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† 七の罪――劫火、日輪をも灼き尽くし(捌)

「此奴もお前の魂を欲しているようだ」

 禍々しい愛剣を一瞥して、ルシファーは囁く。

「さっきの矢を溶かした能力といい、ただの剣じゃないみたいだな」

十八世紀プロイセンの哲学者イマヌエル・カントは、物体を消し去っても物体が占めていた空間を消し去ることは不可能である、とした。つまり、この武器は最初から――――

「対象が存在した、という事実ごと斬る刃に相違無い」

 刀身越しに茅原を見定め、かの王は告げる。

「なんて規格外の権能――鬼に金棒、どころ……じゃ…………」

黒灰の魔王剣が纏う、妖炎の美しさに魅入るようにして、消耗しきった桜花は、眠りへと堕ちていった。

「ベルゼブブ……? 契約者の魔力を吸い尽くして幕を引いたか」

 ルシファーが増幅させていた殺気を打ち切る。

「気色悪い雨が止みやがったか。この勝負、預けた。結界がなくなった今、大軍に邪魔されて興醒めは勘弁だからな。お前も連中に姿を晒すわけにはいかんだろう」

「如何にも。我等が覇を競うは、相応しき舞台のみ」

 最強の悪魔と最強の人間は、どちらからともなく背を向けた。

「……あんなに盛り上がってたのに、切り替え早いなー」

 部下を抱きかかえながら、独白する多聞。

「昔っから茅原さんはそーゆー人じゃないですか」

 いつの間にか脇に立っていた柚木が呆れたように口を挟む。

「おお、柚木くん。応答しないから大変なことになっちゃってるのかと思ったよ」

「すみません。立て込んでいたもので」

 軽く頭を下げると、彼女は腰を沈めた。

「追います。多聞さんは二人を」

言い残し、まだ薄暗い街へと瞬く間に消える。多聞は煙草に火をつけ、部下の走り去った方角を眺めていた。


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