プロローグ 『遠い記憶』
1話をプロローグへ変更しました。(2/21)
『もう、お別れなの?』
それは遠い昔の、おぼろげな記憶。
俺が会話しているのは誰だろうか?
顔も、声も、服装も、もう思い出せない。
『──うん、さびしいけれど、きみのかぞくがしんぱいするから』
あぁ──でも、この時の会話は覚えている。
記憶の深いところにまで刻み付けられた、大切な約束。
『もう、おわかれだよ 』
ぽつり、と乾いた地面に涙がこぼれ、地面を微かに濡らした。
この涙はどちらが流したものだっただろう。
俺だっただろうか、それとも──目の前の“誰か”だっただろうか。
『ううん、おわかれじゃない』
『──え? 』
おぼろげな記憶でも、この後のセリフだけははっきりと、一字一句違わずに口に出せる。
記憶の中の自分と、今の自分の口が同時に開き、同じ言葉を口にする。
「『いつか必ず、また会おう』」
遠い記憶の光景は、光に包まれここで終わった。
** * * * * * *
遡ること12年前。
突如東京に謎の光の渦が現れた。
すぐさま日本政府はこの渦の調査を開始するが、どのような原理で発生しているのか手がかりすら全くつかめずにいた。
しかし、ある日事態は急転する。
渦を監視していた自衛隊員がこう報告したからだ「渦の中から一人の少年が現れ、これを保護した」と。
関係者は騒然とした。
なぜなら少年の証言をまとめたところ、とんでもないことが明らかになったからだ。
その内容とは『光の渦は別の世界につながっている。そこはゲームの世界のようにさまざまな種族の人間が生活しており、人間を襲うモンスターが存在する。魔法という概念が存在し、人々の生活インフラからモンスターとの闘いなどにも使用されている』というものだった。
この少年の保護と得られた証言がきっかけとなり光の渦の先の世界──すなわち異世界への調査隊の派遣が決定した。
その後10年をかけ、異世界の国家との接触や国内の法整備、研究機関の設置などが進んでいき……そして2年前、異世界に関わる知識を学ぶための大学が設立された。
その名も東京国立異世界大学──通称“異大”である。