83/219
† 八の罪――剣戟の果てに(玖)
「まことに申し訳ございません! 茅原知盛は依然として行方知れず、空港には手を回しましたが、一向に情報がつかめずにいます」
若者が深々と頭を下げているのは、豪奢な赤絨毯の一室。
「魔術で足取りを隠したか……まあ此方がその気になればいつでも見つけ出せる。捨て置け。それより、あれはいかがした?」
手元の書物より軽く目線を上げ、男は目深に被った帽子越しに訊いた。
「案の定、喜多村氏が囮のほうに釣られました。今の二人があのお方を突破できる可能性は極めて低く、彼らの命運は決したかと」
「奴のことだ。土壇場で何をしでかすか知れたものではない。逐次、報告せよ」
部下が退出すると、象山は本を閉じて苦笑する。
「所長殿も人がお悪い。あの男を放っておけば、彼らの元へゆくのは目に視えていたものを」
彼の独白が吸い込まれてゆく部屋に、どす黒い気配が生じた。
「もう人ですらなくなってしまったようですがねえ」
サミットのテーマソングがじわじわくるせいで、冷静に買い物できない。




