プロローグ
この美しい神戸の夜景の中に、不穏な二人の男がさまよっていた。
それはやけに汗ばむ、熱い夏の夜だった。
「高野組組長が、本当に平山組の親父さんを狙っとるんだろうか?」
「ああ、間違いないみたいやで。平山組本家に爆弾仕掛けたそうや」
二人の男は、チンピラ風の衣服と下品な面立ちで、繁華街の路地裏を歩いていた。
「そうかもしれんなぁ。平山組組長が六代目に就任されたときの反目やしな。せやけど、平山組は日本最大の暴力団やで?たかが系列組織の高野組なんかが喧嘩を売るかなぁ」
「俺の聞いた話ではなぁ、高野組には福山組が後ろに付いてるらしいわ」
「え!あの関東一の福山組かいな!」
「ああ、関西進出を狙っとるらしい」
「なんやと!じゃあ、わしらが高野のおやっさん殺ったら福山組との抗争が始まるんか?」
「ああ、どうせ今の時代に抗争なんて言うても、形だけや。結局上の方で手打ちして、しまいやろう。でもな、もし高野のおやっさん殺ってしもたら、わしらの小指をだすか、何かして手打ちやろなぁ」
間抜けな男達だった。こんな男達の小指一本で抗争が終了するなら、そんなめでたい話はない。
「わし、やっぱり止めたくなってきたわ」
「何言うてんねん。ここで逃げたら、わしら極道界の笑い者や。それどころか、わしらの親父さんに殺されるわ。わしら下っ端が上に行くには、根性みせなあかん。最近は頭のええ奴が上に登るからのう。阿呆は阿呆なりに根性でのしあがらなあかんのじゃ」
くだらない話をしながら、二人の男は話題に挙がっていた高野組組長、高野真治暗殺に向かっていった。
それは、日本最大の暴力団組織平山組の本拠地神戸で始まる、高野組反逆事件の平山組から初めて仕掛ける攻撃だった。もちろん、こんな情けない会話を交わす二人が、暗殺に成功するはずもなく、平山組六代目組長北原元蔵は怒りの絶頂を向かえていた。
失敗した二人の親分である平山組幹部高知義男は、北原の平山組事務所に呼ばれ、頭を垂れていた。
「お前は何を考えとんじゃ。ん?何とか言うてみい」
「親父さん、すんません。もう一度、わしにチャンスを与えて下さい」
「お前の組は銭儲けやらしたら、まぁ使えるけど、他のことはあかんのう。やくざは力じゃ!もうお前は去ね。銭儲けでもしとらんか」
ひれ伏す幹部に北原は大声を出して、警護の者を呼んだ。
「おい、誰か!勝 を呼べ!早く来るようにな」
そして物語は北原組長の怒りと共に始まるのだった。




