓う *ファールSIDE(2)
ファールがデレデレです。
ファールがデレデレです
*大事なことなので2回言いました。
主は、何をしている?
住処につき、話をしようと思った矢先、主が真剣な顔で黙り込んでしまった。
まさか、ここが気に入らなかったか。綺麗にしているつもりだが、主は女の子だ。
こんな飾り気のない場所は例え綺麗だろうが嫌かもしれない。
ああ!なぜそこまで気が回らなかったか!唯一の主に嫌な思いをさせてしまって何が従魔だ!
謝ろうと口を開く。
「主よ……っ?!……!!??っ!」
主の魔力が大きく減った?!
気配察知に敵は……かかっていない。そもそも、この場所は限られた奴しか知らない。
だとすると……主が自分で……?
あの量の魔力が一気に吹っ飛ぶ魔法だと、ここら一帯は消滅するかもしれない!
とっさに主と我に結界をはる。
これで持てばいいが……。
しかし、その思いはある意味裏切られた。
そう、いくら待っても魔法が来ないのだ。
失敗?いや、ありえない。確かに魔法は成功した。失敗したなら使った魔力が分散し空気に交じり、空気中の魔素が濃くなるだろう。
遅効性か?いや、だったらどっかに魔力が存在してるはずだ。
成功したのは明らか。しかし、何が起こったのか分からない。
主を確認すると、ハッ!と何かを閃いたような顔をしてポーションを取り出している。
すると、小さくガッツポーズをし、時間がたったらまた飲んでいく。
飲む待つ飲む待つ……
10回ほど繰り返した頃か。
主がこっちを向いてパアっと微笑んだ。
くっ!主が可愛い。なんだ、あの可愛い生物は。
緊張感のない思考が脳に広がる。
「ファール……見てて」
何をだ?と我が言う前に変化が起こる。
主が異空間から大きなものを取り出したのだ。
驚く我に主は言う。これは<ベッド>という、と。
いや、ベッドというものは知っている。大体の種族はそれの上で寝るのだ。
我が驚いているのはその質だ。
ベットとは、藁の上に布を敷いたものだ。
しかし、主が出したものに藁が使ってある感じはない。
……きっと主はこれの価値をまったく理解していない。
今、どれだけ凄いことをしたかも理解していない。
そして
こんなものを持っている自分の価値も理解していない。
力が抜ける。
ああ。守らなければ、と思うと同時に自重してほしいとも思う。
けれども、もっと主の凄いことを【我だけが】見たいとも思う。
これが独占欲と、気づかなくても良いことに気づく。
もし、主を悲しませるものがあるのならば、
我が消そう。
そう決意し、自重しない主に視線を送る。
何を勘違いしたのだろうか。
「ごめんごめん。ファールの分もだすよ」
と言って<布団>というものをだす主。
なぜ従魔に物を与えるのだ、なぜ従魔に謝るのだ、言いたいことは沢山あったが、主からのプレゼント、に喜びを隠せない。
主が我を気遣ってくれたこと、我を信用していることに、らしくない笑顔がこぼれる。
ああ。幸せだ。こんな可愛く優しい主に会わせてくれたことを、神に感謝する。
尻尾が振れていたか。主が我を撫でだした。
……?なぜ、従魔を撫でるのか。従魔とは奴隷と同じで、踏みつぶす、いじめる、は分かるが、優しくするなど聞いた事がない。
? 我が神獣だからか?
本来、神獣は人族より崇められ、怯えられる存在だ。
そんな神獣の毛皮を撫でるなど、普通、命知らずも良いところだ。
我は神獣の中では比較的穏やかな方だが(今は)、もし、人族に撫でられるなどされたら、怒ってしまうかもしれない。
いや、でも、どんなに高位な従魔も奴隷と同じように扱うのが普通では?
主が、分からない。
従魔になった時に、されたいわけではないが、主にならどんなことをされても良いと思った。
それでも、この少女についていこうと誓った。
神獣ではなくファールとして生きていこうと思った。
ああ。不思議だ。
撫でられると怒るどころかうれしく思う。
もっと撫でてほしい、という感情が溢れる。
もはや、主を撫でたい、とまで思ってしまうが、そこは理性で抑え込む。
これ以上は理性が危ないというところで、主にやめてくれと、暗に伝える。
中々やめてくれず、やっと止めてくれたと思ったら
「ファールが従魔でよかった」
と呟いたではないか。
くっ!どこまで主は我を悶えさせるのだ!?
抱きしめて愛を囁きたい衝動にかけられる。
なぜ、さっき会っただけの少女にこんなに執着するのだろう。
これが、契約した効果か?運命の力か?それとも……初めての自分に対しての好意が気持ちの良いものだからか?
……たぶん、全部だろう。
この主を我は、全部、魂から愛しているのだろう。
止んだ、と思った、主の手がもう一度、我の頭をとらえる。
ああ。幸せだ。我は、この幸せを主に返せるだろうか。
動いていた手が離れる。
その手をもう一度、と思う自分を抑える。
さて、もうひと頑張りだ!と意気込む主が天使に見える。
ああ、主は天使だった。何も間違ってない。
もう、「さっきから何をやっているのだ」や、「主はどこから来たのか」「なぜそんなに可愛いのだ」などという質問は後回しにする。
さて、と
主のくれた<布団>の上に寝転がり主を見つめる。
あぁ、主が可愛い。
あぁ、幸せだ。
ーーーーーーーあぁ、この時の自分を殴りたい。
ーーーーーーーポーションを飲んだ主は、次の瞬間倒れてしまった。
ファールは、世界の常識はあっても、人族の常識には疎い。という設定です。
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