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零ゆる花のシャングリラ

 海を隔てた向こうに、傷つくことも、飢えることも、寒さに震えることもない、あたたかな場所がある。それは、幸福というもののある国のことだ。

 ここがそうでないのならば、いったい何処をそう呼ぶか。

 苦しみがある。傷つき、痛む。

 それでも、愛する人がいる。

 打ち寄せる静かな悲しみと幸福に身を委ね、娘は、零れる花に白指を伸べる。柔らかくむずがゆい心地で弧を描く唇で、始まりの漆黒を持つ楽園の娘は、繰り返し唱えていたものを別の言葉に変えていく。


 あなたを想うのはこれで最後。闇と影と死、苦しみと痛みに満ちる世界にさらわれたことは、私の唯一を見つける旅だった。だから、私は、ここで生きて死ぬことを望む。いつか、あなたにもう一度出会える奇跡を願いながら。

 このむすめは新しい世界を生きていく。私でもあなたでも、楽園でもない世界で。

 けれど願わくば、この子たちが、己が楽園、己がためだけの楽土を見いだすことができますように。






 だから私は、もう、その名を呼ばない。












 ――そして、彼女は、彼の名を呼ぶ。

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