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1章① 「ボーイ・ミーツ・ガール」

 枕元で新品の目覚ましがけたたましく鳴り響く。

 まだ重たくて仕方がない瞼をどうにか持ち上げ、大きなあくびと共に思いっきり伸びをした。

 あくびとともにあふれてきた涙を指でぬぐい、目覚ましのスイッチを切る。

 カーテンを開けると朝の陽ざしが明かりのついていない部屋を照らし出した。

 アパートの一室には俺以外の人間は存在しない。

 俺は生まれ育った地元を離れ、一人暮らしを始めたのだ。

 なぜかって?それは──。


「今日から俺は……大学生だ! 」


 そうして俺は、高らかな声を上げるとともにパジャマを脱ぎ捨てた。


** * * * * * *


 大学生──。

 それは人生最後の学生生活を全力で謳歌する若者たちの総称。

 学生という身分であると同時に責任ある大人としての振る舞いも求められる。

 その代わり高校生のころとは比べ物にならないほど行動範囲は広がり、その自由度も高くなる。

 まぁつまるところ、今までの年齢的な制限から解き放たれて色々なことができるようになったというわけだ。

 気の合う仲間とともに講義を受け、サークル活動に勤しみ、時には旅行なんかにも行ったりして。

 新たな出会い、そこから生まれる……恋。

 俺はそんな新生活に胸をときめかせているわけで……。


「楽しみだなぁ……! 」


 新入生オリエンテーション会場の階段教室で、ついそんなことをつぶやいてしまった。

 しかも割と大きい声で。

 はっと気が付いたときには時すでに遅く、周囲の名も知らぬ同級生たちがこちらを見てクスクスと笑っていた。


(しまった……)


 羞恥心から逃げるように俺は机に突っ伏した。

 一際大きなため息をついて気持ちを落ち着かせているとガタン、と隣の席に荷物が置かれる音が耳に入った。


「あははっ、何がそんなに楽しみなの? 」


 かけられた声の方へと顔を向けると見知らぬ生徒が立っていた。

 小柄で中性的な顔立ちだが、大きいが少し垂れ気味な目のせいで幼い印象を受ける。

 人懐っこそうな表情と少し癖のついた茶髪が相まってまるで小型犬のようだ。


「急にごめんね、自分の席に着こうと思ったら結構大きい独り言が聞こえたから」


 そう言いながらその子は隣の席に着いた。

 人懐っこい笑顔を浮かべたまま言葉を続ける。


「で、何が楽しみなの? 講義とかサークルとか? 」

「そうだな……なんてったって世界初の“異世界大学”なわけだし。どんな講義があるのかとか、そもそも異世界ってどんなところなのかとか! それに──」

「それに? 」


 彼女が小首をかしげている。

 そう、俺のテンションが高いのはただ大学生活が楽しみというだけではない。

 大学生への憧れはあった。一人暮らしへの憧れもあった。異世界への興味も尽きない。

 でも、俺がこの大学に来た一番の理由は──。


「あー……いや、なんでもない。なんか今日から大学生なんだなって思ったら舞い上がっちゃってさ」

「あはは。本当に入学するのが楽しみだったんだね。ぼくは桜井(さくらい)()()。自己紹介が遅れてごめんね。よろしく」

「あぁ、俺は勇樹(ゆうき)(たく)()。よろしく」

「実はこのオリエンテーション結構不安だったんだ。ウチの高校からこの大学に来たの僕だけだったから」


 隣の人が怖い人じゃなくて良かったよ~、と桜井さんはほわほわした表情と声で言った。

 いや、こっちも君みたいな子が隣の席で大変うれしいですとも。

 これがメイクバリバリのギャルみたいな子だったらこっちもどう対応したらいいか困っていたところだ。


「勇樹君は? 知り合いとかいるの?」

「いや、俺も桜井さんと一緒だよ。ウチの高校から来たのは確か俺だけだったはず」

「そうなんだ……じゃあひとりぼっち同士仲良くしようね! 」


 ははは……ひとりぼっちときたか。

 彼女の言う通り知り合い0人からのスタートに不安を覚えていたのは確かなんだけどね。

 まぁ今日からしばらくはぼっち飯を覚悟していたわけだし、それを回避できただけ僥倖というものだ。

 というわけで。


「もしこの後空いてたら一緒にお昼食べない? 桜井さんがよければだけど」


「もちろん! 僕も誘おうと思ってたんだ」


 桜井さんが笑顔で快諾してくれたことに安堵する。

 学食で食べるか、はたまた敷地外に出て食事処の開拓をするか──。

 そんな相談をしようかと思ったところで大学の職員らしき人が教壇に立ち、マイクを片手に生徒たちに席に着くように促し始めた


『はい、まもなく開始時刻になりますので席についてください』


 男性職員の低い声がスピーカーから教室内に響いた。


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